No | 117981 | |
著者(漢字) | 及部,七郎斎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オヨベ,ヒチロウサイ | |
標題(和) | リニアアクチュエータアレイによる分散マニピュレーション法の新しい制御論理に関する研究 | |
標題(洋) | Development of Novel Control Logic for Distributed Manipulation by Linear Actuator Array | |
報告番号 | 117981 | |
報告番号 | 甲17981 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5439号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、近年注目を集めている新しい物体の操作法である分散マニピュレーション法をリニアアクチュエータをアレイ状に並べ実現する場合の、一般的な制御論的枠組みを提案する。 分散マニピュレーションは多数の支点を通じて対象物に作用し操作する方法で、多数のアクチュエータで実現される。近年のマイクロマシン技術により多数のアクチュエータが簡単で、低コストで実現できるようになり注目されてきた新しく興味深い概念である。このマニピュレーション法は、 (1)多数のアクチュエータで作用するため、きめ細かなマニピュレーションが可能 (2)少数のアクチュエータ故障には無関係、耐故障性の高いマニピュレーションが可能 (3)個々のアクチュエータが低出力でも、多数の支点で支えるため大型で重い物体の操作、パワフルなマニピュレーションが可能 の特長を持つ。 従来、この分散マニピュレーションはマイクロマシン技術の一つとして注目されていたためか、いかにこの分散マニピュレーションを実現するデバイスを製作するかということを中心に研究が行われてきた。また、分散マニピュレーションという概念自体が新しいため、体系的な研究はほとんどなく、体系的な研究が強く必要とされている。 これに対して、本論文では、分散マニピュレーションの基本三動作を、 (1)『つかむ』 (2)『計る』 (3)『運ぶ』 と定義し、いかに作るのではなく、いかに使うかという新しい視点から、制御工学の知見をふんだんに用い、それぞれの動作の実現を目指す。全てのマニピュレーションはこの3つの基本動作の組み合わせにより実現できるため、この3つの動作の実現が分散マニピュレーション法の体系的な研究といえる。 最終章では、分散マニピュレーションの基本三動作(1)つかむ(2)計る(3)運ぶを、有機的に結合し、『計りながらつかむ』、『つかみながら運ぶ』そして『計りながらつかみ、そして運ぶ』という複合動作を実現し、分散マニピュレーションの体系的な考察を行う。 第1章では、研究の序論として、分散マニピュレーションの定義からはじめ、現在、世界中で繰り広げられている分散マニピュレーション研究について述べ、体系的な研究の必要性を提案する。 第2章では、分散マニピュレーションの定義から導かれる基本的性質について言及し、それを分散マニピュレーションの基本要件として述べる。 図1のように、上下方向(z軸方向)にドライブするリニアアクチュエータを縦、横の方向(x,y軸方向)に多数並べ、そのアクチュエータアレイが対象物に作用することにより、分散マニピュレーションが実現される。高密度でアクチュエータを集積するものの、アクチュエータ間隔は必ず有限の値となる。そのため、空間周波数に関するサンプリング定理から対象物の情報はアクチュエータ間隔に制限された形でしか得られないことを示す。また、対象物の密度から、マニピュレーションに必要な力密度についても言及する。本章最後では、アクチュエータが多数であるが故に、分散マニピュレーション法では、そのマニピュレータの制御に必ず無駄時間が生じる。その無駄時間の量はアクチュエータの並べ方に依存するため、アクチュエータの並べ方によりどの程度になるか考察した。 第3章では、『計る』の動作では外乱オブザーバアレイの提案を行っている。これは従来よく知られていた外乱オブザーバを空間的に分布させ多重的に配置させるという新しい使い方を提案している。これにより、分散マニピュレーションにおいて必ず必要な、マニピュレーション対象物の情報、重量、重心位置、慣性モーメントの推定が可能になる。 図2は典型的な外乱オブザーバのブロック線図である。この外乱オブザーバにより、アクチュエータにかかっている負荷量が推定できる。全てのアクチュエータにこの外乱オブザーバを適用し、それぞれのアクチュエータにかかっている負荷を推定し、それらの情報を収集することにより、対象物の重量、重心位置、慣性モーメントの推定する手法を提案した。これは、外乱オブザーバをアレイ状にすることにより、初めて成し得ることであり、分散マニピュレーション法ならではの手法である。 図3は、アクチュエータ群の上に雑誌を載せ、その重量、重心位置、慣性モーメントを推定したときの負荷外乱分布である。 シミュレーションと実験結果から提案手法により、良好な推定が出来ることが示された。しかしながら、推定値は必ずしも厳密に正しい値ではない。それは外乱オブザーバは必ずしも正確に正確な負荷量が推定できるわけではないことに起因している。