学位論文要旨



No 118553
著者(漢字) 多田,智子
著者(英字)
著者(カナ) タダ,トモコ
標題(和) 出芽酵母Saccharomyces cerevisiae の伸展活性化Ca2+チャネルコンポーネント Mid1 の分子生物学的解析
標題(洋) Molecular studies on the putative stretch-activated Ca 2+channel component Mid1 in Saccharomyces cerevisiae
報告番号 118553
報告番号 甲18553
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4417号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大森,正之
 東京大学 教授 東江,昭夫
 東京大学 教授 池内,昌彦
 東京大学 助教授 渡辺,雄一郎
 東京学芸大学 教授 飯田,秀利
内容要旨 要旨を表示する

概要

出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) は性フェロモンであるα-factorの作用によって性接合が可能な細胞 (shmoo) に分化する。その過程にはCa2+の流入が必要であり、もしそれが制限されると細胞は死に至る。mid1変異体はα-factor作用後のCa2+の流入に欠損を持つために致死性を示す株として単離された(Fig. 1)。1999年に飯田らのグループによってMID1遺伝子産物(Fig. 2)は真核生物において世界で初めて伸展活性化Ca2+チャネルであると特定された。伸展活性化イオンチャネルは機械刺激作動型イオンチャネルに属し、膜の伸展によって開くイオンチャネルである(Fig. 3)。微生物では浸透圧調節、植物では重力感知、動物ではそれらに加えて聴覚、触覚などに関与していることが知られているものの、伸展活性化イオンチャネルは電位作動型やリガンド作動型のイオンチャネルにくらべて知見が少ない。特に真核生物の伸展活性化イオンチャネルは構造、機能部位、伸展感受機構などほとんど何も分かっていない。Mid1は既知のイオンチャネルと相同性を持たず、新規イオンチャネルである可能性が高い。同時に、未だ知見の少ない真核生物の機械刺激感受機構を分子レベルで解析できる興味深いタンパク質である。このような背景のもと、Mid1の機能に重要なアミノ酸残基およびアミノ酸残基群の特定を試みた。また、最近、出芽酵母の推定上の電位作動型Ca2+チャネルホモログであるCch1は、性接合過程におけるCa2+流入に、Mid1と共にはたらくことが明らかになり、その相互作用が示唆された。したがって、Mid1とCch1の関係を解析することはMid1の機能の解析に重要である。しかし、CCH1遺伝子のクローニングが大腸菌で行えないため、Cch1の解析は困難であった。そこで、酵母を用いてCCH1遺伝子のクローニングを行い、高発現系によるMid1とCch1との関係の解析およびGFP融合タンパク質を用いた局在の観察を行った。

結果

Mid1の構造機能相関

まず、Mid1の伸展活性化Ca2+チャネル機能に焦点を当て、ポア領域、ゲート、イオン選択フィルターの特定、および伸展感受機構の解明を目指した。Mid1は548アミノ酸残基から成り、4つの疎水性領域 (H1-H4) を持つ (Fig. 2)。以前の研究より、H1領域はシグナルペプチドの切断部位を持つこと、H3領域とH4領域の間の領域は細胞膜外に、C末端は細胞質内に位置していることが分かっている。放線菌のK+チャネルKcsAは結晶構造が明らかになっている。そこで、Mid1とKcsAの疎水性プロットおよび膜トポロジーを比較して、H3とH4領域がポア構造を構築しそうであると予想した (Fig. 4)。H3とH4領域のすべてのアミノ酸がそれぞれ置換されるように点変異を導入し、変異MID1遺伝子を含むプラスミドをmid1変異体に導入して、それらの変異体のα-factor添加後の生存率およびCa2+の蓄積を測定した (Fig. 1)。変異Mid1の活性の測定結果より、Mid1の活性に重要なアミノ酸残基およびアミノ酸残基群を特定し、既知のイオンチャネルの構造と機能の相関をふまえて、Mid1の構造と機能の相関のモデルを構築した。以下に結果を要約する。

