学位論文要旨



No 118498
著者(漢字) 姥浦,道生
著者(英字)
著者(カナ) ウバウラ,ミチオ
標題(和) ドイツにおける大規模小売店舖開発の立地コントロールに関する研究
標題(洋)
報告番号 118498
報告番号 甲18498
学位授与日 2003.07.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5568号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大方,潤一郎
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 西村,幸夫
 東京大学 助教授 北沢,猛
 東京大学 助教授 小泉,秀樹
 筑波大学 教授 大村,謙二郎
内容要旨 要旨を表示する

モータリゼーションの進展を背景として、特に地方都市において大型店の郊外出店が進行している。それによって、自治体レベルでは中心市街地の、広域レベルでは中核都市の商業機能が衰退するという悪影響が生じている。本研究はこの点に関し、中心市街地または中核都市に商業機能が集積することを基本的枠組みとする都市・広域商業構造を維持・発展させるべきであるという認識に立つ。そして、それを実現するためには、商業機能集積の空間的配置を量的及び質的にコントロールすることを通じて、都市・広域商業構造を望ましいものにしようとする観点(以下「都市・広域商業構造論的観点」)から大型店の開発をコントロールする必要がある。しかし、我が国においては、そのような観点からの開発コントロールはほとんど行われておらず、またそれに関する既存研究もほとんどない。

そこで本研究は、我が国と比較して積極的に大型店の都市・地域商業構造論的観点からの開発コントロールを行っているドイツを対象として、(1)大型店の開発コントロールの計画規範及びコントロール制度を明らかにした上で、(2)自治体レベルおよび広域レベルにおけるその運用実態を、特に中心地システムの適用過程という側面から明らかにし、(3)それらを通じてドイツにおける大型店の開発コントロールの特質を明らかにすること、を目的とする。これは、以下の二点の意義を有する。すなわち第一には、ドイツにおける大型店の開発コントロールの特質を明らかにすることを通じて、我が国における開発コントロールシステム構築のための有用な知見が得られるという意義であり、第二には、中心地システムの個別開発への適用実態を明らかにすることを通じて、「コンパクトな都市形成」のための開発コントロールを行う際の有用な知見が得られるという意義である。

本論文は四章から構成されている。まず序章において、研究の背景・目的・構成等を述べた上で、第一章において、開発コントロールの際の計画規範として用いられる中心地システムおよび都市ネットワークについて整理し、第二章において、開発コントロールの制度を整理した。そして、第三章および第四章において、それぞれ自治体レベルおよび広域レベルの開発コントロールの運用実態を明らかにした。終章ではドイツにおける大型店の開発コントロールの特質に関し考察を行った。

以下、本論文で明らかにしたことを順に示す。

第一章においては、ドイツにおける大型店の開発コントロールの際の基礎的な計画規範である中心地システムに関し、その沿革・内容・運用実態及びドイツにおけるその評価をまとめると共に、近年提唱されてきた新しい計画概念である都市ネットワークの内容について整理した。このうち中心地システムに関しては、それが新古典経済学上の意味における最適な施設配置を示すものであること、1960年以降に本格的に計画に取り入れられてきたが、運用上の重点は下位中心から中位・上位中心へと変化してきたこと、その運用の効果に関し多くの批判及び再批判が出されているが、大型店のコントロール規範としては今後も用いるべきであるとするのが通説的見解であること、等について述べた。また都市ネットワークに関しては、都市間・地域間競争の激化、経済的リソースの減少、発生する問題による影響の広域化を背景として生じてきたものであること、制度的裏付けに基づき行われているわけではないため、計画策定の動機付け・対象課題・計画の空間的対象・組織形態等が非常に多様であるという特徴を有すること、中心地システムとは相互補完的関係として捉えられていること、等について述べた。

第二章においては、ドイツにおける大型店の開発コントロールの制度を整理した。ここでは、大型店の開発は原則としてBauleitplanにおいて中心地区または大型店特別地区に指定されている場所においてのみ認められること、このうち大型店特別地区の指定は、都市・地域商業構造に対する影響がない場合にのみ認められること、例外的に連担市街地と認められる場所においては、都市・地域商業構造に対する影響の有無に関わらず開発が認められること、等について述べた。

