学位論文要旨



No 118181
著者(漢字) 岩田,健一
著者(英字)
著者(カナ) イワタ,ケンイチ
標題(和) グラム陰性細菌のcarbazole代謝系酵素の構造と機能の解析
標題(洋)
報告番号 118181
報告番号 甲18181
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2570号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 応用生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大森,俊雄
 東京大学 教授 山根,久和
 東京大学 教授 田之倉,優
 東京大学 助教授 若木,高善
 東京大学 助教授 野尻,秀昭
内容要旨 要旨を表示する

 当研究室では、難分解性の含窒素芳香族化合物であり、発ガン性・変異原性等の毒性を有するcarbazole(CAR)を唯一の炭素源、窒素源、エネルギー源として生育するPseudomonas属を中心とするグラム陰性細菌を、複数種土壌・活性汚泥から単離し、解析してきた。そのうちの一株である、Pseudomonas resinovorans CA10株のCAR分解経路を明らかにし、そのCAR分解系遺伝子群の塩基配列の決定とそれら酵素の機能解析を行ってきた。CARは初発酸化酵素(CAR1、9a-dioxygenase;CARDO)、メタ開裂酵素(CarBaBb)、加水分解酵素(CarC)により最終的にはTCAサイクルまで分解される。

 CARDOは非常に広い基質特異性を持つのに加え、報告例の少ないangular dioxygenaseとしての働きを持つ新規性の高い酵素であり、その基質認識と反応機構について興味が持たれる。CARDOはterminal oxygenase(CarAa)、ferredoxin(CarAc)、ferredoxin reductase(CarAd)から成るマルチコンポーネントdioxygenaseである。CARDOでは電子がNADHからferredoxin reductase、ferredoxin、terminal oxygenaseを経由して伝達されることで基質の酸化が起こると考えられる。これらのコンポーネントは既に精製されており、CarAaは現在、結晶化およびX線結晶構造解析が行われている。将来タンパク質工学的な手法で、より高い活性を示す変異酵素系を構築しようとする場合、その電子伝達機構についての情報が必要になることが予想される。このような背景から、本研究では、ferredoxinコンポーネントの立体構造から得られる情報を基に、CARDOの反応機構を明らかにすることを最終的な目的として、CarAcの結晶構造解析を行った。

 一方、CarBはCarBaとCarBbの2つのサブユニットを必要とするメタ開裂酵素であり、そのcatalytic subunitと考えられるCarBbの配列比較からclassIIIに分類される。ClassIIIに属するメタ開裂酵素は他の2グループと比べお互いの相同性が低く、また、多くのメタ開裂酵素の中でCarBとLigAB(PDBaccession no.1BOU)のみが酵素活性の発現に2つのサブユニットを必要とする点から考えてもCarBは非常に新規性が高く、2つのサブユニットの結合様式、基質の認識様式、反癒触媒機構について興味が持たれる。また、加水分解酵素CraCは、推定アミノ酸配列から単環芳香族化合物分解系の加水分解酵素に類縁である可能性が示唆されている。しかし、CarCはbiphenyl分解系のメタ開裂物質に対する活性が高く、単環芳香族化合物のメタ開裂物質に対する活性は非常に弱いという相同性解析の結果と相反する基質特異性の特徴を有している。芳香族化合物の加水分解酵素の基質認識は単環芳香族化合物分解系とbiphenyl分解系において非常に厳密であり、CarCの基質認識様式には興味が持たれる。そこで本研究ではCarBaBb、CarCについて大量発現系の構築・精製を行い、精製酵素による各酵素の動力学的解析を行った。また、我々のグループでは、既にCarCについて構造解析が行われ、結晶構造が解かれているので、本研究ではX線結晶構造解析によりCarBaBbの3次元的な構造を明らかにすることを目的として、CarBの結晶構造解析を行った。

