No | 118033 | |
著者(漢字) | バスキ アグン プジャント | |
著者(英字) | BASUKI AGUNG PUDJANTO | |
著者(カナ) | バスキ アグン プジャント | |
標題(和) | マイナーアクチノイド消滅用水素化物燃料ターゲットに関する研究 | |
標題(洋) | Study of The Hydride Fuel Target for Effective Transmutation of Minor Actinides (MAs) Thermochemical Analysis of The Actinide Hydrides | |
報告番号 | 118033 | |
報告番号 | 甲18033 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5491号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | I.序論 問題点: 長半減期放射性廃棄物の管理はマイナーアクチノイド(Np、Am、Cm)と長半滅期の核分裂生成物(Tc-99、I-129)によるものであり核分裂炉に関する問題点の一つである。しかし、分離、核変換により、天然ウランの放射性レベルにまで低減できる可能性がある。水素化物燃料を用いた効果的なマイナーアクチノイド変換の炉心コンセプトが提案されている。炉心においてターゲット内で熱中性子領域を作り、ターゲット内で豊富な熱中性子を得る。しかし、MAを炉心に装荷することにより照射時における炉心の安全特性に影響がある。 MA含有水素化物燃料の熱力学的特性についてデータが乏しく、ターゲット物質系の決定には多くの時間とコスト、リスクなどの困難を伴う。 研究の重要性: 1.水素化物燃料に要求される物質システムの相関係に熱力学的な理論的評価と考察を与える。 2.実験的に決定される必要のある系に対しあらかじめ熱力学的特性評価を与える。 3.合金、水素化物燃料の設計と製造において有用である。 研究の展望: 1.利用可能な系(二元系)に基づくモデルを用いて熱力学的にNp-Zr-H、Pu-Zr-H、CeZr-Hの熱化学的特性の評価を行う。 2.Np-Zr、Np-H、Pu-Zr、Pu-H、Ce-Zr、Ce-H and Zr-Hなどの系より三元系の相図を計算する。 3.Np-Zr-H、Pu-Zr-H、Ce-Zr-Hの三元系について実験的条件の決定を行う。 4.Ce-Zr-Hに対する結果を実験的に評価する。 5.利用可能な三元系のデータは無く、そのため三元系の特性評価は二元系のデータからのみ行う。 6.計算結果は三元系の相図の等温断面と二元系の相図として表される。 II.方法 a.関連する文献と研究のレビュー b.問題に耐えうる理論 水素化物 金属・水素の系は金属(固溶水素を含む可能性もある)と、気体、凝縮体あるいはそれらの界面に含まれる水素からなる。水素(気体水素)の熱力学的特性はP-C-T曲線によって表される。水素がバルク内の格子間サイトに溶解すると格子膨張、規則不規則転移、格子欠陥生成などが生じ、さらに温度と水素濃度の関数として相生成、相転移、表面偏析、表面再結合などが起こる。 格子間サイトの変化、安定性の拡大など金属間水素は金属水素化物の特徴を持ち、二元系水素化物や他の金属間化合物(準安定)への分解、表面偏析による水素との反応などの傾向がある。 熱力学的モデル 系の相平衡の計算、すなわち、平衡計算や相図や熱力学計算などにより系内のすべての相の生成Gibbsエネルギーがわかる。複合系の熱力学的振る舞いを記述するデータベースは一元系や二元系に関する情報により導かれる。相図より得られる情報や熱測定、蒸気圧測定などの実験データを考慮し、最適化することで熱力学的パラメーターは得られる。 溶解モデルはNp-Zr、Pu-Zr、Ce-Zr二元系を用いている。格子間溶解モデルはNp-H、Pu-H、Ce-H、Zr-Hなどの二元系合金とNp-Zr-H、Pu-Zr-H、Ce-Zr-Hなどの三元系に応用される。 III.結果 A. Np-Zr、Np-H、Pu-Zr、Pu-H、Ce-Zr、Ce-H、Zr-Hなどの二元系の結果は計算値および実験値とよく一致した。すべての偏差は実験の誤差範囲内であった。 B. Np-Zr-H、Pu-Zr-H、Ce-Zr-Hなどの三元系の結果はこのアブストラクトで報告する。 1.Np-Zr-H system NpZrH系システムは、システムの振る舞いがZrHおよびNpHシステムの両方の変化に依存することを示す。したがって、ジルコニウム水素化物およびネプツニウム水素化物の組成に対するネプツニウム又はネプツニウムジルコニウム固溶体の様々な相の影響を考慮に入れるべきである。等温領域は高温域で見られ、二元系NpZrに加えられた水素が最初にZrサイトを占有し、水素の大部分が、NpサイトではなくZrサイトを占有することを示す。