学位論文要旨



No 117985
著者(漢字) 鶴田,繭子
著者(英字)
著者(カナ) ツルダ,マユコ
標題(和) 球状トーラス実験装置TS-4における各種プラズマ配位の合体生成に関する研究
標題(洋)
報告番号 117985
報告番号 甲17985
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5443号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日��,邦彦
 東京大学 教授 齋藤,宏文
 東京大学 助教授 小野,靖
 東京大学 助教授 大崎,博之
内容要旨 要旨を表示する

 磁気核融合プラズマ研究において球状トーラスと呼ばれるアスペクト比(トーラスの主半径÷副半径)が1.6程度以下の内部電流系、軸対象トーラス閉じ込め方式が着目されている。球状トーラスには磁場構造の違いから球形トカマク(ST)、コンパクトULQ/VLQ、スフェロマク、逆転磁界配位(FRC)および、コンパクト逆磁界ピンチ(コンパクトRFP)等の配位が含まれ、それらの生成と閉じ込め性能を研究することが将来の発展にとって必要とされている。本論文においては新規プラズマ合体実験装置であるTS-4を用いて上記の各種球状トーラスの生成実験、特に各配位の合体および単体生成を達成し、それぞれの配位の相互比較および、過去に蓄積されたプラズマ合体実験装置TS-3による結果との比較を行った。

 第1章は序章であって研究の背景が述べられている。特に合体実験において内部トロイダル磁界に向きに関し同極性合体および異衛生合体について説明している。

 第2章では新実験装置であるTS-4について説明している。

 第3章ではn=1トロイダルモードが軸対称性を仮定した磁気面計測に与える影響について理論的考察を行っている。ここではn=1モード不安定性が磁気プローブ2次元アレイの計測面に対し平行あるいは垂直方向であるとした場合にそれぞれ誤って算出される特徴的な磁気面形状および磁界分布を特定し、それより不安定性に存在に対して評価を行う手法を検討した。さらに実測データとの比較を行った結果、n=1モードはティルトとシフトの二種類のモードがあるが、いずれかの不安定が生じる場合には、計算により特定された一方の磁気面変形の特徴が算出結果に表われることがわかった。また算出された磁気面変形からn=1モード不安定性に係る種類(ティルト、シフト)の推定を試みたところ、計測面に対しn=1モード不安定性がほぼ平行または垂直方向に生じている場合には、計測面に対し平行方向のティルト不安定性は明解に推定可能であることが分った。ただし、計測面に対し平行方向のシフト、垂直方向のティルト不安定性は磁気面再構成に与える傾向が類似しているためそれのみによる判別は難しく、多くの場合トロイダルモードプローブの計測結果も含めて総合的に考慮して初めて判別可能であるとの結論に達した。計測面に対しn=1モード不安定性が傾いた方向に生じている場合は、いずれかの磁気面形状の特徴がやはり計測結果に表われるので、n=1モード不安定性が生じていることは同じく判別可能である。ただしその種類の推定は難しい。以上の考察により、TS-3およびTS-4装置で採用される磁気面計測において特定された磁気面変形および磁界分布が計測される場合、n=1モード不安定性によって生じる計測データの解釈についての混乱を回避し、さらにその変形の原因についての同定がある程度可能であることが判明した。

 第4章ではTS-4装置の初動実験として行ったスフェロマクを用いた同極性および異衛生合体実験について述べている。実験の結果、TS-3装置の3倍の装置規模を持つTS-4装置においてもTS-3装置と同様、合体する配位の内部トロイダル磁界が互いに同方向である同極性合体の場合にはスフェロマク配位、互いに逆方向である異極性合体の場合にはFRC配位がそれぞれ合体後形成されることが確認された。同極性合体においては、合体によって過剰となったトロイダル磁束Φからの磁束変換によるポロイダル磁束Ψの増加が予測されていたが、その現象が本実験によって初めて観測された。TS-4装置におけるスフェロマクの最小固有値はその内部寸法によりλp〜6[1/m]ですなわち、この固有値を持つプラズマがTS-4装置内において生成される最大の寸法を有するスフェロマクである。TS-3装置におけるプラズマと比較するとそのプラズマサイズは2〜2.5倍であり、低次のトロイダルモード不安定が抑制され完全に自然減衰した場合には、寿命もそれに比例して延びていることがわかった。一方、異極性合体においては磁力線のつなぎ変り(磁気リコネクション)によるリコネクション点周囲のポロイダル磁力線のオーバーシュートが生じると期待され、実際TS-3装置の場合と同様TS-4装置においても磁力線のオーバーシュートが観測されることがわかった。また合体する両プラズマの磁気エネルギー差Kdiffと合体によって生成された配位の持つλpとの関係から、合体生成配位がFRCに緩和する限界はKdiff<〜0.1でTS-3装置の結果と比較して小さく、スフェロマクに緩和する境界はTS-3と同程度でKdiff>〜0.4であった。これよりTS-4装置では合体後に一方に緩和することなくFRCとスフェロマクの中間的な状態となる範囲が比較的広いといえる。

