学位論文要旨



No 118576
著者(漢字) 趙,相云
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,サンウォン
標題(和) 生活の質を考慮した地域開発政策に関する研究
標題(洋)
報告番号 118576
報告番号 甲18576
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5595号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 大方,潤一郎
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 助教授 北沢,猛
 東京大学 助教授 城所,哲夫
内容要旨 要旨を表示する

本研究は経済のグローバル化や情報化の中で、地方への先端・情報企業や専門・技術職の立地を図り地域振興を果たしようとしたテクノポリス政策に着目し、テクノポリス地域の内発的発展のあり方として、産業基盤整備などの産業立地政策のみならず、もう一つの目標でもある人材の定着や定住を図るための地域生活の質やアメニティを考慮したまちづくりとして整備やその成果を分析することを目的とした。具体的に1980年以降専門職・技術職といった知識職種(人材)の空間的分布特性とその変動を大都市圏・地方圏、人口規模別に分けて詳しく分析し、知識職種の分布指向を明らかにした。また、「地域開発と経済開発の統合」を志向したテクノポリス指定地域の成果や実態を詳細に検討するために、工業のみではなく、人材や人口と関連してその成果や問題点を分析した。さらに、地域定住の要因として人材はどのような生活の質の要素を重要視しているかをアンケート調査によって分析した。最後に研究を通じて得られた結果をまとめ、内発的発展のあり方として生活の質やアメニティの重要性を提言することで、本研究の結論とする。

.テクノポリス政策の限界

産業立地政策としてのテクノポリス開発

テクノポリス政策は、ポテンシャルの高い地方圏を対象に指定し、大都市圏指向性の高い先端技術企業をほぼ全国配置しようし、テクノポリス指定地域では、まず地域に有力な企業や研究所を外から誘致し、その効果として地元産業の技術高度化をはかざるをえなかった。政策の優先順位が企業誘致といった経済開発優先を正当化してきたのである。しかも、80年代後半、バブル経済の崩壊と長期化、企業の海外へのグローバルな地域展開の段階に入り、先端技術産業の誘致を基本としてきたテクノポリス開発でも充分対応できなかった。

テクノポリス開発の成果

テクノポリスに指定された地域の間には既存の工業集積に大きな格差が存在しており、テクノポリス開発による成果は大きく異なる。特に、相対的に工業集積の弱い地域の間に、工業出荷額の増加に大きな格差が存在している。また、工業とは別に、人口成長については母都市の規模によって大きく異なり、いわば、「人口増加地域」は母都市が大都市で、都市的機能がある程度整備された地域であり、逆に母都市の都市的機能の弱い地域は人口が減少している状況である。

一方、テクノポリス地域における専門・技術職の割合は低下しており逆に機能者は上昇している。これは、テクノポリス地域に研究開発活動を含む先端技術産業の立地やそれに関連した人材の定着が進んでおらず、逆に先端技術産業の生産部門が立地したことである。また、テクノポリス地域の生産機能の類型の変化の分析結果でも、生産現場型が増えており、研究開発より試作・量産といった生産部門が多く立地したことになる。

「まちづくり」としてのテクノポリス開発

テクノポリス地域ごとにみてみると、テクノポリス開発計画の一環として新規に立案され、学術研究機関・ハイテク型産業・住宅などの住環境が一体として整備されてきたのは、浜松の都田テクノパーク、西播磨の西播磨学園都市、秋田の秋田新都市、宇部の宇部新都市「あすとぴあ」などごく一部である。しかし、ほとんどの地域が90年度後半・2000年度初半で街びらき行われ、産業団地建設より非常に遅れて整備されたのである。これも、商業や文化・交流機能を提供するセンター用地開発は未定のままの地域が多く、住宅分譲が低調である地域も見られる。

知識業種の分布特性とその変動

知識業種の東京圏とその周辺部への集中傾向

1995年現在、専門・技術職の就業者は、3大都市圏に5割強集中して分布しているが、1985年に比べて東京圏への集中は増大し、大阪圏は低下している。3大都市圏を除いた道県で著しく増加しているのは、茨城県、栃木県、石川県、山梨県、長野県などの東京圏周辺録部(本州中央部)地域である。また、その分布密度も、全国対比割合とほぼ同じ様相を呈し、東京圏とその周辺録部での密度が高く逆に、中国、四国、九州、東北・北海道などの諸県では非常に低いという構造になっている。

