学位論文要旨



No 118296
著者(漢字) 渋谷,英樹
著者(英字)
著者(カナ) シブヤ,ヒデキ
標題(和) IFN-αによるCD154分子の発現調節とIFN-γの産生誘導における役割について
標題(洋)
報告番号 118296
報告番号 甲18296
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2103号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉置,邦彦
 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 教授 松島,綱治
 東京大学 教授 森本,幾夫
 東京大学 助教授 岩田,力
内容要旨 要旨を表示する

 IFN-αは、強力な抗ウイルス作用及び、T細胞やNK細胞の細胞障害作用の亢進といった様々な免疫調節作用を有する多遺伝子ファミリーに属している。IFN-αはマクロファージ、樹状細胞、そして線維芽細胞などから産生され、特にウイルス感染症時にその産生が著明に亢進し、その様々な免疫調節機能から判断すると、innate immunityとacquired immunityとの間の重要な橋渡しとしての役割を演じていることが示唆される。IL-12と同様、IFN-αもまたSTAT4を活性化させ、ヒトにおいて直接IFN-γの産生を誘導することが示されている。

 一方CD40 ligand(CD154)は、TNF(腫瘍壊死因子)スーパーファミリーに属する、33-kDaの分子量を有するタンパク質であり、主として活性化CD4陽性T細胞に発現する。CD154とその受容体であるCD40との間の相互作用は様々な免疫反応の調節-例えばT細胞依存性のB細胞の活性化、増殖、分化の誘導など-に極めて重要な役割を果たす。さらにCD154は自己免疫疾患の発症に極めて重要な役割を示すことが分かってきている。

 これまでの研究で、IL-12がヒトT細胞においてCD154の発現を増強することが示されている。それ故、IL-12によるヒトにおけるIFN-γの産生誘導は、CD154分子の発現増強と関連性がある可能性が示唆された。しかしながら、ヒトT細胞において、IL-12によるCD154発現の増強がどのような機序によって起こっているのか解明されていなかったこともあり、CD154の発現増強がIFN-γの産生誘導から引き起こされる結果によるものなのか、あるいは単なる偶然によるものなのか未だ解明されてはいない。IL-12がCD154の発現を増強し、かつIFN-γの産生を誘導することが示されている故、IFN-αもヒトT細胞においてCD154の発現に影響を与える可能性が十分考えられた。実際これまでの研究により、IFN-αが全身性エリテマトーデス(SLE)のような自己免疫疾患の発症の原因となっており、またSLEの発症にCD154の発現異常が深く関与している可能性があるということが示されている。従って、IFN-αがCD154の発現を増強する可能性も十分考えられるわけである。しかしながら、これまでヒトT細胞におけるCD154発現に対するIFN-αの影響についで調べられた研究は存在しなかった。そこで、我々は活性化されたヒトCD4陽性T細胞におけるCD154の発現に対するIFN-αの影響を調べた。特に注目したのは、IFN-αがCD154の発現に及ぼす影響のみならず、CD154の発現とIFN-γの産生誘導との間に関連性があるのか否かということであった。健常人から得られた高純度の(>96%)CD4陽性T細胞を、IFN-α、IL-12の存在、非存在下に固相化抗CD3抗体にて刺激した。まず我々は、活性化されたCD4陽性T細胞におけるCD154の発現に対するIFN-αの影響をタンパクレベルで調べた。IFN-αは固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞において、IL-12の存在、非存在に関係なく刺激24時間後のCD154分子タンパクの発現を抑制するが、刺激120時間後のCD154タンパクの発現を、IFN-αの濃度1×102IU/mlから1×105IU/mlの間において濃度依存的に増強した。注目すべきことに、IFN-αはCD154の発現増強に最大の効果を示した濃度のIL-12(10ng/ml)の存在下においてすら、固相化抗CD3抗体にて120時間刺激されたCD4陽性T細胞におけるCD154の発現をさらに増強した。すなわち、IFN-αはIL-12の存在、非存在に無関係にヒトCD4陽性T細胞におけるCD154の発現に対し、細胞の活性化状態に依存して二相性の影響を与えるということを示した。IFN-αがCD154の発現を増強する機序は、IL-12のそれとは異なると考えられた。

