No | 117994 | |
著者(漢字) | 中内,清秀 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカウチ,キヨヒデ | |
標題(和) | インターネット分散アプリケーションにおけるコンテンツの発見と配信に関する研究 | |
標題(洋) | Content Discovery and Distribution for Internet Distributed Applications | |
報告番号 | 117994 | |
報告番号 | 甲17994 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5452号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電子情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | インターネットの爆発的発展にともない,デジタルコンテンツの流通基盤の重要性がますます高まりつつある.あらゆるコンテンツがデジタル化される次世代インターネット情報社会においては,ネットワークを介したコンテンツ利用は人間の社会生活の質的向上に資するであろう.今後,端末の高性能化,インターネットの広帯域化,及びデジタルコンテンツの高品質化の相乗効果によりコンテンツ流通はますます活性化され,多種多様なコンテンツやサービスが創出されるであろう. 本論文は,次世代の高度で柔軟なコンテンツ流通基盤の実現を目指すという観点から,インターネット上で多数のユーザまたはノードがコンテンツを自律分散的に管理,共有する分散アプリケーションにおける,コンテンツ配信方式及びコンテンツ発見方式について論じたものである.具体的には,まず不均一なネットワークにおけるマルチキャスト配信のための基盤技術,及び新たなマルチキャストアーキテクチャについて論じ,続いてグローバルスケール分散コンテンツ共有システムにおける分散コンテンツ発見のための基盤技術について論じたものである. 第2章と第3章は,不均一なインターネットにおいて,効率的なストリーム型コンテンツの配信を可能とする階層化マルチキャストに着目し,そのレート制御手法について論じたものである.階層化マルチキャストをインターネット上で展開するためには,輻輳への迅速な対応及びマルチキャストセッション間の公平な帯域割当が必須条件となる.これに向けて,これらの手法はネットワーク内の輻輳情報及び帯域割当情報をより正確かつ迅速に把握することを試みている.続く4章は,IPマルチキャストに関する基本機能(マルチキャストルーティング,パケットの複製)をすべてアプリケーション層で実現することによりIPマルチキャストの本質的課題を回避できるアプリケーションレベルマルチキャスト(ALM)に着目し,ALMのためのミドルウェアアーキテクチャについて論じたものである. 第2章では,従来の受信者駆動型の階層化マルチキャストに対して,ネットワーク支援型の階層化マルチキャスト手法NLM(Network-supported Layered Multicast)を示している.NLMの基本機能はフィルタリング及びシグナリングである.NLMではこれらの機能を具備した階層化マルチキャスト対応ルータLMR(Layered-Multicast-capable Router)をネットワーク上に分散配置する.輻輳を検出したLMRはフィルタリングを行うことにより輻輳に対する迅速な対応を可能とする.また,各階層の優先度及び各セッションの下流における割当帯域に基づいてすべてのセッションの中からフィルタリング開始/解除の対象となる階層を一つだけ選択するとともに,LMR間のシグナリングを行って不要な階層の転送を防止することによりセッション間の公平な帯域割当を可能とする.NLMはアウトプットインタフェース毎に独立にレート制御を行う. 第3章では,スパースモードルーティングを採用するネットワーク上に階層化マルチキャストを展開した時の問題点を指摘するとともに,そのような環境においても効率良く機能するレート制御手法であるランデブーポイントベース階層化マルチキャストRPLM(Rendezvous Point based Layered Multicast)を示している.具体的には,スパースモードルーティングでは,各階層が異なるランデブーポイントに割り当てられ,送信者から受信者までの各階層のルートが異なる場合がある.このような場合,受信者は受信している最も上位の階層から順に受信を停止する,という従来の受信者駆動型レート制御は効率的に機能せず,輻輳への迅速な対応が不可能となる.RPLMでは,受信者は受信する複数の階層をルート(経由するランデブーポイント)毎にグルーピングし,グループ毎にレート制御を行うことにより輻輳の原因となる階層を迅速に把握し,対処することが可能となる.同時に,不要な複数の階層に対して同時に受信を停止することにより,帯域の浪費を防止することも可能である. 第4章では,アプリケーションレベルマルチキャスト(ALM)に必須となる基本機能をまとめて提供するALMミドルウェアRelayCastを示している.RelayCastを用いることにより,既存のユニキャスト対応アプリケーションをシームレスにALM対応アプリケーションに移行すること,及び新たなALM対応アプリケーションの開発を容易にすることが可能となる.現在,複数のALM方式が提案されているものの,すべてのALM方式に共通な機能までアプリケーション毎に個別に組み込まれている.そこで,まずALMの機能を抽象化することにより,オーバレイネットワーク構築機能とそのオーバレイ上でのマルチキャストルーティング機能を抽出できることを示す.