学位論文要旨



No 118648
著者(漢字) 許,志彰
著者(英字)
著者(カナ) キョ,シショウ
標題(和) アクティブ・ビデオ・デリバリー : 新しいグループ通信サービスの提案
標題(洋) ACTIVE VIDEO DELIVERY : A NEW ROUTER-ASSISTED GROUP COMMUNICATION SERVICE
報告番号 118648
報告番号 甲18648
学位授与日 2003.11.13
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5637号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安田,浩
 東京大学 教授 堀,浩一
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 助教授 中村,宏
 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 講師 青木,輝勝
内容要旨 要旨を表示する

最近の急速なブロードバンドネットワークの普及、また高度なマルチメディア技術の発展により、高品質なビデオストリーミングサービスは大きな期待を集めている。

いつでもどこでもインターネットを通して高品質のストリーミングサービスをユーザに提供するビデオ・オン・デマンド(VoD)システムは、今後ますます大規模な商用システムになると期待されている。 現在、VoDに関する主な研究はビデオ・サーバの帯域幅要求、ネットワーク転送コスト、およびユーザ側の開始遅延などの問題が中心となっている。これらの研究によりビデオ・サーバの必要帯域幅要求を大幅に減少し、ユーザ側の開始遅延もある程度削減できることがわかっている。しかし、これらの提案のほとんどは全ての転送経路にMulticast可能なルータを配備することを前提としている。これは現在のIPネットワークの環境では現実的ではない。

一方、ビデオ会議用のアプリケーション及びプラットホームの研究開発はユーザフレンドリーなインタフェース、シームレスなオーディオ/ビデオの融合、また多機能性等が中心になっている。これらはより豊かなビデオ会議システムの設計に不可欠であるが、多地点でのインタラクティブ・グループ・コミュニケーションの効率的な実現方式、ネットワーク/サーバの帯域幅の影響およびその管理についての分析や議論は不足しているのが現状である。

本論文では、大規模なオンデマンドサービスならびにインタラクティブ・マルチポイント・サービス実現のためインフラストラクチャの整備、Active Networks技術に基づくActive Video Delivery(AVD)と呼ばれるメカニズムを提案する。AVDは、ネットワーク層(IP層)のフォワーディング機能(つまり、IP Multicast)及びアプリケーション層の管理機能を利用し、効率的かつ柔軟性のある仕組みを実現している。

従来のIP Multicastのアプローチと異なり、AVDメカニズムで提案したプロトコルの場合、すべてのルータにマルチキャスト機能が実装されている必要はなく、一部のルータのみがマルチキャスト機能を有すればAVDは実現できる利点がある。また、分岐点でのActive Routers(AR)のみがネットワーク状態を管理、維持すれば良いため、既存IP Multicastと比較してネットワーク状態の管理・維持量を大幅に減少させることが可能となる。さらに、AVDメカニズムの場合、既存IP MulticastのようにMulticastグループごとに特定のIPアドレスを割り当てる必要がなく、Unicastと同様に極めて簡単にサービスが開始できる。

グループ・コミュニケーションは今後ますます高度化していくことが予想されるが、特に双方向のコミュニケーション基盤が利用可能であり、しかも受信・発信どちらの方向についても同程度の帯域が利用できる環境の構築が急務であり、本論文で提案しているAVDメカニズムはまさにそれを目的としている。

本論文は以下の通り構成されている。

第1章で序論を述べたのちに、第2章では研究の背景ならびに既存研究について、 AVDメカニズムを実現するにあたっての問題点について議論するとともに、グループコミュニケーションサービスに関する現在までの研究動向についても議論している。続いて、これらの比較を行い、これらの方式がどのようにAVDメカニズムの設計に利用できるかについて議論している。

第3章では”Active Video Delivery”と題し、AVDの概要について記述している。具体的には、AVDがどのように現在のIP Multicastと異なるのか、また、AVDの目標と予想される結果について提示している。 さらに本章の後半では、AVDメカニズムで定義される2つのモデル(集中型モデル/分散型モデル)の違いについて簡潔に述べている。

続いて、集中型AVDアーキテクチャについて議論している。具体的には、集中型AVDメカニズムにおいてActive Packetが配送経路(経路)に沿ってどのようにActive Routers(AR)を検出するのについて議論し、その後、AVDツリー生成処理を提示している。この処理は、ユーザのJOIN処理とActive RouterのREV_JOIN処理 ,また、AVDツリー最適化のための OPT_JOIN処理、PRUNE処理、RTT_Estimate処理を提案している。また本章の最後では、AVDツリーを効率的に管理するための2つのメッセージ(HeartbeatおよびAlive)について議論する。