 次に固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞におけるCD154mRNAの発現に対するIFN-αの影響を、半定量RT-PCR及びリアルタイム定量PCRを行うことで調べた。IFN-αは刺激24時間後において、IL-12の存在、非存在に関係なくCD154 mRNA発現を有意に抑制するが、刺激72時間後においてはIL-12の存在下においてすら、活性化されたCD4陽性T細胞におけるCD154mRNAの発現を有意に増強しており、その効果は刺激120時間後においても認められた。つまり、IFN-αは固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞の活性化状態に依存して、CD154m RNAの発現に対しても二相性の影響を与えた。ここでも、IFN-αとIL-12はヒトCD4陽性T細胞におけるCD154の発現を異なる機序によって増強する可能性を強く示唆した。それでもなお、IFN-αは機能的IL-12受容体の発現及び高親和性IL-12結合の誘導にきわめて重要であるIL-12Rβ2サブユニットのmRNAの発現を、固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞において刺激24時間後から120時間後に至るまで有意に増強したため、IFN-αがIL-12の作用に依存した機序によりCD4陽性T細胞におけるCD154の発現を増強する可能性が残された。しかしながら、刺激120時間後に至るまでCD4陽性T細胞の培養上清中にはIL-12の存在は認められなかった。その上、抗IL-12中和抗体はIL-12によるCD154タンパク発現の増強を完全に抑制したが、IFN-αを介したCD154タンパク発現の増強には何ら影響を与えなかった。したがって、IFN-αはそれ自身のCD4陽性T細胞に対する直接の作用を通じてCD154の発現を増強するということを裏付けることになった。

 次に、固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γの発現に対するIFN-αの影響について調べた。IFN-αは固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γの発現をタンパク、mRNAレベル共に刺激24時間後から120時間後に至るまで全く増強しなかった。一方、IL-12は有意にIFN-γタンパク及びmRNAの発現を増強した。注目すべきことに、IFN-αは外因性IL-12の非存在下においてもCD154の発現を増強したが、IFN-γタンパク及びmRNAの発現は外因性IL-12の存在下においてのみ有意に増強した。すなわち、固相化抗CD3抗体にて刺激を受けたCD4陽性T細胞におけるIFN-αによるIFN-γ産生の増強にはIL-12の存在を必要としており、一方IFN-αによるCD154発現の増強にはIL-12の存在を必要としないことを示した。つまり、IFN-αは固相化抗CD3抗体により活性化されたCD4陽性T細胞においてCD154の発現をIFN-γの産生誘導とは全く無関係に増強する可能性があり、かつIFN-γの産生誘導のためにはIL-12の存在が必要であるということを示唆した。

 上記、IFN-αやIL-12による固相化抗CD3抗体により刺激されたCD4陽性T細胞におけるCD154 mRNA発現の増強が、CD154 mRNAの安定性を増強することによるものかどうかについて調べるために、CD4陽性T細胞をIFN-α、IL-12の存在、非存在下に48時間及び96時間、固相化抗CD3抗体にて刺激した後、転写阻害剤actinomycin D(10μg/ml)を添加し、種々の時間の経過後に細胞を回収し、半定量RT-PCRを行った。その結果、IFN-α、IL-12共に固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞におけるCD154 mRNAの分解速度に対し有意な影響を与えず、IFN-α及びIL-12は活性化されたCD4陽性T細胞においてCD154 mRNAの安定性には影響を及ぼさないことを示した。そこで、IFN-α及びIL-12によるCD154 mRNAの発現増強が転写の活性化によるものであるか否かを調べるために、ヒト白血病系T細胞株Jurkat細胞にヒトCD154プロモーター領域を含むルシフェラーゼベクターをトランスフェクションし、IFN-α、IL-12の存在、非存在下に培養を行い、その後ルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、IL-12のみならずIFN-αもCD154プロモーター領域をトランスフェクトされたJurkat細胞において、ルシフェラーゼ活性を有意に増強した。注目すべきことに、IFN-αはIL-12の存在下においてもルシフェラーゼ活性を有意に増強した。すなわち、IFN-αとIL-12はCD154 mRNAの転写活性を増強することにより、固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞におけるCD154 mRNAの発現を増強することを強く示唆した。

 最後に、ヒトCD4陽性T細胞に対し固相化抗CD3抗体のみならず可溶化抗CD28抗体を添加することで、T細胞上に存在するCD28分子を介しての刺激をも加えることにより、T細胞に対し最大限の刺激を加えた状態でCD154及びIFN-γの発現に対するIFN-αの影響を調べた。CD28副刺激によるCD154タンパク発現の増強は、刺激24時間後にては有意ではなかったが、刺激72時間後以降においては著明であった。注目すべきことに、CD28副刺激の存在下においても固相化抗CD3抗体のみによる刺激の場合と同様、IFN-αは刺激120時間後においてCD154タンパクの発現を有意に増強した。一方、CD28副刺激によるCD154 mRNA発現の増強は、刺激24時間後の時点において既に認められ、120時間後に至るまでその増強は続いた。注目すべきことに、IFN-αは最大限のCD28副刺激の存在下においてすら刺激72時間及び120時間後におけるCD154 mRNAの発現をさらに増強した。一方においては、IFN-αはCD28副刺激の存在下においても刺激24時間後のCD154 mRNAの発現を抑制した。すなわち、IFN-αはCD28副刺激とは異なった機序によりCD154の発現を増強することを示唆した。他方CD28副刺激は、固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γの発現をタンパク、mRNA共に有意に増強した。注目すべきことに、IFN-αはIL-12が存在しない状態においては、CD28副刺激が存在していても固相化抗CD3抗体により活性化されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γタンパク及びmRNAの発現に対し、刺激24時間後から120時間後に至るまでなんら影響を与えなかった。つまり、IFN-γの産生を最適に誘導するためには、CD28副刺激が存在していてもIL-12の存在が必須であることを示した。

