学位論文要旨



No 118408
著者(漢字) 杉山,大介
著者(英字)
著者(カナ) スギヤマ,ダイスケ
標題(和) 血液脳関門、血液脳脊髄液関門における新規輸送担体、rat Oatp14、及びhuman OATP-Fの機能解析
標題(洋) Characterization of novel transporters expressed in the blood-brain barrier and blood-cerebrospinal fluid barrier, rat Oatp14 and human OATP-F
報告番号 118408
報告番号 甲18408
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1041号
研究科 薬学系研究科
専攻 生命薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 助教授 鈴木,洋史
内容要旨 要旨を表示する

【序】

 血液脳関門は脳毛細血管内皮細胞により構成され、内皮細胞の細胞間はtight junctionにより結合されており、更にfenestra、pinocytosisが存在しないという特徴を有している。従って、循環血中の化合物が中枢へ移行するためには経細胞輸送を介さなければならず、水溶性の高いまたは分子量の大きい化合物など、細胞膜への分配が小さい化合物の脳内への移行は小さい。水溶性の高いアミノ酸やグルコースなどの栄養物質はトランスポーターと呼ばれる膜蛋白により血液中からを中枢神経系へと供給される。一方、脳毛細血管内皮細胞には異物の汲み出しを行っているトランスポーターも存在しており、これら異物排泄に関わるトランスポーターは中枢神経系を異物の侵入から守るバリアー機構の一つと考えられている(Fig.1)。特に脂溶性の高い中性・カチオン性化合物の場合、血管側膜に発現するP-glycoprotein(Mdr1)により、その中枢移行は著しく制限される。一方、アニオン性化合物については、in vivo並びにin vitroでの輸送実験に基づいて、脳毛細血管内皮細胞におけるp-アミノ馬尿酸(PAH)、taurocholate、BQ-123などのアニオン性化合物に対応する排出輸送機構の存在、及びいくつかの有機アニオントランスポーターの存在が報告されてきた。特にOrganic anion transporting polypeptide 2(Oatp2)は脳毛細血管内皮細胞の脳側・血管側の両細胞膜に発現しており、細胞内への取り込み・細胞内からの排出の両方向に働きうるトランスポーターである。私は既にステロイドのグルクロン酸抱合体である17b estradiol-D-17b-glucuronide(E217bG)の脳内からの排出において、一部がOatp2により説明されること(1)、及びMultidrug resistance associated protein 1(Mrp1)がE217bGの血管側からの排出に関与していること(2)を報告している。しかし阻害実験の結果から、E217bGの脳内からの排出はこれらトランスポーターのみで完全には説明できなかった。そこで、私はその排出を担う有機アニオントランスポーターの同定を目的とし脳毛細血管内皮細胞に高発現していることが報告されていたrat Oatp14とそのヒトホモログであるhuman OATP-Fの機能解析に取り組んだ。

【rat Oatp14の機能解析】

 rat Oatp14の組織分布 Oatp14遺伝子のcDNA断片をプローブとして用い、ラットの各組織から得られたmRNAに対してNorthern Blotを行ったところ、脳において2.6kbp付近にバンドが検出された。また、Oatp14のC末の17残基に対して作製した抗Oatp14ポリクローナル抗体を用い、ラット脳、脳毛細血管、脳脈絡叢に対してWestern Blotを行ったところ、脳毛細血管、及び脳脈絡叢でOatp14特異的なバンドが検出された。さらに、ラット小腸由来のmRNAを用いてRT-PCRを行ったところ、Oatp14由来のバンドが検出された。免疫染色を行ったところ、rat Oatp14が脳毛細血管内皮細胞、及び脳脈絡叢上皮細胞の血管側膜に発現していることが示された。

