No | 118040 | |
著者(漢字) | ルアンバラナン,タチャイ | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ルアンバラナン,タチャイ | |
標題(和) | 軽量合金材料の高信頼性化のための固相リサイクルプロセス | |
標題(洋) | Solid State Recycle Processing of Light Alloys for High Performance | |
報告番号 | 118040 | |
報告番号 | 甲18040 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5498号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 金属工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.序言 人間社会生活の向上を目指した新しい考え方は、持続的で、環境に適合し、かつ適切なコストで生産できる先端製造、材料プロセスに立脚する。特に、生産技術の視点から考えると、社会は持続的成長を成功裡に行うためには、個々の消費者が物質あるいは製品をリサイクル、再利用するのみならず、ものを生産する産業においても、リサイクル材を積極的に利用する必要がある。現行のアルミ合金あるいはマグネシウム合金材料のリサイクルはスクラップ材の再溶解によっている。したがって、使用エネルギーが増大することに加え、有毒なフラックスの使用、副産物として有害なガス成分を放出することになる。ここに、従来の再溶解-凝固技術に係る種々の問題点を解消するリサイクル技術の革新をはかる必然性がある。現行の再溶解リサイクルの技術的限界は、スクラップ金属材料を溶解-凝固するプロセスに起因している。したがって、技術的なブレイクスルーは、別のリサイクル過程を新たに探査することから始まる。本論では、室温で稼動する固相リサイクルによる材料プロセスを提案する。この方法では、中間段階での処理ステップ数を最小にしつつ、リサイクル材を生産材に変換する。さらに、このリサイクルでは、出発材料の質を保持したまま、あるいは質に向上を生産材で達成できるため、物質循環ループを持続することが可能である。一方、この種の技術的革新を伴わない場合には、物質フローは高純度、高品質材から低品質、廃棄材への一方向となってしまう。 本論文では、軽量合金材料の高度なプロセスを確立することを目的とする。すなわち、出発材料の形状・形態に関係なくリサイクルを行う、モルフォロジー・フリー・プロセスを開発する。ただし、本提案プロセスは、アルミ合金、マグネシウム合金などの軽量合金材料のリサイクルを前提とする。 2.研究内容 実際のプロセス手順は、バルク・メカニカル・アロイング(Bulk Mechanical Alloying;以下BMAと略す)による初期固化成形・均質化と熱間鍛造・熱間押し出しによる2次固化成形からなる。2次固化成形に関しては、従前の金属塑性加工技術に準じて設計することができる。BMA後の材料は、相対密度が80-90%程度の高密度成形体であり、これを2次固化成形で真密度の製品形状まで固化成形する、(図1)。 本プロセスの有用性を実証するために、Al-12mass%Si、AZ91、AZ31合金を用い、出発材料はそれぞれの合金の破砕、切削チップ材とした。プロセス後の材料は微細組織を有し、強度、摩耗特性ともに優れた特性を有していた。特に、Al-12mass%Si材料に関しては、その引張り特性ならびに硬さはSi粒サイズならびに熱処理履歴に依存することを明かにした。 例えば、サイクル数500回までのBMA後、773Kで10分熱処理した材料では、引張強度で431MPa、ロックウエル硬さで81HRBに達した。合金中のSi粒サイズはBMA中のサイクル数増加に伴い、単調に減少する。この微細組織により、流体潤滑ならびにアブレ-シブ摩耗領域で低摩擦係数を示す良好な耐摩耗特性が得られた。