学位論文要旨



No 117989
著者(漢字) カールソン,ヨナス
著者(英字) Karlsson,Jonas
著者(カナ) カールソン,ヨナス
標題(和) CDMAセルラーシステムにおけるシングルユーザディテクタ(SUD)とマルチユーザディテクタ(MUD)のマルチセル環境における性能の研究
標題(洋) Multi-Cell Performance of Single-User Detectors and Multi-User Detectors in CDMA Cellular Systems
報告番号 117989
報告番号 甲17989
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5447号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 助教授 松浦,幹太
内容要旨 要旨を表示する

 The multi-cell performance of single-user detectors (SUD) and multi-user detectors (MUD) in CDMA cellular systems are considered in this thesis. As the usage of mobile phones services is increasing and services requiring higher data rates are introduced, the capacity of cellular systems needs to be increased.

 The IC receivers can be divided into SUD and MUD receivers that have different interference cancellation properties. Typically, SUD can cancel both intra-cell and inter-cell interference, but MUD can only cancel intra-cell interference.

 This thesis introduces a new SUD receiver, which adopts the Normalized Griffiths' Algorithm (NGA), and examines its single-cell and multi-cell performance compared with the conventional PAKE receiver and the well-known Serial IC receiver (a MUD receiver). To examine the multi-cell performance correctly, this thesis performs multi-cell link-level simulations. Assuming perfect channel estimation, this thesis shows that the Serial IC has better single-cell performance than the NGA receiver, while that the NGA receiver has approximately the same performance as the Serial IC in a multi-cell system with three-sector antennas. The conclusion from this is that even though MUD receivers cancel intra-cell interference better than SUD receivers, it might still be interesting to use SUD receivers due to their ability to cancel inter-cell interference.

 Using this knowledge this thesis constructs two new IC receivers who combine the good intra-cell interference cancellation of the Serial IC and the inter-cell interference cancellation ability of the NGA receiver. The first receiver is a Serial IC receiver followed by a NGA receiver (SING), the second one is an Integrated Serial IC and NGA receiver (iSING). It is shown that they clearly outperform both the Serial IC and the NGA receiver in multi-cell scenarios. By varying the number of stages of cancellation, it is found that the convergence of the multi-stage receivers is much faster in a multi-cell scenario than for the single-cell scenario. The complexity of the proposed receivers is analyzed and the confidence of the simulation results is examined. Simulations show that the performance of the 2-stage iSING receiver and the 4-stage SING receiver is about 35-40% better than the 3-stage Serial IC receiver. But the complexity of these two combined receivers is about 50% higher than that of the 3-stage Serial IC receiver.

 To perform multi-cell link-level simulations is a very complex task. By creating models for the interference cancellation ratios for the IC receivers, this thesis proposes a three-step method, which makes it is possible to obtain multi-cell results also by using system-level simulations. By using the proposed methodology, different system aspects of cellular systems can easily be examined for IC receivers that cancel inter-cell interference.

 One of the basic requirement of adaptive filter type of SUD receiver (like the ones studied in this thesis), is that the interference has to be stationary, which impose the requirement of short spreading sequences. It is shown that this will impose requirements on the usage of pilot symbols for channel estimation. If the length of the spreading sequence should be the same as the pilot symbols, then the pilot symbols has to be a pseudo-random sequence. Simulations for the WCDMA standard show that this potential problem will only cause a very small degradation, since the pilot symbols used in WCDMA are partly pseudo-random.

 本学位論文ではCDMAセルラーシステムのマルチセル環境におけるシングルユーザディテクタ(SUD)及びマルチユーザディテクタ(MUD)の性能を検討している。携帯電話サービスの使用法が多様化し、より高いデータ転送速度が要求されるサービスが導入されるにしたがって,セルラーシステムの容量を増加させる必要がある。容量を増加させる一方法として干渉キャンセラ(IC)受信機を使用することが考えられる。

 IC受信機は異なった干渉キャンセル属性を持ったSUD受信機とMUD受信機に分類することができる。一般的に,SUDはセル間干渉とセル内干渉の両方をキャンセルすることが可能であるが、MUDはセル内干渉のキャンセルのみが可能である。

 本学位論文ではNormalized Griffiths' Algorithm(NGA)というアルゴリズムを採用した新しいSUD受信機を導入し,シングルセル並びにマルチセルの性能を従来のRAKE受信機とよく知られているシリアルIC受信機(MUD受信機)と比較し吟味する。マルチセルの性能を正しく吟味するために,本論文ではマルチセルリンクレベルシミュレーションを行う。完全なチャンネル推定を仮定し、シングルセルでは、シリアルICがNGA受信機より優れた性能を有していることを示す。その一方で、3セクタアンテナを有するマルチセルではNGA受信機はシリアルICとほぼ同じ性能があることも示す。結論として、たとえMUD受信機がセル内干渉のキャンセル特性でSUD受信機より優れていたとしても、SUD受信機がセル間干渉をキャンセルする機能を有していることを考えるとSUD受信機を使用することは興味深い。

 この知識を使用して本論文は、シリアルICのセル内干渉キャンセル能力と、NGA受信機のセル間干渉キャンセル能力を組み合わせた2つの新しいIC受信機を構成する。第1の受信機は後段にNGA受信機を伴ったシリアルIC受信機(SING)、第2の受信機はシリアルICと、NGAの統合化受信機(iSING)である。2つの受信機ともマルチセルシナリオにおいて、単体のシリアルIC受信機、NGA受信機のいずれよりも優れた性能であることが示されている。キャンセラの段数を変化させることによって,マルチステージ受信機の収束はマルチセルシナリオの方がシングルセルシナリオよりかなり速いことが判った。また、提案された受信機の複雑さが解析され,シミュレーション結果の信頼度が検証されている。シミュレーションは2段iSING受信機及び4段SING受信機の性能が3段シリアルIC受信機より約35-40%優れている事を示す。しかしこれら2台の結合された受信機の複雑さは3段階シリアルIC受信機のそれより約50%高い。

