No | 118336 | |
著者(漢字) | 甲賀,かをり | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コウガ,カヲリ | |
標題(和) | ヒト生殖器におけるアンギオジェニンについて | |
標題(洋) | Angiogenin in human reproductive organs | |
報告番号 | 118336 | |
報告番号 | 甲18336 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2143号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生殖発達加齢医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【緒言】 血管新生(angiogenesis)とは,既にある血管から新たな血管が形成される過程と定義され,既存血管の血管壁の融解,血管内皮細胞および周囲細胞の増殖・遊走,管腔の伸長・結合により,動脈,静脈,毛細血管を含む新たな血管網の形成に至るプロセスである.近年,血管新生のメカニズムについて多くの新知見が得られ,悪性腫瘍,ならびに心臓脈管系の分野において,血管新生と病態に関して多くの報告がされている. 一方,女性生殖器は,ヒト成人の生体内において,この血管新生が生理的・周期的に行われている特異な器官である.卵巣においては,血管新生は卵胞形成,黄体化の両過程において重要な因子であり,その異常は卵胞発育を障害したり,黄体機能不全を惹起することで,不妊症の一因となっている可能性がある.子宮においては,血管新生は内膜の周期的変化、脱落膜化において重要な役割を担っており,その異常は不正出血や流産,また妊娠中毒症などの原因となりうることが知られている. angiogeninは,1985年に大腸癌細胞の培養上清から単離された14.1kDの単鎖ポリペプチドで,重要な血管新生因子の一つとして知られている.近年では種々の悪性腫瘍の病因に関与することや,卵巣過剰刺激症候群や妊娠中毒症などとの関連が証明され,注目を集めている. 本研究では,angiogeninのヒト卵巣における卵胞形成,黄体化への関与,さらにヒト子宮内膜における発現とその周期的変化,その発現に影響を与える因子につき検討した. 【方法】 1)卵胞,顆粒膜細胞におけるangiogeninについて 1.体外受精胚移植を施行した患者の同意のもと,胚採取時に得られる卵胞液を回収,さらに卵胞液よりFicoll-Paque液を用いた密度勾配法によって顆粒膜細胞を単離した. 2.ウエスタンブロッティング法にて卵胞液および顆粒膜細胞中のangiogeninのタンパク発現を検討した. 3.得られた顆粒膜細胞を初代培養し,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(150ng/ml),cAMP(1mM)の添加,および低酸素(0.2%O2)刺激を行い,細胞培養上清中のangiogeninのタンパク濃度をELISA法を用いて測定し,angiogeninの産生量の変化を検討した.さらにリアルタイム定量的RT-PCR法を用い,低酸素(0.2%O2)刺激によるangiogeninのmRNA発現量の変化を解析した. 4.各卵胞液中のangiogeninの濃度をELISA法を用いて測定,また同卵胞液中のエストロゲン,プロゲステロン,テストステロンの濃度をEIA法を用いて測定,両者を比較,相関の有無につき検討した. 尚これらの研究は東京大学医学系研究科・医学部倫理委員会の承認のもと行った. 2)子宮内膜・脱落膜におけるangiogeninについて 1.患者の同意のもと,良性疾患の治療目的で子宮摘出術を受けた症例より子宮内膜を採取,また子宮外妊娠症例より脱落膜を採取した. 2.子宮内膜,脱落膜におけるangiogeninのタンパク・mRNAの発現および周期的変化を1)と同様にウエスタンブロッティング法・リアルタイム定量的PCR法により検討した.さらにタンパクの局在について免疫組織化学的染色法を行って検討した. 3.得られた子宮内膜間質細胞を初代培養し,プロゲステロンにて処理し(in vitroにおける脱落膜化),脱落膜化におけるangiogeninの分泌量の変化を細胞培養上清中のangiogeninのタンパク濃度をELISA法を用いて測定し,検討した. 4.さらに得られた子宮内膜上皮細胞,問質細胞各々の培養系にcAMP(1mM),低酸素刺激(1%O2)を加えangiogeninの産生量の変化を,上清中のangiogenin濃度をELISA法で測定することで,検討した. 尚これらの研究は東京大学医学系研究科・医学部倫理委員会の承認のもと行った. 