職業構造と人口増減との関係

職業別の分布構造と人口増加率との関係を分析した結果、専門・技術職と管理・事務職が多く分布している地域での人口増加が高くなっている。これは、知識社会への変化の中で、専門・技術・管理といった研究開発や管理中枢機能が重視され、これらの職業が急速に増加して地域で人口が増加するという構造になっているためであると考えられる。

しかし、80年代からテクノポリス政策、頭脳立地構想など大都市圏から離れた地方における先端企業や研究開発活動の誘致し、地域振興を図ったにもかかわらず、研究開発活動の立地は、逆の流れを示しており、明らかにヒトとカネの流れは東京を目指して進んでいる。そこで、これからの地域活性化を考えるならば、専門・技術職がより好んでくれる地域づくり、即ち専門・技術職が地域みずから主体的に定着する、さらに育てる地域づくりに長期的に着実に成り立てる必要があると考えられる。進める必要があると考えられる。

知識職種の生活の質に対する評価の特性:浜松市を事例にして

浜松テクノポリス地域は、他のテクノポリス地域に比べて、既にテクノポリス指定以前から三大産業の成熟化し、これに関連した中小企業が集積しており、整備された産業団地への企業立地は、圏外より域内の企業が多く、特に都田地区を中心とする大規模開発が行われるとともに、研究開発型企業の立地が多く見られた。近年電子・機械等の産業が成長し産業構造が転換しており、特に研究開発活動のシェアが増大されつつある。

また、知識職種の浜松市の生活の質に対する意識を調査した結果、全般的な生活の質に対して不満を感じている応答が多くなっているが、これは応答者の年代、居住年数によって異なり、特に(1)「年齢」が「20代」か、「50代以上」であるか、(2)「居住年数」が「10年未満」であるか、の2点が大きく関連している。応答者の属性(4区分)と生活の質を表す指標別評価を因子分析し抽出された6因子との関連を分析した結果、比較的職業に安定している旧住民50代を除いた世代においては、「自然環境」が生活の質に対する総合満足度に関連する要因となっており、特に、近年他の地域から移住してきた「新住民群」においては、「自然環境」とともに「就労環境」は重要な要因となっており、他の地域へ移住するには仕事に関する就労環境が欠かせない条件であるといえよう。また、先端・情報企業に勤務している応答者の特徴として、仕事だけを重視することではなく、「自然景観」、「エンタテインメント」といったアメニティ関連環境が生活の質に対する総合満足度と深い関連がある。

浜松テクノポリスは、他のテクノポリス地域と比べて、工業集積が量的にも質的にも高く、人材の定着のための地域づくりを目指し、都市機能やリフレッシュ機能の整備を行われている。特に、浜松市が主体的に都田地区、アクトシティなどを開発し、テクノポリス本来の産学住の三位一体とした開発を目指して進んでいる地域である。そこで浜松テクノポリスの成果は長期的な観点から評価すべきであろう。

政策的示唆点

社会・経済体系のグローバル化と知識・情報化している中で、国家間・地域間の競争は一層激しくなり、地方政府は、先端・情報産業といった知識産業の誘致や創出のため様々な政策に取り組んでいる。テクノポリス政策は、先端技術産業や人材の立地を図るためテクノポリス地域のアメニティが一つの要素として組み込まれたのである。しかし、経済のグローバル化や低減による地方への先端・情報企業の立地は期待したとおり進行されなかったが、長期にわたる外来型開発によってある種のポテンシャルを形成してきたことは否定できないと考えられる。

