No | 118278 | |
著者(漢字) | 齊藤,公章 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | サイトウ,キミアキ | |
標題(和) | 多列検出器Computed Tomographyによる心臓の動的画像表示システムの開発と臨床的検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 118278 | |
報告番号 | 甲18278 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2085号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | I.研究の背景 近年のComputed Tomography(CT)の進歩は、X線照射装置と検出器の回転速度の高速化と検出器の多列化の方向にある。この高速スキャン可能な多列検出器CT(MDCT:Multi-Detector row Computed Tomography)は、空間分解能が高い3次元画像データが取得可能となり、様々な3次元画像が作成されるようになった。しかし、自律的に拍動する心臓に関しては、心拍動の影響により、画質の低い画像しか取得されていない。 このため心電図同期画像再構成法が開発され、時間分解能及び空間分解能が高い3次元画像データが取得可能となり、冠動脈や心筋などの動的対象の形態観察が可能となった。この再構成法を用いることにより、1回のスキャンで動的画像データと称される経時的に連続する複数の3次元画像データが取得可能となった。しかし、動的画像データは、膨大なデータ量をもつために、これまでの画像表示装置では動的画像表示が実現されていない。 本研究では、実際の心臓病変の画像診断に役立てるため、複数の3次元画像データを読み込み、位相パラメータを含む画像表示に関する全てのパラメータをインタラクティブに変更し、その結果画像をリアルタイムに表示する動的画像診断装置を開発し、この装置を用いて動的画像データ表示に関する検討と動的画像データから計測された容積に関する検討を行った。 II.対象と方法 1.開発されたアプリケーションの概要 本研究のために新しく開発されたアプリケーションは、経時的に連続する複数の3次元画像データを読み込み、位相を新たなパラメータとしてインタラクティブに変更し、動的画像表示できることを特徴とした。また、複数の画像を、位相を同期させながら画面内に同時表示を行うSynchronized Four-dimensional Imaging(SFI)という表示系アプリケーションと複数の3次元画像データにおいて3次元的にボクセル数をカウントし、同時に容積計測を行う動的画像データ用容積測定アプリケーションを開発した。 2.心臓動態ファントムを用いた基礎的検討 基礎的検討のために使用された心臓動態ファントムは、拡張終期容積、収縮終期容積、心拍数、バルーンの容積曲線パターンという拍動に関するパラメータの設定が可能であった。 動態ファントムのバルーンの容積曲線が正弦波を描くように動作パターンを選択した。拡張終期容積を100ml、収縮終期容積をそれぞれ30ml、50ml、70m、心拍数をそれぞれ0回/分、50回/分、68回/分、80回/分と設定し、12種類の動的画像データ(各10位相分の3次元画像データ)を取得した。 経時的に連続する10位相分の3次元画像データを画像表示装置に読み込み、動的画像表示を行った。画像表示速度及び画像表示に関するパラメータ変更の追従性を検討した。さらに、位相によるバルーン形態およびその変化に関して、視覚的評価を行った。 各位相における容積を計算し、実測された容積と設定で指定した正弦波パターンより得られる容積の理論値との相関を評価し、検討を行った。 3.臨床データにおける検討 心電図、超音波もしくは心臓血管造影にて、心臓疾患と診断された19症例に対し、MDCT検査を施行した。経時的に連続する10位相分の3次元画像データを画像表示装置に読み込み、動的画像表示を行い、画像表示速度及び画像表示に関するパラメータ変更の追従性を検討した。さらに、位相による心臓外観及び内部にある対象の変化に関して、視覚的評価を行った。SFI表示法により、動的画像表示を複数枚表示し、その表示法の有用性を検討した。 