学位論文要旨



No 118609
著者(漢字) 武田,真一
著者(英字)
著者(カナ) タケダ,シンイチ
標題(和) FBG光ファイバセンサを用いた複合材料積層板の層間剥離検出に関する研究
標題(洋)
報告番号 118609
報告番号 甲18609
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5628号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 教授 塩谷,義
 東京大学 教授 藤本,浩司
 東京大学 教授 影山,和郎
 東京大学 教授 青木,隆平
内容要旨 要旨を表示する

複合材料積層板は比強度・比剛性に優れることから、航空宇宙分野を始めとする多くの分野での使用が期待されている。しかしながら、積層構造を有するため、比較的小さな荷重により層間剥離が発生しやすい。この層間剥離は剛性低下を引き起こすため致命的な破壊を引き起こすこともある。したがって、層間剥離を定量的に評価することは非常に重要な課題である。そこで本研究では、代表的な複合材料積層板である炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)で発生する層間剥離を検出対象とした。FBG(Fiber Bragg Grating)センサは不均一なひずみに高感度であり、損傷検出センサとして最適であると考えられる。特に、細径FBGセンサは通常のFBGセンサの1/5の大きさであり、従来の研究で問題となった材料への埋め込みによる影響を極めて小さくすることが可能である。したがって、細径FBGセンサをCFRP内部に埋め込むことにより、CFRP自身の機械的特性を低下させることなく、層間剥離の検出が可能であると考えられる。以上の理由から、「細径FBGセンサを使用した複合材料積層板で発生する層間剥離の検出」を本研究の目的とした。さらに、層間剥離の検出だけでなく、従来の研究で未解決であったセンサ信号による損傷の定量的な評価も目的とした。本論文は8章により構成されている。以下に各章の概要と得られた結論を示す。

第1章「序論」では、本研究の背景についてまとめ、従来の研究の問題点を総括した。これらをふまえ、本研究の目的と本論文の構成について述べた。

第2章「FBG光ファイバセンサを利用した層間剥離検出手法」では、層間剥離の定量的な検出・評価を可能とする新しい検出手法を提案した。本手法の特徴を以下に述べる。

(1) 細径FBGセンサが非常に小さく、埋め込みに適していることを生かし、現在まで困難であった内部の局所的な損傷を検出可能とする。

(2) 層間剥離発生時、積層板内部のひずみ分布が二極化するため、反射光スペクトルに2つのピークが現れる。剥離が進展することで二つのピークの強度が変化するため、層間剥離の進展も評価できる。

(3) 材料に負荷を与えて損傷発生によるひずみ変化を大きくすることで、様々な積層構成を有する積層板において層間剥離の検出を可能とする。

第3章「静的荷重下で発生する層間剥離の検出」では、第2章で提案した手法を実際の炭素繊維強化複合材料に適用し、細径FBGセンサからの反射光スペクトルにより層間剥離を検出した。実験結果、解析結果、および層間剥離の進展挙動の三つを詳細に比較し、反射光スペクトルの変化と層間剥離の進展挙動の関係を明らかにした。また、反射光スペクトルの変化を利用した層間剥離の定量評価手法についても述べた。本章は本論文における基礎的な検討になり、以下の結論を得た。

(1)新たに開発した細径FBGセンサのCFRP積層板への埋め込みは、樹脂が不均一に偏った樹脂リッチ部を誘発しないことが分かった。細径FBGセンサは積層板の機械的特性に与える影響は極めて小さく、積層板内部の損傷検出センサとして最適である。

(2) 反射光スペクトルの形状は層間剥離の発生により敏感に変化し、層間剥離の発生場所とセンサの埋め込み位置の関係により、反射光スペクトルの変化傾向が異なる。

(3)反射光スペクトルの形状はセンサの埋め込み位置のズレにより大きく影響を受けることが明らかとなった。また、反射光スペクトルはセンサ部を進展する層間剥離のみに応答する。

(4)層間剥離が発生した際に反射光スペクトル内に見られる二つのピークの強度比を指標とすることで、層間剥離サイズを定量的に評価できる。

第4章「疲労負荷下で発生する端面剥離の検出」・第5章「衝撃負荷下で発生する層間剥離の検出」では、第3章で得られた結果を応用し、損傷を検出した。また、実験結果の妥当性を検証するため解析を行い、反射光スペクトルの変化と損傷の進展挙動の関係を明らかにした。これらの検討は実用上で重要となる疲労(第4章)、衝撃(第5章)を視野に置いている。第4章では以下の結論を得た。

(1)積層板への埋め込みが最終引張強度、および破断ひずみへ影響を与えないことが分かった。細径FGBセンサは本章で示すCFRP擬似等方性積層板の損傷検出センサとして適している。

