No | 118287 | |
著者(漢字) | 中山,貴博 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカヤマ,タカヒロ | |
標題(和) | 随意的腹式呼吸運動の一次運動野 | |
標題(洋) | Primary motor area for the voluntary abdominai breathing | |
報告番号 | 118287 | |
報告番号 | 甲18287 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2094号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 脳神経医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 緒言 呼吸筋は二つの運動系、随意運動と自動運動系から制御されていると考えられている。呼吸における呼吸筋の自動収縮は、橋延髄の呼吸中枢から制御されていると考えられているが、その反面、その随意的の支配のための一次運動野は、未だ解明されていない。古典的な皮質電気刺激によるPenfieldの研究や、患者対象研究では横隔膜や肋間筋はmotor homunculus(運動のこびと)上に記載されなかった。横隔膜の一次運動野の記載がBumkeとFoersterによる解剖図に唯一あるが、しゃっくりの誘発によるものである。今日まで様々な賦活研究により呼吸筋の一次運動野が検討されているが、呼吸筋の一次運動野の正確な位置の決定には至っていない。 最近、機能的磁気共鳴画像の時系列の解析において、強力な多重変化量を検討できる新しい解析法が提唱された。この方法、ICS(独立成分分析-相関解析-逐次的エポック)解析法は、特に運動系の解析に有用であり、単純な手の運動を内部対照として入れることによって検討自体の高い妥当性が保証されるという特徴が挙げられている。特に、いくつかのICS解析による報告がされており、随意的手掌運動における一次運動野内の賦活点ごとの解析や、頭頂様の空間運動系における左右差といった報告がある。 この論文の目的は、今まで解明されてこなかった、随意的腹式呼吸運動に関わる一次運動野の正確な位置を、高磁場MRIとICS解析を用い同定し、古典的な運動のこびととの関連について検討することである。 方法 a.3テスラのMR装置(Signa 3TLX)を用い、右利き正常被験者10名(男性4名、女性6名)の両手掌握運動と随意腹式呼吸運動における脳機能を機能的磁気共鳴画像画像(fMRI)(TR 1000ms;Flip Angle 70°;matrix 64x64;FOV 20x20cm)を用いて評価した。運動調律は視覚指示により15回/分とした。得られた画像はICS解析を行った。 b.機能的磁気共鳴画像の検討後に、MR装置の外で同じエポックを行わせ、第3肋間で代表される肋間筋と横隔膜上下間の表面筋電図および同剖位の周径を測定し、通常の呼吸時と随意的腹式呼吸運動の際の肋間筋と横隔膜の収縮について検討をした。 結果 随意的腹式呼吸運動の際には、全例で両側の一次運動野に賦活領域を認め、それらは前方の前運動野に拡大していた。そして掌握運動の際には、全例で両側の感覚運動野と補足運動野に、賦活を認めた。全例で随意的腹式呼吸運動に関連した賦活領域は、掌握運動の賦活領域の外・尾側であるTalairachの解剖図上(+/-48、-4、47)に位置した。代表的な被験者一例について図1に、まとめを図2に示す。賦活部位の信号変化と予測される信号変化の相関係数が、0.6以上の賦活のみ示した。 表面筋電図上では随意的腹式呼吸運動の際には肋間筋は殆ど収縮せず、横隔膜が主に収縮していることが示され、また胸部の周径は0.08cmしか拡張しなかったが、腹部は2.8cm拡張していた。 考察 妥当性が保証されている多重変化量の解析は、もし保証できなったら、とても難問である。それは人間の行動は、極めて多彩な機能や変数に確定効果が混入した過程であるからである。本研究で使用したICS解析は、このような解析を可能にする解析法の一つである。ICS解析法は、二つの標準的な生物学的な信号の解析法、すなわち、データ主導的な解析法である独立成分分析と、仮説検証法である線形解析を組み合わせたものである。ICS解析法に独立成分分析を組み合わせることで、賦活部位が空間的に独立な限り、確定効果などを分離することができる。その反面、逐次的エポック解析に基づいた相関解析で、様々な対象状態の特異的な差分に相関を持つ独立な要素を単一の実験から抽出することができる。良く知られている機能局在、本研究では手の運動、を挿入することで、適切な賦活部位を示したものを内部対照とすることができる。このことが同じ実験データから得られた対象賦活領域の信頼性を効果的に保証する。本研究が成功したのは、ICSの大きな力によっている。 随意的腹式呼吸運動に関する運動野が一次運動野とその前方の前運動野に全ての被験者で同定された。