 rat Oatp14の輸送特性の解析 ラット大脳から単離したmRNAからRT-PCRによりOatp14のORF領域を増幅し、発現ベクターであるpcDNA3.1(+)に組み込んだ。ヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞にトランスフェクションすることにより、rat Oatp14の安定発現系を作製し、種々輸送実験を行った。最初にE217bGがratOatp14の基質か否かについて検討したところ、E217bGのOatp14発現細胞への取り込みはvector発現細胞への取り込みと比較して有意に高く、その親和性はKm=10mMと算出され、他のOatp familyに対するKm値(3)とほぼ同程度であることが示された。次にOatp14の基質特異性を明らかにするために、E217bGのOatp14発現細胞への取り込みに対する種々化合物の影響を検討した。Oatp14に対するプロベネシドなどの典型的な阻害剤の親和性は他のOatp familyに対する親和性とほぼ同程度であることが示されたが、甲状腺ホルモンであるthyroxine(T4)のOatp14に対する阻害効果は非常に高く、その親和性は他のOatp familyに対する親和性と比較して非常に高いことが示された。次にT4を含めた甲状腺ホルモンやHMG-CoA還元酵素阻害剤cerivastatinなどのOatp14に対する阻害効果の高かった化合物がOatp14の基質か否かについて検討した。Oatp14の中性ステロイドやペプチドなどを含む種々化合物に対する輸送活性が示され、特に甲状腺ホルモンであるT4、及びreverse T3に対する非常に高い輸送活性が示された。一方、triiodothyronine(T3)のOatp14発現細胞への有意な取り込みは観察されたものの、その活性はT4及びreverse T3に比較して非常に小さいことが示された。また、T4のOatp14に対する親和性はKm=0.18mMと算出され、既知のOatp familyに対する親和性と比較して50倍以上の高親和性であることが示された(Fig.2)。よって、その局在を考慮すると、rat Oatp14が血液脳関門及び血液脳脊髄液関門を介したT4輸送に関わっていることが示唆された。

 甲状腺機能亢進症モデル、及び低下症モデルにおけるrat Oatp14の発現量変化 rat Oatp14の生体における血液脳関門を介したT4輸送への関与が示唆されたことから、甲状腺ホルモン異常の病態である甲状腺機能亢進症、及び低下症時におけるrat Oatp14の脳毛細血管内皮細胞での発現量変化をそれぞれのモデル動物を用いて検討した。甲状腺機能亢進症のモデルとして、生後6週齢から4日間T3を皮下投与したラットを、甲状腺機能低下症のモデルとして、生後6週齢において甲状腺切除したラット、及び生後6週齢から28日間0.05% methimazole(MMI)水を飲ませたラットを作製し、それぞれから脳毛細血管を単離し、RT-PCR、及びWestern Blotにより発現量変化を検討した。その結果、T3投与による甲状腺亢進症モデルでのrat Oatp14の発現量の減少、及び甲状腺切除による甲状腺低下症モデルでの発現量の増加がRT-PCR、Western Blotの両者で観察された(Fig.3)。甲状腺ホルモンの血中濃度は甲状腺亢進症時では上昇し、甲状腺低下症時では下降することから、rat Oatp14の発現量が甲状腺ホルモンで制御されていることが示唆され、さらにその発現量変化から、rat Oatp14が血液脳関門を介した血中から脳内への中枢移行に関わっていることが示唆された。

【human OATP-Fの機能解析】

 human OATP-Fの組織分布 ヒト各組織から調製されたcDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、脳由来のcDNAから強いバンドが検出され、また空腸由来のcDNAからもバンドが検出された。よって、human OATP-Fはrat Oatp14と同様に脳、及び小腸に高発現していることが示された。さらに免疫染色の結果から、human OATP-Fが脳毛細血管内皮細胞、及び脳脈絡叢上皮細胞の血管側膜に発現していることが示され、これらの結果からhuman OATP-Fがrat Oatp14のヒトホモログであることが組織分布からも示唆された。