1) H3領域 (Ile337-Phe356) とH4領域 (Leu366-Gly388) をそれぞれ完全に欠失させたH3DeとH4De変異Mid1はmid1変異体の致死性を全く相補しなかった (Fig. 5, 6)。 2) SerまたはAlaへの比較的マイルドな点変異を行ったにもかかわらず、H3領域の変異はMid1の活性を様々に変化させた。特に、Asp341をGluに置換するとMid1は活性を失い、その周辺のIle337、Asn339およびGly342のアミノ酸置換もMid1活性に影響を与えた (Fig. 5)。 3) H3領域のPhe356をSerに置換するとMid1のCa2+蓄積能はそれほど低下しなかったが、生存率は顕著に低下した。Phe356の周辺のHis353、Val354およびTyr355のアミノ酸置換もMid1活性に影響を与えた (Fig. 5)。 4) Cys373を除いて、H4領域の単一アミノ酸置換によるMid1活性の低下はマイルドなものだった (Fig. 6)。 5) 局在部位およびタンパク質含量に関して、上記で作製したすべての変異Mid1タンパク質は野生型Mid1タンパク質と同じであった。変異Mid1は局在、安定性、発現量が変化したのではなく、Mid1活性そのものが変化したということが確認された (data not shown)。

Mid1と推定上の電位作動型Ca2+チャネルホモログCch1との関係

電位作動型Ca2+チャネルと相同性を示すCCH1の変異体はmid1変異体と同じ表現型を示すこと、およびMid1とCch1は免疫沈降法において共沈することが報告されている。したがって、Mid1とCch1との関係を調べることはMid1の機能を解明する上で非常に重要である。以下に結果を列挙する。

1) 高発現系の解析において、Ca2+の蓄積の上昇にはMid1とCch1の両方の高発現が必要であった(Fig.7)。 2) Mid1の高発現はcch1変異を相補しなかった。また、Cch1の高発現もmid1変異を相補しなかった(Fig.8,9)。 3) 対数増殖期の細胞においてMid1-GFPとCch1-GFPは細胞膜とER膜に局在していた (Fig. 10)。 4) α-factor添加4時間後、Mid1-GFPはShmooの接合突起に局在した (Fig.10)。一方、Cchl-GFPは細胞内に集積した (Fig. 10)。 5) α-factor添加8時間後、Mid1-GFPとCch1-GFPは細胞内に集積した (Fig. 10)。

考察

1998年に明らかにされた放線菌のK+チャネルKcsAの結晶構造と、Mid1の現在分かっている膜トポロジーおよび疎水性プロットをふまえて、H3領域はイオン選択フィルターを含むポアループからインナーヘリックスまでの細胞外ループを構築し、H4領域はαヘリックスで細胞外より細胞内へ膜を貫通し、インナーヘリックスを構築していると予想した (Fig. 4)。

KcsAでは、TVGYGの5残基のペプチド主鎖のカルボニル酸素で裏打ちされたフィルターによってイオン選択性が決定されていることが明らかになっている。このイオン選択フィルターは陽イオンチャネルの共通の構造であると考えられており、特に2つのGlyはすべてのK+チャネルで保存されている。さらに、陽イオンチャネルの中でも特にCa2+チャネルはイオン選択フィルターの近くに負電荷を持ったアミノ酸が配置されており、陽電荷をもったCa2+を引き付けるのに適した構造をしている。Mid1ではSer338-Gly342(SNGDG)がイオン選択フィルターに相当すると予想した。D341E変異は、同じ負電荷を持ったAspからGluへの置換にもかかわらず、Ca2+透過活性を欠損させ、結果として、致死性を示した。これは、GluはAspよりも負電荷が強いので、イオン選択フィルター内に入ったCa2+はGluと強固に相互作用してポアを塞いでしまい、イオンの通過を妨げたためではないかと考えられる。また、F356S変異において、Ca2+蓄積量がそれほど低下していなかったことから、F356S変異による致死性は、Mid1のCa2+透過能の低下が原因ではないと考えられる。H3とH4の間の領域は細胞膜外にあることが分かっているので、H3領域のC末端のアミノ酸であるPhe356はMid1と細胞壁成分や膜タンパク質との相互作用において重要な役割を担っている可能性がある。

