学位論文要旨



No 118334
著者(漢字) 山田,真紀子
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,マキコ
標題(和) 日本人女性子宮頚癌、子宮頚部異型上皮症におけるHPV18、33、52 and 58 E6 variantsと発癌性の関連
標題(洋) The oncogenic potential of human papilloma virus 18, 33, 52 and 58 E6 variants in japanese women with cervical intraepithelial neoplasia/invasive cervical cancer
報告番号 118334
報告番号 甲18334
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2141号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 助教授 中川,恵一
 東京大学 助教授 渡辺,聡明
 東京大学 助教授 辻,浩一郎
 東京大学 講師 林,泰秀
内容要旨 要旨を表示する

[研究目的、背景]

 子宮頚癌は全世界的に女性癌の罹患率、死亡率において乳癌についで二位を占めている。現在では特定のHuman papilloma virus(以下HPVの16,18,31,33,52,58型など)感染が子宮頚癌やその前駆病変である子宮頚部異型上皮症の発生に深く関与していると考えられる。HPVゲノムは約8,000塩基対の環状二本鎖DNAで、上流調節領域(upstream regulatory region,以下URRと略)、初期発現(E)領域、後期発現(L)領域の三領域から構成されている。URRは非コード領域(noncoding region)で主な機能は初期領域等の下流シークエンスの転写調節である。初期領域は細胞ゲノムとの相互作用によりウイルス複製をプログミングしている。後期領域はウイルス粒子の被殻タンパク質をコードしている。E6およびE7遺伝子は正常上皮細胞を癌細胞へ形質転換するタンパク質(癌タンパク質)の転写に関わる遺伝子である。

 これまでの研究で、HPV16 E6, E7遺伝子の継続的発現が癌細胞の増殖能の維持に重要な作用が持っており、癌化の過程でE6, E7遺伝子の高発現がおきることが明らかにされてきたが、発現が増大する機構は不明な点が多い。E6癌蛋白は癌抑制蛋白であるP53を、ユビキチンを介するメカニズムで分解し、E7癌蛋白は癌抑制蛋白であるpRbを結合し、それを不活性化することにより発癌に関与すると考えられている。HPVはDNAのhomologyによりどのタイプとも10%以上異なるものは新しいtypeに、2〜10%の範囲内で最初に同定されたprototypeと異なるものはsubtypeに分類されるが、prototypeと2%未満の変異を持ったものはvariantと分類される。近年、HPV16型ではE6 variantと発癌リスクの関連が報告されている。日本で子宮頚癌から検出されるHPVのtype別の頻度をみると、日本ではハイリスク型といわれるHPV16に続いて、HPV18、HPV33、52、58型が子宮頚癌病変から高頻度で検出される。HPV16ではE6 variantと子宮頚部発癌のリスクとの関連が指摘されているが、HPV18,33,52,58型などのほかのハイリスクHPVについてはそのvariantと発癌リスクの関連についてこれまで報告がない。HPV16とhomologyの高いHPV18,33,52,58に注目し、それらの型のE6 variantと発癌との関連を調べることを本研究の目的とした。

[方法と結果]

(1)患者の選択:子宮頚部浸潤癌(ICC)およびその前癌病変である異型上皮症cervical intraepithelial neoplasias(CIN)

 HPV18 DNA陽性患者16例、HPV33 DNA陽性患者20例、HPV52 DNA陽性患者46例、HPV58 DNA陽性患者41例から検出された各HPVのE6領域をPCR法で増幅し、DNAシークエンスを行いそのvariationを解析した。各サンプルから得られたDNAシークエンスのデータはsoftware DNASISを用いて解析した。

(2)HPV18、33、52、58型DNAシークエンスの比較

 HPV33型ではDNAシークエンスで14ヶ所にvariationが見つかり、アミノ酸シークエンスである9ヶ所のvariationが見つかったが、その中で35番目のリシン(K)がアスパラギン(N)に置き換わったvariantであるK35Nがもっとも高頻度に見つかった。

 HPV18型においては、2ヶ所のDNA mutationが見つかったが、そのほとんどがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはQ62Hvariantのみであった。

 HPV52型においては、4ヶ所のDNA mutationが見つかったが、その多くがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはK93R variantのみであった。46例中45例がK93R variantであった。浸潤癌の1例のみでprototypeが検出された。

 HPV58型においても3ヶ所のDNA variationが見つかったが、その多くがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはD86E variantのみであった。40例の中で39例はprototypeで、CIN IIIの1例のみでD86Evariantが検出された。

[考察]

 今までの研究によると、HPVは二つの癌遺伝子であるE6, E7の発現によるヒトの癌抑制蛋白であるP53, Rbの不活性化により発癌に関与すると考えられているが、異型上皮症から癌化に至るまでには他の癌と同様、宿主因子や環境因子それに確率的な偶然が関わっていると考えられる。

