No | 118016 | |
著者(漢字) | 岩本,俊弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イワモト,トシヒロ | |
標題(和) | 重畳動的信号の時間構造を用いた分離 | |
標題(洋) | Separation of Superimposed Dynamical Signals with Temporal Structures | |
報告番号 | 118016 | |
報告番号 | 甲18016 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5474号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 計数工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では、原信号時系列の線形結合が観測されているときに、時系列の時間構造を利用して原信号を推定するという問題をとりあつかう。観測データがただちに興味のあるデータではなく、信号処理を施して観測値から興味あるデータを分離することではじめて取り扱いに適したデータとなるという状況は、さまざまな分野においてある。工学的に重要な応用例が含まれる研究対象であり、いくつかの手法が研究されている。 まず、本論文で扱う問題に関連する既存の手法を記述している。線形結合された信号から有用な信号、あるいは、本来の信号を分離する手法である主成分分析および独立成分分析について述べる。これらの手法で扱われる問題は、本論文で扱う問題と類似の問題設定である。また、力学系信号のノイズ除去の手法について述べる。ノイズ除去はアトラクタヘの直交射影を複雑にしたものだと捉えることができ、本論文で扱う手法もある意味射影を行っていると考えられるので、その点で関連がある。既存の手法と対比させることで、本論文の位置づけが明確になる。 つづいて、観測される時系列信号が1つで原信号時系列の和として与えられる場合について、原信号を推定する方法を定式化し、推定アルゴリズムを説明している。時系列信号としては離散時間のものを考慮し、遅れ座標系の上での確率分布として時間構造を扱う。推定は、原信号の時間構造を表現するガウス混合分布モデルの推定と、ガウス混合分布モデルを用いた観測時系列信号からの対応する原信号の推定という2つの別個の問題から構成される、前者のモデル推定は標準的なEMアルゴリズムで解けるが、後者の原信号推定は、確率最大化で定式化されるものの数値計算上の困難さが伴い、満足な解を得ることは自明ではない。完全ではないものの多くの場合において良好な結果を与えるアルゴリズムを提案し説明する。また、低次元の力学系の例として、レスラーおよびローレンツ方程式から発生させた時系列信号に対して、説明した手法がうまく適用できることをシミュレーション結果から説明している。 観測時系列は複数の原信号の和であると仮定することは十分でない場合があるので、観測時系列は原信号時系列の線形結合として定義しなおし、その条件の下での推定方法を記述した。線形結合の係数が既知であるとき、2つ以上の時系列信号が観測できる場合の推定方法は、観測時系列が1つである場合の自然な拡張として定式化することができる。また、線形結合の係数が未知である場合の推定方法を述べ、数値実験結果もあわせて説明している。 また、さらに一般的な場合として、原信号のトレーニングデータが与えられない場合における推定の可能性を記述している。 以上をまとめ以下のように結論づけている。観測時系列の数が原信号時系列の数より少ないという条件で原信号の推定を行なう新しい手法を提案した。観測時系列の数が1のときについて実際に数値実験で有効性を確認した。また、より一般的な場合である、観測時系列が複数の場合や線形結合係数が未知の場合についても定式化を行なった。 | |
審査要旨 | 観測データが複数の時系列信号が重畳したものであり、信号処理を施して観測データから興味ある時系列信号を分離することではじめて必要なデータが得られるという状況は、さまざまな分野において生じる。こ、の問題は工学的に、重要な多くの応用例が含まれる研究対象であり、いくつかの手法が統計学的に研究されている、本研究は、この問題に非線形ダイナミクスの観点から取り組んだものである。 本論文は、"Separation of Superimposed Dynamical Signals with Temporal Structures"(和文題目 重畳動的信号の時間構造を用いた分離)と題し、5章より成る。 第1章では、本論文で扱う問題に関淫する既存の手法を記述している線形結合された信号から有用な信号、あるいは、本来の信号を分離する手法である主成分分析および独立球分分析について述べている。これらの手法で扱われる問題は、本論文で扱う問題と類似の問題設定である。また、力学系信号のノイズ除去の手法についても述べている。ノイズ除去はアトラクタヘの直交射影を複雑にしたものだと捉えることができ、本論文で扱う手法もある意味射影を行っていると考えられるので、その点で関連がある。既存の手法と対比させることで、本論文の位置づけが明確になる。 第2章では、観測される時系列信号が1つの場合について、原信号を推定する方法を定式化し、推定アルゴリズムを説明している。時系列信号としては離散時間砂ものを考慮し、遅れ座標系の上での確率分布として時間構造を扱う、推定は、原信号の時間構造を表現するガウス混合分布モデルのパラメータ推定と、ガウス混合分布モデルを用いた観測時系列信号からの対応する原信号の推定という2つの別個の問題から構成される。前者のパラメ鯉タ推定は標準的なEMアルゴリズムで解けるが、後者の原信号推定は、確率最大化で定式化されるものの数値計算上の困難さが伴い、満足な解を得ることは自明ではない。本章において、多くの場合において良好な結果を与えるアルゴリズムを提案し説明する。また、低次元の力学系の例として、レスラーおよびローレンツ方程式から発生させた時系列信号に対して、説明した手法がうまく適用できることをシミュレーション結果から説明している。 第3章では、第2章で扱った問題をより一般的な場合に拡張し、推定アルゴリズムを説明している。第2章では観測時系列は複数の原信号時系列の和として定義したが、本章では観測時系列は原信号時系列の線形結合として定義しなおしている。また、第2章で述べた原信号の推定法を、2つ以上の時系列信号が観測できる場合に拡張した。さらに、線形結合の係数が未知である場合の推定方法を定式化し、数値実験結果もあわせて説明している。 第4章では、さらに一般的な場合として、原信号のトレーニングデータが与えられない場合における推定の可能性を記述している。 第5章では、以下のように結論を述べている。観測時系列の数が原信号時系列の数より少ないという条件下で原信号の推定を行なう新しい手法を提案した。観測時系列の数が1のときについて実際に数値実験で有効性を確認した。また、より一般的な場合である、観測時系列が複数の場合や線形結合係数が未知の場合についても定式化を行なった。 以上を要するに、本論文は観測時系列の数が原信号時系列の数より少ないという条件下で原信号の推定を行なう新しい手法を非線形ダイナミクスの観点から提案するとともに、数値実験でその有効性を示したものである。これは、数理工学上童献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学〉の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |