学位論文要旨



No 118561
著者(漢字)
著者(英字) KONGSUKPRASERT,LALANA
著者(カナ) コンスクラプラサート,ララナ
標題(和) セメント改良礫質土の変形強度特性における時間効果
標題(洋) Time Effects on the Strength and Deformation Characteristics of Cement-mixed Gravel
報告番号 118561
報告番号 甲18561
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5580号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

概 要

今日、地盤改良工事におけるセメント混合地盤材料は、世界的に幅広く用いられている。セメント混合地盤材料は、土と比較的少量のセメントパウダーおよび適切に設定された水により構成されており、地盤工学分野においては、密な土とコンクリートの中間である複雑な異種混合材料として扱われる。

セメント混合地盤材料を重要な構造物の基礎材料として使用するために、二つの重要な問題を考える必要がある。つまり、1)セメントと土と水の配合設計、2)建設段階と供用段階における材料の挙動である。

本研究では、上記問題を念頭に、高性能な三軸圧縮試験機を用い、セメントを配合した千葉礫を供試体(不飽和)として、応力とひずみの関係を得るため一連の排水三軸圧縮試験を総合的に実施した。

配合段階における材料の挙動を支配する要因、つまり、締め固めの影響およびセメントと水の量を検討し、同じ重量比(セメント・土)では乾燥締め固め度が大きいほど、試料の強度と剛性も大きくなることが実験結果から判った。ピーク前の剛性とピーク強度についても同様である。しかし、強度に対するセメント配合量の影響は、低い密度ではそれほど大きくないのに対し、高い密度では非常に重要となる。セメント混合礫質土の最大強度は、最大乾燥密度と適切なセメンテーションの組み合わせによる最適含水比により発揮される。

また、様々な載荷応力経路による試験から、セメント地盤材料は非常に高い時間依存性を有することが確認された。つまり年代効果と載荷速度の影響である。変形と強度特性に対する粘性効果によるこれらの年代効果と載荷速度の影響を調べるため、最適含水比相当に調節した不飽和試料を用いて、一連の排水三軸圧縮試験を実施した。

得られた結果を以下に示す。

弾性剛性、ピーク前の平均剛性、ピーク前の応力ひずみ関係およびピーク強度は、非拘束および等方拘束状態での養生期間が長いほど大きくなる。これらは真の年代効果によるものであり、本質的な材料特性の変化に起因する。(例:セメンテーション)

粘性効果を調べるために、ひずみ速度を段階変化させる一連の三軸圧縮試験を実施した。ひずみ速度の異なる各段階において、小さなひずみではisotach typeの挙動を、その後はTESRA typeの挙動を示しながら、材料の粘性特性により応力ひずみ関係が明らかに変化した。ピーク強度はひずみ速度の減少とともに小さくなる。

さらに、年代効果と載荷速度による効果の関連を調べるために、せん断応力下のクリープ載荷試験と、ひずみ速度が非常に遅い試験の、二種類の三軸圧縮試験を行った。クリープ載荷試験では、セメント改良礫質土の供試体は、クリープ後に大きな応力下で単調再載荷すると、クリープ載荷中の養生による明らかな年代効果を示しながら、剛な挙動を示した。また、クリープひずみの増加は、クリープ載荷の開始後の僅かな時間でほとんど収束する傾向を示す。排水クリープ載荷後、最初のひずみ速度で単調載荷を再開すると、相対的に大きな応力レベルで年代効果と載荷速度の両方の影響により、応力ひずみ関係は非常に高い剛性を示した。養生期間中のより早い時期に高いせん断応力下で排水クリープした場合、ピーク応力までに全部で同じ時間養生されていても、より大きなピーク強度を示した。一方、極端に遅い載荷の場合、非常に遅いひずみ速度での別の単調載荷中でも偏差応力はひずみ速度の減少とともに増加した。そしてその逆もまた然りである。つまり、年代効果が載荷速度効果よりも大きな影響を与えるということである。同じ初期養生時間から開始しても、非常に遅いひずみ速度で行われた単調載荷試験のピーク強度はより大きくなった。

加えて、橋台施工現場でジオテキスタイルとともに裏込め材として用いられたセメント混合地盤材料について、その異方性と実際問題への適応についても言及している。

更に、応力ひずみ時間関係を予測し、現実的で正確なシミュレーションに寄与する要因を、上記のこれらの重要な材料特性を踏まえて組み合わせた。最終的に、セメント混合地盤材料が裏込め材として供された実大構造物の挙動を正確にシミュレートするモデルを示した。この研究は、セメント混合地盤材料の応力ひずみ関係について、現場における短期および長期の両方の問題について予測・理解するためのものと位置付けられる。

