No | 118374 | |
著者(漢字) | クリスティン アンジェラ フィリップ | |
著者(英字) | Christine Angela Phillips | |
著者(カナ) | クリスティン アンジェラ フィリップ | |
標題(和) | 「リビングリハビリテーション」 : 医療・介護施設において軽-中等度の痴呆性老人の行動障害を管理する : 質的民族学的研究 | |
標題(洋) | "Living Rehabilitation" for managing behavioural symptoms in Institutionalised Elderly with Mild to Moderate Dementia : A Qualitative Ethnographic Study | |
報告番号 | 118374 | |
報告番号 | 甲18374 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第2181号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 国際保健学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 緒言及び目的 痴呆患者の行動障害に対して、薬物療法が依然有効な治療法と考えられているが、「リビングリハビリテーション」の有効性も注目されてきている。本研究の目的はリビングリハビリテーションの有効性を明らかにすることを目的とした活動プログラムを考案し、プログラムに参加した痴呆性老人の比較分析を行い、現在保健施設において行われている活動をもとに新たな活動プログラムを考案することにある。 方法と結果 質的民俗学的手法(Qualitative Ethnographic Methods)を用いた。データ収集期間は15ヶ月間で、はじめの6ヶ月間は様々な施設で痴呆性老人の観察と分析をおこなった。調査は、1)都市近郊にある養護施設のデイケアセンター、2)老人病院内の痴呆病棟、3)幼稚園でおこなった。病院入院患者(病院群)と養護施設の痴呆性老人(養護施設群)を対象としたが、分析過程を補足するため幼稚園児も対象に含めた。 データ収集は参加者の観察および非介入的観察法を用い、反応や出来事を記述した。またリビングリハビリテーションに対する意見や施設の規則、リハビリテーションやり方を聴取するために、情報提供者に対するインタビューを行った。 記録をもとにデータ分析を行うとともに、写真やビデオテープなどの視聴覚機材を用いて参加者の反応を記録した。参加者は70〜90歳の高齢者で、両群あわせて30人で、車椅子使用者から完全自立者までを含めた。また、幼稚園児29人を対象に教室やその周辺で3ヶ月間観察を行った。 プログラムは1週間に2回の頻度で6ヶ月間、病院の作業療法士と養護施設のレクリエーション専門家とともに観察を行った。データ分析はWolcott(1994)とSpradley(1980)の方法を組み合わせた民俗学的手法に従った。 病院群および養護施設群間でリビングリハビリテーションプログラムに対する反応の相違が認められた。類似点と相違点は病院群および養護施設群の各々に影響を及ぼす因子によって異なっていた。病院群では養護施設群よりも不満や不寛容を示し、否定的な反応が多かった。それに対して、養護施設群は肯定的反応を示し、プログラムに対する協調姿勢を認められた。 また、病院群、養護施設群とも、参加者の反応は様々な因子の影響を受けた。すなわち、病院群では、薬剤の副作用、合併症、認知障害、視聴覚機材の使用、性的偏見などが顕著であった。これに対し、養護施設群では不十分な社会活動、参加者の身体能力および認知能力、意思決定、動機、第三者の存在などが顕著であった。しかし、両群において参加期間、教育レベルや習慣などの背景因子、状況設定、まとめ役の介助などが共通の因子として認められた。 病院群では養護施設群に比べて、リビングリハビリテーションを受容しない姿勢が顕著で、不満の程度が高く、治療者または介護者の介助なしにプログラムを継続することが困難であった。また、痴呆性老人の行動と同じ文化的背景の小児の行動に類似点を認めた。痴呆性老人の退行行動は、介護者を含め周囲の者にとってしばしば脅威であり、侮蔑や困惑の原因となり、否定的な印象を与えた。リビングリハビリテーションは痴呆性老人の退行行動を管理するために適切であることが強く示唆された。例えば、痴呆性老人がリビングリハビリテーションプログラムに参加し、介護者がその退行行動を受容することによって、困難な行動を管理しやすくなることが明らかとなったことなどである。 