No | 118339 | |
著者(漢字) | 堀江,弘二 | |
著者(英字) | HORIE,KOJI | |
著者(カナ) | ホリエ,コウジ | |
標題(和) | カンプトテシン誘導クリーバブル複合体形成に於けるトポイソメラーゼIとSUMO-1結合の意義 | |
標題(洋) | SUMO-1 conjugation to intact DNA topoisomerase I amplifies cleavable complex formation induced by camptothecin | |
報告番号 | 118339 | |
報告番号 | 甲18339 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2146号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生殖発達加齢医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | (序論) DNA topoisomerase I(Topo1)は核内に於いてDNA複製や転写の際生ずる「ねじれ(topologic change)」を調節する重要な酵素の一つである。Topo1はATM非依存性にsupercoilした二重鎖DNAのうち一方のDNA鎖に切れ目を入れてこのねじれを解消するが、この時生ずるTopo1-DNA結合体はcleavable complexと呼ばれ、Camptothecin(CPT)に代表されるTopo1 inhibitorsのtargetであることが明らかとなっている。CPTは核内に於いてTopo1と作用してDNA障害を起こすため、細胞に於けるTopo1に質的・量的変化は細胞のCPT感受性に大きく寄与すると考えられ、実際CPT耐性細胞の多くでTopo1活性及び量の低下が認められている。近年CPTに曝された細胞の核内ではubiquitinproteasome系を介したTopo1分解が誘導されることが明らかにされ、CPTのDNA障害に対する修復機構としてTopo1-down-regulationの機構が存在すると考えられてきている。 一方Ubiquitin様蛋白であるSUMO-1(Small ubiquitin-like modifier-1)は、UBC9を含む酵素群により活性化されて様々な蛋白を修飾(sumoylation)することで、それぞれの蛋白の核内移行、転写能、核内分布、他蛋白との結合能や安定化といった生物学的機能を修飾する蛋白である。CPTにより細胞内でTopo1は急激且つ強くSUMO-1による修飾(sumoylation)を起こす現象が認められているが、その生物学的意義については明らかでない。本研究ではTopo1の主要なSUMO-1修飾部位を同定し、さらにその部位及び複数のpoint mutant-Topo1を用いることで細胞内に於けるCPT誘導Topo1 sumoylationの意義について検討した。 (方法と結果) 1.CPT処理によるTopo1 ubiquitinylation及びsumoylation HT1080細胞及び293T細胞のcell lysateまたは核抽出物では、CPT処理後のみTopo1のsumoylation及びユビキチン化(ubiquitinylation)が認められることをTopo1抗体による免疫沈降、SUMO-1抗体及びubiquitin抗体によるウェスタンブロットで確認した。これらの細胞にFLAG-tag付きのTopo1,HA-tag付きのSUMO-1及びubiquitinをtransfectionし共発現させると、FLAG-Topo1はHA-SUMO-1/ubiquitinと結合し、CPTによるsumoylation及びubiquitinylationの増強を認めた。更にこのTopo1-sumoylationは、SUMO-1修飾を担う酵素であるUBC9のdominant negative mutantであるUBC9cs mutantを共発現させることでほぼ完全に消失することを確認した(図1)。 2.主要なTopo1のSUMO-1結合部位としてのK117の同定とY723F mutantによるCPT非依存性Topo1-sumoylationの発見 Topo1に於いてSUMO-1修飾のconsensus sequence(I/L/V)KX(E/D)に該当するlysineとして117番目及び153番目のリジンを見出し、point mutant Topo1であるK117R, K153R, K117, 153R-Topo1を作成、SUMO-1との共発現に於いてTopo1-sumoylationを検討した。その結果WT-Topo1との比較するとCPTにより誘導されるsumoylationはK117Rで著しく減弱していることを見出した(図2)。K153もまたwestern blotに於けるhigh molecular band数の減少及びK117, 153R(double mutant)の結果からSUMO-1結合部位の一つであることが示唆された。同様の結果はKR mutant Topo1と内在性SUMO-1との間にも認められた(図2)が、ubiquitinとの共発現あるいは内在性ubiquitinとの間には変化を認めなかった。これらの結果からTopo1に於いてはK117, K153がSUMO-1結合部位であり、K117を主要な結合部位としていることが強く示唆された。