第三章においては、自治体レベルの開発コントロールの実態に関し、NRW州ドルトムント市を対象として調査・分析した。

ここではまず、Fplanおよび市商業構想の内容を分析し、都市商業構造論的観点からの調整内容(『コントロール規準』)に関して、五項目にまとめた。そして、これらの多くは中心地システムの具体化・拡張・例外に関する規定であることから、自治体レベルの開発コントロールにおいて、それが非常に重要な役割を果たしていることを示した。

次に、ドルトムント市における開発実態を調査し、定性的に分析した。それを通じて、当該開発のために策定されたBplanに基づき開発が行われた場合は、都市商業構造論的観点からは概ね問題が生じていない一方、古い建築利用令に基づき策定されたBplanが適用される地区(「旧令に基づくBplan策定地区」)や連担市街地において開発が行われた場合は、郊外において中心地関連品目を主として取扱う店舗が立地していたり、中心地以外の市街地においてショッピングセンターが立地していたりと、問題が生じさせる恐れがある場合があることを明らかにした。

最後に、ドルトムント市におけるリドル開発を事例として、実際の開発手続におけるコントロール規定の適用プロセスを、計画論的・手続論的に詳細に分析した。それを通じて、第一に検討内容に関し、基本的にはコントロール規準との適合性が検討されていたものの、その枠組みを越える内容についても検討されている場合があったこと、第二に適合性の有無の判断の根拠に関し、数値的根拠に基づかずに各主体が独自の基準で判断している場合があったこと、数値的根拠に基づき判断している場合であっても、予測数値の導出過程がブラックボックス化していたこと、それを用いた評価の際の対象となる空間的範囲および商品部門が必ずしも明確ではなかったこと、判断の基準が不明確であったこと等の問題があったこと、第三に当該開発のためのBauleitplanの決定プロセスに関し、Bauleitplan策定手続は政治的プロセスであるため、政治的状況の変化の影響を受けてBauleitplanの内容が変更される場合があったこと、等を明らかにした。

第四章においては、広域レベルの開発コントロールの実態に関し、主としてブレーメン広域圏を対象として調査・分析した。

ここではまず、広域計画の内容を実態的に明らかにした上で、自治体間調整の際の地域商業構造への影響の有無の判断に関し、関連する判例や学説を対象区域・対象商品部門・基準数値に系統立てて整理・比較し、通説的な見解を導出したが、この点はドイツにおいても十分整理されていない、本研究の新しい点である。

次に、これらの内容及び文献・ヒアリング調査から法定の広域調整システムの問題点を、調整基準の問題、調整時期の問題、調整方法の問題、調整区域及び主体の問題、調整対象の問題の五点にまとめた。

そして、これらの問題点に対処するため、近年各地で行われ始めている、独自の大型店の開発コントロールシステムとその運用を、主なものについて概観した。それを通じて特に、調整基準に関し、多くの事例で基準の具体化の試みが行われているが、その具体化の程度、基準の種目や用い方、基準数値に大きな差異が見られること、第二に調整時期に関し、Bauleitplan策定手続以前にこのような独自の調整を行うこととされている事例が見られること、第三に調整方法に関し、開発の協議・調整の場や事前の情報交換の場を設けている事例が見られること、またその場合には第三者的立場の専門家としてコンサルティング会社が参加している事例が多いこと、第四に調整区域及び主体に関し、区域が地域計画の策定区域の一部から複数の州をまたぐ場合までさまざまであり、またそれに応じて主体もさまざまであること、第五に調整対象に関し、開発許可のみにかかる開発も対象としていた事例もあること、等を明らかにした。

最後に、ブレーメン広域圏調整システムを事例として、その運用実態を調査した。それを通じて、第一に調整基準に関し、独自の基準への適合性が開発の妥当性の判断の際の重要な論点となっているが、それを機械的に適用するのではなく、個別的事情を斟酌した上で総合的に判断が下されていること、第二に調整時期に関し、大規模自治体における開発や直接開発許可に係る開発については遅れる場合があること、第三に調整方法に関し、協議方式が参加自治体から肯定的評価を受けていること、第四に調整対象に関し、直接開発許可にかかる開発についてはコントロールできていないこと、第五にBauleitplanとは相互補完関係にあること、等を明らかにした。

