No | 118039 | |
著者(漢字) | 王,新華 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オウ,シンカ | |
標題(和) | 熱プラズマPVDによるSiC厚膜の高速堆積 | |
標題(洋) | High rate deposition of SiC coatings by thermal plasma PVD | |
報告番号 | 118039 | |
報告番号 | 甲18039 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5497号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 金属工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | SiCは機械特性、熱的・化学的安定性を併せ持つ等の優れた材料特性から、近年注目を集めてきた物質である。これらの特性からSiCは研磨材や切削工具保護コーティング等の硬質材料としての応用や、その高い電子移動度、ワイドバンドギャップを生かした高周波、高出力デバイス、高温動作デバイスとしての応用が期待されている。それゆえ、SiCのコーティングや薄膜堆積プロセスが精力的に研究されてきている。しかし、既存の合成手法を生産プロセスに転用するには幾多の制約があり、今もってその特性に見合う応用への道が開けていないのが現状である。 本論文ではこうしたSiC研究の経緯に基づき、熱プラズマPVD(Thermal Plasma physical vapor deposition:TPPVD)を用いた高品位SiCコーティングプロセス開発の成果についてまとめ、得られた知見を様々な角度から検討した。研究において特に注力したのは熱プラズマPVDにおけるSiC厚膜高速堆積プロセスの最適化であり、結果として熱電素子としての特性をプロセスパラメータの制御により飛躍的に増大することを示し得た。これら一連の研究により熱プラズマPVDがナノ構造を制御した厚膜形成に適した手法であることを提示した。 研究対象とした堆積プロセスは以下の3つに分類できる。すなわち、 (1)大面積均質膜の形成に有利な回転基板上におけるSiCコーティングとそのナノ構造形成 (2)プラズマからの直接加熱により高い基板温度が得られるグラファイト固定基板上への厚膜成長過程 (3)ノズルを付けフレーム線速をあげたハイブリッドプラズマトーチを用いた堆積 である。以下にその3方向の研究により得られた結果を述べる。 1、回転基板を用いたSiCナノ構造厚膜形成 堆積条件の制御により、アモルファスSiC構造から3〜15nmの結晶粒径を有する3C-SiCナノ構造に至る広範な組織を有する厚膜堆積が可能であることを見出した。ナノ構造SiC厚膜の最大堆積速度は250nm/sにも達した。条件により堆積厚膜のモルホロジーは緻密な場合と成長方向に大きな異方性を有する柱状構造まで、又組成の制御も可能であることを示した。例えばプラズマ中へのCH4ガスの注入によりSiリッチ膜からSi:C=1:1、さらにCリッチ膜まで幅広い組成の厚膜を再現性良く制御することが可能であった。このことは第三成分の導入によるドーピングを堆積パラメータによって制御しうる可能性を示し、ワイドバンドギャップ半導体としての応用にとっても非常に興味深い。得られた厚膜の微視的硬度はナノインデンテーション法により、打ち込み深さ50nmで37GPaを示した。 2、固定基板を用いたSiC厚膜の超高速堆積 固定基板への堆積では最大で400nm/sもの高速堆積に成功し、360μm程度の厚膜を得た。表面モルホロジーはファセット構造を示した。冷却効果が期待できる回転基板上の堆積と異なり、固定基板ではSiリッチ膜の形成は困難であった。これは1400〜1700℃基板上での高温化学反応、及び水素プラズマによるエッチングにより説明された。 本プロセスで堆積された厚膜は自立膜の形成が可能であり、熱電特性を正確に測定することが可能となった。結果として、組成とドーパントに対する熱電特性の変化が見出され、特性改善のための指針を立てることが出来た。すなわち、ドープしない厚膜はプロセスによらずn型伝導を示し、そのパワーファクターはC/Si比に対して単調に減少することが見出された。パワーファクターが最も高くなる堆積条件で、ゼーベック係数は-480μV/Kに達した。一方、プロセス中への窒素ガス導入によりNドーピングが可能であることが熱電測定から示され、パワーファクターを10-4から10-3Wm-1K-2へと飛躍的に増大させることに成功した。この値は現在実用化されている熱電材料と同レベルである。さらに、ボロンおよびB4C粒子によってp型ドーピングが可能であることを示し、パワーファクターを6.4×10-4Wm-1K-2まで向上させることに成功した。 3、ノズル付きハイブリッドプラズマトーチを用いた堆積 ノズルを付けたトーチによって得られる膜は、緻密な構造か、もしくはカリフラワー状の構造を有していることが観察された。しかし、水素プラズマ内のH原子によるエッチング効果により緻密な膜が形成される堆積速度はノズル無しの場合に比べて低下した。 これらの結果からSiC堆積について以下のような成長プロセスを提案した。 (1)プラズマにより原子状に分解された化学種の基板直上の境界層におけるSiC2、Si2C、H2、SiHx及び炭化水素化合物CHx、C2H2の形成とSixCy、C、Siクラスターの発生。(2)SiC前駆体の堆積とH2、炭化水素化合物、SiHxの離脱、さらには一部炭化水素化合物による表面反応。(3)コーティングの形成と水素プラズマによるエッチング、堆積膜の部分的な再蒸発。 上述の過程において堆積Cソースの脱離、表面反応と水素プラズマエッチングは表面モルホロジー、堆積速度、組成に強く影響することが確かめられ、それらはプロセスにより制御可能であることが示された。 | |