H4領域は上記のMid1のモデルではイオンチャネルのインナーヘリックスを構築していると予想される。チャネルの内側は水分子で満たされており、イオンと直接相互作用しない。そのために、多くのH4領域の単一アミノ酸置換では顕著なMid1活性の変化が見られなかったと推測される。

Mid1とCch1の解析から、Mid1とCch1はお互いの機能に必要であること、対数増殖期において類似の局在を示すことが明らかになった。また、α-factor添加後、Mid1はある一定期間、Cch1とは異なり、shmooの接合突起に局在を示すことを発見した。この結果は、Mid1は接合突起において、Cch1非依存的な役割があることを示唆している。Mid1は、接合突起周辺の局所的なCa2+の流入、接合時の細胞間の認識などに関与しているのかもしれない。また、急速なCa2+の流入が必要なくなったα-factor添加8時間後にはMid1とCch1は細胞内に集積して存在していたという結果から、Mid1とCch1の細胞膜における存在量を制御することによってCa2+流入を制御する機構が存在するのではないかと考えている。

まとめ

本研究においてMid1のH3およびH4領域はMid1のCa2+透過活性に必要であり、既知のイオンチャネルの構造と機能の相関をふまえて、H3領域はフィルターおよび細胞外ループに相当し、H4領域はαヘリックスで膜を貫通するインナーヘリックスであると予想した。また、Ca2+透過活性は損なわれていないが、致死性を示すという興味深いF356S変異を特定した。この結果より、Mid1はCa2+取り込みとは独立に、α-factor添加後の生存率を維持する役割があるという新たな知見を得た。Mid1とCch1の解析より、性接合過程において、Ca2+の流入にはMid1とCch1の両方が必要であることを明らかにし、Mid1はshmooの接合突起においてCch1非依存的な役割があることを示唆する結果を得た。本研究はMid1の機能解析、存在量によるチャネル活性の制御機構および酵母の性接合過程の解明に大いに貢献するものと考えられる。

mid1変異体のα-factor添加後の生存率の低下とCa2+蓄積の低下はMid1タンパク質の機能部位の検出に利用できる。MID1遺伝子産物(Mid1)は、α-factor添加後のCa2+流入と生存率の維持に必要である。mid1変異体はα-factorを受容すると、Ca2+の流入に欠損を持つために死ぬという表現型を示す。mid null mutantの中に点変異を持ったMid1タンパク質を発現させ、その変異株のα-factor添加後の生存率およびCa2+の蓄積を測定した。midとはmating pheromone-induced deathの略である。

Mid1の一次構造と疎水性プロット。Mid1は4つの疎水性領域(H1-H4)を持つ548アミノ酸残基のタンパク質である。16箇所の推定上のN-グリコシレーションサイト(Δ)があり、C末端領域にはシステイン-リッチ領域がある(システイン残基をOで示した)。膜トポロジーに関して、H1はシグナルペプチド切断サイトを持つため、シグナルペプチドと予想される。H3とH4の間は細胞外に、C末端は細胞内に位置していることが分かっており、H4領域は膜貫通領域であると考えられる。

イオンチャネルの分類。Mid1は、伸展活性化Ca2+チャネル活性を持つということが電気生理学的に示されている。伸展活性化イオンチャネルは膜の伸展によって開くイオンチャネルであり、機械刺激作動型イオンチャネルに分類される。電位作動型、リガンド作動型に比べて、機械刺激によって開くチャネルというのはまだ分子実態が分かっておらず、研究が立ち遅れていた。

