学位論文要旨



No 118559
著者(漢字) 郭,稲
著者(英字) Guo,Tao
著者(カナ) グオ,タオ
標題(和) 高分解能衛星画像と航空機レーザースキャナデータによる3次元都市モデルの構築
標題(洋) 3D City Modeling Using High-Resolution Satellite Image and Airborne Laser Scanning Data
報告番号 118559
報告番号 甲18559
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5578号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 目黒,公郎
内容要旨 要旨を表示する

要旨

広域3次元都市モデルを迅速し作成、更新する必要性が高まりつつあり、また、高分解能衛星画像の利用が容易になりつつあることから、高分解能衛星画像を用いて3次元都市空間データを自動的に作成することへの関心が高まっている。しかしながら都市構造が非常に複雑であり、またそれにともなって衛星画像データにおける情報も複雑となることから、都市3次元モデルの作成には、様々な異なったデータ情報の統合が必要になる。

本研究では、高分解能衛星画像(IKONOS)と航空機レーザースキャナデータ(LS)を併用することにより、高精度で3次元都市構造(モデル)を計測する手法を開発することを目的とする。このために、高解像度衛星画像データ及びレーザースキャナによる高度データのデータ統合手法、また、統合データからの3次元建造物の自動抽出手法を開発する。

本研究におけるデータ統合では、衛星画像データ(マルチスペクトルデータ)とレーザースキャナーによる高度データは互いに補完的性質を持つことを利用する。航空機レーザースキャナー高度データ(DSM: Digital Surface Model)と衛星画像を重ねあわせ、両者の特徴を利用して、対象領域の建物、植生等土地被覆分類を行うことが可能となる。まず、高度データにおいて、高分解能衛星画像のスペクトル特性を利用して、建物、植生などの都市空間構造物ごとに対象を領域分割する。また、逆に、衛星画像データにより地表面被覆分類を行ううえで、レーザースキャナーからの高さ情報を加えることで、分類制度を大幅に向上することができる。更に、両データから得られるスペクトル特性、地表からの高さ、物体のテクスチャやサイズ等の様々な情報は、建築構造物を同定するため、階層的に統合される。

本研究における3次元建造物の自動抽出モデルは、画像データとレーザーデータを特徴要素(feature)レベルで融合することにより実現する。まず、高分解能画像における濃度変化領域とレーザースキャナー高度データ(DSM)における高度変化領域が検出され、画素のつながりの長さや方向等の特徴によってエッジ要素の様々なクラスにグループ化される。次に統計分析を用いて、建造物の方向を定めるためにクラスを分類する。さらに、ほとんどの建造物は多角形要素に分解できるという仮定のもと、多角形を構成するエッジ要素に基づいた新しい3次元建造物抽出法を提案する。まず、エッジ要素は建造物の構成要素である可能性が高いため、まず、エッジ要素により構造物可能性領域を抽出し、次に、高さ情報の分析による検証が行われる。続いて、多角形要素の論理的な整合性のチェックによって、3次元建造物の形状推定を行う。最後に、オブジェクト指向法に基づいて、3次元都市モデルを構築するため、新しく、プログラミングが可能なフレーム構造が提示される

本論文の構成は、都市構成要素分割、建造物検出、建造物構成、3次元都市モデルから成り立っている。本論文の個々の章で、各コンポーネントについて記述する。

第1章では、本研究における背景についての総論を述べ、都市環境学における3次都市モデリングの自動化の必要性と、高分解能衛星画像と航空機レーザースキャナデータの統合の合理性を提示する。次に、本研究の概念を説明し、関連した3次元都市モデルの研究を、利用するデータの種類、手法、既存の構造物モデルという観点から、要約する。

第2章は、航空機レーザースキャンデータを使った、高度データ(DSM: Digital Surface Model)の作成手法について記述し、さらに、衛星データのスペクトルデータと高度データの併用により、都市構成要素(建物、植物)等を分離して、地表面のみの高度データ(nDSM:normalized DSM)を作成する手法について述べる。また、本データ融合手法が、画像データやレンジデータの特性を有効に活用している点について記述している。