しかし、ここで『計られた』情報は『運ぶ』動作で用いるため、ある程度正確な情報であれば、必ずしも厳密に正確な情報である必要はない。すなわち、体重計のようなものである必要はなく、簡単に適用できる方法という意味でこの外乱オブザーバのアレイ化という手法は意味があるといえる。 第4章の『つかむ』の動作では、各アクチュエータにインピーダンス制御を施すことにより、面インピーダンス制御を提案し、堅い面、柔らかい面など自在に実現ができるようになる。多数のアクチュエータが高密度に集積され、多数の支点で作用する場合、その多数の支点はほとんど面として振る舞う。そのため、例えば、スポンジやアルファゲルのような衝撃吸収材のような材料の持つインピーダンスを設定すれば、擬似的にその材料のような振る舞いをさせることができる。 図4に可変ホームポジション構造を含むインピーダンス制御のブロック線図を示す。これを多数のアクチュエータで実現することにより、面インピーダンス制御が達成される。この面インピーダンス制御には二つのフリーパラメータがある。一つはホ一ムポジションであり、もう一つはインピーダンスパラメータである。 一つ目のパラメータであるホームポジションという、平衡位置を決めるパラメータを可変にすることにより、マニピュレーション対象物の形状に合わせた把持、荷重分散的な把持が可能となる。対象物表面には凹凸がある。その凹凸に応じて、表面形状を変化させ、全てのアクチュエータでやさしく包み込むように把持する。図5-1,5-2に結果を示す。この可変ホームポジション構造なしの場合は、対象物の凹凸のため、一部のアクチュエータに対象物の重さが集中している。それに対して、制御を加え、可変ホームポジション構造を導入すると、多数のアクチュエータで荷重分散的に把持ができるようになる。 二つ目のパラメータであるインピーダンスパラメータを時変で変化させることにより、加速度の時間微分値を抑制し、衝撃吸収効果のある面が実現できることを示唆した。インパクトの瞬間は柔らかくして、少しずつ堅い面にインピーダンスパラメータを時変させることによりその衝撃吸収効果が得られる。時変のさせ方として、線形、二次、指数など変えた場合について、それぞれ評価した。 第5章では、『運ぶ』では自律分散システムの視点を導入し、各アクチュエータの自律性による局所的な制御とアクチュエータ群全体を制御する集中系の二つを組み合せ自律分散集中複合系という、ボトムアップとトップダウンの双方向アルゴリズムの提案を行った。 集中系でのアクチュエータ群制御に、フィードフォーワードによる方法(図6-1)と、フィードバックによる方法(図6-2)の二つの手法を提案した。それらの手法を適用することにより、搬送物体の位置制御が可能となる。 フィードフィーワードによる方法は、制御アルゴリズムが単純で、不安定になることはないというメリットを持つ。しかし、目標位置への応答を決める極が設定できないデメリットを持つ。 それに対して、フィードバックによる方法は、フィードバックコントローラにより、目標位置への応答を決める極を自由に設定できるようになる。そのため目標値応答特性が設計できるようになる。 しかしながら、2章で指摘したように分散マニピュレーシミン法は本質的に無駄時間を含む。フィードバックによる方法ではその無駄時間により不安定化してしまうことがある。その不安定化を抑えるために、外乱補償器を含んだスミス法を適用した。 第6章では、3,4,5章で提案し実現した基本三動作『計る』、『つかむ』、『運ぶ』を有機的に結合させることを考察した。 『計りながらつかむ』と名付け、計りながらつかむ方法を提案する。つかむ際に提案した荷重分散的把持を行う場合、対象物の中心と重心位置が異なるもの(重さが分布している)は、上手く把持ができない。そのため、計る動作で得られた重量、重心位置、慣性モーメントを活用し、荷重分散把持を行う。それにより、対象物に不用意なモーメントを発生させることなく、さらに荷重分散まで出来た状態で把持ができてしまう。 『つかみながら運ぶ』では、荷重分散把持を行っていると、対象物に搬送用の力を加えた場合でも、荷重分散によりそのカが補償されてしまい、対象物が搬送できない。そこで、搬送方向のみ荷重分散モードを解放し、その方向と直交する方向の荷重分散モードのみを有効にする方法を提案する。 第6章最後で、『はかりながらつかみ、そして運ぶ』と名付け、以上で提案した二つの複合動作『計りながらつかむ』、『つかみながら運ぶ』を結合させ、各動作の有機的な結合とする。 第7章では、結論として本論文のまとめを述べる。付録では本人自ら製作した実験装置の構成を述べていることも付記しておく。 以上、本論文では、近年注目を集めている新しい概念である分散マニピュレーションの一般的な枠組みの構築のため、基本三動作を定義し、それぞれの実現を目指した。 『計る』動作では、外乱オブザーバアレイという新しい手法を提案し、対象物の重量、重心位置、慣性モーメントを推定する手法を提案した。 『つかむ』動作では、面インピーダンス制御という全く新しく分散マニピュレーション法ならではの方法を提案した。ホームポジションを可変にすることにより、対象物の形状に応じた、荷重分散把持が可能となることを示した。また、インピーダンスパラメータを時変させることにより、衝撃の少ない衝撃吸収効果のある面が作れることも示した。 