学位論文要旨



No 118596
著者(漢字) 洪,性大
著者(英字)
著者(カナ) ホン,ソンデ
標題(和) ダイナミック可視化技術による化学反応性噴流に関する研究
標題(洋) Study on Chemically Reacting Liquid Round Free Jet Flow by Dynamic Visualization Techniques
報告番号 118596
報告番号 甲18596
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5615号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 岡本,孝司
 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 助教授 越塚,誠一
 東京大学 助教授 高橋,浩之
 東京大学 助教授 門,信一郎
内容要旨 要旨を表示する

本実験研究はダイナミック可視化技術による化学反応性噴流に関する混合抑制現象を評価するために実施された.もし流体の流れが化学反応している所に存在するのであれば,化学反応はマクロやまたミクロスケールの現象を持ってよく見受けられる.しかしながら,今日までに化学反応が流体自身にどのように影響を与えているかはまだ明らかにされていない.化学反応は,ときどき流体に積極的に作用する,また消極的な様相を持ち,流れに重要な役割を果たしている.特に,ナトリウム−水反応は,原子力発電での高速増殖炉 (FBR: Fart Breeder Reactor) の冷却系において正確に評価されるべきである.

化学反応によって引き起こされる混合抑制現象を評価するために,ダイナミック可視化システムを開発した.時間的・空間的な分解能を持った流れの可視化システム(カメラ,レーザー等)の開発なので,化学反応の遷移流れを正確に評価するために画像解析技術を改善すべきである.この博士論文では,化学反応している遷移流れの現象を実験的に評価することを目的としたダイナミックPIV(粒子画像流速測定法:Particle Image Velocimetry)と呼ばれる新しいPIVアルゴリズムを説明している.

乱流と化学反応との関係は,例えば,燃焼における噴流火炎,ナトリウム−水反応,化学反応塔および環境汚染などの流動に関して大変重要である.多くの研究が乱流に関する化学反応の影響について報告しているけれども,それらの多くは混合を強調することに重点をおいている.しかし,この論文での重点は,噴流周りの化学反応流体に関する混合抑制をもたらすことである.

ナトリウム−水反応は実験的にほとんど達成されないために,水酸化アンモニウムと酢酸は化学反応噴流を作るために選択された.レーザー誘起蛍光法(LIF:Laser Induced Fluorescence)技術は噴流周りの化学反応流体の特性を研究するために採用した.反応ありとなしの結果の比較から,遷移点近くの10D〜28Dまでの上流域の噴流の流速分布は区別可能な差は見受けられなかった.しかしながら,遷移点から遙かに離れている37D〜51Dの下流域では,反応ありとなしとの間の噴流の流速分布は反応なしより反応ありで,より早い流速で,かつ移動している渦の狭い噴流拡散を示しているという全く違った様相が観察された.反応なしの噴流はすでに完全発達乱流のように見え,反応ありの噴流はまだケルビン−ヘルムホルツ渦が明らかに見え,それは遷移状態のようである.反応ありとなしの差は特定の噴流幅の定義と定量的な噴流界面の長さによって評価され,遷移域から離れた下流域で噴流の運動量拡散が化学反応によって明らかに抑制されるということが同定された.

開発したダイナミック可視化技術は遷移している噴流を明確に可視化できる.これら可視化された遷移している噴流の流速分布は開発されたダイナミックPIVアルゴリズムによって評価された.新しいダイナミックPIVアルゴリズムの原理は,1)PIVとPTV(粒子追跡流速測定法:4時刻追跡法,(西野ら,1989))のハイブリッド技術と,2)多次元再帰型相関PIV法,である.これらの新しいアルゴリズムは,可視化情報学会によって提案された標準画像と実験データによって評価された.各計算方法のRMS(Root Mean Square)誤差が計測され,標準の再帰型相関法とで比較された.それら新しいダイナミックPIV計算を用いることで,遷移渦の移動によって再現される変動速度が再構築された.この博士論文では,レイノズル分解法が採用され,化学反応によって噴流周りの化学反応流体に関する混合抑制の評価について議論された.さらに乱流運動エネルギーとレイノルズ応力は反応ありと反応なしとの間の比較によって要求される自由噴流周りの化学反応流体に関して評価された.

最後,化学反応による化学反応性噴流に関する混合抑制現象は新しいダイナミック可視化技術を開発することによって評価された.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、化学反応と流れの相互作用に着目して実験的研究を行い、化学反応が乱れを抑制する事を実験的に見出すとともに、非定常成分を含んだ流れの高時間分解解析を行うための新しいダイナミック可視化技術の開発について論じたものである。本論文は5章で構成されている。

第1章では、反応のある場、無い場における噴流の構造に関する従来の研究をレビューするとともに、本研究の目的についてまとめている。反応と流れの相互作用に関しては、乱れが反応場にどのように影響を与えるかという研究が古くから進められてきている。一方、反応が流れの乱れ構造にどのような影響を与えるかという問題に対しては、余り着目されてきていなかった。この事をふまえ、本論文では、反応と乱流との相互作用の中で、特に、反応が乱流に与える影響に着目して実験的研究を行う事を述べている。また、画像を用いた可視化計測技術についてまとめ、現状の技術では、ある瞬間の速度や温度分布の計測には有効であるが、変動する場の計測には限界がある事を述べている。

第2章では、反応を伴う噴流に対する、実験結果についてまとめている。レーザ誘起蛍光法を主に用い、渦構造を可視化する事で、反応がある場合の渦構造、無い場合の渦構造を比較検討し、反応があることにより乱れが抑制される場合があることを明らかにした。この現象は新しい知見であり、この現象に対するパラメータサーベイを行い、乱れの抑制がある特定のレイノルズ数領域において発生する事を示した。画像を用いた反応界面面積の予測手法や噴流拡散挙動の可視化などから再現性のある結果を報告している。

第3章では、時間的な変動を伴う乱れ構造の変化を定量化するために、新しくダイナミック可視化システムを構築している。高解像度高速度カメラと高速度パルスレーザを同期し、さらに、蛍光染料や蛍光粒子を用いることで1000Hzで流れ場の構造を定量化している。特に、速度分布計測法であるPIV手法に高速度カメラを応用した場合に、速度の精度を上げる事を目的とした新しい画像解析手法を提案している。従来のPIVと異なり、時間方向に十分な画像データがある事を利用し、粒子追跡手法であるPTVをPIVに取り入れた全く新しいPITVアルゴリズムなどを開発している。このアルゴリズムの有効性を標準画像で確認するとともに、高速、かつ高解像度のデータを用いるダイナミックPIV技術を確立した。

第4章では、開発したダイナミックPIV技術を2章で取り上げた化学反応噴流に適用し、ダイナミックスを捉えることの有効性を議論している。時空間に十分なデータがあることから、時間スペクトル解析、空間スペクトル解析を行うことで、流れ場の構造を捉えることができる事を示している。

第5章は結論であり、本論文で得られた成果をまとめている。

以上のように、本論文は、反応に起因する乱れの抑制という現象を発見するとともに、高時間分解の速度分布計測技術を開発し、そのための新しい画像解析技術を提案した研究であり、システム量子工学特にシステム可視化工学の発展に寄与することが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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