第4章では”分散型AVDアーキテクチャ “を題し、分散型AVDツリー構造について議論する。はじめに分散AVDモデルを提案する。これは大規模なグループコミュニケーションに適しているモデルである。第3章で述べられている集中型AVDモデルでも使用されているユーザのJOIN、Active RouterのREV_JOIN、ならびにAVDツリーの最適化、管理のための手法について検討する。

第5章は”AVDの応用”を題し、2つのAVDアプリケーションを紹介している。最初にVideo Mergingというアルゴリズムの提案について説明し、真の意味でのOn-Demandサービスを実現するためのアルゴリズムを提案している。具体的には、

まず、提案アルゴリズムはビデオ・サーバ帯域幅及びネットワークコストへの影響について理論分析する。そのあと、それらの評価項目の最適化をするため、マルチプルのAVD(Multiple AVD)を提案し、ユーザ間でより効率的にデータを共有できることを証明した。

次に、AVDで構成されたマルチキャスト可能なインフラ上でどのようにこのアプリケーションが動作するのかを議論し、さらに、仮にユーザ間でビデオサーバへのリクエストの時間が異なっていても高効率にデータを共有し配送することが可能であることを示す。2つのAVDアプリケーションはBroaferenceである。Broaferenceとは、多地点、すなわち、N*N型のインタラクティブ型協調ビデオ配信サービスである。最初にユーザをどのようにグルーピングするのかについて議論し、続いて、近傍サーバリストを利用することによって、サーバとユーザの中間に位置するすべてのActive Routerで維持しなければならないネットワーク状態の量を大幅に減少させることが可能となることを示す。 以上のことから、AVDメカニズムは、グループコミュニケーションサービスの構築に柔軟に対応できることがわかる。

第6章では、“AVDの評価”と題し、シミュレーションモデル・条件の明確化と評価結果について概説する。まず、集中型AVDアーキテクチャ、分散型AVDアーキテクチャのそれぞれについて、OPNETと呼ばれるネットワークシミュレータで構成する場合の各ネットワーク構成要素(サーバ、ユーザ、Active Router等)の実現法について述べる。続いて、ネットワークコストおよびサーバ帯域幅等の性能に関してAVDメカニズムの詳細な評価を行う。さらに、様々なネットワークトポロジーとトラフィック条件のもとで評価を行った結果、AVDメカニズムを利用したアプリケーションは、ビデオ・サーバ帯域幅の低減、ネットワークコストの最小化、平均リンク・ロードの最適化等を実現できることがわかった。 最後に、Active Router数(全ルータ中のActive Routerの割合)とネットワークの性能について評価した。AVDはすでに前述した通り既存IP Multicast等とは異なりネットワーク中にすべてのルータがMuticast機能を搭載している必要はない。実際、わずか25%程度のルータがActiveであればAVDの利点を享受できることを明らかにしている。

第7章はまとめであり、本論文の研究成果をまとめ、残された課題や今後の研究の方向性について整理している。

以上のように、本論文では従来困難であったMulticastの実現をActive Network技術を基礎として解決することを目的としており、集中型AVDアーキテクチャ、分散型AVDアーキテクチャを提案することにより、従来解決が困難であった様々な問題を解決することに成功した。さらに、AVDで構成されたマルチキャスト可能なインフラ上で真の意味でのOn-Demandサービス、(Video Mergingアルゴリズム)とN*N型のインタラクティブ型協調ビデオ配信サービス(Broaference)の二つのアプリケーションを構築し,それらの有効性及び効率性を検証するため、理論分析及び詳細シミュレーションを行っている。

理論分析及びシミュレーションの結果により、AVDストリーム再生成条件の閾値が適切に選ばれれば、提案したAVDメカニズムがビデオ・サーバの要求帯域、ネットワークコスト、平均リンク・ロードなどを大幅に減少させることが可能にした。また、大規模なグループコミュニケーションサービスを実行している際に、サーバとユーザの中間に位置するすべてのActive Routerで維持しなければならないネットワーク状態の量を近傍サーバリストを利用することにより大幅に減少させることが可能となった。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「ACTIVE VIDEO DELIVERY: A NEW ROUTER-ASSISTED GROUP COMMUNICATION SERVICE アクティブ・ビデオ・デリバリー:新しいグループ通信サービスの提案」と題し、大規模なオンデマンドサービスならびにインタラクティブ・マルチポイント・サービス実現のためインフラストラクチャの整備、ACTIVE NETWORKS技術に基づくACTIVE VIDEO DELIVERY(AVD)と呼ばれるメカニズムを提案している。

最近の急速なブロードバンドネットワークの普及、また高度なマルチメディア技術の発展により、高品質なビデオストリーミングサービスとその応用であるVoD:VIDEO ON DEMANDは大きな期待を集めている。現在、VoDに関する主な研究はビデオ・サーバの帯域幅要求、ネットワーク転送コスト、およびユーザ側の開始遅延などの問題が中心となっている。しかし、これらの研究のほとんどは全ての転送経路にMULTICAST可能なルータを配備することを前提としている。これは現在のIPネットワークの環境では現実的ではない。