さらに同じmutant Topo1のsumoylation実験に於いて、Topo1の活性中心である723番目のチロシンのpoint mutantであるY723F-Topo1が、CPT非依存性にSUMO-1修飾を強く受けることを見出した(図2)。活性中心のmutantはtopoisomeraseとしての活性を失うことから、topoisomerase活性消失自体がTopo1-sumoylationの契機となっている可能性が示唆された。 3.Topo1-sumoylationのCPT依存性cleavable complex形成における意義 Wild-type Topo1とK117R mutantについて、in-vitroの系に於いてDNA relaxation溶性及びCPTによるDNA relaxation活性阻害を検討したところ両者に差を認めなかった。 次にIn-vivo Conjugation of Topoisomerase(ICT)bioassay、すなわち一定量の細胞DNAに結合するTopo1量を抗体を用いて測定する実験系に於いて、CPT依存性cleavable complex形成に於けるTopo1-sumoylationの意義を検討した。293T細胞に発現させたK117R mutant Topo1はwild-type Topo1に比べ、CPT処理後に形成されるcleavable complex量のpeakを迎える時間が遅く、またpeak levelも低い結果が得られた(図3A)。同様の結果はHT108O細胞でも得られた(図3B)。またwild-type Topo1のcleavable形成量は、sumoylationを担う酵素であるUBC9のdominant negative mutantであるUBC9cs mutantを共発現させると減少し(図3C)、逆にSUMO-1を共発現させると増大する(図3D)ことが明らかとなった。これらの結果からTopo1のsumoylationはCPTにより誘導される。cleavable complex形成に促進的に作用することが示された。 (考察及び総括) 本研究によりTopo1に於ける主要なSUMO-1蛋白修飾部位がK117であり、K153を含む複数箇所でのsumoylationを制御している可能性が強く示唆された。またこれらSUMO-1蛋白修飾部位のmutantを用いた検討から、Topo1 sumoylationは従前に示唆されていたようなubiquitinylation同様のCPTによるDNA damage修復機構ではなく、in-vivoにおけるTopo1のDNAへのrecuruitmentを制御し、cleavable complex形成に促進的に作用してCPT感受性を増強しうる機構であることが明らかとなった。これによってTopo1のsumoylation及びubiquitinylationはTopoisomerase inhibitorsによるDNA damageをそれぞれ正と負に制御し得る機構を担っており、同種の薬剤の抗腫瘍活性を検討するにあたり重要な要因であることが示唆された。 図1.Sumoylation of exogenously expressed Topo1 depending on UBC9. HT1080 cellsにFLAG-Topo1, HA-SUMO-1と共にpcVSV, VSV-UBC9cs(UBC9cs), UBC8cs(UBC8cs)を発現させ、1μg/ml of CPTまたはDMSO 30min処理、等量のcell lysateをanti-FLAG抗体で免疫沈降し、anti-HA(上段), anti-FLAG(中段)でwestern blotした。下段は等量のcell lysateをanti-VSV抗体でwestern blotした。*;SUMO-1-or ubiquitin-conjugated Topo1、←;unconjugated Topo1. 図2.Identification of K117 of Topo1 as the major sumoylation site. (A)HT1080細胞にFLAG-wild-type(WT), K117R, K153R, Y723F Topo1をHA-SUMO-1と共発現させ、図1同様CPT処理、anti-FLAG抗体にて免疫沈降、anti-HA(上段)及びanti-FLAG抗体(下段)にてwestern blotした。(B)HT1080細胞にFLAG-wild-type(WT), K117R, Y723F Topo1を発現させ,(A)同様にCPT処理、免疫沈降後、anti-SUMO-1(上段)及びanti-FLAG抗体(下段)にてwestern blotした。*;SUMO-1-conjugated Topo1、←;unconjugated Topo1. 図3.Sumoylation-dependent enhancement of Topo1-DNA covalent complex formation after CPT treatment. Transfection後24時間の細胞をCPT(1μg/ml)で処理、ICT bioassay法により等量の細胞DNAをmembraneにブロット後抗FLAG抗体でプローブした。(A)293T細胞にFLAG-WT(WT)またはK117R Topo1(K117R)をHA-SUMO-1と共発現、CPT処理後0.5μgDNAをブロット(B)HT1080細胞にcontrol vector(Mock), FLAG-WT(WT), K117R-Topo1(K117R)をHA-SUMO-1と共発現.CPT処理30分後のDNAをブロット(左から1,0.5,0.25μgずつ)(C)HT1080細胞にFLAG-WT(WT)とcontrol vector(Mock)またはVSV-UBC9cs(UBC9cs)を共発現,CPT処理15分後のDNAをブロット(左から6,3,1.5μgずつ)(D)HT1080細胞にFLAG-WT(WT)またはcontrol vector(Mock)とHA-SUMO-1(SUMO-1)またはcontrol vector(Mock)を共発現,CPT処理15分後のDNAをブロット(左から6,3,1.5μgずつ) | |