(2)積層板に負荷を与えた場合、端面剥離の進展にしたがい反射光スペクトルの形状は変化した。しかしながら、無負荷の場合は端面剥離発生による内部ひずみの変化が小さいため、スペクトルの変化が確認できない場合がある。

(3)実験により得られた反射光スペクトルの変化傾向は妥当であり、反射光スペクトルの形状は端面剥離の進展位置(0°/90°層間と90°層内)とセンサの位置関係により大きく影響を受ける。

(4)端面剥離の進展により反射光スペクトル内に見られる二つのピーク強度が敏感に変化するため、二つのピークの強度比を指標とすることで、端面剥離サイズを定量的に評価できる。

(5)反射光スペクトルのピーク間距離を調べることで、端面剥離の進展位置の推測も可能である。

第5章では以下の結論を得た。

(1)本研究で対象とした[04/904/04]の積層構成を有する積層板の場合、下方の0°/90°層間で発生するピーナッツ形状の層間剥離はサイズが大きく、その剥離を検出することは重要である。したがって、細径FBGセンサは下方の0°/90°層間に接するような90°層内の位置へ埋め込んだ。

(2)反射光スペクトルは層間剥離の発生により変化し、解析結果からも実験結果が妥当であることが分かった。また、スペクトルの形状変化はセンサ部直下を通過する層間剥離の大きさと衝撃荷重の負荷時に発生する亀裂が影響を与えている。

(3)反射光スペクトルの形状を調べることで、層間剥離の大きさを評価できる。

第6章「チャープFBGセンサの損傷検出への応用」では、層間剥離の検出に通常のFBGセンサを適用する代わりにチャープFBGセンサを適用した。チャープFBGセンサの特徴を利用し、層間剥離の検出・定量評価だけでなく、層間剥離の進展方向の検出が可能であるか調べた。第6章では以下の結論を得た。

(1)センサに対する層間剥離の進展方向の違いにより、反射光スペクトルの形状の変化傾向は異なる。

(2)層間剥離がFBGセンサの格子間隔が大きい方向から進展した場合、スペクトルの形状は二つの成分へと変化し、層間剥離の進展にしたがい長波長側の成分が増加する。

(3)層間剥離がFBGセンサの格子間隔の小さい方向から進展した場合、層間剥離の進展にしたがいスペクトル幅が徐々に小さくなる。

(4)反射光スペクトル中に見られる二つの成分の面積比、またはスペクトル幅を指標として提案し、層間剥離の大きさを評価できる。

第7章「複合材補修パッチのスマート化」では、第4章で得られた結果を応用し、疲労負荷下で発生する複合材補修パッチの剥がれを検出した。本章で適用対象とした複合材料補修パッチは、近年、実構造への適用が増加してきており、ヘルスモニタリング機能の導入が期待されている。細径FBGセンサは小さいため、パッチの様々な位置への埋め込みが可能であり、適用を試みた。第7章では以下の結論を得た。

(1)接着補修構造で発生する剥がれの位置を詳細に調べ、反射光スペクトルの解析結果からCFRPパッチと接着層の界面を細径FBGセンサの埋め込み位置として決定した。剥がれの挙動に対してParis則を適用することで、センサの埋め込みが剥がれの進展速度に影響を与えていないことを確認した。

(2)反射光スペクトルは剥がれの発生により変化し、解析結果からも実験結果が妥当であることが分かった。また、スペクトルの形状変化はセンサ部直下を通過する剥がれの大きさが影響を与えている。

(3)反射光スペクトル中に見られる二つのピークの強度比を指標とすることで、剥がれのサイズを定量的に評価できる。

第8章「結論」では、本論文で得られた結果から次のような成果を得た。現在まで、光ファイバセンサによる複合材料積層板の内部損傷を評価する手法が提案、および実証されなかったため、光ファイバセンサが複合材料構造の構造ヘルスモニタリングに適用可能であるとの評価が得られなかった。しかしながら、本論文では、細径FBGセンサを利用した層間剥離の検出手法が有効であることを実証した。特に、細径FBGセンサを内部に埋め込むことにより、層間剥離の定量評価が可能であることを明らかにした。また、疲労負荷で発生する端面剥離や衝撃荷重で発生する層間剥離、積層板以外の異種材料を組み合わせた接着補修構造へ適用し、様々な材料/構造への応用も可能な手法であることも実証した。したがって、本論文で得られた成果は複合材料構造の構造ヘルスモニタリング技術の新しい発展に寄与する有益な知見となり得ると考える。

