学位論文要旨



No 118042
著者(漢字) 柳澤,道彦
著者(英字)
著者(カナ) ヤナギサワ,ミチヒコ
標題(和) SF6/H2ダウンストリームプラズマを用いた数値制御局所ドライエッチングによるシリコンウェーハ平坦化に関する研究
標題(洋)
報告番号 118042
報告番号 甲18042
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5500号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 助教授 近藤,高志
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
内容要旨 要旨を表示する

1.緒言

 ULSIの微細構造化に伴いSiウェーハに要求される平坦度は極めて厳しくなっている。CDE技術(Chemical dry etching)1)を応用し、SF6/H2ダウンストリームプラズマによりウェーハを高速・高精度に加工するSiウェーハ平坦化技術を開発した。この技術は中性ラジカルを利用することでダメージのないエッチングが可能である。本論文では本加工法について平坦化性能、プラズマの気相状態、平坦化されたSi表面状態および最近注目されているNanotopography改善への検討について報告する。

2. SF6ダウンストリームプラズマによるSi高速エッチング特性

2.1 マイクロ波ダウンストリームプラズマによる局所ドライエッチングシステム

 Siウェーハ用数値制御ドライエッチング(NC-LDE)装置を図1に示す。アルミナ放電管上端よりSF6、H2およびArの混合ガスが供給される。他端はノズルに接続されておりプラズマ中で発生したフッ素原子はノズルを通りウェーハ表面まで輸送される。ノズルと同心円状に配置されている差動排気管と、チャンバ内に供給されるN2ガスによりエッチングエリアが限定される。

2.2 数値制御ドライエッチング法

 図2(a)はSiエッチングプロファイルで、この時SF6 90%、Ar9%、H2 1%、マイクロ波は560Wである。エッチングエリアは約40mmφに限定されており、最深部のエッチレートは約130μm/minという高速エッチングが実現している。

 図2(b)は、Siウェーハをノズルに対し直線移動したときの相対速度とそのときのエッチング深さの関係を示している。エッチング深さは走査速度の逆数に対して非常に良い線形性を有しており、走査速度の制御により高精度加工が可能であることが示された。

2.3 大口径Siウェーハ平坦化への応用

 このNC-LDEを使い200mmφウェーハの平坦化を行いサイトフラッ/ネス(SBIR)と、グローバルフラットネス(GBIR)を評価した2)(図3)。SBIR最大値とGBIRはそれぞれ0.51μmから0.08μm、0.8μmから0.12μmと大きく改善されている。

2.4 平坦化後のSi表面の状態観察

 図4はエッチングされたSi表面と表層の状態を調べるために行ったGOI(Gate Oxide Integrity)の結果である。本評価ではTZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)法3)を用いた。ウェーハはミラーポリッシュ品でありその特性を下段に示す。破壊電圧(EBD)は8.56MVを中心に広く分布している。このウェーハをNC-LDEにより全面2μmエッチングしたサンプルを測定したものが中段である。EBD分布は9.43MV付近に集中しており、耐圧特性が向上している。上段は同一ロットのウェーをH2アニール処理したものについて測定を行ったものである。この結果から、NC-LDEを行ったウェーハの表面および表層の結晶状態は通常のミラーポリッシュウェーハに比べ格段に改善されることが判った。

3. FTIR-RASおよびXPSによる局所エッチング表面の分析

3.1 背景

 静止した状態で、同一部分を局所エッチングしている場合には、エッチング後のウェーハは鏡面状態を維持している。しかしながら、走査させると、図5のようにSiウェーハ表面が白濁する特異な現象が生じた。この現象はSF6/Arに1%のH2を添加することで解決したが、ここでは白濁の発生機構について調べた結果を述べる。

