学位論文要旨



No 118363
著者(漢字) 廣瀬,拓司
著者(英字)
著者(カナ) ヒロセ,タクジ
標題(和) 転写統合装置CBPに結合する核内因子の探索とその機能解析 : 軟骨細胞cDNA libraryのスクリーニングから
標題(洋)
報告番号 118363
報告番号 甲18363
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2170号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 助教授 岡崎,具樹
 東京大学 講師 井上,聡
 東京大学 講師 岡崎,裕司
内容要旨 要旨を表示する

 変型性関節症(OA)は最もよく見られる関節疾患で、その原因は主に物理的ストレスとされているが、軟骨細胞自体に由来する遺伝的、細胞病理的原因も存在すると思われる。本研究は真核細胞転写の統合装置として働くCBPと相互反応する軟骨細胞内因子を探索する事で軟骨細胞の分化、増殖のメカニズムの一端を解明しようとしたものである。CBPをbaitとしたヒト軟骨細胞cDNA libraryのyeast two-hybrid screeningによりクローニングされたいくつかの核内因子の内、細胞周期制御蛋白p34SEI-1に注目しその機能解析を行った。p34SEI-1とCBPの結合はin vitro、in vivo双方で確認され、その結合部位が調べられた。生細胞内でも直34SEI-1とCBPが核内で共局在していることが示された。p34SEI-1はE2F転写を活性化して細胞周期回転を促進する事が知られているが、本研究ではCREB系転写への影響をCRE-LUC reporter assayで検討し、p34SEI-1はCREB系転写を強く抑制する事が分った。またこの抑制作用はCBPとの結合に基づく事が示唆された。CREBシグナルヘの影響、細胞周期制御機能の両面からp34SEI-1が軟骨細胞の分化、増殖に関わる可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は真核細胞の転写制御において中心的役割を果たすコアクチベーターCBPに結合する新規の核内因子の同定を試みたものである。具体的には、軟骨細胞cDNAライブラリーからyeast two-hybrid法にてCBPに結合する蛋白をクローニングし、その中で得られた細胞周期調節因子p34SEI-1の機能解析を行っており、下記の結果を得ている。

 1.ヒト軟骨細胞由来cDNAライブラリーよりCBP結合因子としてp34SEI-1をクローニングした。

 2.p34SEI-1とCBPの結合はGST pull down,免疫沈降によりin vitro、in vivo双方で確認された。p34SEI-1内のCBP結合領域の同定も試みられたが、少なくともp34SEI-1のアミノ酸1〜174番の部分がCBPとの結合に必要であることが示唆された。蛍光免疫染色によりp34SEI-1とCBPが核内で複合体を形成していることも確認された。

 3.CRE-LUC reporter assayによりp34SEI-1はCREB転写に抑制的に働くことがわかった。また、この抑制作用がp34SEI-1とCBPの複合体形成に伴って起こり、CBPのC/H3領域にp34SEI-1とRHAが競合的に結合することに起因している可能性が示された。

 以上、本論文はCBP結合因子として核内因子p34SEI-1を同定した。p34SEI-1の細胞周期調節蛋白としての役割はすでに報告されていたが、CREB転写への影響を検討したのは本論文が初めてである。本研究は細胞周期と遺伝子発現の調節機構の解明につながる重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク