No | 118106 | |
著者(漢字) | 鄭,熙英 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ジョン,ヒーヨン | |
標題(和) | 韓国に発生するファイトプラズマの系統分類 | |
標題(洋) | Phylogenetic classification of phytoplasmas that occur in Korea | |
報告番号 | 118106 | |
報告番号 | 甲18106 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2495号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生産・環境生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ファイトプラズマは、世界各地に発生し、数百以上の植物種に感染する農業上重要な植物病原細菌の一群である。しかしながら韓国では、約30のファイトプラズマ病の発生がこれまで報告されているのみで、その異同の詳細については明らかではない。近年、16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子のRFLP解析や塩基配列の系統解析により、ファイトプラズマが種に相当する複数の集団(subgroup,sg)からなることが明らかになり、暫定種名により分類することが承認され、分類体系が提案されている。しかし、韓国に発生するファイトプラズマの分類体系と世界に発生するファイトプラズマにおける系統学的位置づけは未だに確立されておらず、分類の指標となるデータベースも構築されていない。そこで本研究では、新たに見出したこれまで未記載の韓国産ファイトプラズマを記載・分類すると共に、既報の韓国産ファイトプラズマと併せて、rRNA遺伝子を用いて分子系統学的解析を行い、韓国産ファイトプラズマの分類体系を確立するとともに、世界に発生するファイトプラズマに対するその位置づけとそれらを合わせた系統学的な分類体系を再検討することを目的に行った。 1.rrnの構造解析と選択的PCR増幅法の確立 まず16S rRNA遺伝子を用いた分子系統学的解析手法の再検討を行った。フアイトプラズマの染色体DNAにはリボソームRNAオペロン(rrn)が2つあり、それらの16S rRNA遺伝子の配列には時に違いのあることがRFLP等の解析により示唆されていた。しかし、rRNA遺伝子の塩基配列をもとにファイトプラズマの系統分類が行われているにもかかわらず、その配列の違いに配慮した系統分類はこれまでなされていなかった。特に、16S rRNA遺伝子のPCR産物内に異なる2種類の配列が混在することにより、ダイレクトシークエンシングによる配列決定に誤りや解析不能が生じる。そこで、本研究では2つのrrnの構造を初めで決定し、それぞれを判別して増幅できるPCRプライマーセットをデザインし、PCR増幅および構造決定ののち系統解析を行い、ゲノム上の2つの16S rRNA遺伝子の構造的差異を考慮した系統解析を行い、系統分類を再検討した。 まず、ファイトプラズマで最大の分類群 aster yellows (AY)16Sgroupの分離株の一つであるタマネギ萎黄病(OY)ファイトプラズマのゲノムDNAライブラリーからrrnをスクリーニングし、2種類の異なるrrns(rrnA,rrnB)とその周辺領域の全塩基配列を決定した。その結果、両オペロンを通じて5'-16S-23S-5S-3'というrRNAsの配置は保存されていたが,その周囲の遺伝子構成には差が認められた。すなわち、両者のプロモータ一配列を含む上流域の相同性は低く、また、5S rRNAの下流域において、rrnAでは、Val-Asnの順でtRNA遺伝子が2つだけコ一ドされていたが、rrnBではVal-Thr-Lys-Leu-Ala-Met-Met-Ser-Met-Asp-Pheの順で11個のtRNA遺伝子が認められた。 そこで、ファイトプラズマの2つのrrnをPCRによりそれぞれ選択的に増幅するプライマーセット(rrnAF/rrnAR,rrnBF/rrnBR)を設計し、6つの16S-group、22のファイトプラズマ分離株についてLA-PCRを行ったところ、そのいずれからも、予想される長さのrrnA(約5.0-kbp)およびrrnB(約5.7-kbp)の増幅DNA断片がそれぞれ特異的に増幅された。それらの塩基配列を解析し、増幅されたDNAがそれぞれ予想されたrrnであることを確認した。しかも、両rrnのrRNA遺伝子およびtRNA遺伝子群の構成は、一部のファイトプラズマを除き保存されていたこのように、ファイトプラズマはそのゲノムサイズや16SrRNA遺伝子の系統学的関係において多様であるにも関わらずrrnの遺伝子構造は保存されており、他のMollicutes綱細菌とは異にすることが明らかになった。 一方、それぞれの分離株から得られた両rrnにコードされる16S rRNA遺伝子の相同性を比較したところ、99.6〜100%であった。しかし、それぞれ一方の16S rRNA遺伝子をもとにClustal Wを用いてアラインメントを行い、Parsimony法および近隣結合法により系統樹を作成したところ、クラスタ一形成や進化距離およびBootstrap値に差が認められたことから、より正確な系統解析を行う際には2種類の16S rRNA遺伝子のうち、どちらか一方の配列を用いて解析すべきであると考えられた。