【結果】 1)卵胞,顆粒膜細胞におけるangiogeninについて 1.卵胞液および顆粒膜細胞中にangiogeninのタンパク発現が証明された. 2.ヒト絨毛性ゴナドトロピン(150ng/ml)およびcAMP(1mM)の添加により,顆粒膜細胞からのangiogeninの産生は上清中のタンパクレベルで約3倍に上昇した. 3.低酸素(0.2%O2)刺激により顆粒膜細胞からのangiogeninの産生は上清中のタンパクレベルで約5.5倍に上昇し,mRNAレベルでは12.5倍に上昇した. 4.各卵胞液中のangiogeninの濃度はプロゲステロンの濃度と統計学的に有意な正の相関を示したたが,エストロゲン,テストステロンの濃度とは相関を示さなかった. 2)子宮内膜・脱落膜におけるangiogeninについて 1.子宮内膜および脱落膜においてangiogeninのタンパクおよびmRNAの発現が証明された. 2.angiogeninのタンパクの発現は、増殖期に比べ,分泌期中期以降妊娠初期にかけ上昇し,その差は3-4倍であった.mRNAの発現量も同様の上昇を示し,その差は3-5倍であった.免疫染色法ではangiogeninのタンパクは子宮内膜上皮および間質細胞に同等に認められた. 3.培養系においても,脱落膜化に伴い,angiogeninの分泌量が増加し,脱落膜化開始後18日目で分泌量は上清中のタンパクレベルで対照群の5.5倍に上昇した. 【考察】 血管新生因子の一つである,angiogeninがヒト女性生殖器である卵巣,および子宮で発現していることが本研究により明らかにされた. ヒト卵巣においては,angiogeninが顆粒膜細胞において産生され,その産生はゴナドトロピンと低酸素状態によって刺激されることを解明した.これらの結果からangiogeninは卵胞形成,黄体化の過程において,卵巣における血管新生を調節していることが示唆された. 一方ヒト子宮においては,angiogeninは特に分泌期,妊娠初期に強度に発現し,脱落膜化・低酸素刺激により産生が促進されることを証明した.このことからangiogeninは血管新生因子として,子宮内膜の特に脱落膜化の過程において,生理学的・病理学的意義を有することが推測された. 今後この因子の卵巣・子宮での発現調節機構に関するさらなる研究により,卵巣に関しては,排卵障害,黄体機能不全,卵巣過剰刺激症候群などの,また子宮に関しては,不正出血や流産,子宮内膜症,妊娠中毒症などの病態解明,さらにそれらの治療法に応用できるような知見を得たいと考えている. | |
審査要旨 | 本研究は血管新生の一つであるangiogeninについて,そのヒト卵巣における卵胞形成,黄体化への関与,さらにヒト子宮内膜における発現とその周期的変化,その発現に影響を与える因子を明らかにするため行われ,以下のような結果を得ている. 1)卵胞,顆粒膜細胞におけるangiogeninについて 1.卵胞液および顆粒膜細胞中にangiogeninのタンパク発現が証明された. 2.ヒト絨毛性ゴナドトロピン(150ng/ml)およびcAMP(1mM)の添加により,顆粒膜細胞からのangiogeninの産生は上清中のタンパクレベルで約3倍に上昇した. 3.低酸素(0.2%O2)刺激により顆粒膜細胞からのangiogeninの産生は上清中のタンパクレベルで約5.5倍に上昇し,mRNAレベルでは12.5倍に上昇した. 4.各卵胞液中のangiogeninの濃度はプロゲステロンの濃度と統計学的に有意な正の相関を示したたが,エストロゲン,テストステロンの濃度とは相関を示さなかった. 2)子宮内膜・脱落膜におけるangiogeninについて 1.子宮内膜および脱落膜においてangiogeninのタンパクおよびmRNAの発現が証明された. 2.angiogeninのタンパクの発現は、増殖期に比べ,分泌期中期以降妊娠初期にかけ上昇し,その差は3-4倍であった.mRNAの発現量も同様の上昇を示し,その差は3-5倍であった.免疫染色法ではangiogeninのタンパクは子宮内膜上皮および間質細胞に同等に認められた. 3.培養系においても,脱落膜化に伴い,angiogeninの分泌量が増加し,脱落膜化開始後18日目で分泌量は上清中のタンパクレベルで対照群の5.5倍に上昇した. 以上,本論文は血管新生因子の一つであるangiogeninの,卵巣および子宮での発現,またその発現に影響を与える因子について明らかにした.本研究は女性生殖器における血管新生の制御の解明に重要な貢献をなすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. | |
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