 human OATP-Fの輸送特性の解析 ヒトESTデータベースを検索したところ、OATPF類似配列を持ったクローンが数種類見つかった。Open reading frame(ORF)領域の塩基配列を確認した結果、既知のhuman OATP-FのORF領域の塩基配列とは3塩基異なるもののアミノ酸変異は伴わない塩基配列(OATPF)、及び3つのアミノ酸変異を伴う塩基配列(OATP-F*)の2種類が含まれていた。humanOATP-Fは、E217bG、cerivastatin、reverse T3、T4などのrat Oatp14基質に対して輸送活性を有し、特にT4に対して非常に高い輸送活性を有していた。また、その親和性はKm=0.075mMと算出されrat Oatp14に対する親和性とほぼ同程度であり(Fig.4)、その基質特異性からもhuman OATP-Fがrat Oatp14のヒトホモログであることが示唆された。一方、human OATP-F*の場合、E217bG、及びcerivastatinのOATP-F*発現細胞への取り込みはOATP-Fと変わらないものの、T4の取り込みは著しく減少した(Fig.5)。OATP-F、及びOATP-F*発現細胞から細胞膜を調製し、Western Blotを行ったところ、約80kDa付近にOATP-F特異的なバンドが検出されたことから、OATP-F、及びOATP-F*の両者ともに膜に発現していることが示された。従って、3つのアミノ酸変異によりT4特異的な輸送活性の低下が生じるものと考えられる。次にOATP-F*が有する変異の頻度を明らかにすることを目的として、90人のヒトゲノムを対象にゲノム配列を決定した。その結果、この3つの変異とも90人のゲノムからは見つからず、この変異の頻度は小さいものと考えられる。

【まとめ】

 rat Oatp14及びhuman OATP-Fは血液脳関門、及び血液脳脊髄液関門を介したT4の中枢移行に関与していることが示唆されたが、その寄与がどの程度であるかは今後の検討課題である。現在までに循環血中から中枢への甲状腺ホルモン輸送について詳細な研究はほとんどなく、その輸送メカニズムは全く明らかとされていない。一方、脳内において甲状腺ホルモンは脳の成長、分化に関わることが知られており、特に胎児期、及び新生児期では不可欠とされ、この時期の甲状腺ホルモン低下により知能障害や小頭症などの症状を呈することが知られている。OATP-Fの脳毛細血管での役割を考慮すると、OATP-Fが甲状腺ホルモンの脳内ホメオスタシスを制御するメカニズムの一つであると考えられる。よって、甲状腺ホルモン異常が原因と疑われる種々中枢性疾患におけるOATP-Fの遺伝子変異と機能変動との関連を検討していくことが必要であり、本研究が中枢における甲状腺機能低下症の病態改善に繋がると期待している。

【参考文献】

1). D.Sugiyama et al, J. Pharmacol. Exp. Ther. 298, 316-322, 2001.

2). D.Sugiyama et al, Pharm. Res. Submitted.

3). D.Sugiyama et al, Drug. Metab. Dispos. 30, 220-223, 2002.

Fig. 1 Transport Systems at the BBB

Fig. 2 Time profiles and concentration dependence of the uptake of T4 by Oatp14-expressed HEK293 cells

Fig. 3 Comparison of the expression level of rat Oatp14 on the BBBin hyperthyroid and hypothyroid condition

Fig. 4 Time profiles and concentration dependence of the uptakeof T4 by OATP-F-expressed HEK293 cells