そこで本研究ではrrnAの16S rRNA遺伝子を用いることにした。2つのrrnをPCRによりそれぞれ選択的に増幅するこのプライマーセットは、これまで区別できなかった両オペロンの違いを明らかにできるのみならず、ダイレクトシークエンシングにおける解析不能なケースを解消するものであり、より正確な系統分類ができるものと期待される。本研究では、本手法を用いて系統解析を行った。 2.韓国に発生するファイトプラズマの同定と系統分類、 韓国各地より、典型的なファイトプラズマ病の症状を呈するセリ、ノブドウ、クリ、ジャガイモ、キリ、クワ、ナツメ、ヌルデを蒐集し、ファイトプラズマの16S rRNA遺伝子や16S/23S spacer領域を特異的に増幅するユニバーサルプライマー(SN910601/SN011119)を用いたPCRにより、ファイトプラズマの検出を試みた。その結果、そのいずれからもファイトプラズマに特異的な約1.8-kbpの健全植物には認められないDNA断片が増幅され、ファイトプラズマ感染が確認された。そこでそれらのファイトプラズマの系統学的類縁関係を調べる目的で、選択的にPCR増幅した2つのrrnにコードされる16S rRNA遺伝子の全塩基配列を決定し、それぞれについて分離株間の相同性をしらべたところ、99.7〜100%であった。 一方、rrnAの16S rRNA遺伝子を用いて系統解析を行ったところ、i)water dropwort witches' broom(WDWB)病罹病株より分離されたファイトプラズマは、日本産OYファイトプラズマと100%の相同性を示し、AY16S-group AY sgに分類された。ii)paulowniawitches' broom(PaWB)病罹病キリより検出されたファイトプラズマは、WDWBと99.7%の相同性を、他のAY sgのフアイトプラズマとは99.1〜99.9%の相同性を示し、同様にAY sgに分類された。iii)新規に porcelain vine witches' broom(PvWB)病罹病ノブドウより検出されたファイトプラズマはmulberry dwarf病罹病クワより検出されたファイトプラズマやsumacwitches' broom(SWB)病罹病ヌルデより検出されたファイトプラズマと同一であり、さらに、チェコ産 rape phyllody(RaP)phytoplasmaとも100%の相同性を示したことから、この4つの宿主から分離されたファイトプラズマは、AY sgに分類されるごく近縁な分離株であると考えられた。iv)potato witches' broom(PWB)病罹病ジャガイモより検出されたファイトプラズマはelmyellows(EY)16Sgroupのclover proliferation(CP)sgの分離株と98.6〜99.7%の相同性を示し、近隣結合法による系統樹の解析からPWB phytoplasmaはCP sgに分類された。v)chestnut witches' broom(CnWB)病罹病クリより検出されたファイトプラズマは、既報の全てのファイトプラズマとの16S rRNA遺伝子の相同性が95%以下であり、近隣結合法により作成した系統樹による解析からPinus sylvestrisyellows phytoplasmaと共に新規の16S-groupを形成する既報のファイトプラズマとは異なる独立した分類群と判断されたため、このファイトプラズマを新暫定種Candidatus Phytoplasma castaneaeと命名した。Vi)jujube witches' broom(JWB)病に罹病した多数のナツメから検出されたファイトプラズマは、既報の中国産、日本産及び韓国産JWB phytoplasmaと共にEY 16S-groupの中にJWB sgを形成した。JWBファイトプラズマは宿主や発生地域が特徴的なことから、独立した分類群として新暫定種Candidatus Phytoplasma ziziphiを登録した。また、これらのデータをもとに、世界中のファイトプラズマの16S rRNA遺伝子のデータを用いてファイトプラズマの系統分類解析を行った結果、世界各地に発生するファイトプラズマは10の16S-groupに分類され、それらはさらに、36のsgに分類された。 以上を要するに、本研究では、これまで未記載の韓国産ファイトプラズマを新たに見出し、記載・分類すると共に、既報の韓国産ファイトプラズマと併せて、系統学的解析を行った結果、韓国に発生する既報のファイトプラズマは少なくとも3つの16S-groupと4つのsgに分類されることを明らかにした。また、ゲノムに2つコードされる16S rRNA遺伝子を選択的に増幅するPCR法を確立したほか、ファイトプラズマの分類体系を再検討し、ファイトプラズマは10の16S-group、36のsgに分類されることを明らかにした。以上の成果は、ファイトプラズマの系統分類法の新たな実験手法を確立し、韓国に発生するファイトプラズマを初めて系統学的に解析するとともに、ファイトプラズマの最新の分類体系を明らかにした。 | |