審査要旨 要旨を表示する

粘性土・砂質土・礫質土等の地盤材料にセメントを混合することによって変形強度特性を改良する工法は、現在広く普及している。このようなセメント混合による地盤改良工法は大別すると、現存地盤にセメントを混合して改良する工法とセメント混合土を用いて盛土を建設する工法に分かれ、後者は更に締固めを伴う場合と伴わない場合に分かれる。セメント混合土を締固めて盛土を建設する工法は、従来は道路や鉄道の路盤に使用するなど殆ど二次的な使用であった一方、許容変形量が小さな永久重要構造物としての橋台や重量構造物の基礎地盤をセメント混合土の盛土で建設した例はほとんど無い。しかし、圧縮強度が通常のコンクリートの圧縮強度の10分の1程度であっても、その変形強度特性が確実に制御できれば、許容変形量が小さい重要永久構造物しての盛土構造物をセメント改良土で建設して常時の機能や耐震性を確保できる可能性は大変高い。その場合、杭構造物を省略するなど大幅に建設費を軽減することが可能になる。しかしながら、上記の様に盛土材料としてセメント混合土を使用して締固めによって盛土を建設する場合、その設計に必要となるセメント混合土の変形強度特性については不明な点が多く、このことがこの工法の確立にとって障害となっていた。

本研究は、上記のような背景で行われたものである。セメント混合土の場合でも、通常のコンクリートの場合と同様に骨材特性(粒子特性、粒度分布等)とセメント量・含水量等の配合設計は基本的な設計要因であるが、これに加えて締固め特性とそれに対応した締固め管理及び養生中の応力状態の影響が特に重要である可能性がある。類似な工法としてRoller Compacted Concreteによるダム建設工法が確立しているが、本研究の対象となる工法は目標圧縮強度がその10分の1程度であり、締固めエネルギーも遙かに小さい。このことから、別途の系統的な研究が必要となる。実際本研究の結果を参照して、2003年3月に九州において新幹線の橋台がセメント混合した礫質土を用いた盛土構造物によって建設された。

第1章は、序論である。締固めを伴うセメント混合土の基本的な設計要因を概括して、締固め時の含水比・締固め乾燥密度・養生時間・養生時の応力状態の影響が変形強度特性に与える影響を実験的に調べると言う本研究の目的を述べている。同時に、セメント混合土の粘性を解明し、更にせん断応力が存在する下で養生を受けた場合に生じる粘性とセメント水和反応の複合作用の影響を実験的に検討し、これらの現象を表現できる構成モデルの検討も研究目的としている。

第2章は、本研究で用いた良配合の礫質材料の粒度特性を示し、本研究でこれを代表的な盛土材料として用いた理由は、締固めにより高い乾燥密度が実現できる一方、セメント混合をしない場合でも現在現場で使用されている盛土材料であることを述べている。また、配合設計・混合法・締固め法・養生法など三軸圧縮試験で用いる供試体の準備法、三軸圧縮試験装置と試験方法の詳細、実験計画の説明をしている。

第3章では、セメント量・締固め時の含水比・締固め乾燥密度が変形強度特性に与える影響を、拘束圧 20 kPaでの排水三軸圧縮試験によって調べた結果をまとめている。まず、同一の礫重量に対するセメント重量比(c/g)が2.5 %程度の現実的な値では、セメントを混合する前の礫とセメント混合礫の締固め曲線は殆ど同じであり、最大乾燥密度が得られる最適含水比が存在することを示している。次に、同一のc/gでは同一の締固めエネルギーを用いた場合、最適含水比で締固めた時に最大の圧縮強度が得られることを示し、その要因を検討している。すなわち、締固め後の同一の「単位体積あたりセメント体積」と同一の含水比においても、締固め乾燥密度が増加するほど強度が明確に増加することから、この要因が最も重要であることを示している。一方、「同一の乾燥密度でも最適含水比で締固めると特に強度が増加する要因」と「同一のc/gでも締固め密度が増加すると締固め後の同一の単位体積あたりセメント体積が増加する要因」は、副次的であることを示している。以上のことから、現場においても、最適含水比で締固めることが重要であることを示唆している。