Fig. 5 Comparison of the transport activity between OATP-Fand OATP-F*

審査要旨 要旨を表示する

 血液脳関門は脳毛細血管内皮細胞により構成され、内皮細胞の細胞間はtight junctionにより結合されており、水溶性の高いまたは分子量の大きい化合物など、細胞膜への分配が小さい化合物の脳内への移行は小さい。また、異物排泄に関わるトランスポーターが発現し、中枢神経系への異物の侵入を制限している。特に脂溶性の高い中性・カチオン性化合物の場合、血管側膜に発現するP-glycoprotein(Mdr1)により、その中枢移行は著しく制限される。一方、アニオン性化合物については、in vivo並びにin vitroでの輸送実験に基づいて、脳毛細血管内皮細胞におけるアニオン性化合物に対応する排出輸送機構の存在、及びいくつかの有機アニオントランスポーターの発現が報告されてきた。特にOrganic aniontransporting polypeptide 2(Oatp2)は脳毛細血管内皮細胞の脳側・血管側の両細胞膜に発現しており、細胞内への取り込み・細胞内からの排出の両方向に働きうるトランスポーターである。申請者は既にステロイドのグルクロン酸抱合体である17b estradiol-D-17b-glucuronide(E217bG)の脳内からの排出において、一部がOatp2により説明されること、及びMultidrugresistance associated protein 1(Mrp1)がE217bGの血管側からの排出に関与していることを報告している。しかし阻害実験の結果から、E217bGの脳内からの排出はこれらトランスポーターのみで完全には説明できなかった。そこで、本研究ではその排出を担う有機アニオントランスポーターの同定を目的とし脳毛細血管内皮細胞に高発現していることが報告されていたrat Oatp14とそのヒトホモログであるhuman OATP-Fについて研究が行われた。

(1)新規ラットトランスポーター(Rat Oatp14)の機能解析

 Northern blot、RT-PCR、Western blot、及び免疫染色法を用い、rat Oatp14の組織分布、局在を検討した。Rat Oatp14は脳、及び小腸での発現が見られ、特に血液脳関門を構成する脳毛細血管内皮細胞、血液脳脊髄液関門を構成する脈絡叢上皮細胞に強く発現し、両細胞の血管側膜に局在していることが示された。

 ラット大脳からOatp14のORF領域をRT-PCRにより増幅し、rat Oatp14の安定発現系を作製し、種々輸送実験を行った。E217bGやHMG-CoA還元酵素阻害剤cerivastatinなどの種々有機アニオン化合物を基質にすることが示されたが、特に甲状腺ホルモンであるthyroxine(T4)の輸送活性が最も高く、その親和性はKm=0.18mMと算出され、既知のOatpfamilyに対する親和性と比較して50倍以上の高親和性であることが示された。一方、triiodothyronine(T3)のOatp14発現細胞への有意な取り込みは観察されたものの、その活性はT4及びreverse T3に比較して非常に小さいことが示された。よって、その局在を考慮すると、rat Oatp14が血液脳関門及び血液脳脊髄液関門を介したT4輸送に関わっていることが示唆された。

 Rat Oatp14のT4輸送に対する寄与を明らかにする目的で、甲状腺ホルモン異常の病態である甲状腺機能亢進症、及び低下症時におけるrat Oatp14を含む他のOatp familyの脳毛細血管内皮細胞での発現量変化をそれぞれのモデル動物を用いてRT-PCR、及びWestern blotにより検討した。その結果、T3投与による甲状腺亢進症モデルでのrat Oatp14の発現量の減少、及び甲状腺切除による甲状腺低下症モデルでの発現量の増加がRT-PCR、Western blotの両者で観察されたが、他のOatp familyであるOatp2、及びOatp3の発現量変化は観察されなかった。甲状腺ホルモンの血中濃度は甲状腺亢進症時では上昇し、甲状腺低下症時では下降することから、rat Oatp14の発現量が甲状腺ホルモンで制御されていることが示唆され、さらにその発現量変化から、rat Oatp14が血液脳関門、及び血液脳脊髄液関門を介した血中から脳内への中枢移行に関わっていることが示唆された。

(2)新規ヒトトランスポーター(Human OATP-F)の機能解析

 ヒト各組織から調製されたcDNAに対してPCRを行ったところ、脳由来のcDNAから強いバンドが検出され、また空腸由来のcDNAからもバンドが検出された。さらに免疫染色により、human OATP-Fが脳毛細血管内皮細胞、及び脳脈絡叢上皮細胞の血管側膜に発現していることが示された。よって、human OATP-Fがrat Oatp14のヒトホモログであることが組織分布、及び局在からも示唆された。

