No | 117992 | |
著者(漢字) | 川崎,洋 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワサキ,ヒロシ | |
標題(和) | 全方位画像を用いた実世界空間のモデリング | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117992 | |
報告番号 | 甲17992 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5450号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電子情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 実世界の都市空間を計算機内に再現することは、コンピュータグラフィック(CG)やバーチャルリアリティ(VR)などの分野で非常に重要なテーマである。最近では、高度交通システム(ITS)の分野においても、カーナビゲーションやショッピングガイドさらには都市交通計画の基礎技術として高い関心を集めている。 都市空間のモデリングは、大きくデータ計測段階とデータ提示段階の2つに分けて考えることが出来る。データ計測段階では、何らかの方法で実際に存在する建築物や都市の景観等を計算機で処理可能なデータ形式に変換し、保存する。通常、このデータ形式は3次元幾何形状や対象物の色などの表面特性である。データ提示段階では、これらの形状や光学情報を用いて、任意の光源方向における任意の視線方向から見た都市空間画像を描画する。 実際に都市などの広域空間をモデリングする場合には、その対象があまりにも膨大なため、データ計測を人手でするには多くの困難がある。そこで、何らかの方法で、現在の都市空間の画像等から形状や表面特性などのデータを自動的に獲得出来れば大きな省力化が図れる。これまで多くの自動化手法が提案されてきたが、航空写真からの地図生成など、一部実用レベルに達している技術を除けば、大半は実験段階にとどまっているのが現状である。 このようなモデル生成に伴う困難を回避する方法として、イメージベース法による仮想空間生成がある。イメージベース法は、3次元形状や表面特性などの情報を使用せずに、予め蓄えられた画像のみを用いて画像の合成を実現する。このため、対象物体の形状や反射特性を考慮する必要がなく、複雑な形状や反射率を有する物体に対しても適用できる。従って、簡便に実際に近い見えが生成できる。 光線空間を構築するためには、対象物体をあらゆる方向から撮影した画像が必要である。光線空間内で光線の分布を効率良く記述するため、光線空間法[1], Light Field Rendering[2], Lumigraph[3]などが提案されている。これらの研究の主眼は記述法であり、入力方法についてはあまり考察されていない。すなわち、多数のカメラから得られる多数の画像列があるとして議論を進めている。これは対象とする物体が比較的小規模であったため、光線の取得方法自体はそれほど検討する必要がなかったからである。一方、我々が目的とする都市空間は、対象が非常に大きくかつ広域に分布する。このため効率的な光線情報収集の検討を欠かすことができない。そこで、本論文では、この点を解決するため全方向の画像が取り込める全方位カメラ画像を利用する。 全方位カメラとは、一度の撮影で周囲360度全ての映像を記録することが出来るカメラである。我々は、2種類の全方位カメラを実験に用いた。一つは鏡面反射型全方位カメラであり、もう一つは複数台のカメラを用い全方位カメラである。全方位カメラは、一度の撮影で周囲全ての景色を記録するため、通常のカメラとは異なる光学的特性をもつ。そこで、本論文では、実験に用いたそれぞれのカメラの光学特性を明らかにし、効率的に画像データを獲得する手法を述べる。また、前者の全方位カメラ画像に関しては、全周囲を1つのCCDカメラで撮影することによる低解像度という問題があるが、これを解決する手法を提案する。後者の全方位カメラに関しては、複数の画像を統合する際、光学中心が一致していないため歪みが発生するが、これを除去する手法を提案する。さらにカメラ画像を取り込む軌跡を直線とすることで情報収集の手間が大幅に削減できることも示す。 単純なイメージベース法を用いた仮想環境構築手法では,サンプリング密度を無限に高くすることが出来ないため、最終的な合成画像上に歪みの発生することが知られている。本論文では、イメージベース法に3次元の幾何形状情報を付加することで、これら歪みが除去可能であることを示す。 また、利用する幾何形状の取得に際しては,時空間画像解析(EPI)による,計測画像自体を利用する手法を提案する.これにより,新たなセンサ等を用意せずとも提案手法を適用することが出来、応用範囲が広がる.