第3章では、本研究の主要な部分の一つである、建造物検出手法を詳細に述べる。まず、航空機レーザースキャナーの原理と、高分解能IKONOS衛星画像について説明する。次に、IKONOSとDSMの両方を融合することに基づいて、建造物がありそうな場所を検出する手法を示す。この章の最後の節では、建造物検出の二つの手法、すなわち、領域アプローチとエッジアプローチについて説明する。領域アプローチでは、領域特徴に基づいて、形態学的手段を適用する。エッジアプローチでは、既存のバルーンモデルを改良した手法を説明する。ここでは、まず、建造物輪郭の初期値形状をMultiple Height Bins(MHB)法により作成し、その後、画像とDSMの両データを利用して、その輪郭を繰り返し調整する。

第4章は、建造物抽出モデルを提示する。これは本論文の最もオリジナルな部分である。建造物の外観を記述するために、semantic modelの概念を提案する。次に、3次元建造物抽出法を説明する。semantic modelにおいては、まず、エッジ要素を検出し、次に直線を抽出する。統計的手法を適用して、建造物の方向を推定し、直線要素を、方向性を考慮して、多角形要素に再構築する。多角形要素は3次元屋根パッチとして構築され、パラメータ化モデルにしたがって、3次元建造物として組み立てられる。本章の最後の部分では、モデル化された建造物の計測精度の検証と、建造物の視覚化について記述する。都市の建物が密集している地域では、ほとんどの建造物(約85-87%)は、本手法による3次元直線建造物モデルによってほぼ表現することができ、また、非常に高い精度が得られた。平面での推定精度はおよそ1mであった。また、本章の最後で、3次元建造物モデルによる簡単な3Dビューを提示する。

第5章では、システム管理の面から、3次元都市モデルを扱うために手法を記述する。オブジェクト指向手法と、3次元都市モデル構築の原理に関する簡潔な記述の後、新しいオブジェクト指向3次元都市モデル手法を提案する。

第6章では、具体的な二つの応用結果を提示する。IKONOS画像と航空機レーザースキャナデータを使用して、我々が開発した3次元建造物再建モデルを実際に東京駒場、新宿のテストサイトに適用した結果を示す。

第7章では、本研究を要約し、将来の研究への展望を示す。

審査要旨 要旨を表示する

都市における建物や構造物などの3次元空間構造を計測し、データベース化する都市3次元モデルは、ナビゲーションシステムや地理情報システムなど利用分野の急激な拡大に伴い、その迅速かつ効率的なデータ作成や更新への必要性が高まっている。都市の3次元構造を、地上での測量のみに基づいて計測し、モデル化することは、その人的労力や作業時間から現実的とはいえず、衛星データ等のリモートセンシングデータの活用が望まれる。実際、IKONOSやOrbViewなど地上分解能1m以下の高分解能衛星画像の利用が容易になりつつあることから、高分解能衛星画像を用いて都市の3次元構造データを自動的に作成することへの関心も高まりつつある。しかしながら都市の空間構造は、建物や構造物のみならず植生などの非常に複雑な要素から構成され、その配置も複雑であるため、単一の衛星データのみから3次元モデルを構築することは容易ではない。都市3次元モデルの作成には、人工衛星や航空機からの様々な異なったデータを統合的に処理し、位置や高さを高精度で同定する統合情報処理の技術が不可欠である。

本研究では、高分解能衛星画像データ(IKONOS)と航空機レーザースキャナデータ(LS)を併用する新たな手法により、高精度で3次元都市構造(モデル)を計測することを目的とした。IKONOSデータからは高精度での位置情報と地表面被覆情報を、LSデータからは高度情報を抽出することにより、両者を統合処理して、統合データから3次元建造物を自動抽出する手法を開発した。

本研究におけるデータ統合では、衛星画像データ(マルチスペクトルデータ)とレーザースキャナによる高度データは互いに補完的性質を持つことを利用する。まず、LSからの高度データ(DSM: Digital Surface Model)とIKONOS画像を重ねあわせ、両者の特徴を利用して、対象領域の建物、植生等土地被覆分類を行うことが可能となる。高度データにおいて、高分解能衛星画像のスペクトル特性を利用して、建物、植生などの都市空間構造物ごとに対象を領域分割する。また、逆に、IKONOS画像により地表面被覆分類を行ううえで、LSからの高さ情報を加えることで、分類精度を大幅に向上することができる。更に、両データから得られるスペクトル特性、地表からの高さ、物体のテクスチャやサイズ等の様々な情報は、建築構造物を同定するため、階層的に統合される。

