学位論文要旨



No 118461
著者(漢字)
著者(英字) SANJIB,BARUA
著者(カナ) サンジブ,バルア
標題(和) バングラデッシュの沿岸都市における災害軽減の医療施設に関する研究
標題(洋) Study on Healthcare Design for Disaster Mitigation in Coastal Cities of Bangladesh
報告番号 118461
報告番号 甲18461
学位授与日 2003.05.14
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5556号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 助教授 岸田,省吾
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 高田,毅士
内容要旨 要旨を表示する

この研究は、バングラデッシュの沿岸都市におけるプライマリーヘルスケア施設での災害時ならびに平常時において、地域住民に効果的な医療サービスを提供できる救急医療支援スペースや外部からの可動医療ユニット連結のために有効な施設計画・設計のあり方を提示することが最終目的である。この論文では、具体的に医療施設と小学校施設の複合的常設施設の計画を実現するための適切な検討項目を抽出し、検証することを目的とした。 特に、その地域に適合した伝統的な資源を用いながら設計条件を満たすことができるシステマティックな方法を設立することを次の目標としている。

本論文は、第I章「序論」、第II章「理論構成」、第III章「ケーススタディ」、第IV章「討論・結論」から構成される。

第I章「序論」では、研究の目的・視点・背景・意義を述べた。

第II章「理論構成」では、まず災害の定義を述べ、ヘルスケアの分野での災害の軽減の必要性を論じた。次に、災害管理研究と評価、そして、バングラデッシュの沿岸都市の災害事例とリスク評価、また世界保健機構の評価研究とバングラデッシュにおける保健医療水準について触れた。バングラデッシュの沿岸都市での災害時対策用の各種施設の評価を小学校に併設された災害時診療施設(PSSC)と都市部におけるプライマリーケアーユニット(UPHCP)についてその働きを支える多様な組織を紹介しながら活動の概要を論じた。さらに既存の医療施設を災害時・平常時いずれも機能する施設に改装した事例を取り上げて、災害時における必要な各室の面積規模の算定の資料にした。それらの基本として、バングラデッシュのヘルスケアサービスの供給体系を示し、今回のテーマにおける問題点のまとめを行った。

仮説として提示したのは以下の2点である。

地域施設での常設医療システム、すなわち緊急時も考慮に入れ、UPHCPやPSSCが救急医療設備を備えて、予想される状況に対して前線施設あるいは草の根レベルでのお互いの連携を深めることができれば、より迅速な対応が可能となるはずではないか?

地域を基盤とした物理的・機能的向上を段階的に行っていくこと、具体的には施設間の連携強化を通した可動診療ユニットをUPHCPやPSSCに付加することが必須のはずではないか?

第III章「ケーススタディ」では、まず調査対象の概要を述べた。すなわち都市部の2つの施設、37区のNorth-middle halishahar UPHCP と38区のにあるSouth-middle halishahar UPHCP、ならびにHalishaharにあるPSSCと高等学校併設型のPSSCである。、これらはお互い海岸線から1,2キロメートル離れて並んでいる。なおHalishaharは50%都市部の近郊、50%農村部で占められた海岸地域で定期的にサイクロンと高潮に見舞われる。次に調査の概要を述べた。すなわち2001年8-9月から2002年2-3月にかけて、バングラデッシュの沿岸都市チッタゴン(Chittagong)における地域診療所、UPHCP、PSSCでの医師・看護婦・患者そしてその他のスタッフ・地域住民・学校の教師や生徒へのインタヴューを行い、また、現存する施設の実測とスケッチ、加えて個々の調査ケースについてビデオドキュメントを作成した。なお、NHKによるサイクロン時の避難所(シェルター)プロジェクトに関連した緊急時想定ビデオを参考にした。

高校併設型のPSSCは、オーストリアのウィーン工科大学デザインスタジオと日本の東京大学工学研究科建築学専攻の大学院の設計の課題になり、学生から提案されたいくつかの方式についての解説を加えた。

第IV部「討論・結論」では、災害時に稼動する小学校に併設された災害時診療施設(PSSC)における救急用の診療部門について、また都市部におけるプライマリーケアーユニット(UPHCP)との関係、そして新築の施設においてどのようにこれらの機能を盛り込むかについて論じた。そして災害時に実際に緊急医療ユニットがどのような貢献をするかについて、そして最後にこれらがユニバーサル・デザインの視点から考えられるべきことを結論づけた。

本研究の結論は以下のようにまとめることができる。

物理的増築

診療所の水平方向及び垂直方向における物理的な増築に関しては、累積値によって正確な結果が得られることがわかった。事例01及び03におけるユニットの累積増加の割合は、各々0.23%、0.26%である。また新しい建設事例である03の増加値は、みられなかった。UPHCPの事例01及び事例02の敷地測定を行うことにより事例01において、南側に空地(60×71)sft、西側に(30×45) sftの私有の空地があることがわかった。出入用道路の幅は10 ftである。また通常の水位は0であるが、津波の場合には、10-12ftの高さに達する。事例02においては、南東に(30×35) sftの空地があった。出入用道路の幅は7 ftであり、水位データは事例01と同じである。小学校避難所クリニックについては、全敷地は(160×130)sft、小学校避難所クリニックの元来の大きさは(48×48)sft、新しい構築物が学校に付加された部分は(63×27)sftであり、出入用道路の幅は15ftである。

高校と複合化した小学校避難所クリニックモスクについたは、オリジナルの小学校避難所クリニック(48×48) sftを含む全敷地の合計は(347× 210) sftである。新しい小学校の大きさは(103×27)sftである。オリジナルの高校の大きさは(210×27) sft、新しいブロックは(150×27) sftである。出入用道路の幅は15ftであり、どちらの学校も、敷地と同じように、水位データも同じである。