高い引張強度ならびに耐摩耗特性は、微細なSi粒の最適な配置によると考えられる。ただし、高強度材料に一般的に見られるように、均一伸びは減少した、(図2)。 BMAにおけるサイクル数増加に伴うAl-12Mass%Si材の硬化挙動に関しては以下で説明できる。BMA中、被加工材は、押し出し-圧縮モードで反復的に強加工に晒される。アルミ・マトリックスは塑性変形により強加工時のエネルギーを散逸できるが、Si相は脆性であるため、アルミ・マトリックス中で破砕する。 一般にマイクロメカニクスによれば、2相の変形機構の相違により、その界面には変形勾配が発生するため、これを整合化するために塑性変形するAl相中には、幾何学的に必要な転位、いわゆるGN転位が生じる。さらに、2相が離反せずに変形を持続するためには、界面に内部応力も発生する。このGN転位の存在によって、アルミ・マトリックスは加工硬化する。Si粒が微細に分布することにより、GN転位密度も増加し、さらに加工硬化は分布粒子間距離により変化し、特に粒子間距離は10μm以下になると、距離の減少に比して加工硬化は増大する。 BMA材のように、微細なSi粒子が比較的短距離で存在する場合には、加工硬化はより大きいSi粒子を含む場合よりも速く生じる。特に、サブミクロンサイズのSi粒子により、オロワン機構による加工硬化の促進も考えられる。小Si粒子は、転位密度の増加とともに、転位の運動も遅らせる。結局、BMA材料の硬化挙動は、アルミ・マトリックス中の加工硬化とサブミクロンサイズのSi粒子による分散硬化によると想定される。 AZ91ならびにAZ31材の特性もBMAにおけるサイクル数増大とともに向上する。すなわち、AZ91では引張強度が255MPa、AZ31材では446MPaとなる。延性に関しては、鋳造材であるAZ91材ではその改善には限界があるが、AZ31材に関しては、押し出し後で1.5-7.8%の均一伸びを得た。特にサイクル数が少ないBMAでは強度上昇は大きくないが、大きな延性が獲得できる。本プロセスによる微細組織には特徴があり、XRD上ではほとんどピークが観測されないほどにMg17Al12化合物が微細に分散している。長時間の熱処理後では、高度は低下し、XRD上でもMg17Al12相が確認される、(図3)。 プロセス後の成形材の特性は、その熱処理履歴に依存する。2次固化成形までの予備加熱時間により、マトリックス硬さならびに化合物析出物形態も変化する。したがって、本プロセスでは、固相リサイクル材の力学特性は、BMAにおけるサイクル数と2次固化成形条件により制御されることになる。 BMA中における固化、均質化、微細化過程を記述するために、マイクロメカニクスによる評価に加えて、有限要素法による直接シミュレーションを行った。前述したように、BMA中の圧縮-押し出しモードによる繰り返し荷重付加により、被加工材は大きな圧縮変形とせん断変形を受けることを確認した。特に、Al-12mass%Si材の場合には、せん断変形が微細化には有効であることを見出した。実際、アルミマトリックスの弾塑性変形に伴い、Si粒子は過大な面力を受けるために破断することを理論的にも実証した。押し出しプロセスにおいて、押し出し比を2倍にすることで、プロセス時間を半分以下にしても、ほぼ同程度の力学特性が得られることを見出した。BMA装置の負荷能力、ダイス強度など考慮すべき点はあるが、プロセス時間の短縮化は容易である。 固相プロセスにおけるエネルギー効率を、被加工材料の単位重量あたりの消費エネルギーを実測することで考察した。なお、通常のミリング型メカニカル・アロイングと異なり、オンラインで消費エネルギーを監視できる点も本プロセスのニニークな点である。市販される微細な組織、例えばAl-12mass%Si材で言えば最大Si粒子径が約5-7μmを得るまでのサイクル数が最大200回であることから、Al-12mass%Si材での単位消費エネルギーは136MJ/Kg、AZ91では123MJ/kgとなる。これは、鉱石から金属成分を抽出するのに要するエネルギーよりも少なく、また粉末冶金専門メーカで採用している再溶解-アトマイジング-粉体成形-相対密度80-90%までの焼結過程に要するエネルギーよりも小さい。