次に、3次元建造物の自動抽出では、IKONOS画像データとLSデータを特徴要素(feature)レベルで融合することにより実現する。まず、高分解能画像における濃度変化領域とレーザースキャナ高度データ(DSM)における高度変化領域が検出され、画素のつながりの長さや方向等の特徴によってエッジ要素の様々なクラスにグループ化される。次に統計分析を用いて、建造物の方向を定めるためにクラスを分類する。さらに、ほとんどの建造物は多角形要素に分解できるという仮定のもと、多角形を構成するエッジ要素に基づいた新しい3次元建造物抽出法を提案する。まず、エッジ要素は建造物の構成要素である可能性が高いため、まず、エッジ要素により構造物可能性領域を抽出し、次に、高さ情報の分析による検証が行われる。続いて、多角形要素の論理的な整合性のチェックによって、3次元建造物の形状推定を行う。最後に、オブジェクト指向法に基づいて、3次元都市モデルを構築するため、プログラミングが可能なフレーム構造が提示される。

本論文は全7章から構成され、核となる都市構成要素分割、建造物検出、建造物抽出、オブジェクト指向3次元都市モデル構成手法について、それぞれ2〜5章に記述した。

第1章では、本研究における背景についての総論を述べた。まず、都市研究における3次都市モデリング自動化の必要性と、高分解能衛星画像と航空機レーザースキャナデータの統合の合理性について説明し、さらに既存の研究手法の概略をまとめた。

第2章は、レーザースキャナデータからの高度データ(DSM: Digital Surface Model)の作成手法について記述し、さらに、この高度データとIKONOSデータのスペクトル情報の併用により、都市構成要素(建物、植物)等を分離して、地表面のみの高度データ(nDSM:normalized DSM)を作成する手法について述べた。

第3章では、本研究の主要な部分の一つである、建造物検出手法を詳細に述べた。まず、航空機レーザースキャナの原理と、高分解能IKONOS衛星画像について説明し、次に、IKONOSデータと、LSデータから得られたDSMの両データを融合することにより、建造物がありそうな場所を検出する手法を示した。この章の最後の節では、建造物検出の二つの手法、すなわち、領域アプローチとエッジアプローチについて説明した。領域アプローチでは、領域特徴に基づいて、形態学的手段を適用する。エッジアプローチでは、既存のバルーンモデルを改良した手法を説明する。ここでは、まず、建造物輪郭の初期値形状をMultiple Height Bins(MHB)法により作成し、その後、画像とDSMの両データを利用して、その輪郭を繰り返し調整した。

第4章では、建造物抽出手法を提案した。これは本論文の最もオリジナルな部分である。建造物の外観を記述するために、semantic modelの概念を提案し、次に、3次元建造物抽出法を説明する。semantic modelにおいては、建物が、多角形要素(直線要素)から構成されたある程度の大きさを持った多層の構造物であると仮定し、まず、エッジ要素を検出し、次に直線を抽出する。統計的手法を適用して、建造物の方向を推定し、直線要素を、方向性を考慮して、多角形要素に再構築する。多角形要素は3次元屋根パッチとして構築され、3次元建造物として組み立てられる。本章の最後の部分では、モデル化された建造物の計測精度の検証と、建造物の視覚化について記述した。都市の建物が密集している地域では、ほとんどの建造物(約85-87%)は、本手法による3次元直線建造物モデルによってほぼ表現することができ、また、非常に高い精度が得られた。平面での推定精度はおよそ1mであった。

第5章では、システム管理の面から、3次元都市モデルを扱うための手法を記述する。オブジェクト指向手法と、3次元都市モデル構築の原理に関する簡潔な記述の後、新しいオブジェクト指向3次元都市モデル手法を提案した。

第6章では、東京の駒場地区、新宿地区の具体的な二つの応用結果を提示した。IKONOS画像と航空機レーザースキャナデータを使用して、本論文で提案した3次元構造モデル作成手法を、上記2箇所のテストサイトに適用して得られた都市3次元モデルを示した。

第7章では、本研究を要約し、将来の研究への展望を示した。

以上のように、本論文は、都市の建築物の3次元構造を、

・高解像度人工衛星(IKONOS)データと航空機搭載のレーザースキャナーデータの併用により高精度で計測する手法を開発し、さらに、

・複雑な都市の3次元モデルを構築する手法を開発したことに独創性を有し、また、得られた結果は有用性に富むものと評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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