1.CarAcの結晶構造解析

 His融合タンパク質として発現後・精製した、P.resinovoransCA10株由来のCarAcは、0.2M硫酸アンモニウム、0.1M酢酸ナトリウムpH4.4-4.8、15-25%PEGMME2000の範囲で蒸気拡散法により結晶化した。添加剤として0.02M塩化マグネシウムを加えることで、0.2x0.2x0.2mm程度の結晶を得た(Fif.1)。この結晶の回折強度データは高エネルギー加速器研究機構のビームラインBL6Aで測定した。Cryo条件下で、1.9Aまでの回折強度データが得られ、この結晶は立方畠系に属し、空間群はP4132(a=b=c=98.28A)であった。構造決定はビフェニル分解系初発酸化酵素であるBphF(PDB accession no.1FQT)をモデル分子とした分子置換法によって行い、結晶構造を分解能1.9A、結晶学的R因子20.2%、Rfree因子器23.6%で決定した。

 CarAcはBphFと同様にbasalドメインとcluster bindingドメインの2つからなっており、全体構造は主にβシートから成っていた(Fig.2)。また、Rieskeタイプの[2Fe-2s]クラスターはCys46、His48、Cys65、His68と結合し、cluster bindingドメインの先端に位置していた。サーチモデルとして使用したBphFやcytochrome bc1complex(ミトコンドリア)とcytochrome b6fcomplex(葉緑体)のRieske fragmentと同様に結合に関与するHis ligandは溶媒側に露出していた。CarAcとBphFは全体のCaの折り畳み構造が良く似ており、プログラムQUANTAを用いてCarAcとBphFのアミノ酸配列のアライソメントおよびsuperimpositionを行った結果、アミノ酸配列のホモロジーは34%、rmsdは0.742Aであり、[2Fe-2S]クラスターとCaの位置が両タンパク質間においてよく一致していた。

 また、結晶学的な3同軸の近傍であるGlu55の外側の空間にタンパク質由来ではない大きな電子密度が見つかり、その大きさなどから[3Fe-3S]クラスター由来の電子密度であること推測された。これは溶液中に分離された鉄と硫黄がタンパク質の結晶化の際にクラスターを形成したもので、生物学的な役割は持たないが結晶化に重要な役割を果たしたものと予想された。鉄硫黄クラスターのリガンドを形成するアミノ酸に関してはCysが一般的であるが、Hisが関与する場合もあり、Rieskeタイプの[2Fe-2S]クラスターはHisが関与する代表的な例である。CarAcで認められた[3Fe-3S]クラスターの様に、Aspが関与する[3Fe-4S]クラスターに関する報告もあるが、Gluが関与するものは現在まで報告されていない。

2.CarBaBbの発現、精製

 P.resionovoransCA10株のCarBa、CarBb各々のサブユニットをnativeな形で同時に発現するベクターの構築を行った。CarBCA10の大量発現のために、CarBa、CarBbそれぞれに大腸菌内で最も効率よく働くSD配列を付加した遺伝子断片をPCR反応と制限酵素処理にて作成し、発現ベクターpUC119のマルチクローニングサイトにタンデムに2つ挿入した(pUCA503)。次に、pUCA503を用いた場合の宿主大腸菌、生育温度、IPTG終濃度等の生育・誘導条件の違いがCarBCA10の可溶性タンパク質としての発現量に及ぼす影響について検討した。その結果、BL21(DE3)株を宿主として用い2YT培地、37℃でOD550が2.0になるまで生育させた後に、終濃度1mMのIPTGを添加して10時間生育させる条件により、CarBCA10タンパク質を大量に可溶性タンパク質として発現させることに成功した。大腸菌から抽出したCarBCA10は4℃にてAKTA FPLC(Amersham Biosciences)を用いて精製を行った。精製には10% glycero1を含む20mM Tris-HC1(pH7.5)bufferを使用し、HiPrep DEAE(Amersham Biosciences)、SOURCE 15Q (Amersham Biosciences)カラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーとHiLDad Superdex 200(Amersham Biosciences)カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーを行い、600m1の培養液から約25mgの精製酵素を得た。