次に,これらの機能を提供するRelayCastのアーキテクチャを示す.RelayCastは,各機能をコンポーネント化し,複数の基本的アルゴリズムをオプションとして選択可能とすることにより,多様なアプリケーションからの多様な要求に対する柔軟性が期待できる. 続く第5章と第6章は,グローバルスケール分散コンテンツ共有システムの実現に向けて,スケーラビリティ及び負荷分散を達成するPeer-to-Peer(P2P)モデルに着目し,各ノードが自律分散的にコンテンツを管理,共有するP2P分散アプリケーションにおける効率的かつロバストなコンテンツ発見手法について論じたものである.P2P分散アプリケーションにおいては,このようなコンテンツ発見機能が最も重要となる.具体的には,クエリーに示されたキーワードに一致するメタデータをもつコンテンツを,分散的手法を用いて検索する分散コンテンツ検索手法,及びクエリーに明示されたGUID(Globally-Unique IDentifier)をもつコンテンツを,分散的手法を用いて位置特定する分散コンテンツ発見手法について論じている. 第5章では,キーワードの関連性を利用した分散コンテンツ検索機構を示している.Gnutellaに代表される分散コンテンツ検索機構では,エンドホスト(ノード)を構成要素とする非構造的なオーバレイネットワークが構築され,このオーバレイ上でキーワードが示されたクエリーがブロードキャストにより転送される.キーワードに一致するコンテンツを保持するノードがクエリー送信者に応答することにより,コンテンツの発見が行われる.分散コンテンツ検索機構は,WWWにおける検索エンジンのような柔軟な検索機能を提供できない.つまり,検索エンジンでは,リンク構造の解析によるコンテンツの関連性及び重要度の把握や,シソーラスを用いた関連語検索などが可能であるのに対し,分散コンテンツ検索機構では集中管理機構が存在し得ないため,クエリーに示された文字列を含むキーワード(メタデータ)をもつコンテンツしか発見できず,かつ発見されたコンテンツのランキングも不可能である.そこで,本章で示す検索機構ではキーワードの関連性に着目し,キーワードの関連性を利用した検索質問(クエリー)拡張を行うことにより,目的のコンテンツの発見確率を向上させている.具体的には,ノードがローカルに保持するコンテンツからキーワード(メタデータ)を抽出し,「同一コンテンツの付与されるメタデータには関連性がある」という観測から,キーワード間の関連性を保持するデータベース(KRDB:Keyword Relationship Data Base)を作成する.ホストは,受信したクエリーに対して,KRDBを利用して拡張した検索質問を用いてローカルに保持するコンテンツを検索する.KRDBを検索プロセス及びホスト間の同期プロセスにより更新することにより,検索精度の向上を試みている. 第6章では,コンテンツの関連性を利用した分散コンテンツ発見機構を示している.ここでは,ネットワーク上に遍在する数千から数万のノードがローカルストレージの一部を互いに提供し共有することにより,ネットワーク上に仮想的な共有ストレージを構築するグローバルスケールの分散ストレージシステムを想定する.一般に分散ストレージは,コンテンツの複製やキャッシュ,マイグレーションにより負荷分散,耐障害性,ローカリティを実現するとともに,分散配置されたコンテンツヘの透過的アクセス手段をユーザに提供する.具体的には,ノードのIDに基づいた構造的なオーバレイネットワークが構築され,コンテンツのGUIDに基づいたクエリールーティングにより効率的なコンテンツ発見機構が提供されている.従来の分散ストレージでは,すべてのコンテンツが分散ストレージ上に均一に分散配置され,個々のコンテンツは独立に発見される.しかし現実的には,例えばWebにおいて同一サイトのリンクを辿るブラウジングや,同一ディレクトリ内の複数コンテンツに対する同時アクセスのように,同時にまたは連続して互いに関連するコンテンツにアクセスする環境が存在する.このような場合,同時にアクセスする関連コンテンツ数に比例した数のクエリーが生成され,ネットワークの負荷増大を招く.そこで,本章ではコンテンツの関連性を利用し,関連性をもつ複数のコンテンツを効率良く発見するコンテンツ発見機構を示す.ここでは,ユーザがディレクトリ構造を保持したままコンテンツを分散ストレージに保存する環境を想定する.具体的には,まずコンテンツのディレクトリ構造からコンテンツの関連性を把握し(同一ディレクトリ内のコンテンツは関連性があるとみなす),関連性をもつコンテンツ群をクラスタ化する.同一クラスタに属するコンテンツには共通するGUIDプレフィックス(またはサフィックス)を与えることにより,分散ストレージ上で論理的に近隣のノードに配置する.クラスタ内のあるコンテンツが発見された場合,そのコンテンツを保持するノードを起点として,近隣のサーバに対して高速なローカル発見手法を適用することにより,関連する複数のコンテンツを迅速かつ低負荷で発見することを可能とする. | |
