学位論文要旨



No 117982
著者(漢字) 小宮山,涼一
著者(英字)
著者(カナ) コミヤマ,リョウイチ
標題(和) エネルギー市場自由化の下でのオンサイト電源導入可能性評価
標題(洋)
報告番号 117982
報告番号 甲17982
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5440号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山地,憲治
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 古関,隆章
 東京大学 助教授 藤井,康正
内容要旨 要旨を表示する

 近年民生部門における最終エネルギー消費量は冷房需要をはじめとして増加基調にあり、今後もさらに増加することが想定される。このような背景の下で、生活水準向上や経済活動を抑制することなく当該部門における省エネルギーを達成し、地球温暖化の主要因とされる二酸化炭素排出量を削減する費用対効果的なエネルギー技術の導入をより一層推進してゆくことが求められている。そのようなエネルギー技術のひとつとしてコージェネレーションシステム(CGS)をはじめとしたオンサイト電源が挙げられ、近年広範な分野において研究開発が進展し、実用に供する展望が開けつつある。また近年電力市場をはじめとしたエネルギー市場の自由化が進展しつつあり、それに伴いESCO事業による省エネ施策強化、オンサイトエネルギー供給事業などが後実施されることになれば、オンサイト電源はその省エネルギー性、環境性、経済性という諸特性をより発揮してゆくことが求められる。そこで本研究では、エネルギー市場白由化のもとでオンサイト電源導入が将来大きなインパクトを与えることが予想される地域エネルギーシステム、日本の長期電源計画、自由化された電力市場の3項目について注目し、これらの領域へのオンサイト電源導入可能」性について検討を行った。

 まず地域エネルギーシステムヘのオンサイト電源導入可能性については、中小規模地域におけるオンサイト電源ネットワークの最適運用評価を行った。今後の研究開発により家庭用燃料電池、マイクロガスタービンをはじめとした中小型CGSが実用化し、住宅、小規模業務部門へ本格的に普及してゆくものと考えられる。しかしながら需要家規模がこれまでのCGS普及先行分野である産業部門や大規模需要家から中小規模需要家へ移行すれば、施設単独でのエネルギー有効利用がはかられない、電気、熱の利用タイミングが整合しない等の問題がより顕在化すると考えられる。よって、CGS効率運用を行う方策として、CGSのエネルギーを熱電比の異なる複数施設で共有、ネットワーク化し有効利用をはかることにより経済性を向上させるシステムを構築することが考えられる。そこで地域的に散在する需要家が設置する中小型オンサイト電源を地域的な電力の相互融通や熱供給管による熱の相互融通を通して一括運用するシステムを提案し、混合整数計画法によるネットワーク運用最適化や、ネットワークを維持するために各地域が負担すべき最適なコストを協力ゲーム理論の適用により定量的に評価を行った。また地理情報データベース(GISデータ)を用いて東京都心地域を実存地域への適用対象としてその有効性を評価した。その結果、協カゲーム理論の仁の適用により、ネットワーク化によりエネルギー供給コスト削減効果を得た地域から,他の地域へ利得が移転する傾向が得られた。よって各地域がネットワークを形成し協力してより経済的運用を達成するためには,場合によっては全体協力維持の観点から利得の移転を通じて各地域が公平にコストを負担する必要性があることが協力ゲーム理論より定量的に明らかとなった。

 日本の長期電源計画からみた民生部門へのオンサイト電源導入可能性評価に関しては、長期電源構成モデル、CGSモデルを構築することにより、民生部門(業務部門、住宅部門)へのオンサイト電源導入による一次エネルギー消費削減効果、二酸化炭素排出削減効果を評価した。また分析シナリオとして電源の燃料費に対する3つのシナリオ(基準ケース、低位ケース、基準ケース(原子力上限制約なし))を設定し評価を行った。オンサイト電源導入に際しては、業務部門へはガスエンジン、家庭部門へは燃料電池が、建築物が改修もしくは新築される際に経済性に基づき導入されると想定した。その結果、すべての燃料費シナリオにおいてオンサイト電源導入はシステム全体における一次エネルギー削減に資することがわかった。二酸化炭素排出に関しては、基準ケースではオンサイト電源は主に石炭利用IGCCを代替するため大きな削減効果を得る。また低位ケースにおいても削減効果が得られるが、天然ガスの経済的優位性からLNG火力、LNG複合火力が電源構成において主電源となり、これらの電源を代替するためオンサイト電源導入による二酸化炭素排出削減効果は基準ケースに比較して小さくなる。さらに原子力設備量に上限を課さないケースでは、原子力の設備量、発電量が代替される結果、基準、低位ケースとは逆にオンサイト電源導入によりシステム全体の二酸化炭素排出量が増加する結果が得られた。これらの分析結果より、特にオンサイト電源導入による二酸化炭素排出削減効果に関しては、将来オンサイト電源が代替する電源の推定がきわめて重要であることが示された。