また、三軸圧縮試験時の軸圧縮方向と締固め方向が平行な供試体と直角な供試体の変形強度特性を比較することにより初期構造の異方性を検討している。その要因がピーク強度に与える影響は小さいが、意外にもピーク強度発揮前の小ひずみレベルでは前者の剛性が若干低いことを示し、これは締固め層の間に出来る打ち継ぎ目層の剛性が低いためであると推定している。

第4章では、まずいわゆる変形強度特性に対する時間効果には、「クリープ変形や応力緩和現象や変形強度特性に及ぼすひずみ速度の影響を生じる材料としての粘性(viscosity)」と「時間経過とともに変形強度特性が変化する年代効果(ageing)」の二つの要因があることを述べている。次に、養生中の変形強度特性の変化について実験的に検討した結果をまとめている。まず、0.0001 % 程度の微小ひずみレベルでの繰返し載荷によって弾性的変形特性を測定しようとする場合でも、ひずみ速度が低いほど破壊応力状態に近いほど繰返し載荷中に粘性による変形が生じる可能性が高くなることを示し、真の弾性的変形特性を求める場合には粘性の影響を排除して測定する必要があることを示している。その上で、せん断応力が存在しない条件の下で養生した場合、養生初期は弾性的初期剛性の養生時間に対する増加率が圧縮強度の増加率よりも大きいが、養生期間が長くなるほど圧縮強度の増加率が相対的に大きくなりピーク前の変形強度特性はより線形的になることを示している。

次に、単調載荷試験の途中の様々なせん断応力レベルでひずみ速度を何回も急変させる実験を行って、ひずみ速度が急増するとせん断応力は急増しひずみ速度を急減するとせん断応力は急減することを明らかにして、これは粘性による現象であるとしている。更に、セメント混合されていない地盤材料の場合と同様に、セメント混合土のせん断応力はピーク応力前では現在のひずみ(より正確には不可逆ひずみ)とその速度によって一義的に決定されること、ピーク応力後ではひずみ速度の変化時に観察されたせん断応力変化分はひずみの増加とともに減衰する現象が生じることを明らかにした。更に、ひずみ速度の急変に伴うせん断応力の急変量は「現在の応力にある定数を加えた値」に常に比例し、この比例定数は急変前後の不可逆ひずみ速度の比の対数に比例すると言う法則性を見いだした。これは、次の章で説明されているモデル化の基礎となっている。更に、せん断応力が存在する状態でクリープ載荷試験を行うと、セメント混合していない場合と比較すると遙かに早くクリープが収束すること、クリープ載荷後に一定のひずみ速度での単調載荷試験を再開すると、大きな応力範囲で弾性に近い高い剛性を示すことを見いだした。更に単調載荷を継続すると、明確な降伏を示した後に、同一の材令でせん断応力のない状態で養生してから連続的に同一のひずみ速度で単調載荷試験した場合の応力−ひずみ関係に収斂する傾向を示すが、より若材令でかつ破壊により近い応力状態でより長期にクリープ載荷した場合ほど、同一のひずみ速度で単調載荷試験した場合の同一の材令での強度よりもより高い強度を示すことを見いだしている。このような非線形的な現象は、セメント水和による年代効果はセメント混合していない土の変形強度特性に対して時間的に線形的に付加されるのではなく、土の構造の強度がセメンテーションにより時間的に強化される現象であると論じている。

第5章では、セメント混合礫の粘性とセメント水和による年代効果とこれらの複合現象を同時に説明することを、非線形三要素モデルの枠組みでモデル化を試みている。このモデルでは、ひずみ増分は弾性成分と非弾性(非可逆)成分の和であり、応力は粘性応力と非粘性応力の和である。従来のモデルを、材令により弾性的剛性と非粘性応力〜非可逆ひずみ関係における剛性とピーク強度は時間的に増加することを取り入れて修正している。実験結果を解析することによってモデルパラメータを決定して、実験結果をシミュレーションしている。その結果に基づき、粘性と年代効果が同時に生じる場合の構成モデルの合理的な構造を検討している。

第6章は、結論である。

以上要するに、セメント混合された礫質土の系統的な室内材料実験を行い、許容変形が小さいセメント混合土の永久重要盛土構造物の設計に関連したセメント混合礫の変形強度特性に関する研究分野の発展及び実務設計の改善に寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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