審査要旨 | 本論文は、「Content Discovery and Distribution for Internet Distributed Applications(インターネット分散アプリケーションにおけるコンテンツの発見と配信に関する研究)」と題し,7章からなる.将来の3CE(Connections, Computation, Contents Everywhere)環境においては,ユーザが所望のコンテンツを確実に発見し,かつユーザの環境に適した品質でコンテンツを受信できるようなインフラストラクチャが必須となる.本論文では,インターネット上に広域展開される分散アプリケーションという観点から,(1)どのようなコンテンツ配信機構が必要か,(2)どのように所望のコンテンツを発見するのか,(3)コンテンツをどこに配置すればよいか,という問いに対して論じている. 第1章は,「Introduction(序論)」であり、本研究の背景と目的、本論文の構成について述べている. 第2章は,「Network-supported Layered Multicast(ネットワーク支援型階層化マルチキャスト)」と題し、不均一なインターネットにおいて効率的なストリーム型コンテンツの配信を可能とする階層化マルチキャストに着目し,ネットワーク支援型の階層化マルチキャスト手法NLM(Network-supported Layerea Multicast)を示している.NLMはフィルタリング機構及びシグナリング機構から構成される.輻輳を検出した階層化マルチキャスト対応ルータLMR(Layered-Multicast-capable Router)によるフィルタリングにより輻榛に対する迅速な対応を可能とする.同時に,各階層の優先度及び下流における割当帯域に基づいたフィルタリング及びLMR間のシグナリングにより不要階層の転送を防止し,セッション間の公平な帯域割当を可能とする. 第3章は,「Rendezvous Point Basea Layered Multicast(ランデブーポイントベース階層化マルチキャスト)」と題し,スパースモードルーティングを採用するネシトワーク上で階層化マルチキャストを展開した時の問題点を指摘するとともに,そのような環境においても効率良く機能するレート制御手法であるランデブーポイントベース階層化マルチキャストRPLM(Rendezvous Point based Layered Multicast)を示している.具体的には,各階層が異なるランデブーポイントに割り当てられるような場合においても,受信する複数の階層をルート(経由するランデブーポイント)毎にグルーピングし,グループ毎にレート制御を行うことにより輻輳の原因となる階層を正確に把握し,迅速に輻榛に対処することが可能となる. 第4章では,「Peer-to-Peer Streaming Distribution Middleware(ピアツーピア製ストリーミング配信ミドルウェア)」と題し,アプリケーションレベルマルチキャスト(ALM)に必須となる基本機能をまとめて提供するALMミドルウェアRelayCastを示している. RelayCastを用いることにより,既存のユニキャスト対応アプリケーションをシームレスにALM対応アプリケーションに移行すること,及び新たなALM対応アプリケーションの開発を容易にすることが可能となる.まずALMの機能を抽象化することにより,オーバレイネットワーク構築機能とそのオーバレイ上でのマルチキャストルーティング機能を抽出できることを示す.次に,これらの機能を提供するRelayCastのアーキテクチャを示す.RelayCastは,各機能をコンポーネント化し,複数の基本的アルゴリズムをオプションとして選択可能とすることにより,多様なアプリケーションからの多様な要求に対する柔軟性が期待できる. 第5章では,「Distributed Content Search using Query Expansion(クエリー拡張を用いた分散コンテンツ検索)」と題し,クエリー拡張を利用したセマンティック分散コンテンツ検索機構を示している、従来の分散コンテンツ検索機構では単純なテキストマッチに基づいて検索を行うため,クエリーに示された文字列を含むキーワードをもつコンテンツしか発見できない.これに対し,本章で示す検索機構ではキーワードの関連性に着目し,キーワードの関連性を利用したクエリー拡張を行うことにより,目的のコンテンツの発見確率を向上させている.クエリー拡張は各ホストが保持するキーワード関連性データベース(KRDB:Keyword Relationship DataBase)に基づいて行われる.KRDBをホスト間で分散的に更新することにより,検索精度の向上を試みている. 第6章では,「Distributed Content Location for Relative Contents(関連性を有するコンテンツのための分散コンテンツ発見)」と題し,コンテンツの関連性を利用した分散コンテンツ発見機構を示している.ここでは,ネットワーク上に遍在する多数のノードがローカルストレージを互いに共有し合う分散ストレージシステムを想定する.分散ストレージ上で関連コンテンツ群をまとめて発見する場合,各コンテンツを独立に発見する従来手法ではコンテンツ数に比例した数のクエリーが生成され,ネットワークの負荷増大を招く.そこで,本章ではコンテンツの関連性を利用し,関連性をもつ複数のコンテンツを効率良く発見する分散コンテンツ発見機構を示す.具体的には,関連コンテンツ群をディレクトリ構造に基づいてクラスタリングし,クラスタの発見には従来の広域コンテンツ発見手法を,クラスタ内の各コンテンツの発見には高速なローカルコンテンツ発見手法をそれぞれ適用することにより,関連コンテンツ群を高速かつ低負荷で発見,アクセスすることを可能とする. 第7章は,「結論」である. 以上,これを要するに,本論文はインターネット分散アプリケーションにおいて,包括的マルチキャスト配信に向けて階層化マルチキャストレート制御,及びアプリケーションレベルマルチキャストミドルウェアの各アーキテクチャを提案するとともに,高速,スケーラブルかつ確実なコンテンツ発見を目指してセマンティック分散コンテンツ検索機構及びコンテンツの関連性を利用した分散コンテンツ発見機構をそれぞれ提案し,シミュレーション,実装実験などを介して有効性を実証したものであって,電子情報工学上寄与するところ少なくない.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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