審査要旨 | 本論文は「High rate Deposition of SiC Coatings by Thermal Plasma PVD(熱プラズマPVDによるSiC厚膜の高速堆積)」と題し、SiCのナノ構造厚膜形成をSiC超微粉を原料とした熱プラズマPVD(TPPVD)法により可能とするための実験を中心とした応用研究をまとめたものである。 SiCは機械特性、熱的・化学的安定性を併せ持つ等の優れた材料特性から、近年注目を集めてきた物質である。これらの特性からSiCは研磨材や切削工具保護コーティング等の硬質材料としての応用や、その高い電子移動度、ワイドバンドギャップを生かした高周波、高出力デバイス、高温動作デバイスとしての応用が期待されている。それゆえ、SiCのコーティングや薄膜堆積プロセスが精力的に研究されてきている。しかし、既存の堆積手法を生産プロセスに転用するには幾多の制約があり、今もってその特性に見合う応用への道が開けていないのが現状である。本研究の目的は、本状況を克服するため、SiCの熱プラズマPVD過程の堆積機構を解明し、プロセスの最適化を図り、高品位SiCのナノ構造厚膜の高速成膜技術を確立し、もって熱電素子への応用展開をはかることである。論文は6章から成っている。 第1章では、SiCに関する研究の歴史的な経緯とその意義について述べるとともに、多様なSiC薄膜プロセシングをまとめ、現在の研究の流れとの対比で本研究の動機と目的について述べている。 第2章は実験装置、実験手法に関する。熱プラズマPVD装置の構成、コーティング手法の詳細に始まり、走査電子顕微鏡(SEM)、X線回折(XRD)、赤外吸収スペクトル(FT-IR)、X線光電子分光(XPS)、高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)、エネルギー分散X線分光法(EDX)、ナノインデンテーション、マイクロビッカース、熱電能、比抵抗測定等の様々な角度からの厚膜評価手法の詳細がまとめられている。 第3章はナノ構造SiC厚膜のTPPVD及び膜の機械的性質と熱電特性の実験結果に関する。対象とした堆積プロセスを(1)大面積均質膜の形成に有利な回転基板を用いた場合、(2)プラズマからの直接加熱により高い基板温度が得られるグラファイト固定基板を用いた場合、(3)トーチ先端にノズルを付けフレーム線速をあげた場合の三通りに分け、比較検討している。(1)での基板温度は1000K程度であり、230nm/s程度の堆積条件により、ミクロ構造としてはアモルファス構造から3〜15nmの結晶粒まで、またマクロ構造としては等軸緻密膜から成長方向に大きな異方性を有する柱状構造までの組織制御が可能であることが示されている。(2)での基板温度は1800Kに達し、条件によっては不均質な表面組織を呈するが、最大で140nm/sの徴密膜が堆積され、300〜400μm程度の厚膜のビッカース硬度は35GPaと焼結体と同等であることが示されている。(3)では緻密な構造からカリフラワー状の構造を有する特異な構造を有する膜が330nm/s程度で得られるとしている。他方、熱電特性の評価には100μm以上の膜が必要なことから(2)のプロセスで堆積された厚膜が使用され、組成とドーパントの効果を検討している。すなわち、ドープしない厚膜はいずれもn型伝導を示しパワーファクターはC/Si比に対して単調に減少すること、プロセスパラメータの最適化によりゼーベック係数は-480μV/Kに達することが示されている。一方、プラズマ中への窒素ガス導入による大幅なNドーピングにより、パワーファクターが10-4から10-3Wm-1K-2へと飛躍的に増大すること、およびボロンおよびB4C粒子によってp型ドーピングも可能であることが示されている。 第4章はプラズマ-基板境界層におけるSiCクラスターの核生成及び成長についてのシミュレーションに関する。実験条件に対応した、プラズマの温度場、速度場を計算し、プラズマと基板間の境界層におけるSiCクラスター核生成及び成長についてシミュレーションを行っている。SiC粉末供給速度が10mg/minおよび20mg/minの場合、平均クラスターサイズはそれぞれ0.65nmおよび0.85nmとなり、分子数では7および16個に対応する。結果として、10mg/min以下では堆積種は主に原子、分子であり、20mg/min以上ではクラスター堆積に移行する可能性のあることが示されている。 第5章では第3章と第4章の結果を踏まえ、膜成長プロセスモデルが提案されている。すなわち、(1)プラズマにより原子状に分解された化学種の基板直上の境界層におけるSiC2、Si2C、H2、SiHx及び炭化水素化合物CHx、C2H2の形成とSixCy、C、Siから構成されるクラスターの発生。(2)SiC前駆体の堆積とH2、炭化水素化合物、SiHxの離脱、さらには一部炭化水素化合物による表面反応。(3)コーティングの形成という過程である。本モデルにより、実験で得られた、腺モルホロジー、堆積速度、膜組成とプロセスの相関を半定量的に説明しうることが示されている。 第6章は総括であり、本論文全体の成果がまとめられている。 以上を要約すると、本研究は他の気相成長プロセスとは大きく異なる特長を有する熱プラズマPVD法によるSiC膜の成長機構を実験と理論の両面から検討し、高品位SiC厚膜の高速成膜に関する基礎となる知見を供するとともに、熱電素子としての応用展開を詳細に検討したものである。これらの成果は単にSiCの高速成膜プロセス開発のみにとどまらず、高温における気相プロセシング全般に寄与し、マテリアル工学への貢献が大である。よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 | |
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