学位論文要旨



No 118303
著者(漢字) 王,宇慧
著者(英字) Wang,Yu hui
著者(カナ) オウ,ウケイ
標題(和) マウス初期発生におけるADAMTS4の重要な役割
標題(洋) A critical role of ADAMTS4 in mouse early development
報告番号 118303
報告番号 甲18303
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2110号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 辻,省次
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 助教授 田中,廣壽
 東京大学 講師 長瀬,隆英
内容要旨 要旨を表示する

ADAM(a disintegrin and metalloproteinase)ファミリーはメタロプロテアーゼとディスインテグリンドメインを有する受精や細胞分化、サイトカインの活性化など広汎な生理機能に関わる蛋白として最近注目されている。ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type I motifs)ファミリーはADAMファミリーと異なって、トロンボスポンジンモチーフを有し細胞外基質に結合する分泌型蛋白としての特徴を有する新しいメタロプロテアーゼである。ADAMTS1は悪液質誘導性マウス大腸癌から単離され、細胞外マトリックスの代謝に関わることによって、腎臓などの器官形成や細胞構築の維持に重要な役割を果たしていることが認められた。現在までにADAMTS1をはじめ14のADAMTSメタロプロテアーゼが同定され、大きなファミリーを形成し、ヒト疾患との関連が次々明らかになった。ADAMTS2の変異がEhlers-Danlos syndrome type VIICの原因でADAMTS4及びADAMT5が慢性関節炎軟骨の破壊に関与していること、さらにADAMTS13の変異が血栓性血小板減少性紫斑病の原因であることが報告された。ADAMTS4(Aggrecanase-1)は慢性関節炎患者の関節液で発見された新しい蛋白であり、関節軟骨の破壊に関与する機能が認められている。さらに脳に存在するbrevicanや血管に存在するversicanなど細胞外基質を構成するプロテオグライカンを分解することが報告されている。

 本研究において、私はADAMTS4の生理学的意義を明らかにするため遺伝子欠損マウスを作成し解析を行った。ADAMTS4のヘテロ接合体は外見でも異常がなく生殖も正常だったが、ヘテロ同士を交配しSouthern-blotで解析した結果187匹の子供のうちにホモ接合体が観られなかった。ホモ接合体の致死時期を各妊娠段階で調べた結果、妊娠8.5日目の段階でも胚子の存在がなく、子宮には吸収された残留物もないことが分かった。私は最終的にI-PEP-PCRの技術で8細胞期や2細胞期でホモ接合体を見つけることができた。しかし、胚子の形態が異常で未分裂や断片化を呈していた。さらに受精に関わる他の細胞も調べてみるとADAMTS4が受精卵と続発する発生段階の胚子に特異的に発現していることが分かった。さらに受精卵でADAMTS4発現の局在を蛍光免疫染色で明らかにした。In vitroの実験系では受精卵の分裂が抗ADAMTS4抗体によって用量依存的に阻害され、発育阻害された卵子は未分裂や断片化を呈し、形態上はADAMTS4ホモ接合体の表現と一致していることが分かった。

ADAMファミリーメンバーのfertilin α,βやcyritestinが受精に関与していることがよく知られているが糖鎖のある細胞外基質を構成するプロテオグライカンを分解する蛋白質としてのADAMTS4が発生の初期段階で決定的な役割を果たしていることが私の研究で初めて明らかになった。ADAMTS4が初期発生段階に関与する詳細なメカニズムとヒトの不妊症との関連がこれからの研究で解明されることが期待される

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は慢性関節炎患者の関節軟骨の破壊において重要な分解酵素であると考えられるADAMTS4(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs)の生理学的意義、特に発生に対しての役割を明らかにするため、遺伝子欠損マウスを作成し、解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.マウスの発生においてADAMTS4の発現を調べた結果、ADAMTS4は8.5日胎児で脳や心臓に強く発現していることが示された。脳と心臓の各発生段階についてADAMTS4発現レベルをNorthern-blotで分析した結果、ADAMTS4が発生の早い段階ほどより多く発現されていることが示された。

2.ADAMTS4 cDNAプローブを用いて129svjマウスゲノムlibraryからマウスADAMTS4ファージDNAを得、エクソンとイントロン構造、open reading frame及びにドメイン構造を明らかにした。

3.エクソン3に存在するメタロプロテアーゼドメインをターゲトにして、エクソン3からエクソン4までのDNA領域をneo耐性遺伝子で取り換えてターゲテイングベクタを構築した。ターゲテイングベクタをES細胞に導入し、相同組換えの起こったES細胞を受精卵に導入したことにより、キメラマウスを得、さらにキメラマウスと野生型マウスの交配によりヘテロ接合体を得た。

4.ADAMTS4のヘテロ接合体は外見で異常がなく生殖も正常だったが、ヘテロ同士を交配しSouthern-blotで解析した結果、187匹の子供のうちにホモ接合体が見られなかった。ホモ接合体の致死時期を各妊娠段階で調べた結果、妊娠8.5日目の段階でも胚子の存在がなく、子宮には吸収された残留物もないことが分かった。I-PEP-PCRの技術で8細胞期や2細胞期でホモ接合体を見つけた。しかし、胚子の形態が異常で未分裂や断片化を呈していたことが認められた。したがって、ADAMTS4蛋白の欠損により初期発生において致死的の影響をもたらしていると考えられる。

 5.受精に関わる他の細胞も調べた所、ADAMTS4が受精卵と続発する発育段階の胚子に特異的に発現していることが認められた。受精卵でADAMTS4発現の局在を蛍光免疫染色で明らかにした。

 6.In vitroの実験系では受精卵の発生が抗ADAMTS4抗体によって用量依存的に阻害され、発育阻害された卵子は未分裂や断片化を呈し、形態上はADAMTS4ホモ接合体の表現と一致していた。その結果は受精卵の発生において、ADAMTS4が細胞外で働くと考えられた。

以上、本論文はマウスの初期発生において、ジーンターゲテイングの発生工学を用いてADAMTS4遺伝子欠損マウスを作成し、ホモ接合体の解析から、ADAMTS4が初期発生で決定的な役割を果たしていること明らかにした。本研究は細胞外基質を構成するプロテオグライカンの分解酵素がマウスの初期発生においての重要性の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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