学位論文要旨



No 118258
著者(漢字) ラン アン グエン
著者(英字) Lan Anh Nguyen
著者(カナ) ラン アン グエン
標題(和) 前骨髄球性白血病タンパク質PMLおよび転写因子AML1の相互作用と骨髄性細胞の増殖分化制御
標題(洋) Promyelocytic Leukemia(PML) Protein Interacts and Collaborates with AML1 to Regulate the Development of Myeloid Cells
報告番号 118258
報告番号 甲18258
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2065号
研究科 医学系研究科
専攻 分子細胞生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡山,博人
 東京大学 教授 北村,俊雄
 東京大学 助教授 平井,久丸
 東京大学 助教授 金井,克光
 東京大学 講師 林,泰秀
内容要旨

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審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、生体型造血に必須であり白血病発症に重要であることが示されている転写因子AML1の機能を明らかにするため、AML1複合体を精製することによりAML1と相互作用して機能する因子を同定し、その機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.マウス骨髄性細胞株L-GにFLAGタグ付きのAML1を発現させ、これらの細胞抽出液からAML1複合体をアフィニティー精製した。AML1複合体画分にはコントロール画分には含まれない特異的なポリペプチドがいくつか含まれていた。そこでこれらを切り出してトリプシン消化後、2次元質量分析を行ったところ、約120kDのポリペプチドにはマウスPML蛋白質に見られる4つのペプチド断片が同定された。

 この結果から、PMLがAML1複合体に含まれることが強く示唆された。

2.PMLI蛋白質にはスプライシングの違いにより多くのアイソフォームが存在するが、このうち核に存在する主要なアイソフォームI-VIをAML1と細胞に共発現して、IP-ウエスタン解析によりAML1とPMLの各アイソフォームとの結合を調べた。その結果PMLIだけがAML1と共沈殿することから、AML1bはPMLI特異的に結合することが明らかになった。この結果はAMLb複合体に含まれていたポリペプチドの分子量がPMLIと良く一致することや2次元質量分析で同定されたペプチド断片にPMLI特異的なものが含まれていたことからも支持される。

3.PMLIとAML1bの様々な欠失変異体を用いてそれぞれの結合に必要な領域を同定した。PMLIのアミノ酸591-843のC末端領域がAML1との結合に必要であり、AML1bのアミノ酸362-402の領域がPMLIとの結合に必要であることが示された。AML1bの核マトリックス局在シグナル(アミノ酸351-381)はこのPML結合領域と重なることから、PMLIとの結合がAML1の核マトリックスヘの局在に重要であることが示唆された。

4.PMLは核体(NB)と呼ばれる斑点状の核内構造の主要な権成因子であり、p300/CBPなどいくつかの蛋白質がPMLと結合してこの構造体に局在し得ることが知られている。そこで、AML1bとその転写共役因子であるp300をPMLIと共にSaos-2細胞に発現して、これらの局在を調べた。AML1b及びp300はPMLIを共発現させないときには核内にほぼ一様に局在するのに対して、PMLIを共発現したときには両者は共に斑点状のNBに局在することが示された。これらの結果から、PMLIはAML1bとp300をNBに共局在させ、両者の会合を促進する可能性が示唆された。

5.AML1はL-G細胞の分化を促進することから、この細胞系におけるPMLIの分化増殖への影響について検討した.レトロウイルスベクターを用いてPMLIをL-G細胞に発現させたところ、G-CSF存在下での増殖が抑制され、分化が促進された。いくつかの変異体を用いて同様に試験したところ、多量体形成に関与するロイシンジッパー領域及びSOM01化部位がPMLIによる分化促進に必須であることが示された。特にSUM01化部位である3箇所のリジンをアルギニンに置換した変異体は、野生型とは正反対にG-CSF存在下での増殖を促進し、分化を阻害することが示され、この変異体はドミナントネガティブに作用すると考えられた。

 以上、本論文は転写AML1と転写共役因子PMLが相互作用して機能し、骨髄性細胞の分化に重要な役割を演じていることを明らかにした。本研究は白血病の原因とされる2つの主要な因子であるAML1とPMLが1つの複合体として共同して作用することを示した点で造血細胞の分化や白血病発症の分子メカニズムの解明に多大な貢献をすると考えられ、学位の授与に値する。

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