審査要旨 要旨を表示する

修士(工学) 武田 真一 提出の論文は、「FBG光ファイバセンサを用いた複合材料積層板の層間剥離検出に関する研究」と題し、8章よりなる。

複合材料積層板、とくに、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は比強度・比剛性に優れることから、航空宇宙分野を始めとする多くの分野での使用が進んでいる。しかし、積層構造を有するため、比較的小さな面外荷重により層間剥離が発生しやすく、その層間剥離を定量的に評価するとともに、非破壊的に検出することは重要な研究課題である。本研究では、ゲージ部分の不均一なひずみ分布に高感度であり、損傷検出センサとして優れ、しかも通常の光ファイバの1/3のクラッド直径を持ち、CFRP積層板の機械的特性を低下させることなく、CFRP内部に埋め込むことが可能である光ファイバセンサである、細径FBG(Fiber Bragg Grating)センサを用いて、CFRP積層板中の層間剥離を検出する手法を提案するとともに、実験・解析両面からその有用性を実証することを目的とした。

第1章は「序論」であり、本研究の背景についてまとめ、従来の研究の問題点を総括するとともに、本研究の目的と本論文の構成について述べている。

第2章は「FBG光ファイバセンサを利用した層間剥離検出手法」であり、CFRP積層板中の層間剥離の定量的な検出・評価を可能とする、細径FBG光ファイバセンサを利用した新しい層間剥離検出手法を提案している。損傷が発生すると予想される位置近傍に強化繊維と平行に埋め込まれた細径FBGセンサが、従来まで困難であった積層板内部の局所的な損傷を検出できる十分な感度を有することを示している。とくに、層間剥離発生時には、積層板内部のひずみ分布が二極化するため、FBGセンサの反射光スペクトルに2つのピークが現れ、剥離が進展すると二つのピークの相対的な強度が変化するため、層間剥離の進展量も評価できることを示している。

第3章は「静的荷重下で発生する層間剥離の検出」であり、第2章で提案した手法を、静的曲げ負荷を受け層間剥離が発生・進展する実際のCFRP直交積層板に適用し、細径FBGセンサからの反射光スペクトルにより層間剥離を検出するための基礎的な検討を行っている。実験、理論解析の両面から反射光スペクトルの変化と層間剥離の進展挙動の関係を明らかにし、反射光スペクトルの変化を利用した層間剥離の定量評価手法について述べている。

第4章は「疲労負荷下で発生する端面剥離の検出」であり、CFRP積層板の自由縁に発生する層間剥離の定量的な検出・評価法を示している。実用CFRP擬似等方性積層板構造には通常、端面やボルト穴などの自由縁が存在し、そこから発生する端面剥離の検出が重要である。ここでは、(1)試験片端部に埋め込まれた細径FBGセンサがCFRP擬似等方性積層板の最終引張強度、および破断ひずみに影響を与えないこと、(2)積層板に負荷を与えた場合、端面剥離の進展に従い、反射光スペクトルの形状は変化するが、除荷状態では端面剥離発生による内部ひずみの変化が小さいため、スペクトルの変化が確認できない場合があり、その場合は再負荷することにより、感度よく端面剥離量が検出できること、などを明らかにしている。

第5章は「衝撃負荷下で発生する層間剥離の検出」であり、 面外衝撃荷重を受ける0度、90度、0度の3層から構成されるCFRP直交積層板に発生する層間剥離の検出法について検討している。強度低下に直接的な影響を及ぼす、衝撃面から離れた90度、0度層間に発生するピーナッツ形状の層間剥離に注目し、その剥離を感度よく検出する方法を提案するとともに、実験・理論両面から実証している。

第6章は「チャープFBGセンサの損傷検出への応用」であり、層間剥離の検出に通常のFBGセンサを適用する代わりにチャープ型FBGセンサを適用し、層間剥離の進展方向の検出が可能であることを実証している。

第7章は「複合材補修パッチのスマート化」であり、第4章で得られた結果を応用し、疲労負荷下で発生する金属部材に接着された複合材補修パッチの剥がれを検出する方法を提案している。細径FBGセンサはパッチの様々な位置への埋め込みが可能であり、反射光スペクトルの解析結果からCFRPパッチと接着層の界面を細径FBGセンサの最適埋め込み位置として決定し、剥がれの発生・進展挙動を定量的に測定することに成功している。

第8章は「結論」であり、本研究で得られた結論を述べ、今後の課題について検討している。

以上要するに、本論文は、細径FBGセンサを利用した複合材料積層板の層間剥離の定量非破壊検出手法を提案するとともに、実験・理論の両面から実証することに成功している。また、疲労負荷で発生する端面剥離や衝撃荷重で発生する層間剥離、異種材料を組み合わせた接着補修構造の剥がれの検出に適用し、様々な複合材/構造への応用も可能な一般的な手法であることも実証している。本論文で得られた成果は複合材料構造の構造ヘルスモニタリング技術の新しい発展に大いに寄与する有益な知見を与えている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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