これにより、固相リサイクルプロセスは、エネルギー消費効率の点からはきわめて優れた手法であることがわかる。 さらに、金型潤滑選択、荷重負荷パススケジュール設計、ダイス設計などの最適化、BMAサイクル数の減少などによって、この実測したエネルギー消費を大きく減じることも可能である。ここで注目するのは、投入エネルギーの中で実際に使用される塑性仕事分の寄与である。実測されるエネルギーの約40-50%が塑性仕事として消費されることを明かにした。パススケジュールが同一の場合、理論的に、散逸される塑性仕事量は、被加工材の変形抵抗に比例すると考えられる。実際、測定される塑性仕事量は純マグネシウム-マグネシウム合金-Al12mass%Siの順で大きくなり、1つの校正曲線上で整理される。塑性仕事以外の散逸エネルギー成分では、摩擦仕事散逸が重要であり、アルミ合金ではこの項の寄与が大きく、マグネシウム合金では小さいことから、対象とする被加工材に応じたプロセスの最適化も考慮すべきである。 3.結論 以上より、固相リサイクルプロセスでは、破砕・切削チップ材を出発材料とし、消費エネルギーを最小にして、高強度バルク材料を生産するプロセスとして提案した。これにより、リサイクル材がら出発しても品質を低下されることなく、使用材料を再度製品として利用できる方向性を示した。ただし、対象とする部品は、鋳造プロセスを必要とする大型複雑部品ではなく、鍛造、粉体成形などで扱う中型・小型部品であり、変形抵抗の比較的小さい軽合金材料のリサイクルに適していると考えられる。特に、今後軽量化が期待される自動車部品、機械部品などへの展開が予想される。他のリサイクル手法と異なり、使用済み材料の破砕チップ材、AlへのFe混入など異元素が入っても、同様な方法でリサイクルできる点も本手法の特徴である。実用に際しては、スケールアップの課題を検討する必要もある。前述したように、最適化すべきプロセス因子も多く、同一の投入エネルギーでも大幅な消費エネルギー効率を高めることができる点に加え、処理重量に比して表面摩擦仕事損失が相対的に低下するスケールアップメリットもあり、今後、実用化に向けた議論も必要であろう。 図1 固相リサイクルプロセスとアトマイジングから初期焼結までの商用プロセスの比較 図2 Al-12Mass%Si材の機械的性質 図3 AZ91材の機械的性質 | |
審査要旨 | 環境負荷低減のためのエコマテリアル推進は、1つの社会的要請にまで高まりをみせている。その中で日々の社会的活動を支援する基盤材料は、そのリサイクルを含めた物質循環を確立する必要がある。アルミニウム合金・マグネシウム合金は、軽量材料ゆえに使用時のCO2排出削減、燃費向上による環境負荷低減、地金生産に要するエネルギーのリサイクルによる大幅低減など、エコマテリアルとして優れた特徴を有しているが、多様な社会的ニーズに応じて種々の構造体あるいは部品などに応用展開する上で、リサイクル材からの高品質化が問題となる。すなわち、アルミニウム合金、マグネシウム合金において、それらの回生材料、省成分材料等を出発原料として、自動車部品などで使用可能な力学的性質を有する部材を成形加工できる環境対応製造プロセスの開発提案という課題である。本論文は、その課題への1つの解決法として、固相リサイクルプロセスを提案し、自動車用部品を想定したアルミニウム合金、マグネシウム合金の力学的特性向上を実証した研究成果を述べたものであり、7章よりなる。 第1章は序論であり、現状の軽量合金、特にアルミニウム合金の利用、リサイクル、物質循環などに関してまとめ、使用済み鉛蓄電池材料からの鉛電極作成を例として固相リサイクルプロセスの特徴を示しながら、本研究の必要性を示している。 第2章では、本研究で提案する固相リサイクルプロセスの詳細を述べている。特に、実験に使用するバルクメカニカルアロイング法(以下、BMAと略す)ならびに冷間鍛造、押し出し成形、温間プレスによる2次成形固化プロセスについて説明している。