学位論文要旨



No 118353
著者(漢字) 郭,鐳
著者(英字) Guo,Lei
著者(カナ) カク,ライ
標題(和) 臓器移植モデルにおける、抗-ICOS抗体を用いた、T細胞共役刺激因子経路の抑制による、移植免疫寛容メカニズム
標題(洋) The Mechanism of Tolerance Induction by Blocking Co-stimulatory Pathway with an Anti-ICOS Antibody in Rat Transplantation Model
報告番号 118353
報告番号 甲18353
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2160号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 助教授 小池,和彦
 東京大学 助教授 菅原,寧彦
 東京大学 講師 大西,真
 東京大学 講師 武内,巧
内容要旨 要旨を表示する

 移植抗原に特異的に反応する、Tリンパ球の至適な活性化条件として、二種類のシグナル伝達が必要なことが、確立されてきた。第一シグナルは、TCRを介した、抗原特異的なものがそれであり、第二のシグナルは、共役刺激的な分子によってtransductされるものである。このTwo signal theoryに基づく、大きい興味ある点は、この第二のシグナルを操作・調節することによって、移植免疫反応を調節することである。

 近年第二シグナルの中で、CD28に関連した遺伝子群がTリンパ球の活性化を規定する上で、決定的役割を果たすことが、知られて来た。CD28を介したTリンパ球の共役刺激は、抗原特異免疫反応にとって極めて重要である。最近の研究によれば、B7/CD28族に属する他の遺伝子群が細胞、また体液の免疫反応の調節に関与している事が明らかとなって来た。これらの1つに、活性化-誘導リンパ球免疫調節分子(AILIM)と名付けられた共役刺激分子としてICOSがある。ICOSはCD28と異なり、静止期のT細胞表面には発現していないが、活性化されると、細胞表面上に誘導される。Coyle等の研究により、ICOSは、recent活性化されたTリンパ球にとって、重要な共役刺激受容体分子であり、更にICOSとそのligandの相互作用が免疫反応の継続には必要であることを明らかとなった。また免疫学的な二次反応は、CD28を介してというより、ICOSに支配されているという考えも提唱されつつある。しかしながら、移植モデルに於けるICOS共役刺激分子としての役割は、未だ確立されたものではなく、申請者は、本稿に於いて、

 先ず、セクション1では、ラット肝臓移植モデルを用い、抗-ICOS抗体単剤治療が、Tリンパ球活性化を抑制することによって、肝臓移植recipientの生存時間が著しく延長される事を示しました。移植臓器組織に於ける浸潤細胞はCD4、およびCD8 Tリンパ球であるが、抗体治療群では、graftのリンパ球浸潤を完全に抑制することが出来なかったが、一方、浸潤リンパ球に於けるICOSの発現はほぼ完全に抑制される事が明らかとなった。本結果は、ICOS co-stimulatory pathwayを介したTリンパ球活性化が移植臓器の拒絶に重要な役割を果たすことを示唆するものであり、co-stimulatory pathwayを調節することは、移植免疫を抑制する効果的な方法であると考えられる。

 次に、セクション2では、抗-ICOS抗体と免疫薬理作用を異にする、免疫抑制剤FK506との併用作用に関して検討を行った。両剤の併用により、長期安定した生存効果が得られる事が明らかとなった。組織的解析により、graft内のリンパ球浸潤が著しく抑制される事が明らかとなった。

 セクション3では、ラット心臓移植モデルを用い、抗-ICOS抗体投与が、早期の免疫抑制作用と同様に移植免疫寛容維持段階にも、重要な役割を果たしていることを示した。抗-ICOS抗体とAdCTLA-41gとの併用により、安定した免疫寛容状態が誘導され、それは免疫調節細胞として注目される、CD4+CD25+Tリンパ球populationと密接に関連している事が明らかとなった。

 最後に、セクション4では、ラット心臓移植モデルを用い、各種AdCTLA4-Igと抗-ICOS抗体、ドナー脾細胞、あるいはドナー骨髄細胞との併用で、それぞれの免疫寛容状態について検討を行った。三つの方法とも長期生存が観察された。中でも、AdCTLA4-Igと抗-ICOS抗体との併用グループでは、有意のregulatory CD25+CD4+免疫調節T細胞が誘導され、他の二群と比べ、より安定的な免疫寛容状態が誘導されたものと考えられた。申請者は、実際の移植臨床への応用として、こうした免疫調節分子を介した、regulatory T細胞の誘導による、新しい免疫寛容誘導法を提供した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は臓器移植拒絶反応において重要な役割を演じていると考えられる新たに発見されたCD28共役刺激因子経路ファミリーに属するICOS-ICOSL経路に関して、抗-ICOS抗体を用い、その免疫抑制と他の免疫抑制剤との併用による免疫寛容誘導作用において検討し、下記の結果を得ている。

 1.ラット肝臓移植モデルを用い、抗-ICOS抗体単剤治療が、Tリンパ球活性化を抑制することによって、肝臓移植recipientの生存時間が著しく延長される事を示しました。移植臓器組織に於けるリンパ球浸潤を完全に抑制することが出来なかったが、一方、浸潤リンパ球に於けるICOSの発現はほぼ完全に抑制される事が明らかとなった。本結果は、ICOS共役刺激因子経路を介したTリンパ球活性化が移植臓器の拒絶に重要な役割を果たすことを示唆するものであり、共役刺激因子経路を調節することは、移植免疫を抑制する効果的な方法であると考えられる。

 2.抗-ICOS抗体と免疫薬理作用を異にする、免疫抑制剤FK506との併用作用に関して検討を行ったところ、両剤の併用により、長期安定した生存効果が得られ、graft内のリンパ球浸潤が著しく抑制される事が明らかとなった。

 3.ラット心臓移植モデルを用い、抗-ICOS抗体とAdCTLA-41gとの併用により、安定した免疫寛容状態が誘導され、それは免疫調節細胞として注目されるCD4+CD25+Tリンパ球と密接に関連している事が明らかとなった。抗-ICOS抗体投与が、早期の免疫抑制作用と同様に移植免疫寛容維持段階にも、重要な役割を果たしていることを示した。

 4.ラット心臓移植モデルを用い、各種AdCTLA4-Igと抗-ICOS抗体、ドナー脾細胞、あるいはドナー骨髄細胞との併用で、それぞれの免疫寛容状態について検討を行ったところ、三つの方法とも長期生存が観察された。中でも、AdCTLA4-Igと抗-ICOS抗体との併用では、有意のCD25+CD4+免疫調節T細胞が誘導され、他の二群と比べ、より安定的な免疫寛容状態が誘導されたものと考えられた。実際の移植臨床への応用として、こうした免疫調節分子を介したregulatory T細胞の誘導による、新しい免疫寛容誘導法を提供した。

 以上、本論文は抗-ICOS抗体を用い、移植モデルに於けるICOS共役刺激分子としての役割を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、新しいICOS-ICOS Ligand T細胞共役刺激因子経路の抑制による、移植免疫抑制と免疫寛容のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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