No | 117988 | |
著者(漢字) | ポカレル・ラマシュ・クマール | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ポカレル・ラマシュ・クマール | |
標題(和) | モーメント法による電力線上の雷サージの解析 | |
標題(洋) | Application of Method of Moments to Lightning Surge Analysis on Power Lines | |
報告番号 | 117988 | |
報告番号 | 甲17988 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5446号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 電力線に侵入する雷サージの研究は古くから行われてきたが、最近の情報関連機器などの急速な増加に伴い、特に低いレベルの雷サージを研究することの重要性はますます高まっている。これまでの研究により、送電線に直接侵入する雷電流の振る舞いについてはかなり解明が進んでいるが、誘導により発生する雷サージ、特に不完全導体の大地面上の誘導雷現象、雷放電路や構造物の幾何学的配置の影響を受けた誘導電現象については、まだ解明が進んでいない。 現在は、進行波現象を等価回路によって解析するEMTPと呼ばれる解析プログラムが、多相電力線上の雷サージの予測によく用いられている。しかし、進行波現象をモデル化した等価回路はTEMモードの電磁界分布を前提としているため、TEMモードではない電磁界分布の進行波現象を予測するには無理がある。雷撃が生じた直後では、雷放電路や鉄塔、垂直な構造物を流れる電流が周囲の電磁界分布に大きく影響し、TEMモードとはかけ離れた電磁界分布となっている。このように雷撃直後の1〜2マイクロ秒以内のサージ現象は、EMTPによる計算では精度のよい予測が困難である。この問題にはモーメント法による三次元数値電磁界解析の適用が有効であることが最近明らかにされた。まだこの手法のサージ解析への適用は緒についたばかりであり、完全導体平面上の送電線や構造物への直撃雷に伴うサージ現象の解明がはかられた段階である。 配電線は送電線に比べて絶縁レベルが低く、雪害対策においては、これまで誘導雷と呼ばれる現象が重視されてきた。誘導雷とは、電力線への直撃がなくとも、近傍に発生した雷撃の大電流が、電磁界を通じて配電線、通信線などの架空線と結合し、大きな過電圧を発生させる現象である。この問題の研究の歴史は50年以上に及ぶにもかかわらず、架空線上の誘導雷電圧を精度良く予測することについての理論上の問題が解決したのは、極めて最近である。誘導雷電圧の解析には、架空線上のサージの振る舞いを計算するための線路方程式の使用が基本となっているため、雷放電路と線路の電磁気的な結合をモデル化する必要があるが、その結合モデルの考え方に対立があったのが、最近まで解析法に関して合意が得られなかった理由である。 本論文では、誘導電現象の解析にモーメント法による数値電磁界解析手法を適用し、実験結果、および有効性が認められている結合モデルにもとづく計算結果と比較することにより、その有効性を実証することができた。数値電磁界解析法を用いる利点は、雷放電路と線路の電磁的結合が、系の幾何学的形状をデータとして入力するだけで自動的に、かつ正しく計算モデルに組み込まれる点である。また、電線路も互いに並行である必要はなく、垂直な線路や斜めに交差する線路上のサージ現象も、モデル化のことを考慮することなく、正しく計算することができる。また周波数領域のモーメント法で計算を行うと、大地導電率の影響も考慮することができる。 大地導電率が有限な場合の誘導雷電圧を計算するには、大地導電率の影響を大きく受ける水平電界を求めることが必要である。その計算手法の代表的なものではSommerfeld積分の数値計算法、Norton解、またCooray-Rubintein公式が広く用いられている。Sommerfeld積分は有限な導電率を有する大地上の半空間での解析に用いられ、Norton解はSommerfeld積分の、漸近級数展開である。Cooray-Rubintein公式は単純で、広く使用されている。しかしながら、各方法の精度、有効な範囲は知られていないため、それらについて検討した。雷放電路モデルから100mの距離ではSommerfeld積分とNorton解による計算結果の違いは、高さ10m、長さ600mの架空線の末端での誘導雷電圧の波高値にして12%であった。これによって、Norton解は特殊な条件下を除き、実用上十分に正確であることがわかった。この結果より、有限な導電率の大地面上での誘導雷サージを、実用上十分な精度で計算できることが明らかになった。 雷が直撃しやすい高構造物近傍の架空線に生じる誘導雷電圧についても検討した。この場合には、高構造物のモデリングが必要となる。その検証のため、高構造物近傍の試験配電線で観測された誘導雷電圧について、数値電磁界解析で、どこまで再現できるかを検討した。これによって、雷撃電流の放電路上での伝搬速度、大地の導電率と雷放電路の傾斜が、観測結果を再現するため必要なパラメータであることがわかった。 時間領域のモーメント法にもとづく数値電磁界解析では、非線形要素を扱うことができる。時間領域のモーメント法による計算精度を調べるため、送電線鉄塔に直撃雷が生じたときの鉄塔インピーダンスの時間変化を、精度がある程度判明している周波数領域のモーメント法による計算結果と比較検討した。その結果、両者はほぼ一致し、時間領域のモーメント法は雷サージ解析に有用であることが確かめられた。