そこで、近年テクノポリス地域における外来型開発の限界から地域のある種のポテンシャル利用した内発的発展への転換の必要性を強調されつつある。そのためには、まず、生活の質やアメニティ等の要素をグレードアップすることである。「人的資源」の定着をうながすのは、雇用機会だけではなく、アメニティや高次の都市機能の集積が必要である。即ち、知識産業や人材の立地による地域発展を図るためには、「働く」ための場所と「人材」が定着するための「住む」と「楽しむ」等の場所とを同時進行で整備しなければならないと考えられる。しかし、人的資源と知識産業を支えるためのアメニティや高次の都市機能は、どの都市も均等に備えるわけにはいかないことである。地域政策は、すべての地域を横並びで全体として高次のアメニティや都市機能が達成できない状態を選択するか、不均等ではあっても全体として高次のアメニティや都市機能からミニマムのアメニティや都市機能までを備えた状態を選択するかという観点から再検討する必要があると考えられる。

以上のように「まちづくり」を含めたテクノポリス開発の成果を判断することは難しく、今後テクノポリス政策において内発的政策転換の動きが一層強調されつつことから、「ポリス」の機能性と文化性を重点に考え、その機能を高めるための長期的な投資あるいは事業を行われてきた地域を長期的な観点から注目してみる必要があると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は経済のグローバル化や情報化の中で、地方への先端・情報企業や専門・技術職の立地を図り地域振興を果たしようとしたテクノポリス政策に着目し、テクノポリス地域の内発的発展のあり方として、産業基盤整備などの産業立地政策のみならず、もう一つの目標でもある人材の定着や定住を図るための地域生活の質やアメニティを考慮したまちづくりとして整備やその成果を分析することを目的とした。具体的に1980年以降専門職・技術職といった知識職種(人材)の空間的分布特性とその変動を大都市圏・地方圏、人口規模別に分けて詳しく分析し、知識職種の分布指向を明らかにした。また、「地域開発と経済開発の統合」を志向したテクノポリス指定地域の成果や実態を詳細に検討するために、工業のみではなく、人材や人口と関連してその成果や問題点を分析した。さらに、地域定住の要因として人材はどのような生活の質の要素を重要視しているかをアンケート調査によって分析した。最後に研究を通じて得られた結果をまとめ、内発的発展のあり方として生活の質やアメニティの重要性を提言した。

社会・経済体系のグローバル化と知識・情報化している中で、国家間・地域間の競争は一層激しくなり、地方政府は、先端・情報産業といった知識産業の誘致や創出のため様々な政策に取り組んでいる。テクノポリス政策は、先端技術産業や人材の立地を図るためテクノポリス地域のアメニティが一つの要素として組み込まれたのである。しかし、経済のグローバル化や低減による地方への先端・情報企業の立地は期待したとおり進行されなかったが、長期にわたる外来型開発によってある種のポテンシャルを形成してきたことは否定できないと考えられる。

そこで、近年テクノポリス地域における外来型開発の限界から地域のある種のポテンシャル利用した内発的発展への転換の必要性を強調されつつある。そのためには、まず、生活の質やアメニティ等の要素をグレードアップすることである。「人的資源」の定着をうながすのは、雇用機会だけではなく、アメニティや高次の都市機能の集積が必要である。即ち、知識産業や人材の立地による地域発展を図るためには、「働く」ための場所と「人材」が定着するための「住む」と「楽しむ」等の場所とを同時進行で整備しなければならないと考えられる。しかし、人的資源と知識産業を支えるためのアメニティや高次の都市機能は、どの都市も均等に備えるわけにはいかないことである。地域政策は、すべての地域を横並びで全体として高次のアメニティや都市機能が達成できない状態を選択するか、不均等ではあっても全体として高次のアメニティや都市機能からミニマムのアメニティや都市機能までを備えた状態を選択するかという観点から再検討する必要があると考えられる。

以上のように「まちづくり」を含めたテクノポリス開発の成果を判断することは難しく、今後テクノポリス政策において内発的政策転換の動きが一層強調されつつことから、「ポリス」の機能性と文化性を重点に考え、その機能を高めるための長期的な投資あるいは事業を行われてきた地域を長期的な観点から注目してみる必要があると考えられる。

本研究は、地域開発政策における生活の質の確保を、日本のテクノポリス政策を事例として詳細に明らかにし、その分析を通じて今後の政策展開のための有益な提言を行い、優れた学術的価値を有している。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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