終章では、ドイツにおける大型店の開発コントロールの特質をまとめた。それは第一に、自由競争により地元資本が撤退した状況下で、空間構造の観点のみから行われていたコントロールであること、第二に、中心地システムは自治体レベルでは、一定の既存の郊外型開発を前提として、それを「これ以上立地させない」ためのコントロールツールとして機能しており、例外的に認められる開発により実質的にはバランスがとれる結果となっており、それが中心地システムの維持を可能たらしめていること、第三に、そのような例外的開発は広域レベルではデメリットも多く生じさせていたこと、第四に、商業影響評価には、方法論の確立・基準の精緻化・検証可能性の確保という課題が残されていること、第五に、手続的側面から、客観性・正統性が十分に確保されていたとはいえないこと、である。

以上

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、都市・地域商業構造論的観点から積極的に大型店の開発コントロールを行っているドイツを対象として、(1)大型店の開発コントロールの計画規範及びコントロール制度を明らかにした上で、(2)自治体レベルおよび広域レベルにおけるその運用実態を、特に中心地システムの適用過程という側面から明らかにし、(3)それらを通じてドイツにおける大型店の開発コントロールの特質を明らかにしようとした論文である。この論文の意義は以下の2点にある。第一に、ドイツにおける大型店の開発コントロールの特質を明らかにすることを通じて、日本その他の国において大型店の開発コントロールシステムを設計する際の有用な知見が得られる点であり、第二に、ドイツにおける中心地システムの実現実態を明らかにすることを通じて、「コンパクトな都市形成」を目標とする開発コントロール一般に関する有用な知見が得られるという点である。

本論文は四章から構成されている。まず序章において、研究の背景・目的・構成等を述べた上で、第一章では、ドイツにおいて開発コントロールの際の計画規範として用いられる中心地システムおよび都市ネットワークの観念について整理し、第二章では、ドイツの開発コントロールの制度を包括的に整理している。

第三章では、自治体レベルの開発コントロールの実態調査として、NRW州ドルトムント市を対象として分析し、大型店開発のため新たにBplanを策定し、これに基づき開発が行われる場合は、都市商業構造論的観点からは概ね問題が生じていない一方、古い建築利用令に基づき策定されたBplanが適用される地区(「旧令に基づくBplan策定地区」)や連担市街地において開発が行われる場合は、郊外においても主として中心地関連品目を取扱う店舗が立地していたり、中心地以外の市街地においてショッピングセンターが立地していたりと、問題が生じている実態を明らかにしている。

第四章では、広域レベルの開発コントロールの実態に関し、主としてブレーメン広域圏を対象として分析している。

ここではまず、広域計画の内容を実態的に明らかにした上で、自治体間調整の際の地域商業構造への影響の有無の判断に関し、関連する判例や学説を対象区域・対象商品部門・基準数値に系統立てて整理・比較し、通説的な見解を導出している。

次に、これらの内容及び文献・ヒアリング調査から法定の広域調整システムの問題点を、調整基準の問題、調整時期の問題、調整方法の問題、調整区域及び主体の問題、調整対象の問題の5点にまとめ、さらに、これらの問題に対処するため、近年増加しつつある、独自の広域的大型店開発調整の仕組みについて、主なものについて概観した上で、その特質を明らかにしている。

その上で、ブレーメン広域圏調整システムを事例として、その運用実態を調査分析し、第一に調整基準に関し、独自の基準への適合性が開発の妥当性の判断の際の重要な論点となっているが、それを機械的に適用するのではなく、個別的事情を斟酌した上で総合的に判断が下されていること、第二に調整時期に関し、大規模自治体における開発や直接開発許可に係る開発については遅れる場合があること、第三に調整方法に関し、協議方式が参加自治体から肯定的評価を受けていること、第四に調整対象に関し、直接開発許可にかかる開発についてはコントロールできていないこと、第五にBauleitplanとは相互補完関係にあること、を明らかにしている。

終章では、ドイツにおける大型店の開発コントロールの特質として、第一に、地元中小資本保護のためのコントロールではなく、あくまでも空間構造の観点から行われるコントロールであること、第二に、中心地システムは自治体レベルでは既存の郊外型開発の存在を前提としながら、それを「これ以上立地させない」ためのコントロール手段として機能しており、例外的に認められる一定量の郊外型開発によって実態的には郊外型大型店に対する需要が満たされ、そのことが中心地システムの原則的な維持を可能たらしめていること、第三に、そのような例外的開発は広域的観点からはデメリットも多く生じさせていること、第四に、商業影響評価には、方法論の確立・基準の精緻化・検証可能性の確保という課題が残されていること、第五に、手続的側面について、客観性・正統性が必ずしも十分に確保されているとはいえない実態であること、を明らかにしている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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