3.2 FT-IRによるSF6ダウンストリームプラズマの気相および表面の観察

 図6はエッチング中のウェーハ近傍の気相状態およびSi表面の状態を測定したIR-RAS装置である。

 まず放電管材質の違いにより気相状態にどのような変化が生じているかを調べた。図7は放電管材料として石英管およびアルミナ管を使用した場合の気相IR吸収スペクトルを示したものである。SF6ガス状態では945cm-1にS-F伸縮による吸収が、613cm-1にはS-F変角振動による吸収が見られる。石英管内でプラズマを発生させると、これらの吸収の他に1380cm-1、1030cm-1および810cm-1吸収ピークが観測された。1030cm-1はSiF4のSi-F伸縮吸収によるものである。これらの結果から、石英放電管では管壁であるSiO2のエッチングによりエッチング生成物である大量のSiF4、が生成されSi表面に至っていることが推測された。一方下段のアルミナ放電管を用いた場合には、SF6ガスと比べ新しい吸収ピークは観測されなかった。

 図8には石英放電管でのSF6放電、アルミナ放電管でのSF6放電及びアルミナ放電管でのSF6+H2放電についてその質量スペクトルを測定した結果を示す。SF6放電とSF6+1%H2放電の質量スぺクトルを比べると、O2+(32)のピーク強度がほぼ同レベルであるにもかかわらず、O+(16)のピークがH2添加放電では観測されていないことが判る。この結果は添加されたH2はO2分子ではなくOラジカルを除去する役割をしていることを示唆している。

3.3 エッチングされたSi表面のXPS観察

 図9はエッチング後のSi表面をXPS(PHY、ESCA1600)にて測定したものである。(a)は石英管を使用したSF6プラズマでエッチングされたサンプル、(b)はアルミナ管を用いたSF6/H2プラズマでエッチングされたサンプルのものである。(a)に関してはO1sのピークが高結合エネルギー側にシフトしていることからSi表面のO-F結合の存在が示唆される。

 一方(b)の場合はO1sのピークシフトは見られない。前述の質量スペクトル測定結果よりO2分子は存在しているはずであることから、表面のO-F結合形成にO2分子は関与しないことが示唆される。

3.4 結論

 以上の分析から、SiF4とOラジカルの共存が重要でありSiF4源は石英管では管壁材料、アルミナ管ではSiのエッチング生成物であると考えられる。石英管の場合では管壁エッチングにより大量のSiF4及びOxがプラズマ中に供給されこのSiF4とOxの解離したOラジカルがSi表面で反応しSiFxFyが形成される。アルミナ管+SF6プラズマの場合は放電管から脱離したOxがプラズマ中でOラジカルとなりこれとSiエッチングにより生成したSiF4が反応しSiF、Fyが形成される。水素添加はこのOラジカルを除去していると考えられる。

4 Nanotopographyの修正加工

4.1 背景

 STI(Shallow Trench Isolation)の平坦化へのCMP技術の導入によりSiウェーハには新しい平坦度が注目されてきた4、5)。図10はウェーハ表面に空間波長λの凹凸がある場合の問題を示している。酸化膜堆積後CMPで平坦化すると図のように凹部に残膜が生じる問題が発生する。この凹凸をNanotopographyと呼び、これを発生させない方法は様々検討されているが発生したNanotopographyを除去する技術は見出されていない。

4.2 Nanotopographyとエッチングの空間波長

 図12はSi上の凹凸の空間波長と4〜6mmの径のノズルでの除去特性を示している。空間波長が大きくなるとその除去率も向上し4mmノズルでは12mmの波長成分は約50%、17mmのではほぼ100%除去できることが示されている。

4.3 エッチング特性とノズル径

 図13はノズル径を変えたときのマイクロ波およびSF6ガス流量とエッチレートの関係を示したものである。エッチレートはマイクロ波とともに上昇する。しかしながらその上昇率はノズル径により異なり、5mmノズルではマイクロ波が200Wから400Wと2倍になったときエッチレートは7.0nm/sから120.5nm/sと約17.3倍になっているのに対し3mmノズルでは約2.5倍程度である。これは細径ノズルでは放電部からウェーハまでのコンダクタンスが小さくなりFラジカル滞留時間が長くなったことによると考えられる。