『運ぶ』動作では、自律分散システムの視点を導入し、自律分散集中複合系という各アクチュエータの自律性による局所的な制御とアクチュエータ群全体を制御する集中系の二つを組み合わせ、ボトムアップとトップダウンの双方向アルゴリズムの提案を行った。 最後に『計りながらつかむ』『つかみながら運ぶ』『はかりながらつかみ、そして運ぶ坦という各動作の有機的な結合を提案した。 本論文は分散マニピュレーションの枠組みの構築が主たる目的であるが、それだけでなく、分散マニピュレーションがマニピュレーション法として、他にはない特別な方法で、興味深いことも明らかにした。 図1:リニアアクチュエータによる分散マニピュレーション法のイメージ図 図2:外乱オブザーバのブロック線図、これをアレイ状にすることにより『計る』の実現 図3:雑誌状負荷を加えた場合の外乱分布 図4:可変ホームポジション構造を含むインピーダンス制御のブロック線図 図5:外乱分布、可変ホームポジション構造なし(左)あり(右) 図6-1:フィードフォーワードによる方法のブロック線図(左) 図6-2:フィードバックによる方法のブロック線図(右) 図8実験装置の構成と製作した実験装置の写真 | |
審査要旨 | 本論文は,「リニアアクチュエータアレイによる分散マニピュレーション法の新しい制御論理に関する研究」と題し,アレイ状に並べられた多数のアクチュエータが協調して対象物を操作する「分散マニピュレーション」という新しい概念をとりあげ,一般的な制御アルゴリズムを提案するとともに,実際に多数のリニアアクチュエータを用いた実験装置を製作して,「つかむ」「計る」「運ぶ」という基本動作や,それらの複合動作を実現したもので,以下の8章および付録によって構成されている。 第1章は序論であり,分散マニピュレーションの定義を述べ,研究現況を概観し,体系的な研究の必要性を述べている。 第2章「分散マニピュレーションの基本要件」では,二次元平面に多数並べられ上下方向のみに駆動されるリニアアクチュエータアレイが対象物に作用する,分散マニピュレーションの基本要件を明らかにしている。すなわち,アクチュエータ間隔は必ず有限の値となるので対象物の情報はアクチュエータ間隔に制限された形でしか得られないこと,対象物の密度によってマニピュレーションに必要な力密度が制限を受けること,制御には必ず無駄時間が生じかつアクチュエータの並べ方に依存することなどについて考察を加えている。 第3章「計る」では,外乱オブザーバアレイによる,対象物の重量,重心位置,慣性モーメントを推定する手法の提案を行っている。全てのアクチュエータに配した外乱オブザーバ各々の情報を統合することによって可能になる興味深い手法である。アクチュエータ群の上に雑誌を載せ,シミュレーションと実験結果を検討した結果,第5章の「運ぶ」動作で用いるために必要な精度で推定ができていることを確認している。 第4章「つかむ」では,各アクチュエータにインピーダンス制御を施して実現される,面インピーダンス制御と呼ぶ手法を提案し,堅い面,柔らかい面などを自在に実現している。ここでは,要素技術として,可変ホームポジション構造(アクチュエータと対象物の接触点に応じて平衡位置を可変にすることにより,形状に合わせた荷重分散を考慮した把持が可能となる),時変インピーダンス制御(パラメータを時間変化させることにより,加速度変化を抑制し衝撃吸収効果のある面が実現できる)という重要な提案を行っている。 第5章「運ぶ」では,自律分散システムの視点を導入し,各アクチュエータの自律性による局所的な制御とアクチュエータ群全体を制御する集中系の二つを組み合わせ,分散集中複合系の提案を行っている。アクチュエータ群の制御には,フィードフォーワードとフイ一ドバックによる方法を提案した。とくに後者では目標値応答特性が自由に設計できるようになるが,2章で指摘した無駄時間による不安定化を抑えるために,外乱補償器を含んだスミス法を適用し,制御性能を改善している。 第6章「動作の有機的な結合」では,3〜5章で提案し実現した基本三動作「計る」「つかむ」「運ぶ」を有機的に結合させ,たとえば「計りながらつかむ」では,計る動作で得られた情報を活用し,対象物に不用意なモーメントを発生させることのない把持を実現している。同様に,「つかみながら運ぶ」「はかりながらつかみ,そして運ぶ」においても,提案した二つの複合動作「計りながらつかむ」「つかみながら運ぶ」を結合させ,各動作の有機的な結合に成功している。 第7章「結論」では本論文の成果をまとめ,また,第8章では今後の展望を述べている。さらに,付録として,自作した実験装置の構成などが示されている。 以上これを要するに,本論文は,多数のアクチュエータが協調して対象物を操作する新しい概念である「分散マニピュレーション」において,外乱オブザーバアレイ,面インピーダンス制御,分散集中複合系などの一般的な制御アルゴリズムを提案するとともに,上下方向にのみ動かせる多数のリニアアクチュエータを二次元平面に配置した実験装置を製作し,「つかむ」「計る」「運ぶ」という基本動作およびそれらの複合動作を実現したもので,電気工学,制御工学上貢献するところが少なくない。よって,本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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