 第5章では中心導体アセンブリーが導入されたTS-4装置において外部トロイダル磁界による生成配位の比較を行った結果について述べている。その結果、アスペクト比A〜1.23のコンパクトRFPからSTに至る各種配位の同極性合体生成に成功した。コンパクトRFPからスフェロマク、STと外部トロイダル磁界を変化させ生成実験を行った結果、端部において安全係数qaの大きいST(qa>〜3)はコンパクトRFPおよびスフェロマクの最大およそ3倍のプラズマ減衰時定数を持つことがわかった。コンパクトRFPの同極性合体生成では、スフェロマクの場合と同様、合体途中から合体後にかけてΨの増加が観測された。また、Ψの増加と同時にトロイダルモードn=2の増加が観測され、この場合の磁束変換においてn=2モードが主要なダイナモ機構の原因であることが示唆された。合体終了後からの緩和過程を示すF-θ曲線から判定すると、合体終了直後にθの最大値を示し、その後θ値は低下し無力磁界配位(テーラー状態)の理論曲線へ近づく。この過程でコンパクトRFPは、(1)合体直後Φが過剰であるが、(2)それがΨへと磁束変換した高ベータ状態での平衡、(3)理論曲線近傍まで緩和した低ベータ状態での平衡、と3つの過程を経ることがわかった。一方、STの同極性合体生成では、コンパクトRFPおよびスフェロマクの場合と異なり合体に際しΨ、n=2モード共にその増加は小さく、代りに磁気軸における安全係数q0の増加が観測された。また、合体終了後からの緩和過程を示すF-θ曲線においては、合体終了直後にはコンパクトRFPおよびスフェロマクの場合と同様にθの最大値を示したものの、その後低ベータ配位へ緩和していく過程では無力配位理論曲線へ接近することはなく代りに、単体生成固有のF-θ値へと緩和した。この結果より、STの場合には合体による加熱効果により高ベータ配位が形成され、その後時間の経過と共に単体生成された場合と同様底ベータな状態へ移行することがわかる。ただしその平衡状態はコンパクトRFPおよびスフェロマクの場合のようにテーラー平衡状態ではない可能性が示唆された。また、STの生成領域においてはSTの同極性合体および単体生成どちらの場合おいても外部トロイダル磁界コイル電流Itfc=10〜20[kA]においてプラズマ減衰時定数が極端に小さくなるという興味深い現象が観測された。この原因を突き止めるためフラックスコア周辺の磁界分布を概算で見積もったところ、初期プラズマ生成に失敗しているのではなく、フラックスコアから初期プラズマにエネルギーが注入される過程でプラズマ表面においてq=1磁気面による不安定性が発生し崩壊している可能性が示唆された。

 第6章では外部トロイダル磁界中の異極性合体実験を試みた結果について報告している。異極性合体による生成配位であるFRCは高ベータではあるがその閉じ込め特性は劣る。そこで、これに外部トロイダル磁界を付加することによりその安定性向上を図るものである。この場合、合体する二つの配位はそれぞれコンパクトRFPとSTとなる。実験はコンパクトRFPに比較的有利な低q領域Itfc=8[kA]およびSTに有利な高q領域Itfc=40[kA]に分けて行った。その結果合体によりまず、コンパクトRFPの様な磁界構造をもつ配位が生成され、その後次第に外部トロイダル磁界と逆向きのトロイダル磁界を失い、最終的には内部トロイダル磁界の割合が小さい、いわゆる反磁性を示し高ベータを有するSTに類似した磁界構造となった。しかしこの磁界構造は過渡的なもので平衡配位としては長時間維持されず、合体後の配位形成維持が定常的に行われるかは不明である。高q領域では、STを先に生成することによってコンパクトRFP対し外部トロイダル磁界を実効的に弱める方法をとった。これによって高q領域における異極性合体に成功した。しかし異極性合体には一応成功したものの、STおよびコンパクトRFP双方の生成時刻をずらすことによって左右のポロイダル磁界コイルの反転電流にアンバランスが生じ、配位が不安定に移動するという問題点が明らかとなった。これを防ぐには各内部コイルの電流を最適化し、生成前後の配位の位置を適当に制御する必要があることを指摘した。以上の実験の結果、どちらの場合にも合体配位生成に成功したが最終的にある程度高いq値によって安定化された配位を生成することが望ましいことが明らかとなっていることを考えると、高q領域における実験は今後各種の工夫によって加熱効果が見られるよう研究を展開することが期待される。

 第8章は結言であり、本研究によって得られた主要な成果をまとめている。本実験装置によって各種球状トーラス装置の合体研究の基礎が確立した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「球状トーラス実験装置TS-4における各種プラズマ配位の合体生成に関する研究」と題し、磁気核融合プラズマ研究において注目されている球状卜一ラスと呼ばれるアスペクト比(トーラスの主半径÷副半径)が1.6程度以下の各種内部電流系トーラスプラズマに関して、新設の合体実験装置TS-4を用いて行なった研究成果をまとめたもので、全体は7章より構成されている。

 第1章は序論であって、球状トーラスの特徴、特に磁界構造の違いにより、球形トカマク(ST)、スフェロマク、逆転磁界配位(FRC)、およびコンパクト逆磁界ピンチ(コンパクトRFP)等の配位が含まれることを述べ、それらの合体効果を調べることの核融合プラズマ研究における意義、および、この合体においては内部トロイダル磁界の向きに関し同極性合体および異極性合体の異なる方式があること、等を説明している。

 第2章は「TS-4プラズマ合体実験装置」と題し、新設の実験装置であるTS-4の仕様、構造、製作上の工夫について説明し、プラズマ生成に一対の誘導方式のフラックスコアーを用い、合体の進行を中央部に設置したセパレーションコイルで制御できること、中心導体アセンブリーの導入により外部トロイダル磁界を加えることができて多様な自由境界を有する磁気配位が生成可能であること、等を述べている。

 第3章は「トロイダルモードn=1不安定性による磁気面計測誤差に関する検討」と題し、球状卜一ラスでしばしば発生する代表的なn=1トロイダルモード不安定性が、軸対称性を仮定して計算される磁気面形状に与える影響について理論的考察を行っている。n=1モードは傾斜型(ティルト)と横ずれ型(シフト)の二種類のモードがあるが、それらは磁気面上に特徴的変形として現れることを指摘し、TS-4装置の磁気面計測においてしばしば見られる磁気面異常の解釈について、その混乱をある程度回避できることを指摘している。

 第4章は「スフェロマク配位の生成と合体実験」と題し、外部トロイダル磁界を持たない自由境界スフェロマク配位の生成、およびその同極性および異極性合体実験について述べている。寸法において従来のTS-3装置の約2倍のTS-4装置においては、低次のトロイダルモード不安定が抑制されて自然減衰する場合には、寿命もそれ応じて約一桁延びていることを確認し、その寿命増大効果によって、同極性合体においては過剰トロイダル磁束状態における磁束緩和によってポロイダル磁束の増加が観測されることを見い出した。一方、異極性合体においては、合体配位が高ベータFRCに安定的に緩和する現象の観測が期待されていたが、水素プラズマの場合、本装置に於いては従来のTS-3装置ほどにはその緩和が明瞭には観測されないことを見い出した。このことより配位減衰の時定数が増大した場合には、配位が減衰する以前に何らかの不安定特性が出現して寿命が制限されている可能性を指摘し原因を検討した。

 第5章は「外部トロイダル磁界中の各種配位の生成および比較」と題し、外部トロイダル磁界を変化させた場合に生成される各種の自由境界球状トーラス配位に関して、それらの緩和特性の相互比較を行った結果について述べている。コンパクトRFPからSTに至る各種自由境界配位の同極性合体生成においては、端部安全係数qaの大きい(qa>〜3)いわゆる高q配位のSTは、コンパク卜RFPおよびスフェロマクなどqaの小さい、いわゆる低q配位に比しておおよそ3倍のプラズマ減衰時定数を持つこと、合体終了後からの緩和過程においては、低q配位は無力磁界配位であるテーラー状態の理論曲線へ近づく一方、高q配位のSTでは、無力配位の理論曲線へ接近する過程で、テーラー平衡状態とは異なる配位へ緩和していることを指摘した。また、STの生成においては、低q配位から高q配位へ移る中間の外部トロイダル磁界において、生成プラズマの減衰時定数が極端に短くなるというフラックスコアー生成方式特有の異常現象があることを指摘した。

 第6章は「外部トロイダル磁界中の異極性合体実験」と題し、異極性合体による高ベータ配位生成において、予め外部トロイダル磁界を付加することによってその安定性向上を図る試みについて述べている。この場合、合体する二つの配位はそれぞれコンパクトRFPとSTとなるが、実験ではコンパクトRFP生成に比較的有利な低q領域、およびSTに有利な高q領域に分けて研究する必要性を述べている。実験の結果、低q領域においてはこの異極性合体により最終的には内部トロイダル磁界がホローとなるいわゆる反磁性構造の生成が示され、高ベータを有するSTに類似した磁界構造の生成に成功した成果を述べている。しかしこの時の磁界構造は過渡的なもので平衡配位としての長時間維持の可能性については今後の課題であることを指摘している。一方、高q領域においては、実験を成功させるためにはRFP側の生成法に特別な工夫を必要とすることを指摘している。

 第7章は結論であり、本研究によって得られた主要な成果をまとめ、TS-4実験装置を用いた本研究によって各種球状トーラスの理解が進展したことを述べている。

 以上要するに、本論文においては、外部トロイダル磁界中において、自由境界を有する各種球状トーラスプラズマの合体実験が可能なTS-4装置の製作と整備を行い、その磁気面計測結果の信頼性を評価するとともに、実験によって合体生成された各種配位の磁束緩和過程の特徴を整理し、特に、合体によって内部磁束の増大が可能であること、および外部トロイダル磁界の増大によって配位の安定性が格段に向上すること、等を明らかにして、球状トーラスプラズマ研究の展開についての可能性を示したもので、電気工学、特にプラズマ核融合工学に貢献するところが多い。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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