学位論文要旨



No 117986
著者(漢字) 八太,啓行
著者(英字)
著者(カナ) ハッタ,ヒロユキ
標題(和) 動作開始電流調整可能な超電導限流器の動作特性とその電力系統特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 117986
報告番号 甲17986
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5444号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 日��,邦彦
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

 電力系統は、短絡電流を抑制するとともに安定度を向上させるため、通常時には低インピーダンス、故障時には高インピーダンスであることが望ましい。このような相反する要求を満たすための機器として、限流器が注目されている。限流器を電力系統に導入すれば、遮断器の負担は低減し、より自由な系統設計が可能になるため、経済的で信頼性の高い電力系統を実現できる。また、限流器が高速に動作できれば、電力系統の安定度向上効果も期待できる。限流器を実現する方式には様々なものがあるが、中でも超電導限流器は外部の回路が必要ないこと、動作が迅速であることなどの優れた特徴から、現在活発に研究開発が行なわれている。超電導限流器を実現する方法は、様々なものが提案されているが、いずれも試作段階であり、現状では実用化のための検討は少ない。このため、まず、超電導限流器に対して電力系統から要求される仕様について検討した。超電導限流器を電力系統に導入する場合、動作開始電流値、限流器インピーダンス、復帰時間などの仕様が必要である。平行二回線系統を想定して故障計算を行なった結果、送電線の長さにもよるが、超電導限流器が故障回線で確実に動作し健全回線では誤動作しないという条件を満たすためには動作開始電流値に高い精度が必要であることが分かった。しかしながら、S/N転移を用いる方式の超電導限流器では、その動作開始電流値は超電導体のS/N転移電流に依存し、超電導体のS/N転移電流は製造過程に依存するため高い精度を実現することは難しい。このため、動作開始電流調整可能な超電導限流器を考案、試作した。

 第2章では、電力系統から要求される仕様を満たす超電導限流器として、動作開始電流調整可能な超電導限流器を提案し、この基本原理について述べた。本方式の超電導限流器は空心変圧器型超電導限流器であり、同軸円筒状に配置された二つの超電導コイルから成る。一次側コイルは系統に接続されており、二次側コイルは短絡コイルである。限流待機状態においては、一次側コイルに流れる電流による磁束は二次側コイルに流れる誘導電流によりほとんど打ち消されるためインピーダンスは小さいが、動作開始電流値を超えると二次側コイルが常電導転移し、限流動作状態となる。このとき、二次側コイルには十分な誘導電流が流れなくなり、インピーダンスが増加するため限流を行なうことができる。また、本方式の超電導限流器を試作し、その基本特性の計算を行ない、その基礎動作特性に関する実験的考察を行なった。この結果、超電導限流器の基本的な動作である限流動作および復帰動作が行なえることを確認した。

 第3章では、本方式の超電導限流器の動作特性に関する考察を行なった。まず、動作開始電流値についての考察を行なった。準定常的な動作時の動作開始電流値について実験的考察を行ない、本方式の超電導限流器は原理通りに動作開始電流値の調整が可能であることを示した。また、過渡的な動作時の動作開始電流値についての考率を行ない、超電導限流器の動作開始電流値は事故位相によって若干変化することを示した。これについてさらに考察するため、超電導限流器の動作瞬時電流に関する実験的考察を行なった。この結果、超電導限流器の動作瞬時電流は、限流器端子間電圧に依存することが分かった。このことから、超電導限流器の動作瞬時電流は、電流変化率に依存することを示した。次に、超電導限流器の限流動作中の特性について実験的に考察した。限流動作中の限流インピーダンスは、回路電流が大きくなるにつれて増加し、ある値に飽和することを示した。このとき、限流インピーダンスの飽和値は、1次コイルの自己インダクタンスのみで決まる。また、限流動作中の2次側電流の大きさはほぼ一定値となり、その大きさは最小伝搬電流の計算値と良く一致することを示した。次に、超電導限流器の復帰特性について考察を行なった。超電導限流器の復帰時間は、故障継続時間によって変化し、故障継続時間が長くなるにつれて減少するが、復帰時間は最大でも400msec程度であるため、いずれの場合も電力系統における遮断器の回路開放時間よりも十分短いことを示した。また、本方式の超電導限流器は回路電流を小さくしていくとある値で復帰する。このときの回路電流の大きさを復帰電流と呼び、復帰電流の大きさを測定した。この結果、復帰電流のおよその大きさは最小伝搬電流により計算できることを示した。

 第4章では、超電導限流器の電力系統特性に関する考察を行なった。同期発電機と模擬送電線により模擬系統を構成し、発電機端子の三相突発短絡および各種の送電線故障時の超電導限流器の限流動作に関する実験的考察を行なった。この結果、超電導限流器は三相交流電流においても限流動作できること、電力系統においては故障相でのみ動作し、健全相や健全回線では誤動作しないため、限流動作の選択性を有することを確認した。また、超電導限流器の限流動作により、故障時の発電機端子電圧低下が抑制されることを確認した。このことから、超電導限流器の限流動作により、安定度が向上するのではないかと考え、次に電力系統の安定度に関する考察を行なった。本論文では、実験的に安定度の評価を行なう方法として、臨界故障除去時間による評価を用いた。すなわち、超電導限流器設置の有無による臨界故障除去時間の比較を行なうことにより、超電導限流器の動作による電力系統の安定度向上効果に関する考察を行なった。この結果、超電導限流器の限流動作により電力系統の安定度が向上することを確認した。