そこで次に、送電線用避雷器を送電線鉄塔に取り付けた場合の、鉄塔直撃雷の際におけるがいし連電圧、避雷器電流を計算した。避雷器は代表的な非線形要素で、放電開始電圧を超える電圧がかかると導通状態になり、大きな電流をそれ自身に流すことによって取り付け箇所の電圧を抑制する装置である。計算結果をEMTPによる結果と比較したところ、現在広く使われているEMTP計算に置ける送電鉄塔の等価回路では、雷電流が急峻な場合、避雷器電流を正確に計算できないことがわかった。このためEMTPにより計算する場合、より高精度での解析が可能となる新しい鉄塔モデルを提案した。 以上のほか、雷が送電鉄塔を直撃した時に、電力線健全相に発生する誘導雷サージの特徴を、数値電磁界解析により検討した。鉄塔の存在は、各電力線に誘起する電圧波形初期の極性の逆転を起こす。この現象はEMTP解析では再現することが困難である。この成果は、近距離の送電線鉄塔に落雷した場合の変電所侵入サージ波形を理解する上で有用である。 本研究の成果により、EMTPによる雷サージ計算の実用的な限界の一面が明らかになり、且つその適用範囲を広げるための、解析モデルの改良を提言することができた。これらの成果を挙げる上では、実用の緒についたばかりであるモーメント法による誘導雷サージ解析の有効性の証明と、拡大範囲の適用が不可欠であり、何れもが本研究の大きな成果である。以上の成果は電力線の耐雷設計の合理化、信頼性向上に貢献することが期待される。 | |
審査要旨 | 電力線に侵入する雷サージの研究は古くから行われてきたが、誘導により発生する雷サージについてはまだ十分に解明が進んでいない。本論文は「Application of Method of Moments to Lightning Surge Analysis on Power Lines(モーメント法による電力線上の雷サージの解析)」と題し,誘導雷サージ現象を主な対象として、モーメント法による数値電磁界解析手法を適用することの有効性を実証したもので、8章より構成される。 第1章はIntroduction(緒言)で,雷サージ解析の,送配電線の耐雷設計における重要性について述べ,本論文で取り上げた数値電磁界解析手法が雷サージ解析に適用されるようになった経緯を明らかにしている。 第2章はMethod of Numerical Analysis(数値電磁界解析手法)と題し,雷サージ解析において数値解法の対象となる問題の定式化,本論文で使用するモーメント法,周波数領域の解法の過渡現象解析への適用について述べている。 第3章はAccuracy of Numerical Anlysis(数値解法の精度)と題し,モーメント法による周波数領域の電磁界数値解析プログラムNEC-2を配電線の誘導雷サージ計算に初めて適用し,この時の計算精度を縮小モデルでの実測結果と比較して数値解法の実用性を示し,併せて導電率が有限な大地面上における電磁界の種々の数値解法を比較して,その計算精度について論じている。 第4章はLightniug-Induced Voltages on Distribution Line(配電線に生じる誘導雷電圧)と題し,実用性を確認した周波数領域における電磁界数値解法を利用して,配電線の誘導雷電圧への柱上機器,線路構成,耐雷設備の影響を線形領域で解析し,定量的に明らかにしている。 第5章はAnalysis of Lightning-Induced Voltages Associated with Lightning to Tall Structure(高構造物への雷撃に伴う誘導雷電圧)と題し,高構造物近傍の試験配電線で実際の落雷に伴って生じた誘導雷電圧と雷電流の同時観測結果の報告事例を取り上げて,周波数領域における電磁界数値解法を適用して解析し,雷放電路の傾きを考慮に入れると,観測結果がよく説明できることを示している。 第6章はAccuracy and Application of Thin Wire Time Domain Code(時間領域解析プログラムの精度と応用)と題し,モーメント法による時間領域での数値電磁界解析プログラムTWTDを雷サージ解析に適用した結果を記述している。完全導体平面上での計算結果を送電鉄塔の縮小モデルを使用した実験結果と比較し,導電率が有限な大地面上での計算結果はNEC-2を利用した計算結果と比較して,それぞれTWTDでの計算結果が実用に耐える精度を有することを確認した上で,新たに非線形要素を含む送電線,配電線の雷サージ解析に適用した結果を示した。非線形要素の取り扱いは,周波数領域の計算法では困難である。 第7章はCharacteristics of Lightning-Induced Surge on Transmission Line(送電線に生じる誘導雷サージの特性)と題し,これまで回路解析手法で近似的にしか検討されていなかった送電線の電力線に生じる誘導雷サージを,周波数領域における電磁界数値解法を適用して正確に解析することにより,近傍の送電鉄塔への落雷に伴う変電所への侵入電サージ波形の理解に貢献した。 第8章はConclusion(結言)で,本論文の成果を総括している。 以上これを要するに本論文は,回路解析的手法では正確な解を得るのが困難な,電力線に生じる誘導雷サージの計算に,モーメント法による数値電磁界解法を適用することの有効性を初めて実証し,従来知られていなかった誘導雷サージの諸相を明らかにした上、この解法の適用条件、限界も示したもので、電気工学、特に電力工学上,貢献するところが少なくない。 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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