高温で、ZrHの解離圧力がNpHよりはるかに低いため、このシステムもジルコニウム水素システムの変形と見なされる可能性がある。したがって、ジルコニウム水素化物に対する様々なネプツニウムあるいはネプツニウム-ジルコニウムの影響は、主として三元系の相図の形に寄与する。温度を低下させると、ZrHおよびNpH壁の両方に水素および水素化物がZrおよびNpサイトの両方を満たす傾向がある。また、したがって、ジルコニウム水素化物およびネプツニウム水素化物の両方上の様々なネプツニウムあるいはネプツニウムジルコニウムの影響は、三元系の形に寄与する。約18-33at.%のネプツニウムを含む合金では、973Kにおいて、二相αZr+βZr領域は除去される。また、βZr(β)相にやや高い水素の可溶性があり、更なる水素の追加により、三元系L-Np+β Zr+γの領域に達する。高水素濃度領域では、系はネプツニウム相がわずかに水素化すると共に、ジルコニウム-水素系の水素化が従う。これは、ベータ・ジルコニウム中の水素の可溶性と比較して、ネプツニウム中の水素の非常に小さな可溶性による。873Kでは、単相(β)は除去され、Zr+簿Zr領域のもう少し広い範囲が形成され、それは水素を追加することでγNpを備えた三元系を形成する。水素の追加はγNpサイト(それらは三元系の形の大部分に寄与する)を占有する。Zr+βZr領域は、更なる冷却で消滅し、金属間化合物δは、系に添加された水素の大部分が固溶するため、水素化に重要な役割を果たす。更なる、水素の添加は二元系のZrHとNpH系のサイドに水素化物を形成する。 2. Pu-Zr-H PuZrHシステムは、さらにZrHおよびPuHシステムの両方の変化に依存する振る舞いを示す。したがって、ジルコニウム水素化物およびプルトニウム水素化物の構成に対するプルトニウムかプルトニウムジルコニウム固溶体の様々な相の影響を考慮に入れる必要がある。等温領域は、二元系のPuZrに加えられた水素がZrとPu両方のサイトを占有するだろうことを示す。しかしながら、高温で、水素は主としてプルトニウム・サイトではなくジルコニウム・サイトを占有する。これはZrHの解離圧力(それはPuHより著しく低い)による。等温領域は、さらに水素化により安定化したβ相が支配的に形成されることを示す。温度を低下させると、プルトニウムを20at.%未満を含んでいる合金の中では、ジルコニウム-水素の相図におけるプルトニウムの主な影響は、二相領域(αZr+βZr)の境界および単一相領域βZr(β1)を相図上の高水素濃度側にシフトさせることである。高水素濃度領域ではシステムが、ジルコニウム水素化物およびプルトニウム水素化物の両方を形成する傾向を持っている。 3.Ce-Zr-H Ce-Zr-Hシステムの等温領域は、以前に議論されたNpZrHおよびPuZrHシステムとは異なる特徴を示す。Ce-Zr-Hは二元系のCeZrに加えられた水素は、最初にセリウム・サイトを占有し、そして、研究された温度範囲内ではCe-Hの解離圧力がZrHより著しく低いため、Ce-Zr-Hシステムは、水素の大部分が、ZrサイトではなくCeサイトを占有するだろうということを示す。低温でシステムは、セリウム水素系に支配され、高温では水素が両方の金属サイトに均等に分配される。高水素濃度領域では、システムが、セリウム水素化物およびジルコニウム水素化物の両方を形成する傾向を持っている。 IV.結論 1.7つの二元系における計算値と実験値の整合性はよく、全ての偏差は実験の誤差範囲内だった。 2.三元系の計算により二元系から予想されたようによい結果を得た。 3.Np-Zr-H、Pu-Zr-H系ではNp、PuサイトではなくZrサイトを占有し、Ce-Zr-H系では水素はまずCeサイトを占有した。 4.水素化により3つの三元系は二元系から水素化物を生成することがわかった。これは二相の水素化物領域と三相の領域が2つの水素化物と五つの飽和した水素化物からなるように三相領域に入る。 5.Np-Zr-HとPu-Zr-H系において、水素化により安定化したベータ相が高温で形成され大量の水素を吸蔵する。この特徴はCe-Zr-H系では見られない。 6.計算結果は水素化物燃料製造の設計において有用であると言えよう V.参考文献 [1]Y. Kondo, T. Takizuka, JAERI-M-94-067 (1994). [2]T. Sanda, et al., Proc. GLOBAL'97, Int. Conf., Oct. 5-10, Yokohama, Japan (1997), p.326 [3]M. Yamawaki, et al., J. Alloys and Compounds 271-273 (1998) p. 530-533. [4]K. Fujimura, M. Yamawaki, et al., Proc. GLOBAL'99 (1999). [5] L. Schlapbach, in Hydrogen in