 第5章では、第4章までの考察の結果明らかとなったいくつかの問題点に対してその解決方法を提案し、これらの方法の有効性について実験的に検証することによって、超電導限流器の実用化に関する基礎検討を行なった。まず、Zn0素子による過電圧抑制についての検討を行なった。本方式の超電導限流器は、そのインピーダンスが誘導性であり、しかもその限流動作が速いため、限流動作する瞬間に限流器端子間には高電圧が発生する。この瞬時高電圧を抑制するため、超電導限流器と並列にZn0素子を接続する方法を提案し、この方法の有効性を実験的に検討した。この結果、超電導限流器と並列にZn0素子を接続することにより、超電導限流器の過渡状態継続時間は延びるものの、この方法は瞬時高電圧の抑制に有効であることを示した。次に、直列コンデンサによる待機インピーダンス補償についての検討を行なった。本方式の超電導限流器は空心構造をとるため、その限流待機状態におけるインピーダンスが無視できない。この待機インピーダンスを直列コンデンサにより補償する方法を提案し、この方法の有効性を実験的に検討した。この結果、直列コンデンサは待機インピーダンスの補償に有効であるが、回路のリアクタンスと共振するため、共振周波数には注意する必要があることが分かった。次に、超電導限流器の直列接続についての検討を行なった。超電導限流器は、電力系統における二相短絡故障時に、一方のみしか動作しないことがあることが明らかとなった。また、大きい限流インピーダンスを実現する方法として、複数の小型超電導限流器を直列接続する方法も考えられるため、直列接続した超電導限流器の動作についての検討を行なった。この結果、直列接続した超電導限流器の動作は、事故位相および超電導限流器の動作開始電流値によることを示した。

 第6章では、これらを踏まえ、本方式の超電導限流器の設計・試験法に関する考察を行なった。この結果、本方式の超電導限流器は、その設計が容易であることに加え、その特性を簡易な試験法で確認できることを示した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「動作開始電流調整可能な超電導限流器の動作特性とその電力系統特性に関する研究」と題し,超電導限流器への電力系統からの要求仕様,仕様を満足する限流器の提案,試作,仕様に対応した実験とその考察,設計法などをまとめたものであり,7章から構成される.

 第1章は序論で,限流器の必要性を述べ,電力系統からの限流器への要求仕様を整理し,その観点から現在各所で提案されている限流器を比較した結果から動作電流調整可能な超電導限流器の必要性を導き,本研究の目的と内容について述べている.

 第2章は「動作開始電流調整可能な超電導限流器」と題し,二つの同軸超電導コイルからなる構造と動作原理,試作限流器の諸元について述べ,試作限流器の基本的な特性計算,基本特性実験結果を示し,それが限流動作と良好な復帰特性を示すことを述べている.

 第3章は「超電導限流器の特性に関する考察」と題し,準定常状態および過渡状態における限流動作実験,限流動作中の特性実験,復帰特性実験の結果を述べ,動作開始電流調整の必要性の実証,過渡瞬時動作電流は限流器端子電圧に依存すること,限流動作中の二次コイル電流が一定で超電導線の最小伝搬電流であること,長い故障継続時間は短い復帰時間となる実験結果と考察などを述べると共に限流動作瞬時の過電圧等の実用化ヘの課題を指摘している.

 第4章は「超電導限流帯を含む電力系統に関する考察」と題し,小形同期発電機と模擬送電線を用いた実験系統において,各種突発故障時における限流器の動作実験を行い,健全回線と健全相では限流器は不動作で故障相のみ動作すること,健全回線の過渡電流も限流できること,突発短絡時の発電機過渡界磁電流も抑制することを述べ,実用上の課題も指摘している.また,系統過渡安定度実験を行い,臨界故障継続時間で安定度を評価し,限流器の安定度向上効果を示すと共に,事故時に系統が常に安定となる限流器インピーダンスを求めている.

 第5章は「超電導限流器の実用化に関する基礎検討」と題し,第3章と第4章で指摘した実用化への課題に対する考察を行っている.限流器動作瞬時の過電圧を酸化亜鉛素子で抑制することを提案し,その有効性を実験的に示すと共にその限流特性に与える影響について実験的に考察している.限流器の漏れインピーダンスを補償することに関して実験と考察している.また,限流器直列接続特性を考察する必要性を述べ,実験的にその特性について考察している.

 第6章は「超電導限流器の設計および試験法に関する考察」と題し,第3章と第4章で得られた知見から電力系統からの要求仕様を満たす動作電流調整可能な超電導限流器の設計と設計時に予測される特性について述べると共に基本試験法を提案している.

 第7章は結論であり,本論文の成果を総括すると共に超電導限流器の今後の課題について述べている.

 以上これを要するに本論文は,動作開始電流調整可能超電導限流器に関して,その必要性と実現方法をのべ,試作器を用いた基本的な実験から有用性を示し,理論的な計算を用いて設計法を提案し,さらに限流器の電力系統安定度向上効果の実験的考察と実用化への課題の抽出及び解決法の提案と実証等により,その超電導特性,機器特性,電力系統特性の知見を得たものであり,電気工学,特に超電導工学,電力系統工学に貢献するところが少なくない.

 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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