3.CarBaBb、CarCの基質特異性

 CarBCA10とCarCCA10の精製酵素を用いて動力学的パラメーターを調べた結果、2、3-dihydroxybiphenylに対するCarBCA10のKm及びKcat/Kmはそれぞれ1.9μM、3.3x105M1s1であり、2-hydroxy-6-oxo-6-phenyl-hexa-2、4-dienoic acid(6-phenyl-HODA)に対するCarCCAl0のKm及びKcat/Kmはそれぞれ2.5μM、8.5x105M1s1であった。CarBCAl0およびCarBCAl0は、catecho1等の単環芳香族の分解経路中のそれぞれの基質よりもCAR、biphenyl、dibenzofuranの分解経路中の基質に対して非常に高い親和性を示した。CAR、biphenyl、dibenzofuranの分解経路においては、芳香環上の2'位の置換基(CAR、-NH2;dibenzofuran-OH)が異なるがこの官能基の種類・有無により各酵素に若干の基質特異性が認められ、CarBaBbの場合-H(73.2U/mg)>-OH(61・7U/mg)>-NH2(60.6U/mg)、CarCの場合-NH2(2.44U/mg)>-H(1.99U/mg)>-OH(1.05U/mg)であった。

4.CarBaBbの結晶化

 2.で精製したCarBCA10の結晶化条件の検討を行った結果、0.2M calcium acetate、0.1M sodium cacodylate(pH6.5)、18%PEG8000の条件で結晶の生成が認められたが、再現性が悪く添加剤を加えるなど様々な条件を試みたものの改善されなかった。ところで、アミノ酸残基が1つでも異なるタンパク質は結晶化した場合の振る舞いがnetiveなもの異なる例も多く知られている。当研究室で取得された他のカルバゾール資化菌Sphingomonas sp.KA1株のCarBka1はCarBCA10と約40%のidentityを示す(CarBa:36%、CarBb:42%)。CarBKA1とCarBCA10をそれぞれのCarBbのC末端側に6つのHisを付加したhis-tagged protein(ht-CarB)として発現するようプラスミドを再設計し、nativeのCarBCA10と同様に培養したところ、精製・結晶化に十分な量の発現に成功した。各々のht-CarBは、Hitrap Chelating(Amersham Biosciences)カラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー、SOURCE15Qカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーとHiLoad Super200カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーを行い、CarBCA10については1.6Lの培養液から約80mgの、CarBKA1については1.6Lの培養液から約10mgの精製酵素を得た。それらの結贔化条件の検討を行った結果、ht-CarBCA10において蒸気拡散法によりO.04-O.07Mcalcium chloride、0.1Mbis-Tris(pH5.5-7.0)、25-35%PEG MME550の範囲で結晶の生成が認められた。Fig.3に示すO.6x0.2x0.05mm程度の四角柱状結晶については、cryo条件下で約2.3Aまでのデータセットが得られた(空間群:P21212)。LigAB(1BOU)をモデルとした分子置換法を試みたがホモロジーの低さから正しい解は得られなかったため、MAD法による構造決定を行うためのht-CarBCA10のセレノメチオニン置換体の結晶を作成中である。

5.まとめと展望

 本研究ではCAR分解系初発酸化酵素の電子伝達コンポーネントであるCarAcの立体構造を明らかにした。我々のグループではCarAaの構造解析に最近成功したので、残るCarAdの構造が明らかになればCarAdからCarAc、およびCarAcからCarAaへの電子伝達機構が構造に基づいて議論できるようになる。また、メタ開裂酵素CarBの構造が明らかになればCAR分解に関与する酵素のタンパク質間相互作用の解明も酵素の構造に基づいて研究することが可能になる。CARDO、CarBaBb、CarCについては、ダイオキシンに対してもCAR分解経路での反応と同様な反応を触媒できる事が明らかにされている。本研究及び、今後の研究で得られる先にあげた様な情報は、CARや構造類似のダイオキシン類を分解するより強力な酵素系をタンパク質工学的に設計するための重要な示唆を与えるものと期待できる。