審査要旨 | 固形癌に於いて臨床的有用性が認められる抗腫瘍剤Camptothecin(CPT)の暴露に於いて、細胞内でそのtargetであるDNA topoisomerase1(Topo1)とubiqutin様蛋白の一つであるSUMO-1との結合(sumoylation)という現象が認められているが、その生物学的意義については細胞のCPT耐性に関与することが推定されているに過ぎず詳細は明らかでない。本研究では確立された固形癌細胞系に外因性にTopo1, SUMO-1を発現させる実験系を作成、Topo1に変異を導入することでTopo1-sumoylationの意義の解明を試み、下記の結果を得た。 1.Topo1に於いてSUMO-1蛋白結合部位となりうる複数のリシン残基に変異を導入、複数のヒト細胞株内でのCPT依存性sumoylationを検討し、117番目及び153番目のリジン変異Topo1(Topo1 KR mutant)に於いてsumoylationが減弱していることを見出した。117番目のリジン変異Topo1(K117R Topo1)では単一の変異により複数のSUMO-1蛋白結合が強く抑制された。これらのリジン変異Topo1ではubiqutinとの結合には変化を認めなかった。これらの結果から117番目のリジンがヒトTopo1における主要なSUMO-1修飾部位であることが示された。 2.Wild-type Topo1とK117R-Topo1について、in-vitroの系に於いてTopo1の酵素活性であるDNA relaxation活性、及びCPTによるDNA relaxation活性阻害を検討し両者に差を認めなかった。またK117R-Topo1導入細胞の免疫染色に於ける検討では、K117R-Topo1の細胞内局在(核移行)はWild-type-Topo1と明らかな差を認めなかった。これらの結果からTopo1のSUMO-1蛋白との結合はTopo1の酵素活性自体や細胞内局在(核移行)ではない機能を担っていることが強く示唆された。 3.In-vivo Conjugation of Topoisomerase(ICT) bioassayに於いて、CPT暴露に依存してDNAに結合・安定化するTopo1(cleavable complex)の量変化をWild-type Topo1とK117R-Topo1について検討し、K117R mutant Topo1ではwild-typeに比べ、CPT処理後に形成されるcleavable complex量が少ない結果が得られた。またwild-type Topo1のcleavable形成量は、Topo1-sumoylationに同調して増減することが明らかとなった。これらの結果からTopo1のsumoylationはCPTにより誘導されるcleavable complex形成に促進的に作用することが示された。 4.mutant Topo1のsumoylation実験に於いて、Topo1の活性中心である723番目のチロシンに変異を導入するとCPT非依存性にSUMO-1修飾を強く受けることを見出した。活性中心のmutantはtopoisomeraseとしての活性を失いcleavable complexを形成しないことから、topoisomerase活性消失自体がTopo1-sumoylationの契機となっている可能性が示唆された。 5.Wild-type Topo1とK117R-Topo1導入細胞に於いてCPTによる細胞死を検討したところ、SUMO-1蛋白の結合が強く抑制されたK117R-Topo1導入細胞ではCPTによる細胞死(apoptosis)がWild-type Topo1導入細胞より減少した。この結果からTopo1-sumoylationはcleavable complex形成増加を通して、CPTによる細胞死に促進的に作用することが強く示唆された。 以上、本論文はTopo1に於ける主要なSUMO-1蛋白修飾部位がK117であり、K153を含む複数箇所でのsumoylationを制御していることを明らかにし、またTopo1-sumoylationが細胞内でTopo1のDNAへのrecuruitmentを制御し、cleavable complex形成に促進的に作用してCPT感受性を増強しうる機構であることを示した。これによって今まで未知であったTopo1のsmmoylationの意義がTopoisomerase inhibitorsによるDNA damageを正に制御し得る機構にあることを示し、同種の薬剤の抗腫瘍活性を検討するにあたり重要な要因であることを示唆すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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