審査要旨 | 韓国では、これまで約30種類のphytoplasma病の発生が報告されているが、それらの分類体系と世界に発生するphytoplasmaに対する系統学的位置づけは未だ確立されておらず、分類の指標となるデータベースも構築されていない。本研究では、新たに見出したこれまで未記載の韓国産phytoplasmaを記載・分類すると共に、既報の韓国産phytoplasmaと併せ、rRNA遺伝子を用いた分子系統学的解析を行い、韓国産phytoplasmaの分類体系を確立するとともに、世界に発生するphytoplasmaに対する系統学的位置を明らかにする目的で行った。 1.Ribosomal RNA operon(rrn)の構造解析と選択的PCR増幅法の確立 Onion yellows phytoplasmaの2種類の異なるrrns(rrnA,rrnB)とその周辺領域の全塩基配列を決定し、その配列と既報の loofah witches' broom phytoplasmaおよびAcholeplasmaのrrnの塩基配列を比較し、phytoplasmaの2つのrrnをPCRによりそれぞれ選択的に増幅するプライマーセットを設計した。次いで、6つの16S-group、22のphytoplasma分離株についてLA-PCRを行い、増幅DNA産物の塩基配列を解析し、増幅されたDNAがそれぞれ予想されたrrnであることを確認した。また、それぞれの分離株から得られた両rrnの16S rRNA遺伝子(16S)の相同性を比較した結果、99.6〜100%であった。そこで、それぞれ一方の16Sを基に系統樹を作成したところ、クラスター形成や進化距離およびBootstrap値に差が認められたことから、より正確な系統解析を行うには2種類の16Sのうち、どちらか一方の配列を用いて解析すべきであると考えられた。また、この手法は、これまで区別できなかった両オペロンの違いを明らかにできるのみならず、ダイレクトシークエンシングにおける解析不能なケースを解消した。そこで本研究では、この手法によりrrnAの16Sを用いた系統解析を行った。 2.韓国に発生するphytoplasmaの同定と系統分類 韓国各地より、典型的なphytoplasma病の症状を呈するセリ、ノブドウ、クリ、ジャガイモ、キリ、クワ、ナツメ、ヌルデを蒐集し、phytoplasma特異的なプライマーを用いてPCRを行った結果、そのいずれからも健全植物には認められないphytoplasma特異的なDNA断片が増幅され、phytoplasma感染を確認した。そこでそれらのphytoplasmaの系統学的類縁関係を調べる目的で、上記手法を用いてrrnAの16Sによる系統解析を行ったところ、water dropwort witches' broom、paulownia witches' broom、porcelain vine witches' broom、mulberry dwarfおよびsumac witches' broom病の罹病植物より検出されたphytoplasmaは、aster yellows(AY)16S-groupのAY subgroup(sg)に分類されるごく近縁な分離株であると考えられた。Potato witches' broom phytoplasmaはelm yellows(EY)16S-groupのclover proliferation sgに分類された。Chestnut witches' broom phytoplasmaは、既報の全てのphytoplasmaとの16Sの相同性が95%以下であり、既報のphytoplasmaとは異なる独立した分類群と判断されたため、新暫定種Candidatus Phytoplasma castaneaeと命名した。Jujube witches' broom(JWB)phytoplasmaは、EY16S-groupに属し、EY sgと近縁であるものの、宿主や発生地域が特徴的なことから、独立した分類群として新暫定種Candidatus phytoplasma ziziphi を登録した。また、これらのデータをもとに、世界中のphytoplasmaの16Sの配列データを用いてphytoplasmaの系統解析を行った結果、世界各地に発生するphytoplasmaは10の16S-group、36のsgに分類された。 以上を要するに、本研究では、これまで未記載の韓国産phytoplasmaを新たに見出し、記載・分類すると共に、既報の韓国産phytoplasmaと併せて、系統学的解析を行った結果、韓国に発生する既報のphytoplasmaは少なくとも3つの16S-groupと4つのsgに分類されることを明らかにした。また、ゲノムに2つコードされる16Sを選択的に増幅するPCR法を確立したほか、phytoplasmaの分類体系を再検討し、phytoplasmaは10の16S-group、36のsgに分類されることを明らかにした。これらの成果は、phytoplasmaの系統分類法に新たな実験手法を導入し、韓国に発生するphytoplasmaの分類体系を初めて明らかにしたものであり、学術上・応用上の価値もきわめて高く、特に防除および検疫の面においても今後非常に役立つ知見であり、高く評価される。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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