 マルチセルのリンクレベルシミュレーションを行うことは非常に複雑な作業である。IC受信機の干渉キャンセル比率のモデルを作成することにより、本論文は、システムレベルシミュレーションを使用してマルチセルの結果を得ることを可能にする3ステップ法を提案する。提案された方法の使用することにより,セルラーシステムにおける異なったシステム的側面をセル間干渉をキャンセルするIC受信機に対して容易に考察することができる。

 適応性があるフィルタータイプの(この論文で検討されるもののような)SUD受信機の基本的要求条件の1つは,干渉が定常的でなければならないという条件であり、これにより短い拡散系列条件が課される。そして、これがチャンネル推定のためのパイロットシンボルの使用法に条件を課すことが示される。短い拡散系列の長さがパイロットシンボルと同じであるなら、パイロットシンボルは擬似ランダム系列でなければならない。WCDMAスタンダードのシミュレーションはこの潜在的な問題が、WCDMAで使用されるパイロットシンボルが部分的に擬似ランダムであるため非常に小さい劣化しかもたらさないことを示す。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「Multi-Cell Performance of Single-User Detectors and Multi-User Detectors in CDMA Cellular Systems(CDMAセルラーシステムにおけるシングルユーザディテクタ(SUD)とマルチユーザディテクタ(MUD)のマルチセル環境における性能の研究)」と題し,CDMAセルラーシステムの容量を増大するための干渉補償受信機の新たな構成法の提案とその性能解析を行ったものである.干渉補償受信機はSUDとMUDに分類される.MUD受信機はセル内干渉補償には有効であるが,セル間干渉の補償は難しい.これに対し,SUD受信機はセル内およびセル間干渉の両者の補償に用い得る.本論文はセル内およびセル間干渉の補償を行う新たなSUD受信機一種と,SUDとMUDを組み合わせた受信機二種の提案を行い,マルチセル環境における特性を評価して,その有効性を示したもので,「Introduction」を含め9章からなる.

 第1章は「Introduction(序論)」で,本研究の背景を明らかにした上で,研究の動機と目的について言及し,研究の位置付けについて整理している.

 第2章は「Cellular Systems(セルラーシステム)」と題し,セルラーシステムの概略について述べるとともに,セルラーシステムにおける各種の多元接続方式について概説している.

 第3章は「System and Data Models(システムとデータモデル)」と題し,本論文で用いるリンクレベルとシステムレベルのモデルについて述べている.リンクレベルのモデルは移動端末から基地局への情報伝達を詳細に記述するために用い,システムモデルは複数の基地局を含む全システムを記述するために用いるものである.

 第4章は「Interference Cancellation Algorithms(干渉補償アルゴリズム)」と題し,既存の干渉補償受信機について説明している.最初に干渉補償なしの従来のRAKE受信機を述べ,ついで最適な干渉補償受信機,さらに準最適ないくつかの干渉補償受信機について述べている.

 第5章は「The Normalized Griffiths'Algorithm(正規化Griffithsアルゴリズム)」と題し,CDMA受信のための最小二乗誤差アルゴリズムであるGriffithsアルゴリズムについて詳細に検討して,フェージングがある場合に収束の安定性を改善できる正規化Griffithsアルゴリズム(NGA)を提案している.NGAはセル間干渉補償が可能であるので,マルチセルリンクレベルのシミュレーションによりそのマルチセルにおける特性を評価している.

 第6章は「Combinations of MUD and SUD Receivers(MUDおよびSUD受信機の組み合わせ)」と題し,シリアル干渉補償によるMUDとNGAとの二通りの組み合わせを提案している.これらは,SINGおよびiSINGと呼ばれ,シリアル干渉補償によるセル内干渉の効率のよい補償とNGA受信機によるセル間干渉の補償の能力とを組み合わせた方式である.マルチセルシミュレーションにより,シリアル干渉補償受信機単独の場合およびNGA受信機単独の場合のいずれよりもSINGおよびiSINGの特性が優れていることが示されている.

 第7章は「Modeling of Interference Cancellation for System-Level Evaluations(システムレベル評価のための干渉補償のモデル化)」と題し,より効率のよいシステムレベルの評価を可能とするために,通常のシステムレベルシミュレーションに干渉補償受信機を導入するための新しい手法を提案し,それを用いてより高度なシステムレベル評価を行っている.特に,セル内およびセル間干渉補償の相違をNGA受信機に関し詳細に調べ,リンクレベルからシステムレベルまでを表現する新たなモデルを提案している.

 第8章は「Practical Aspects of Single-User Detectors(SUDの実際)」と題し,実際にSUDを用いる際のいくつかの問題点とその有効な解決法を示している.

 第9章は「Conclusions and Future Research(結言と今後の研究)」で,本研究の総括を行い,併せて将来展望について述べている.

 以上これを要するに,本論文は,CDMAセルラーシステムにおけるマルチセル環境下での実際的干渉補償方式を提案し,その特性を詳細に評価したものであり,電子情報工学,特に無線通信工学上貢献するところが少なくない.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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