Nanotopography除去実験

 200mmウェーハを用いてNanotopography除去実験を行った。ウェーハ測定にはADE Phaseshift社製NanoMapperを使用した。図14は平坦化前後の2次元マップ及び断面データーである。(a)の2次元マップでは黒部が谷、白部は山を示している。この図からウェーハ全面においてNanotopography除去効果が有ったことが判る。

4.5 結論

 Nanotopographyの除去にNC-LDEの適用を検討した。ノズル径とその除去特性を明らかにし、200mmウェーハ全面に対し除去を確認できた。

参考文献

[1] Y. Horiike and M. Shibagaki, : J. Appl. Phys. Suppl. 45(1976)13.

[2] SEMI-Int'l stds. 1999. Materals M1-0699 (1999).

[3] S.Holland and C.Hu: J. Electrochem. Soc.133 [8], 1705 (1986).

[4] C.Shan, Xu, Eugene Zhao, Rahul Jairath and Willy Krusell: Electrochem., Solid State Lett., 1,(1998)181

[5] K.V.Ravi:Proceeding of Future Fab International, Semicon West, 207(1999).

図1 数値制御ドライエッチング装置(NC-LDE)

図2 Si局所エッチング特性

(a)ノズル直下のエッチングプロファイル(b)走査速度とエッチング深さの関係

図3 NC-LDE平坦化による平坦度の変化

図4 NC-LDEによるGOI特性

図5 SF6 NC-LDEによりウェーハ表面に生じた"白濁"

図6 IR-RAS測定装置

図7 SF6ダウンストリームプラズマの気相IR吸収スペクトル

図8 SF6及びSF6/H2ダウンストリームプラズマの質量スペクトル

図9 エッチングされたSi表面のXPSスペクトル

(a)石英放電管を使用したSF6プラズマ(b)アルミナ放電管を使用したSF6+H2プラズマ

図10 STI-CMPおけるNanotopographyの影響

図11 ウェーハ表面白濁現象の発生モデル

図12 Si空間波長とその能除去率

図13 エッチレートのマイクロ波パワーおよびSF6流量依存性

図14 NC-LDEによるNanotopography平坦化結果

(a)Michaelson干渉計による2次元凹凸マップ(b)ウェーハ中心を通る直線上の凹凸高さ分布

審査要旨 要旨を表示する

 近年のULSI(超大規模集積回路)の高集積化により、露光光学系の開口数が上がり、焦点深度が浅くなったため、シリコン(Si)ウェーハには極めて高い平坦性が要求されている。Siウェーハの平坦化技術は古くからパッドとスラリーを用いた砥粒加工技術、即ち化学的機械研磨技術が用いられており、現技術では要求に対応することは難しくなっている。本論分は現状を克服するため、フッ素原子を局所化し、その照射をウェーハの凹凸形状に応じて数値制御走査する新しい形状創成技術である「数値制御局所ドライエッチング(NC-LDE)技術」についての研究を行い、それをまとめたものであり、6章からなる。

 第1章では序論として、研究の背景と目的が述べられている。まずULSIに求められる次世代Siウェーハに関してその要求特性について説明され、また従来の研磨加工以外の新しい形状創成方法であるドライエッチングを利用した高精度加工技術として1990年代に米国で開発されたPACE(プラズマ支援化学エッチング)技術、及び大阪大学の森教授らによって開発されたプラズマCVM(化学気化加工)についてその概要を述べ、現状について説明している。