Fig.1:His-taggedCarAcの結晶

0.2x0.2x0.2mm程度の結晶を示す

Fig.2:His-taggedCarAcの構造

basalドメインとcluster bindingドメインのからなっていることを示す

Fig.3:CarBCA10の結晶

0.6x0.2x0.05mm程度の四角柱状結晶を示す

審査要旨 要旨を表示する

 カルバゾール(CAR)は発ガン性・変異原性等の毒性を有する有害な難分解性含窒素芳香族化合物である。これまでにCARを唯一の炭素源、窒素源、エネルギー源として生育するPseudomonas属を中心とするグラム陰性細菌が、複数種土壌・活性汚泥から単離されている。そのうちの一である、Pseudomonas resinovoransCA10株のCAR分解経路は詳細に解析されており、その分解系遺伝子群の塩基配列の決定とそれら酵素の機能解析が行われてきた。CARは初発酸化酵素(CAR1,9a-dioxygenase;CARDO)、メタ開裂酵素(CarBaBb)、加水分解酵素(CarC)により最終的にはTCAサイクルまで分解される。CARDOはterminal oxygenase(CarAa)、ferredoxin(CarAc)、ferredoxin reductase(CarAd)から成るmulticomponent dioxygenaseであり、広い基質特異性を持つのに加え、報告例の少ないangular dioxygenaseとしての働きを持つ新規性の高い酵素であるため、その基質認識と反応機構について興味が持たれる。CarBaBbはCarBaとCarBbの2つのサブユニットを必要とするメタ開裂酵素であり、そのcatalytic subunitと考えられるCarBbの配列比較からclassIIIに分類される。多くのメタ開裂酵素の中でCarBaBbとLigAB(PDBaccession no.1BOU)の類縁酵素のみが酵素活性の発現に2つのサブユニットを必要とする点から、CarBaBbは非常に新規性が高く、2つのサブユニットの結合様式、基質の認識様式、反応触媒機構について興味が持たれる。また、加水分解酵素CarCは、推定アミノ酸配列から単環芳香族化合物分解系の加水分解酵素に類縁である可能性が示唆されている。しかし、CarCはbiphenyl分解系のメタ開裂物質に対する活性が高く、単環芳香族化合物のメタ開裂物質に対する活性は非常に弱いという相同性解析の結果と相反する基質特異性の特徴を有しており、CarCの基質認識様式には興味が持たれる。本研究はカルバゾール分解に関与する酵素群の基質認識と反応機構を明らかにする事を最終的な目的として、CARDOのferredoxin component(CarAc)のX線構造解析、ならびにCarBaBb、CarCの機能解析を行ったもので全6章からなる。

 第1章の序論に引き続き、第2章ではCARDOのferredoxinであるCarAcをHis融合タンパク質として発現させた後、精製、結晶化条件を確立した。X線結晶構造解析により、cryo条件下で1.9Aまでの回折強度データが得られ、空間群はP4132(a=b=c=98.28A)であった。ビフェニル分解系初発酸化酵素のferredoxinであるBphF(PDBaccession no.1FQT)をモデル分子とした分子置換法によって、分解能1.9A、結晶学的R因子20.2%、Rfree因子23.6%でCarAcの結晶構造を決定した。CarAcはBphFと同様にbasalドメインとcluster bindingドメインの2つのドメインからなっており、全体構造は主にβシートから成っていた。また、Rieskeタイプの[2Fe-2S]クラスターはCys46、His48、Cys65、His68と結合し、cluster bindingドメインの先端に位置しており、結合に関与するHis ligandは溶媒側に露出していた。CarAcとBphFのアミノ酸配列のアライメントを行った結果、34%のidentityであり、superpositionにおけるmsdは0.742AとCaの折り畳み構造が良く似ていた。