 まとめると、IFN-αは固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞の初期活性化段階においてCD154の発現を抑制するが、その後の活性化段階においてIL-12やCD28副刺激とは異なった機序により、CD154 mRNAの転写を増強することによりCD154の発現を増強することを示した。さらに、IFN-αはIL-12の存在なくしては固相化抗CD3抗体にて刺激されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γの発現には影響を及ぼさず、IFN-αはIFN-γの産生誘導とは全く無関係に活性化されたヒトCD4陽性T細胞におけるCD154の発現を増強することを明らかにした。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は強力な抗ウイルス作用及び、T細胞やNK細胞の細胞障害作用の亢進といった様々な免疫調節作用を有し、かつIL-12と同様に、ヒトにおいて直接IFN-γの産生を誘導することが示されているIFN-αが、様々な免疫反応の調節に極めて重要な役割を果たすことが分かっている、ヒトCD4陽性T細胞におけるCD154分子の発現に対しどのような影響を与えているのか、そしてCD154の発現とIFN-γの産生誘導との間に関連性があるのか否かということを詳細に検討した。実験系としては、健常人から得られた高純度のCD4陽性T細胞を、IFN-α、IL-12の存在、非存在下に固相化抗CD3抗体にて刺激する方法を採用し、下記の結果を得ている。

1.IFN-αは固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞において、IL-12の存在、非存在に関係なく初期活性化段階においてはCD154タンパク、mRNAの発現を抑制するが、その後の活性化段階においては両方の発現を増強することをフローサイトメトリー及びリアルタイム定量PCRを行うことにより示した。すなわち、IFN-αはIL-12の存在、非存在に無関係にヒトCD4陽性T細胞におけるCD154の発現に対し、細胞の活性化状態に依存して二相性の影響を与えるということを示した。さらに、IFN-αはIL-12とは全く無関係に、CD4陽性T細胞に対する直接の作用を通じてCD154の発現を増強することを示した。

2.IFN-α単独では、固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γタンパクの産生、及びmRNA発現いずれにも影響を与えず、IFN-αによるIFN-γタンパクの産生、及びmRNA発現の増強にはIL-12の存在が必須であることをELISA及びリアルタイム定量PCRを行うことにより示した。一方、IFN-αによるCD154発現の増強にはIL-12の存在を必要としないことを示した。すなわち、IFN-αは固相化抗CD3抗体により活性化されたCD4陽性T細胞においてCD154の発現をIFN-γの産生誘導とは全く無関係に増強する可能性があることを示した。

3.IFN-αやIL-12による活性化CD4陽性T細胞におけるCD154 mRNA発現の増強が、CD154m RNAの安定性を増強することによるものかどうかについて調べるために、実験系に転写阻害剤actinomycin Dを添加し、種々の時間の経過後に細胞を回収し、半定量RT-PCRを行った。その結果、IFN-α、IL-12共にCD154 mRNAの安定性には影響を及ぼさないことを示した。次に、Jurkat細胞にヒトCD154プロモーター領域を含むルシフェラーゼベクターをトランスフェクションし、IFN-α、IL-12の存在、非存在下に培養を行いルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、IFN-α、IL-12共にCD154 mRNAの転写活性を増強することにより、固相化抗CD3抗体にて活性化されたCD4陽性T細胞におけるCD154 mRNAの発現を増強することを強く示唆する結果を得た。

4.最後に、CD4陽性T細胞に対し固相化抗CD3抗体のみならず可溶化抗CD28抗体を添加することで、T細胞に対し最大限の刺激を加えた状態でCD154及びIFN-γの発現に対するIFN-αの影響を調べた。その結果、IFN-α及びIL-12はCD28副刺激とは異なった機序により、CD154の発現を増強することを示した。一方、IFN-αはCD28副刺激が存在していてもIL-12が存在しなければ、固相化抗CD3抗体により活性化されたCD4陽性T細胞におけるIFN-γタンパク及びmRNAの発現に対し全く影響を与えないことを示した。つまり、IFN-γの産生を最適に誘導するためには、CD28副刺激が存在していてもIL-12の存在が必須であることを示した。

 以上、本論文はIFN-α及びIL-12がヒトCD4陽性T細胞においてCD154プロモーター領域における転写活性を増強することにより、CD154の発現を増強する可能性を初めて明らかにした。本研究は、様々な免疫反応の調節に極めて重要な役割を果たすCD154分子の発現調節の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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