リビングリハビリテーションの目的は機能を回復することではなく、本人が望まない行動を抑止することでもない。むしろ参加者が議論やプログラムに積極的に参加しようとする意思に注目する。参加者は肯定的にも否定的にもプログラムに参加することができ、リビングリハビリテーションはこれらの意思をサポートするが、受動的な参加者に対しては拮抗的に働くことが明らかとなった。 結語 本研究により、様々な薬物療法を受けた患者に対しては、いかなる長期の非薬物的治療も効果が低いことが示唆された。痴呆患者の多くが脳血管疾患や高血圧などの慢性疾患に罹患しており、痴呆の治療に加えて他疾患の治療を受けているからと考えられた。従って、リビングリハビリテーションが有効に機能するためには、薬物治療を受けていないことが望ましいといえる。 痴呆に対しては未だ有効な治療法は確立されていないが、適切な非薬物治療及び管理によりかなり改善されうることが本研究により示唆された。本研究は日本の痴呆性老人に対する介入プログラムを立案する際に、リビングリハビリテーションが有用である可能性を明らかすることが出来たと考えられる。このプログラムをカリブ海地域において応用することを将来的な目標とする。 | |
審査要旨 | 本研究の目的は痴呆患者の行動障害に対して、リビングリハビリテーションの有効性を明らかにすることを目的とした活動プログラムを考案し、プログラムに参加した痴呆性老人の比較分析を行い、現在保養施設で行われている活動をもとに新たな活動プログラムを考案することにある。 1.質的民俗学的手法を用いた。データ収集期間は15ヶ月間で、病院入院患者(病院群)と養護施設の痴呆性老人(養護施設群)を対象としたが、分析過程を補足するため幼稚園児も対象に含めて観察と分析を行った。 データ収集は参加者の観察および非介入的観察法を用い、反応や出来事を記述した。またリビングリハビリテーションに対する意見や施設の規則、リハビリテーションのやり方を聴取するために、情報提供者に対するインタビューを行った。 2.記録をもとにデータ分析を行うとともに、写真やビデオテープなどの視聴覚器材を用いて参加者の反応を記録した。プログラムは1週間に2回の頻度で6ヶ月間、病院の作業療法士と養護施設のレクリエーション専門家とともに観察を行った。データ分析はWolcott(1994)とSpradley(1980)の方法組み合わせた民俗学的手法に従った。 3.病院群および養護施設群間でリビングリハビリテーションプログラムに対する反応の相違が認められた。類似点と相違点は病院群および擁護施設群の各々に影響を及ぼす因子によって異なっていた。病院群では擁護施設群よりも不満や不寛容を示し、否定的な反応が多かった。それに対して、養護施設群は肯定的反応を示し、プログラムに対する協調姿勢を認められた。また、両群とも参加者の反応は様々な因子の影響を受けたが、参加期間、教育レベルや習慣などの背景因子、状況設定、まとめ役の介助などが共通の因子として認められた。 4.病院群では擁護施設群に比べて、リビングリハビリテーションを受容しない姿勢が顕著で、不満の程度が高く、治療者または介護者の介助なしにプログラムを継続することが困難であった。また、痴呆性老人の行動と同じ文化的背景の小児の行動に類似点を認めた。 5.リビングリハビリテーションの目的は機能を回復することではなく、本人が望まない行動を抑止することでもない。むしろ参加者が議論やプログラムに積極的に参加しようとする意思に注目する。参加者は肯定的にも否定的にもプログラムに参加することができ、リビングリハビリテーションはこれらの意思をサポートするが、受動的な参加者に対しては拮抗的に働くことが明らかとなった。また、本研究により、様々な薬物療法を受けた患者に対しては、いかなる長期の非薬物的治療も効果が低いことが示唆された。痴呆患者の多くが脳血管疾患や高血圧などの慢性疾患に罹患しており、痴呆の治療に加えて他疾患の治療を受けているからと考えられた。従って、リビングリハビリテーションが有効に機能するためには、薬物治療を受けていないことが望ましいといえる。 以上、本論文は痴呆に対しては未だ有効な治療法は確立されていないが、適切な非薬物治療及び管理によりかなり改善されうることを示唆しており、本研究は日本の痴呆性老人に対する介入プログラムを立案する際に、リビングリハビリテーションが有用である可能性を明らかにすることが出来たと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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