Mid1と放線菌のK+ channel KcsAの比較。(A)Mid1とKcsAの一次構造と疎水性プロット。(B)KcsAの結晶構造にMid1の領域を当てはめたのリボンモデル。KcsAの結晶構造より明らかになったイオン選択フィルターは赤で示し、インナーヘリックスを構築する膜貫通ヘリックスは青で示した。Mid1の機能部位の特定にあたり、変異を導入する領域として、ポア構造を構築しそうなH3とH4領域に注目した。モデルの構築にはFAMSを用いた。

H3領域に変異を持つMid1を発現させた変異株のα-factor添加後の生存率とCa2+蓄積(A)SD.Ca100培地で育てた対数増殖期の細胞に6μMα-factorを加え、8時間インキュベートした後の生存率をメチレンブルーリキッド法により測定した。(B)SD.Ca100培地で育てた対数増殖期の細胞に6μMα-factorと185 kBq/ml (1.8 kBq/nmol)45CaCl2を同時に加え、2時間インキュベートした後の細胞内のCa2+の蓄積量を液体シンチレーションカウンターを用いて調べた。T-テストを行い、ポジティブコントロールと比較して、活性が上ったものは白いバーで、下がったものは黒いバーで、変わらなかったものはグレーのバーで示した(P<0.05)。独立に実験を少なくとも3回以上行い、標準偏差とともにそれらの平均値を示した。

H4領域に変異を持つMid1を発現させた変異株のα-factor添加後の生存率とCa2+蓄積。(A)α-factor添加8時間後の生存率。(B)α-factor添加2時間後のCa2+蓄積。実験条件はFig. 5と同じである。T-テストを行い、ポジティブコントロールと比較して、活性が下がったものは黒いバーで、変わらなかったものはグレーのバーで示した(P<0.05)。独立に実験を少なくとも3回以上行い、標準偏差とともにそれらの平均値を示した。

Ca2+の蓄積の上昇にはMid1とCch1の両方の高発現が必要である。(A)野生株、Mid1高発現株、Cch1高発現株、Mid1とCch1の両方の高発現株のα-factor添加後の生存率。(B)Ca2+の蓄積量の経時的変化。SD.Ca100培地で育てた対数増殖期の細胞に6μMα-factorを加え、それぞれの時間ごとの生存率をメチレンブルーリキッド法により測定した。Ca2+の蓄積量の測定に関しては、6μMα-factorと185 kBq/ml(1.8kBq/nmol)45CaCl2を同時に加え、それぞれの時間ごとの細胞内のCa2+の蓄積量を液体シンチレーションカウンターを用いて調べた。それぞれの遺伝子の高発現には、多コピーベクターを用いた。独立に実験を少なくとも3回以上行い、標準偏差とともにそれらの平均値を示した。

Mid1の過剰発現は生存率とCa2+蓄積共にcch1変異を相補しない。(A)野生株、cch1変異株およびcch1変異株にMid1を高発現させた株の生存率。(B)Ca2+の蓄積量の経時的変化。実験条件はFig. 7と同じである。MID1遺伝子の高発現には、多コピーベクターを用いた。cch1変異株には、cch1 null mutantであるH313株を使用した。独立に実験を少なくとも3回以上行い、標準偏差とともにそれらの平均値を示した。

Cch1の過剰発現は生存率とCa2+蓄積共にmid1変異を相補しない。(A)野生株、mid1変異株およびmid1変異株にCch1を高発現させた株の生存率。(B)Ca2+の蓄積量の経時的変化。実験条件はFig.7と同じである。CCH1遺伝子の高発現には、多コピーベクターを用いた。mid1変異株には、mid1 null mutantであるH311株を使用した。独立に実験を少なくとも3回以上行い、標準偏差とともにそれらの平均値を示した。