各位相において3次元容積計測を行い、容積変化を検討し、さらにMDCT検査と左室造影検査を施行された9症例に関して、駆出率に関する比較を行い、相関を検討した。 III.結果 1.心臓動態ファントムを用いた基礎的検討 連続する10位相分の3次元画像データを読み込ませた後、動的画像表示を行った。動的画像表示は、毎秒10フレーム以上の速度で描画され、表示パラメータはインタラクティブに変更が可能であった。動的画像データにおけるR-R波間隔50%、100%における動的画像は、アーチファクトがほとんど認められなかった。その他の位相においては、50%と100%より離れるにつれて、アーチファクトが強くなったことが確認された。また、心拍数が高いほど、そして駆出率が高いほど、アーチファクトが強くなる傾向を示した。 動的容積計測アプリケーションを起動させ、心臓動態ファントム内部のCT値を参照し、閾値処理を行い各位相の3次元画像データの容積計測を行った。心臓動態ファントムの容積曲線は、設定時に選択した容積曲線である正弦波パターンに非常に近似していた。 2.臨床データにおける検討 連続する10位相分の3次元画像データを読み込ませた後、動的画像表示を行った。動的画像表示は、毎秒10フレーム以上の速度で描画され、表示パラメータはインタラクティブに変更が可能であった。動的Volume Rendering画像では、冠動脈、石灰化、冠静脈洞、心臓の外観を、動的MPR画像表示では心筋、乳頭筋、中隔、弁、壁在血栓、心腔内腫瘍を描出し、位相パラメータを変更しながら観察が可能であった。動的画像表示により、各観察対象の最適な観察位相を容易に選択でき、さらに観察対象の形態とその運動性の評価可能であった。コロナル方向及びサジタル方向の動的MPR画像において、心臓壁の連続性を観察することにより、スキャン軸方向の位相のずれを、認識することが可能であった。アーチファクトの影響が一番大きい位相は、拡張終期から収縮終期の中間にある位相であった。 位相が同期した4個の画像を表示するSFI表示法を行った。位相を変更すると、その位相に対応する互いに直交した3個の基本的なMPR画像とVolume Rendering画像が同時に表示された。3個の基本的なMPR画像上には二つの直交する線が表示されていた。これは、他の二つのMPR画像との交線を表しており、この交線の交点は3個のMPR画像が共有する点であった。ひとつのMPR画像において観察対象を表示し、そのMPR画像上の交点を観察対象に一致させれば、残りのMPR画像においても、その観察対象を表示させることが可能であった。また、Volume Rendering画像においては、その画像表示領域の中心が3個のMPR画像の交点と一致しており、Volume Renaering画像を平行移動させ観察対象を画像表示領域の中心におくと、残りの3個のMPR画像においても、その観察対象を表示させることが可能あり、4画像同時に観察対象を表示することが可能であった。 動的容積計測アプリケーションを起動させた。はじめに、全ての位相の左心室内腔を視覚的に評価し、閾値処理を行った。その後、弁膜輪の高さでカット処理を行い、各位相の3次元画像データの容積計測を行った。容積計測の結果より左心室容量曲線が作成された。拡張終期から収縮終期までは、正弦波に近似するような曲線を描くが、収縮終期から拡張終期までは曲線の傾きがゆるやかであった。 今回、心臓のMDCT検査を受けた患者の中で、左心室造影検査を行い左心室の駆出率が計算されていた9名の患者に関して、心臓のMDCT検査の駆出率と左心室造影検査の駆出率の相関を求めた。相関係数は、r=0.82(p<0.01)であり、比較的良好な相関が得られた。 V.まとめ MDCTより取得された心臓動態ファントム及び心臓の経時的に連続する複数の3次元画像データを読み込み、動的画像表示を行うという今までにない画像表示装置を開発した。この装置により動的Volume Rendering画像表示、動的MPR画像表示などが実現され、動的な観察対象である冠動脈、冠静脈洞、心筋、弁、壁在血栓、心腔内腫瘍、石灰化などを同時に最適な位相で形態観察が可能になるだけでなく、その運動性の評価も同時に可能となった。このような評価は動的画像表示によってはじめて可能となった。心臓動態ファントムにおいて、今回使用した動的容積測定アプリケーションの精度が高いことが示唆された。