機能的な適応性

事例01(クリニック)の適応性が満たされていること(87.23%)がわかった。

基準スパン

クリニックの基準スパンは、クリニック01と02で類似性があり、レジデンスが一般的に(25×17)(25×14)であることがわかった。また病棟、OT、調整スペース、歩行スペースなどは(25×12.5)、さらにキャビン、医療、スタッフスペースなどは(15×12.5)、(10×12.5)である。UPHCPの基準スパンは(10×10)の中にあり、健康診断は(9.5×9.28)、調整スペースは(15×9)である。小学校避難所クリニックのクラス用の基準スパンは(24×20)、最小(12×20)、教師のためのスペースは(12×20) である。高校と複合化した小学校避難所クリニックモスクでの基準スパンはクラス用は最大(20×30)、最小(15×20) であり、教師のためのスペースは(15×20)である。

緊急医療サポートスペース

緊急医療サポートスペースは、3つのクリニックにおいて、1700 sft、2625.5 sft、3162.5 sftであることがわかった。また、3つのケースの累積エリアユニットの累積的増加の合計に関するパーセンテージは、それぞれ.078%、.0117%および.036%である。

可動性の医療ユニットおよび設備

呼び出しや緊急に必要なときにどこへでも移動させることができる可動性の医療ユニットは、人材と設備に関してほぼ一定のもので良いことが分かった。すなわち、チームの構成:医師(外科/内科/小児科の専門医 1名、アシスタント医師1名)、看護婦1名、スタッフ/ヘルスワーカー2/3名、合計5から6人のチームである。ポータブル設備:検査設備、救急箱、救急薬、人命救助薬、点滴セット、毛布、酸素ボンベ、簡易外科用器具、ストレッチャー、車椅子、ポータブルチェアーなど。

以上のように、この論文では、バングラデッシュの沿岸都市において、大暴風雨により浸水した都市部と周辺部の人々の災害による被害の軽減をはかるために、特に、医療と収容スペースの面から、実務的に分析し提言を行った。

審査要旨 要旨を表示する

この論文は、バングラデッシュの沿岸都市におけるプライマリーヘルスケア施設として、災害時ならびに平常時に有効な施設計画・設計を最終目的として、医療施設と小学校施設の複合的施設計画を実現するための適切な検討項目を抽出し、検証することを目的としている。

本論文は、第I章「序論」、第II章「理論構成」、第III章「ケーススタディ」、第IV章「討論・結論」、からなる4章より構成される。

第I章「序論」では、研究の目的・視点・背景・意義を述べている。

第II章「理論構成」は12節に分かれる。

第1節では、災害の定義を述べている。第2節では、ヘルスケアの分野での災害の軽減の必要性、第3節では、災害の管理における研究とその評価、第4節では、バングラデッシュの沿岸都市における災害の事例とリスク評価について論じている。第5節では、世界保健機構の評価研究とバングラデッシュにおける保健医療水準について触れている。第6節では、バングラデッシュの沿岸都市での災害時の各種対策施設の評価を小学校に併設された災害時診療施設(PSSC)と都市部におけるプライマリーケアーユニット(UPHCP)についてその働きを支える多様な組織を紹介し、活動の概要を論じている。第7節では、既存の医療施設を災害時ならびに平常時ともに機能する施設に改装した例を取り上げて、災害時における必要な各室の面積規模の算定の資料にしている。第8節では、バングラデッシュのヘルスケアサービスの供給体系、第9節では今回のテーマにおける問題点のまとめを行っている。第10節では本研究の基本的問題設定と、第11節では仮説を提示している。第12節は第2章のまとめである。

第III章「ケーススタディ」は、4節に分かれる。

第1節では、ケーススタディの概要について述べている。第2節では、調査分析方法を論じ、第3節では、8つのケースについての分析を行っている。第4節ではこれらの分析結果について、各々結果の記述を行っている。

まず、診療所の分析からは実際の増築内容と余裕のスペース、また、機能的適合性、所要スペースと基準寸法、救急時の必要面積、そして災害時に移動して連結できる可動型医療ユニットについて論じている。

小学校に併設された災害時に稼動する災害時診療施設(PSSC)と都市部におけるプライマリーケアーユニット(UPHCP)に関する分析からは、同様に実際の増築スペースと余裕スペースについて、現状の分析、可動医療ユニットとの連結方式について論じ、そして、設計の課題で学生から提案されたいくつかの方式についての解説を加えている。

第IV章「討論・結論」では、第1節で、災害時に稼動する小学校に併設された災害時診療施設(PSSC)における救急用の診療部門について、また都市部におけるプライマリーケアーユニット(UPHCP)との関係、そして新築の施設においてどのようにこれらの機能を盛り込むかについて論じている。第2節では、災害時に実際に緊急医療ユニットがどのような貢献をするかについて、第3節では、可動医療ユニットのあり方、そして最後にこれらがユニバーサル・デザインの視点から考えられるべきことを結論づけている。

上記のように、本論文は、バングラデッシュの沿岸都市において、大暴風雨により浸水した都市部と周辺部の人々の災害による被害の軽減をはかるために、特に、医療と収容スペースの面から、実務的に分析し提言を行っているもので、バングラデッシュにおける今後の災害対策に対して建築なrびにその運用の面から大きく貢献する事が期待できる。また、台風の被害を例年受けている日本に対しても、この論文で得られた基本的な知見は多様な示唆は与えるものであり、建築計画学の発展に大きな寄与をしたと認められる。

よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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