性接合過程におけるMid1-GFPとCch1-GFPの局在の変化。(A)α-factor添加後のMid1-GFPの局在の形而的変化。(B)Cch1-GFPの局在の形而的変化。下に微分干渉像、模式図を示した。SD.Ca100培地で育てた対数増殖期の細胞に6μMα-factorを加え、それぞれの時間ごとのGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。α-factor添加前と急速なCa2+流入が必要なα-factor添加2時間後では、Mid1とCch1は共に細胞膜とERに局在したが、4時間後には、Mid1のみ、接合突起に局在した。α-factor添加8時間後にはMid1とCch1は細胞内に集積した。それぞれの遺伝子の高発現には、多コピーベクターを用いた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は2章からなり、第1章は、Mid1の機能に重要なアミノ酸残基および領域の特定を試みた結果について述べられ、また、第2章では、Mid1と出芽酵母の推定上の電位作動型Ca2+チャネルホモログであるCch1との関係についての解析結果について述べられている。

出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) は性フェロモンであるα-factorの作用によって性接合可能な細胞 (shmoo) に分化する。その過程にはCa2+の流入が必要であり、mid1変異体はα-factor作用後のCa2+の流入に欠損を持つために致死性を示す株として単離された。1999年に飯田らのグループによってMID1遺伝子産物は真核生物において世界で初めて、膜の伸展によって開く伸展活性化Ca2+チャネルであると特定された。伸展活性化イオンチャネルは、微生物では浸透圧調節、植物では重力感知、動物ではそれらに加えて聴覚、触覚などに関与していることが知られているものの、膜電位作動型やリガンド作動型のイオンチャネルにくらべて知見が少ない。特に真核生物の伸展活性化イオンチャネルは構造、機能部位、伸展感受機構などほとんど何も分かっていない。Mid1は既知のイオンチャネルと相同性を持たず、新規イオンチャネルである可能性が高い。同時に、未だ知見の少ない真核生物の機械刺激感受機構を分子レベルで解析できる興味深いタンパク質である。このような背景のもと、第1章では、Mid1の機能に重要なアミノ酸残基および領域の特定を試みた。また、第2章では、Mid1と出芽酵母の推定上の電位作動型Ca2+チャネルホモログであるCch1との関係を解析した。最近、Mid1とCch1は性接合過程におけるCa2+流入に共に関与することが明らかになり、その相互作用が示唆された。したがって、Mid1とCch1の関係を解析することはMid1の機能の解析に重要である。しかし、CCH1遺伝子のクローニングが大腸菌で行えないため、Cch1の解析は困難であった。そこで、本申請者は酵母を用いてCCH1遺伝子のクローニングを行い、高発現系によるMid1とCch1との関係の解析およびGFP融合タンパク質を用いた局在の観察を行った。

第1章において、Mid1のH3及びH4領域はMid1のCa2+透過活性に必要であるということが明らかになった。既知のイオンチャネルの構造と機能の相関をふまえて、H3領域はフィルターおよび細胞外ループに相当し、H4領域はαヘリックスで膜を貫通するインナーヘリックスであると予想した。D341E、F356S、C373DおよびC373Eの顕著にMid1活性が低下する点変異を特定した。特に、F356S変異Mid1はCa2+透過活性は損なわれていないが、生存率の維持機能が失われているという興味深い表現型を示した。この結果より、Mid1はCa2+取り込みとは独立に、α-factor添加後の生存率を維持する役割があるという新たな知見を得た。これらの変異Mid1は局在、安定性、発現量が変化したのではなく、Mid1活性そのものが変化したということを確認している。第2章では、Mid1とCch1の解析より、性接合過程において、Ca2+の流入にはMid1とCch1の両方が必要であることを明らかにした。対数増殖期および性接合過程初期の細胞においてMid1-GFPとCch1-GFPは細胞膜とER膜に局在していた。急速なCa2+の流入が必要なくなったα-factor添加4時間後の細胞において、Mid1-GFPはshmooの接合突起に、Cch1-GFPは細胞内に局在が観察された。これは、Mid1はshmooの接合突起においてCch1非依存的な役割があることを示唆している。また、α-factor添加8時間後にはMid1とCch1は細胞内に集積して存在していた。これらの結果はMid1の機能解析、存在量によるチャネル活性の制御機構および酵母の性接合過程の解明に大いに貢献するものと考えられる。

なお、本論文の第1章は、大森正之、飯田秀利との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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