 ヒトESTデータベースを検索した結果、既知のhuman OATP-FのORF領域の塩基配列とは3塩基異なるもののアミノ酸変異は伴わない塩基配列(OATP-F)、及び3つのアミノ酸変異を伴う塩基配列(OATP-F*)の2種類が含まれており、両者の遺伝子発現系をそれぞれ作製し、種々輸送実験を行った。human OATP-Fは、E217bG、cerivastatin、reverse T3、T4などのrat Oatp14基質に対して輸送活性を有し、特にT4に対して非常に高い輸送活性を有していた。また、その親和性はKm=0.075mMと算出されrat Oatp14に対する親和性とほぼ同程度であり、その輸送特性からもhuman OATP-Fがrat Oatp14のヒトホモログであることが示唆され、その局在を考慮すると、human OATP-Fもrat Oatp14と同様に血液脳関門、及び血液脳脊髄液関門を介した血中から脳内への中枢移行に関わっていることが示唆された。一方、human OATP-F*の場合、E217bG、及びcerivastatinのOATP-F*発現細胞への取り込みはOATP-Fと変わらないものの、T4の取り込みは著しく減少した。OATP-F、及びOATP-F*発現細胞から細胞膜を調製し、Western blotを行ったところ、約80kDa付近にOATP-F特異的なバンドが検出されたことから、OATP-F、及びOATP-F*の両者ともに膜に発現していることが示された。従って、3つのアミノ酸変異によりT4特異的な輸送活性の低下が生じるものと考えられる。次にOATP-F*が有する変異の頻度を明らかにすることを目的として、90人のヒトゲノムを対象にゲノム配列を決定した。その結果、この3つの変異とも90人のゲノムからは見つからず、この変異の頻度は小さいものと考えられる。

 以上、本研究では血液脳関門、及び血液脳脊髄液関門に発現する新規トランスポーター、rat Oatp14、及びhuman OATP-Fについて検討し、以下の点を明らかにした: 1、rat Oatp14、及びhuman OATP-Fが脳、及び小腸に発現し、特に脳毛細血管内皮細胞、脳脈絡叢上皮細胞の血管側膜に局在すること。2、rat Oatp14、及びhuman OATP-Fが種々有機アニオン化合物を基質とし、特に甲状腺ホルモンであるT4に対して高い輸送活性を有し、その親和性は他のOatp familyと比較して非常に高親和性であること。さらに、human OATP-Fにおいて、その頻度は低いものの、T4特異的な輸送活性の低下を生じる変異体が存在すること。3、rat Oatp14の脳毛細血管内皮細胞での発現量が血中甲状腺ホルモン濃度により変化すること。以上の結果より、rat Oatp14、及びhuman OATP-Fが血中から中枢へのT4輸送に大きく関与していることが示唆された。一方、脳内において甲状腺ホルモンは脳の成長、分化に関わることが知られており、特に胎児期、及び新生児期では不可欠とされ、この時期の甲状腺ホルモン低下により知能障害や小頭症などの症状を呈することが知られている。OATP-Fの脳毛細血管での役割を考慮すると、OATP-Fが甲状腺ホルモンの脳内ホメオスタシスを制御するメカニズムの一つであると考えられる。よって、甲状腺ホルモン異常が原因と疑われる種々中枢性疾患におけるOATP-Fの遺伝子変異と機能変動との関連を検討していくことが必要であり、本研究が中枢における甲状腺機能低下症の病態改善に繋がると考えられる。

 以上のように、本研究は血液脳関門、及び血液脳脊髄液関門に発現し、甲状腺ホルモンを良好な基質とする新規トランスポーターを明らかにし、その寄与を病態時での発現量変化から示唆したものである。現在までに循環血中から中枢への甲状腺ホルモン輸送について詳細な研究はほとんどなく、その輸送メカニズムは全く明らかとされていないことから、本研究は中枢への甲状腺ホルモン輸送研究に対する端緒を開く研究であると考えられ、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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