また,提案する手法は、実際の処理にDPマッチング等ロバストなアルゴリズムを利用しているため、精度の良い安定した形状データの推定が可能である. 実際に全方位カメラで街を撮影し、提案した手法により街をモデリングしたところ、歪みの無い現実感の高い3次元都市を構築することが出来、本手法の有効性を確認することが出来た. 参考文献 [1]内山,片山,田村,苗村,金子,原島"光線空間理論に基づく実写データとCGモデルを融合した仮想環境の実現"3次元画像コンファレンス,1996 [2] M Levoy and P Hanrahan "Light field rendering", SIGGRAPH(1996) [3] S.J Gortler et al. "The lumigraph", SIGGRAPH(1996) 発表文献 1)川崎洋,谷田部智之,池内克史,坂内正夫,実世界映像の自動構造化によるインタラクティブ利用,電子情報通信学会論文誌,D-II,J82-D-II,10,pp1561〜1571,1999. 2)川崎洋,池内克史,坂内正夫,時空間画像解析を用いた全方位カメラ映像の超解像度化,電子情報通信学会論文誌,D-II,J84-D-II,8,pp1891〜1902,2001. 3)高橋拓二,川崎洋,池内克史,坂内正夫,全方位画像を用いた広域環境の自由視点レンダリング,情報処理学会論文誌CVIM3,42,SIG13,pp99〜109,2001. 図1:全方位画像の例 上:鏡面反射型全方位カメラ画像、下:複数カメラによる全方位画像 図2:作成した複数カメラによる全方位撮影システム 図3:歪み除去の例 図4:仮想空間の描画例 | |
審査要旨 | 本論文は、「全方位画像を用いた実世界空間のモデリング」と題し、近年急速な発展を遂げているバーチャルリアリティやITS(高度交通システム)等の分野における基礎技術として必須である、実世界空間の効率的な獲得とその写実的な提示方法について、全方位画像とイメージベース手法を用いた新しい方式を提案・実装したものであり、6章から構成されている。 第1章は,「序論」であり、本研究の背景として、実世界空間を計算機内に構築するためこれまで行われてきた研究を概観しながら従来手法の問題点を明らかにすると共に、それら問題点を踏まえ、研究の目的を述べている。 第2章は,「鏡面型全方位カメラによる広域空間の効率的獲得」と題し,これまで問題であった都市空間という広大な空間のデータ獲得を,水平方向360度全ての景観を1度の撮影で計測可能な、回転体の鏡を利用した鏡面反射型全方位カメラを用いることで、効率よく取得する方法について述べている.また,鏡面反射型の全方位カメラにおいて画像解像度が著しく低くなるという問題点についても,これを解決する超解像度化手法を併せて提案している. 第3章「複数台カメラによる広域空間の効率的獲得」では,複数台のカメラを用いて,第2章と同様、効率の良い全方位画像の撮影方法について提案している.複数台のカメラを用いてそれぞれ撮影した画像を統合すれば,解像度の高い全方位画像を作ることが出来る一方,複数の画像をつなぎ合わせる際に画像の歪みが大きくなるという問題点があるが,時空間画像解析を用いることで,複数画像を統合する際の歪みを除去する手法を提案している. 第4章では,「画像の再構成による都市空間の生成」と題し,都市空間という広域環境を,より自由に広範囲にわたり,リアリティを持って,イメージベース法を用いてレンダリングする手法を提案している.即ち、大量の画像を蓄積し,これらの実画像を様々に加工・処理し,再構築することで撮影点以外での視点映像を現実感高く作りだすイメージベース手法は,従来、主に比較的小さい物体を対象としていたが,これを広域空間に拡張するためにスリットベースによる画像合成手法を提案し、実験により提案手法の有効性を明らかにしている. 第5章「幾何形状を利用した都市空間の生成」では,第4章で提案した画像生成手法で発生する歪みを、幾何形状を付加することで,大幅に軽減出来ることを示している.即ち,イメージベース法による都市空間の生成は,簡単な実装により現実感の高い画像合成が可能という利点がある反面,サンプリングが十分でない場合に歪みが発生するが、幾何形状を付加することで,これら歪みを軽減可能であることを実証している.更に,提案する手法により,データの圧縮やシンボリックな情報の付加等も実現できることが示されている. 第6章は「結論」であり、本研究の成果が要約されていると共に、今後の課題を明らかにしている。 以上、これを要するに、本論文は、バーチャルリアリティやITS(高度交通システム)等の急速な発展の中で、その基盤技術としての必要性が増している、「実世界空間のモデリング」を効率的に実現する手法を提案し、その実現方式を明らかにすると共に有効性を実証したもので、電子情報工学上貢献するところが少なくない。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/110 |