 HPV33型陽性軽度異型上皮症(CIN I)/中度異型上皮症(CIN II)では7例中、variantsは5例で71%の比率であったのに対して、高度異型上皮症、上皮内癌(CIN III)/浸潤癌(ICCs)では13例中、variantsは2例のみで15%の比率であった。この分布の違いには統計的有意差が認められた。したがって、HPV33型のprtotypeは初期前癌病変から高度の前癌病変及び浸潤癌への進展するリスクが有意に高いと考えられた。variantと比較した相対危険度は13.8倍でした。HPV18,52,58ではvariationそのものがほとんど存在なかった。結論としてHPV E6 variationが子宮頸部発癌のリスクに関連する可能性があり、E6 variationの解析はHPV33 DNA陽性CIN患者において、フォローアップの方針や、疾患の管理の決定に有用となる可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 現在では特定のHuman papilloma virus(以下HPVの16,18,31,33,52,58型など)感染が子宮頚癌やその前駆病変である子宮頚部異型上皮症の発生に深く関与していると考えられる。近年、HPV16型ではE6 variantと発癌リスクの関連が報告されている。HPV18,33,52,58型などのハイリスクHPVについてはそのvariantと発癌リスクの関連についてこれまで報告がない。HPV16とhomologyの高いHPV18,33,52,58に注目し、それらの型のE6 variantと発癌との関連を調べることを本研究の目的として、下記の結果を得ている。

1.E6癌蛋白は癌抑制蛋白であるP53を、ユビキチンを介するメカニズムで分解し、E7癌蛋白は癌抑制蛋白であるpRbを結合し、それを不活性化することにより発癌に関与すると考えられている。HPVはDNAのhomologyによりどのタイプとも10%以上異なるものは新しいtypeに、2〜10%の範囲内で最初に同定されたprototypeと異なるものはsubtypeに分類されるが、prototypeと2%未満の変異を持ったものはvariantと分類される。子宮頚部浸潤癌(ICC)およびその前癌病変である異型上皮症cervical intraepithelial neoplasias(CIN)の患者において、HPV18 DNA陽性患者16例、HPV33 DNA陽性患者20例、HPV52 DNA陽性患者46例、HPV58 DNA陽性患者41例から検出された各HPVのE6領域をPCR法で増幅し、DNAシークエンスを行いそのvariationを解析した。各サンプルから得られたDNAシークエンスのデータはシークエンサー(ABI PRISM 377)を用いて解析した。

2.HPV18、33、52、58型DNAシークエンスの比較

 HPV33型ではDNAシークエンスで14ヶ所にvariationが見つかり、アミノ酸シークエンスである9ヶ所のvariationが見つかったが、その中で35番目のリシン(K)がアスパラギン(N)に置き換わったvariantであるK35Nがもっとも高頻度に見つかった。HPV18型においては、2ヶ所のDNA mutationが見つかったが、そのほとんどがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはQ62Hvariantのみであった。HPV52型においては、4ヶ所のDNA mutationが見つかったが、その多くがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはK93R variantのみであった。46例中45例がK93R variantであった。浸潤癌の1例のみでprototypeが検出された。HPV58型においても3ヶ所のDNA variationが見つかったが、その多くがsilent mutationで、アミノ酸シークエンス上のvariantはD86E variantのみであった。40例の中で39例はprototypeで、CIN IIIの1例のみでD86Evariantが検出された。

3.今までの研究によると、HPVは二つの癌遺伝子であるE6, E7の発現によるヒトの癌抑制蛋白であるP53, Rbの不活性化により発癌に関与すると考えられているが、異型上皮症から癌化に至るまでには他の癌と同様、宿主因子や環境因子それに確率的な偶然が関わっていると考えられる。HPV33型陽性軽度異型上皮症(CIN I)/中度異型上皮症(CIN II)では7例中、variantsは5例で71%の比率であったのに対して、高度異型上皮症、上皮内癌(CIN III)/浸潤癌(ICCs)では13例中、variantsは2例のみで15%の比率であった。この分布の違いには統計的有意差が認められた。したがって、HPV33型のprtotypeは初期前癌病変から高度の前癌病変及び浸潤癌への進展するリスクが有意に高いと考えられた。variantと比較した相対危険度は13.8倍でした。HPV18,52,58ではvariationそのものがほとんど存在なかった。

 以上、本研究はHPV E6 variationが子宮頸部発癌のリスクに関連する可能性があり、E6 variationの解析はHPV33 DNA陽性CIN患者において、フォローアップの方針や、疾患の管理の決定に有用となる可能性が示唆されて、学位の授与に値するものと考えられる。

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