 電力市場へのオンサイト電源導入可能性に関しては、電力市場のマルチエージェントシミュレーションを通じて行った。エネルギー分野における規制緩和が世界的に広まる中、日本の電力取引においても欧米に習い現在の部分自由化からさらに小売自由化範囲が拡大し、発電部門、送電部門分離などが考えられる。そのような競争的環境下で、市場参加者は時々刻々と変動する電力価格に基づき、いかに最適な経済合.理的行動を取るかが問題となる。このように市場環境では固定的な最適戦略は有効ではなく、各プレーヤーは状況に応じてこれらを適時使い分ける必要がある。そこで発電事業者、供給事業者を経済的主体としたマルチエージェントシミュレーションにより、欧米の市場を元にした電力取引ルール、たとえばスポット市場や相対取引市場の下、ISOによる混雑管理も考慮に入れ、各プレーヤーの行動から発生する電力価格の変動や利益に関して分析を行った。その結果、高効率で限界費用の低いオンサイト電源が大規模電源を代替する形で参入した場合、電力価格変動の標準偏差が小さくなる傾向が示され、さらに送電系統の混雑回数が減少するためISOの混雑管理による介入機会が削減され電力取引の円滑化に貢献することが分かった。

 以上述べた本研究の結果より、オンサイト電源が本格的にエネルギーシステムヘ将来普及拡大する場合、条件にも依存するが、その経済性、環境性、省エネルギー性の各面において、地域エネルギーシステムからよりマクロな電力供給システムまで幅広い導入ポテンシャルが存在することが示され、今後より経済的、環境的調和のとれたオンサイト電源導入によるエネルギーシステムの構築が望まれる。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「エネルギー市場自由化の下でのオンサイト電源導入可能性評価」と題し、コージェネレーションシステム(CGS)などのオンサイト型分散電源について、種々の数理モデルを開発・適用して、市場競争力やCO2排出削減効果などの観点から評価研究を行ったものである。

 第1章は序論であり、近年のオンサイト電源の進展状況を整理し、省エネルギー効果やCO2排出削減効果および自由化されつつある電力市場における競争の活性化などオンサイト電源に期待されている役割を述べ、本研究の背景と目的が記されている。

 第2章では、複数のCGS間で電気と熱を融通するオンサイト電源ネットワークの最適運用の評価をまとめている。CGSは電気と熱を併給することで省エネルギー効果をもつと期待されているが、単独のCGSでは電気と熱の需給バランスが悪くてエネルギーの有効利用が図れない場合がある。そこで、地域的に散在する需要家が設置する中小型CGSを、託送による電力の相互融通と熱供給管による熱の相互融通を通して一括運用するシステムを提案し、混合整数計画法とゲーム理論を適用したモデルを開発して解析を行った。また、地理情報データベースを用いて実際の東京都心地域を対象とした評価を行ってその有効性を評価した。その結果、CGSをネットワーク化し、協力してより経済的な運用を行うことで、省エネルギーやCO2排出削減を実現できることを定量的に明らかにした。また、ゲーム理論の適用により、参加者が自発的にネットワークを構成・維持するために必要な利益配分方式を明らかにした。

 第3章では、9地域に分割した日本全国を対象として、長期電源計画からみた民生部門へのオンサイト電源導入の可能性を評価した。ここでは、長期最適電源構成モデルとCGS最適導入モデルを組み合わせて解析することにより、民生部門へのオンサイト電源導入による一次エネルギー消費削減効果とCO2排出削減効果を評価した。その結果、オンサイト電源導入はシステム全体における一次エネルギー削減に資することがわかったが、CO2排出に関しては、結果は将来シナリオの設定、特にオンサイト電源が代替する系統電源の種類に依存して大きく変化することが示された。

 第4章では、電力市場自由化に関するマルチエージェントシミュレーションを行った。欧米における代表的な電力取引モデルに従い、電力取引が完全な自由市場で行われるようになった場合を仮定してシミュレーションを行った。このような自由化された市場では固定的な最適戦略は有効ではなく、各プレーヤーは状況に応じて戦略を使い分ける必要がある。そこで発電事業者と小売事業者をプレーヤーとしたマルチエージェントシミュレーションにより、スポット市場や相対取引市場の下、ISOによる混雑管理も考慮に入れ、各プレーヤーの行動から発生する電力価格の変動やプレーヤーの利益に関して分析を行った。その結果、相対取引を導入することで電力価格のボラティリティーを小さくし、安定な電力取引が可能になるなどの基本特性を定量的に確認すると共に、限界費用の異なるプレーヤーの合理的な行動様式を明らかにした。また、オンサイト電源に関して、高効率オンサイト電源が導入される場合には、送電混雑が緩和すると共に電力価格の分散も小さくなり、電力取引の円滑化に資することを確認した。

 第5章は結言であり、本研究で得られた知見を総括し、今後の課題を整理している。

 以上これを要するに、本論文は、経済性、環境性、省エネルギー性の各面の評価を通して、地域エネルギーシステムから電力システムまで、オンサイト電源の幅広い導入可能性を研究し、今後のオンサイト電源導入によるエネルギーシステム構築の指針を示したもので、これらの成果は電気工学、特にエネルギーシステム工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/1828