心電図データと左心室容積曲線は必ずしも対応しないことが示唆された。よって、心電図から拡張終期および収縮終期を決定することは困難であり、全位相の容積を計測し、拡張終期と収縮終期を決定することが必要であると考えられた。基礎的検討よりモーションアーチファクトは容積変化が大きいとき、増大する傾向が認められ、この傾向は臨床データにおいても同様であった。臨床データにおいて、拡張期と収縮期を比較した場合、収縮期の方が時間的に短いため、拡張終期から収縮終期までの間、特にその中間において、容積変化が一番大きく、モーションアーチファクトも最大であることが示唆された。新しい画像表示法であるSFI画像表示法は、複数の画像データを空間的及び時間的に同期させたものである。この画像表示法を用いることにより、動的対象を複数の画像に同時に表示させ、動的な観察対象を見失い事なく観察が可能であった。動的画像表示は心臓のMDCT検査において、有用な画像表示法であることが本研究により示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、多列検出器CT(MDCT)より取得された連続する位相を持つ複数の3次元画像データを動的に画像表示する画像表示システムの開発の試みとそのシステムの臨床的有用性を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.開発された動的画像表示システムは、連続する10位相分のファントムデータを読み込み、画像表示に必要なパラメータをインタラクティブに変更しながら、毎秒10フレーム以上の速度で動的画像表示が可能であることが示唆された。 2.MDCTより取得された画像データは、デジタルな3次元画像データであることより、3次元画像データを閾値処理、カット処理を行いボクセル数を算出し、各位相における容積計測を行う動的容積計測アプリケーションは、ファントムデータを用いた基礎的検討において計測の精度が高いことが示唆された。 3.臨床データを動的画像表示システムに読み込ませることにより、動的Volume Rendering画像では、冠動脈、石灰化、冠静脈洞、心臓の外観を、動的MPR画像表示では心筋、乳頭筋、中隔、弁、壁在血栓、心腔内腫瘍を描出し、位相パラメータを変更しながら観察が可能であることが示唆された。動的画像表示により、各観察対象の最適な観察位相を容易に選択でき、さらに観察対象の形態とその運動性の評価可能であり、臨床的に有用であることが示唆された。コロナル方向及びサジタル方向の動的MPR画像において、心臓壁の連続性を観察することにより、スキャン軸方向の位相のずれを、認識することが可能であることが示唆された。アーチファクトの影響が一番大きい位相は、左心室の容積変化が一番大きい位相であり、拡張終期から収縮終期の中間にある位相であることが示唆された。 4.画像診断を効率的に行うために開発されたSFI画像表示法は、関心領域を空間的に同期させながら、3個のMPR画像を1個のVolume Rendering画像を表示させ、動的画像表示においても、動的な観察対象を常に画像内に表示することが可能であり、画像診断において有用であることが示唆された。 5.動的容積計測アプリケーションを用いて、取得された各位相の左心室容積及び左心室の駆出率を求めることが可能であることが示唆された。左心室容積の変化は必ずしも、同時に取得された心電図と対応せず、心電図より拡張終期、収縮終期を決定し、心電図同期画像再構成を行ってそれぞれの位相データを取得することは困難であり、R-R波を等しく10分した位相におけるデータにおいて各々容積計測を行い、拡張終期、収縮終期を決定する必要があることが示唆された。また、心臓のMDCT検査の駆出率と左心室造影検査の駆出率の相関は比較的良好であり、侵襲性の高い左心室造影検査の代用になりうると考えられた。 以上、本論文は今まで実現されていない心臓のMDCT検査より得られた連続する複数位相を持つ画像データをインタラクティブに動的画像表示することが可能であることを示唆し、この開発されたシステムは心臓の画像診断に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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