さらに作製した試料の力学的特性評価方法に言及している。 第3章では、リサイクルチップ材を出発原料とするアルミニウム合金の固相リサイクルについて述べている。特に、自動車摺動部品材として使用されるAl-12mass%Si合金を中心に、固相リサイクルプロセスによる高品質化について検討している。BMAのサイクル数増加により最大Si粒径は単調に減少し、ほぼN=200程度で5μmにまで減少することを見出している。このSi粒径の単調減少とともに、微細化したSi粒の均一分散化、硬度の単調増加を確認している。第2相の微細化、均一分散化は、BMAによる固相リサイクルプロセスの特徴の1つである。鍛造、押し出し、温間プレスによる固化、2次成形により、高密度のバルク体を創製し、予備過熱温度、時間を適切に制御することで、BMAで創製した微細均一組織を保持し、高い力学特性を得ている。実際、工業的に作製された溶製材では、最大引張強度が135MPa、伸びが3%であるのに対して、N=200のBMA材で強度400MPa以上、伸び5%以上を得ている。自動車部品では必要に応じて、Si微細化・Si濃度を適宜選択することも求められるが、微細化に対しては予合金粉からの固相リサイクルで1μm以下のSi粒径を達成でき、また20mass%Si材も出発チップ材にSi原料粉を秤量、混合したものを原料とすることで、Si濃度制御も可能となる。さらに、リサイクル・アルミニウムに不可避的に混入するFeに関しても、数mass%Fe程度までは強制固溶・微細なAl-Fe金属間化合物析出により、力学的特性を大きく損なうことなく、本プロセスで処理することが可能である。またSiCに代表される強化相の微細均一分散による複合強化も利用できることを示している。 第4章では、マグネシウム合金・リサイクル材を出発材料として、固相リサイクル・プロセスの適用性について論じている。すなわち、ダイキャスト材としてのAZ91合金、展伸材としてのAZ31合金のそれぞれチップ材を出発原料として、BMAによるMg-Al金属間化合物相の微細均一分散化、熱間鍛造・押し出し成形による固化、2次成形により、マグネシウム合金においても、固相リサイクル・プロセスにより、力学特性が大幅に向上することを実証している。 第5章では、BMAにおける消費エネルギー評価の調査について述べている。インプロセスでの機械投入エネルギー履歴の測定、摩擦仕事・散逸エネルギー・機械的エネルギー損失などの評価・測定により、投入エネルギーの約40-50%が固相リサイクルに利用できること、アルミニウム合金とマグネシウム合金との摩擦仕事量の本質的相違など、現象面での本プロセスの評価の結果を示している。 第6章では、本固相リサイクルプロセスで中心となる微細化プロセスに関する力学解析を行っている。汎用非線形解析コード・ANSYSを用いて、BMAにおける反復荷重履歴に伴う応力、ひずみ集中を明らかにし、原料プリフォームが受けるひずみ履歴を求めている。その上でアルミマトリックス中のSi粒が受ける引張り応力分布を解析解との比較なども含めて総合的に検討し、前者で求めたひずみ履歴の初期の段階でSi粒は限界破断応力を超える引張り応力を受けることで破砕することを明らかにしている。 第7章では、本実験結果からの実生産規模への展開に関して述べ、本プロセスの利点と限界、スケールアップ上の課題さらに他の方法との達成し得る力学特性の比較検討を行い、全体を総括している。 要するに、本研究は、チップ状・破砕粒状など種々のモルフォロジーをもつ回生材料、省成分材料をそのまま出発原料とし、微細化・均一分散化・バルク固化というインプロセスでの組織制御を通じて、出発原料をはるかに超える高い力学特性をもつバルク体を創製する新しいプロセスを提案・実証している。その成果は、材料加工学、エコマテリアル学への貢献が著しい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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