 第2章では、大口径Siウェーハの平坦化に必須であるSiの高速エッチング方法、及び数値制御加工に必要不可欠なエッチング領域の局所化技術についての検討について述べられている。高純度アルミナ管中でSF6/H2ガスのマイクロ波プラズマを生成し、この下流域においてSiを130μm/minという高速エッチングを達成している。また局所限定性についても差動排気構造、及びエッチング部近傍のガス圧力平衡状態を調査することで約40mmφの領域限定性を実現している。この局所エッチングの走査速度の逆数と、エッチング深さの間に精密な比例関係があることが見いだされ、これにより走査速度によってエッチング深さを精密に制御できる数値制御加工が可能であることが示されている。実際にこのような高精度数値制加工技術を300mm径のSiウェーハ平坦化に応用した結果、グローバルフラットネスでは0.860μmから0.101μmへと格段に改善され、サイトフラットネスに関しても0.12μmから0.04μmへと従来の砥粒加工技術では全く実現不可能なレベルの平坦化が実現していることが報告されている。平坦化後の表面についても評価され、マイクロラフネスRaは、ウェーハ全面を1μmエッチングした場合に9.6×10-2mmから6.9×10-2mmと改善されることが示されている。結晶へのダメージについても複数の評価がなされており、GOI(Gate Oxide Integrity)評価において平均破壊電圧EBDが8.56MV/cmから9.43MV/cmへと向上していることが示されている。これらの評価結果から産業的にも十分適用可能な技術であることが示されている。

 第3章では、SF6局所化ダウンストリームプラズマで走査エッチングしたときにSi表面に生じる白濁現象について説明され、水素を添加したときになぜこの現象が解決したか、また白濁現象がなぜ生じるかについてその発現モデルについての研究結果が述べられている。まず放電管材質や添加ガスを変えたときのSF6ダウンストリームプラズマの気相状態を赤外吸収スペクトルによって調べ、石英放電管を使用した場合と、アルミナ放電管を使用して酸素添加を行った場合にのみ気相の活性種としてSOF2およびOF2が含まれることを確認し、特に石英放電管では管壁のエッチング生成物であるSiF4が生成しており13%もの分圧を占めていることを確認している。更にエッチング時のSi表面をin-situ IR-RASにより評価し5%酸素添加時に生じる1150cm-1から1250cm-1のブロードなSi-O吸収が5%水素添加では現れないことを確認している。気相状態はその質量スペクトルも評価されており、水素添加によって除去されているのが酸素分子ではなく酸素原子であることが確認されている。次にエッチング後のSi表面状態をXPS(X線光電子分光)によって調べ、局所エッチングの周囲には円環状にSiOxFy膜が堆積していることを見出した。前述の気相状態評価結果と合わせて、この堆積膜は、ダウンストリームプラズマ中に含まれる微量の酸素と、Siのエッチング生成物であるSiF4の反応により生じているというモデルの妥当性を確認している。また水素添加の効果は、この微量の酸素を除去することにより堆積膜の生成を防いでいることによるものであることを明らかにしている。

 第4章では、数年前に発見された、Siウェーハ形状に関する新しい不良要因であるNanotopographyについてその背景を説明し、NC-LDEをこのNanotopography改善に応用するための検討について述べられている。実際にマイケルソン干渉計からの形状データを用いウェーハ上のNanotopographyを世界で初めて改善に成功したことが示されている。

 第5章においては、様々な分野において高精度な形状創成技術がどのような背景で近年その要求が高まってきたかについて述べ、NC-LDEの適用可能性について説明されている。さらにSOIとSiO2(フォトマスク)の平坦化加工についての応用について述べられており、同様の高い平坦性が実現できていることが報告されている。

 第6章では、本論文の総括を行い、NC-LDE技術の今後の展望について述べている。

 以上要するに、SF6/H2ダウンストリームプラズマによるSi高速エッチングの追及と局所エッチング中のSi表面反応についての詳細な解析により、数値制御局所ドライ平坦化エッチング技術を確立し、その産業的な実用価値を明らかにしている。本研究で得られた技術は今後の半導体材料の超高精度平坦化加工の重要な技術として期待され、マテリアル工学の発展に大きな貢献を果たしたものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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