Intermetallic Compounds I, edited by L. Schlapbach, Springer-Verlag Berlin, 1988, Chap. I. [6]I. Ansara, T.G. Chart, et al., CALPHAD, 21 (1997) 171-218. [7]Arthur D. Pelton. Milton Blander, et al, CALPHAD, 21 (1997) 155-170. [81G. Cacciamani, Y.A. Chang, G. Grimval, et al., CALPHAD, 21 (1997) 220-246. [9]B. Sundman, J. Agren, J. Phys. Chem. Solids 42 (1981) 297. [10]M. Hillert, L.I. Staffanson, Acta Chem. Scand. 24 (1970) 3618. | |
審査要旨 | 長寿命放射性廃棄物のうちマイナーアクチニド(MA)、即ちNp、Am、Cmを水素化物ターゲットとして高速炉炉心中に装荷し、その高い中性子束を利用して核変換処理を行うことが提案されている。この場合、MAを含む水素化物の熱力学的諸量、状態図、物性値などについては信頼できるデータがきわめて不足しているため、燃料設計、燃焼評価などを適切に実施する上で困難がある。そこで、本研究では、主として計算により関連する水素化物について状態図や平衡解離圧などを推定評価し、その結果から各種水素化物燃料について、有望と考えられる組成の提案を行っている。 第1章は序論であり、研究の背景を述べ、本研究の目的を明らかにしている。 第2章では、理論的枠組みについてまとめている。金属間化合物-水素系の熱力学、並びに各種物質系の状態図の熱力学的背景について原理を述べ、続いて単体、定比化合物、置換型溶体、規則相、格子間型溶体、及び液相に対する熱力学的モデルについてまとめている。さらに半実験的モデルの一般論を述べた後で、Miedemaの原子胞モデル、並びにGriessen-Driessenのバンド構造モデルについて原理的説明を行い、それらを2元系、および3元系水素化物へ適用する方法についてまとめている。 第3章では、計算結果と実験的研究について述べている。Np-Zr-H系の計算では、Np-Zr系並びにZr-H系の文献データは小規模な補正を施した上で採用することにし、文献データの無いNp-H系については、類似の系のデータに基づく等により推定値を導出しており、これら3種のサブ系のデータと、格子安定性の予測値、水素化物の過剰ギブスエネルギの推定値を合わせて、Np-Zr-H系状態図の作成を行っている。同様の作業をPu-Zr-H系、Ce-Zr-H系についても実施している。 半実験的方法の適用としては、3元系水素化物の生成エンタルピを求めようとして、Miedemaモデル、およびGriessen-Driessenモデルを適用して予測値を計算している。ThZr2Hx系の生成エントロピについては、Bartscherらの実験データから算出している。以上の手法の妥当性を確認するため、実験データの報告されているTh-Zr-H系について、同様の計算を実施し、実測値との対比を行ったところ、両者の一致性はきわめて良好であることが示され、本手法の妥当性が証明できたと結論している。 Ce-Zr-H系については、計算に加えて実験を行って、生成する相をEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)により分析し、予測との一致性を確認している。この結果からも本研究の計算手法による状態図予測の妥当性が明かにされたと論じている。 第4章は、結論であり、本研究の重要な成果をまとめている。 第5章は、本研究の結果からTh-Zr-H系、U-Zr-H系、Np-Zr-H系、Pu-Zr-H系、Am-Zr-H系の各3元系における代表的組成について各温度での水素解離圧の推定値を表示し、その推定解離圧に基づいて、各3元系水素化物を核燃料として用いる場合に望ましいと推定される組成を提案している。 以上を要約すれば、本研究は、アクチノイド元素とジルコニウムからなる複合水素化物系について、計算により状態図、並びに平衡水素圧を推定し、また一部実験を行うとともに、既存のデータとの比較対照などを行って、計算による推定の妥当性を確認している。さらに、これらの3元系化合物をアクチノイド水素化物燃料として用いる場合の最適組成を提案したもので、測定データの乏しい物質系について熱力学的諸量値や状態図を計算によって推定評価する手法の開発に貢献するなど、システム量子工学、中でも核燃料工学に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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