 第3章ではCarBaBbの発現、精製条件を確立した。CarBaBbを大量発現できるプラスミドを構築するためにCarBa、CarBb各々のサブユニットに大腸菌内で最も効率よく働くSD配列を付加した遺伝子断片をPCR反応で増幅させ、CarBa、CarBbそれぞれが同じ大腸菌内で同時に発現可能なcarBaBb遺伝子カセットを作製した。また、このcarBaBb遺伝子カセットをタンデムに2つ持つプラスミドを作成した結果、CarBaBbを大量に発現させることに成功した。さらに宿主大腸菌、生育温度、IPTG終濃度等の生育・誘導条件を検討結果、BL21(DE3)株を宿主として用い2YT培地、37℃でOD550が2.0になるまで生育させた後に、終濃度1mMのIPTGを添加して10時間生育させる条件により、CarBaBbタンパク質を大量に可溶性タンパク質として発現させることに成功した。2種類の陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーに供することでほぼ単一に精製され、600mlの培養液から約25mgの精製酵素を得ることに成功した。

 第4章ではCarBaBbとCarCの機能解析としてCarBaBb、CarCの精製酵素を用いて、CarBaBbについては動力学的パラメーターを、CarCについては基質特異性の検討を行った。CARの代謝経路中で生じる本来の基質と考えられる2'-aminobipheny1 2,3-diolと6-(2'-amonophenyl)-HODA、ジベンゾフランの代謝経路で生じる2,2',3-trihydroxybiphenyl、6-(2'-hydroxyphenyl)-HODAを調製し、市販の基質とともに活性測定を行った。CarCの活性測定においては、6-(2'-amonophenyl)-HODAと6-(2'-hydroxyphenyl)-HODAは環状化を起こす報告があり半減期も短いために、CarBaBbをアッセイ系中で同時に用いて2段階の酵素反応を行うことで、活性評価できる系を構築した。CarBaBb、CarCともにcatechol等の単環芳香族の分解経路中のそれぞれの基質よりもCAR、biphenyl、dibenzofuranの分解経路中の基質に対して非常に高い親和性を示した。また、芳香環上の2'位の官能基の種類(CAR,-NH2;dihydroxybipenyl,-H;dibenzofuran,-OH)により各酵素に若干の活性の相違が認められ、CarBaBbの場合-H(73.2U/mg)>-OH(61.7U/mg)>-NH2(60.6Ulmg)、CarCの場合-NH2(2.44U/mg)>-H(1.99Ulmg)>-OH(1.05Ulmg)であった。

 第5章ではCarBaBbの機能解析の一環としてX線結晶構造解析を行った。第3章で精製したCarBaBbを用いて結晶化条件の検討を行ったが結晶生成の再現性が悪かったため、精製時間を短縮することを目的としてHis融合タンパク質として発現させ、精製、結晶化を行った。またアミノ酸残基が異なるタンパク質は結晶化した場合の振る舞いが異なることが報告されていることからCA10株由来のCarBaBbと約40%の相同性を示すSphingomonas sp.KA1株のCarBaBbについても同様に行った。結果として、CA10株のht-CarBaBbから四角柱状の結晶が得られ、X線構造解析によりcryo条件下で、2.3Aまでのデータセットが得られた。空間群はP21212(a=49.5A b=123.1A c=144.6A)であった。LigABをモデルとした分子置換法を試みたが相同性の低さから正しい解は得られなかった。多波長異常分散法を用いることで結晶構造が明らかになることが期待されるためセレノメチオニン置換体変異酵素を作製し、結晶化条件の検討を行っている。

 以上、本論文は、CAR分解に関与する初発酸化酵素ferredoxin componentの結晶構造を明らかにするとともに、メタ開裂酵素、加水分解酵素の精製、機能解析を行って、さらにメタ開裂酵素については結晶化条件を確立するなど、カルバゾール分解系酵素の構造に関する新知見を与えたものとして学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと判断した。

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