掌把運動時の活動部位は期待された運動野に、横隔膜と検討された同じデータから同時解析で同定された。この内部対照として挿入された掌握運動の結果により、この検討の妥当性が保証された。 胸部の運動が制限されていたのに対し、腹部が大きく拡張したことにより、本研究の随意的腹式呼吸運動の際には、横隔膜が主に収縮していると考えられた。今までのPETを用いた検討では、随意的な呼吸に関する領域を、陽圧人工呼吸器下に検討しているが、今回の結果は、これらの結果に合致するものである。PETによる検討では、一次運動野の中部から上部にかけて賦活運動野を認め、横隔膜に関する運動野であると考えられた。今回の結果は上記のように主に横隔膜が使われている課題による賦活が、PETによる賦活野の中に存在しかつ解像度が鮮明になっており、随意的腹式呼吸運動に関する一次運動野は横隔膜の一次運動野であることが推測された。さらにこの運動野は手の運動を内部対象としたことで、手の運動野の外側前方であると正確に同定できた。付け加えると、以前の磁気共鳴画像による結果のような賦活野が生理学的に期待できないような部位にも存在したものに対して、本研究では高磁場磁気共鳴画像を個人毎にICS解析で解析したことで、正確な随意的腹式呼吸運動の一次運動野を正確に同定できたのである。 古典的な皮質電気刺激では運動のこびとには呼吸筋は記載されていない。今回判明した随意的腹式呼吸運動の一次運動野は手の領域の下部にあり、顔・頸部や発声に関した部位に非常に近接した領域であった。ごの部位は経皮的電気・磁気刺激によって横隔膜の活動が得られた位置にも近接していた。横隔膜・顔・発声の部位の近接性は、横隔膜に対する機能近接性に関連していると考えられ、口・唇・横隔膜の協調した運動が構音に関連している。また一次運動野の頚部に位置していることは、横隔膜は体幹部に存在するのにも関わらず、支配神経の横隔神経がC3-5より起始していることに合致した。 呼吸と同様に随意運動と自動運動両者から制御されている運動系がいくつかある。眼運動もまたこの二つの運動系から制御されており、前頭眼野による随意的眼運動と、中脳・橋網様体による自動眼運動である。今回判明された随意的腹式呼吸の一次運動野は、前運動野にも拡がっていた。この拡がりは、随意眼運動に関連する前頭眼野にも見られる。自動運動調節と随意的運動調節が可能であるという二面性が、この前方拡大につながったと推測された。自動運動調節を抑制し随意運動を実行させるには、運動計画に関与すると考えられる前運動野が、その抑制に関わっていると推測された。 図1 代表的な男性被験者(23歳)例。 左:被験者毎にICS解析を行い、各個人の解剖学的画像に賦活部位を重ねたもの。(赤:随意的腹式呼吸運動時の賦活部位。緑:両手掌握運動時の賦活部位。)右:各賦活部位における、時間的な信号の変化を示したグラフ。(赤:腹式呼吸運動時に予測される信号の変化。緑:両手掌握運動時に予測される信号の変化。)各グラフの左上に、予測信号変化との相関係数を示した。 図2 被験者10例のまとめ。 被験者毎に解剖学的位置を同定し、解剖図(Talairach-Tournoux)上に賦活部位を示した。上段、冠状断像。下段、水平断像。赤:随意的腹式呼吸運動時の賦活部位。緑:両手掌握運動時の賦活部位。数字は解剖図上の座標を示す。 | |
審査要旨 | 本研究は正常被験者における随意的腹式呼吸運動の一次運動野の正確な位置を検討することを目的に、よく検討されている手の運動野を内部対照とし、高磁場磁気共鳴画像を用いて得られたデータを、ICS解析で、下記の結果を得たものである。 1.随意的腹式呼吸運動の際には、全例で両側の一次運動野に賦活領域を認め、それらは前方の前運動野に拡大していた。その賦活領域は、掌握運動の賦活領域の外・尾側であるTalairachの解剖図上(+/-48、-4、47)に位置していた。 2.本研究で行った随意的腹式呼吸運動の際には、表面筋電図や胸壁・腹壁の周径から、横隔膜が主に使われていることもわかり、本研究で得られた運動野は、横隔膜の一次運動野であることが推測された。 3.呼吸と同様に随意的運動と自動的運動の両者に支配されている眼運動でも随意的運動に対する前頭眼野は前運動野に伸展しており、このような二重支配されている運動系において前運動野が重要な役割をしていると考察された。 以上、本論文は正常対象者の随意的腹式呼吸における一次運動野の正確な位置を機能的磁気共鳴画像とICS解析を用いて初めて明らかにし、さらに随意運動と自動的な運動を兼ね備える運動における一次運動野と前運動野の関わりについて考察した。本論文は運動神経系における機能の解明を行い、かつ、未だ解明できていない運動機能の研究における方法論の重要な基盤をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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