一方、ビデオ会議用のアプリケーション及びプラットホームの研究開発はユーザフレンドリーなインタフェース、シームレスなオーディオ/ビデオの融合、また多機能性等が中心になっている。これらはより豊かなビデオ会議システムの設計に不可欠であるが、多地点でのインタラクティブ・グループ・コミュニケーションの効率的な実現方式、ネットワーク/サーバの帯域幅の影響およびその管理についての分析や議論は不足しているのが現状である。

本論文では、大規模なオンデマンドサービスならびにインタラクティブ・マルチポイント・サービス実現のためインフラストラクチャの整備、ACTIVE NETWORKS技術に基づくACTIVE VIDEO DELIVERY (AVD) と呼ばれるメカニズムを提案する。AVDは、ネットワーク層(IP層)のフォワーディング機能(つまり、IP MULTICAST)及びアプリケーション層の管理機能を利用し、効率的かつ柔軟性のある仕組みを実現している。

本論文は以下のように構成されている。

第1章で序論である。

第2章では研究の背景ならびに既存研究について述べている。 AVDメカニズムを実現するにあたっての問題点について議論するとともに、グループコミュニケーションサービスに関する現在までの研究動向についても議論している。既存研究の比較を行い、既存方式をどのようにAVDメカニズムの設計に利用できるかについて議論している。

第3章では、AVDの概要を述べ、システム提案を行っている。具体的には、AVDがどのように現在のIP MULTICASTと異なるのか、およびAVDの目標と予想される結果について提示している。 さらに本章の後半では、AVDメカニズムで定義される2つのモデル(集中型モデル/分散型モデル)について、その違いを述べている。

2つのモデルのうちまず集中型モデルについて具体化を検討する。集中型AVDメカニズムにおいて、ACTIVE PACKETが配送経路(経路)に沿ってどのようにACTIVE ROUTERS(AR)を検出するのについて議論し、その後、AVDツリー生成処理を提示している。また、ユーザのJOIN処理とACTIVE ROUTERのREV_JOIN処理、さらにAVDツリー最適化のための OPT_JOIN処理、PRUNE処理、RTT_ESTIMATE処理を提案している。本章の最後では、AVDツリーを効率的に管理するための2つのメッセージ(HEARTBEATおよびALIVE)について議論している。

第4章では”分散型AVDアーキテクチャ “を題し、分散型AVDツリー構造について議論する。はじめに分散AVDモデルを提案する。これは大規模なグループコミュニケーションに適しているモデルである。第3章で述べられている集中型AVDモデルでも使用されているユーザのJOIN、ACTIVE ROUTERのREV_JOIN、ならびにAVDツリーの最適化、管理のための手法について検討する。

第5章は”AVDの応用”を題し、2つのAVDアプリケーションを紹介している。最初の応用は「VIDEO MERGING」で、真の意味でのON-DEMANDサービスを実現するためのアルゴリズムを提案している。具体的には、まず、提案アルゴリズムはビデオサーバ帯域幅及びネットワークコストへの影響について理論分析する。それらの評価項目を最適化するため、マルチプルのAVD(MULTIPLE AVD)を提案し、ユーザ間でより効率的にデータを共有できることを証明した。

次に、AVDで構成されたマルチキャスト可能なインフラ上でどのようにこのアプリケーションが動作するのかを議論し、さらに、仮にユーザ間でビデオサーバへのリクエストの時間が異なっていても高効率にデータを共有し配送することが可能であることを示した。2つ目のAVDアプリケーションは、この高効率共有配送機能を活用するBROAFERENCEである。BROAFERENCEとは、多地点、すなわち、N*N型のインタラクティブ型協調ビデオ配信サービスである。最初にユーザをどのようにグルーピングするのかについて議論し、続いて、近傍サーバリストを利用することによって、サーバとユーザの中間に位置するすべてのACTIVE ROUTERで、維持しなければならないネットワーク状態の量を大幅に減少させることが可能となることを示す。 以上のことから、AVDメカニズムは、グループコミュニケーションサービスの構築に、柔軟に対応できることが示された。

第6章では、“AVDの評価”と題し、シミュレーションモデル・条件の明確化と評価結果について概説する。まず、集中型AVDアーキテクチャ、分散型AVDアーキテクチャのそれぞれについて、OPNETと呼ばれるネットワークシミュレータで構成する場合の、各ネットワーク構成要素(サーバ、ユーザ、ACTIVE ROUTER等)の実現法について述べる。続いて、ネットワークコストおよびサーバ帯域幅等の性能に関して、AVDメカニズムの詳細な評価を行う。さらに、様々なネットワークトポロジーとトラフィック条件のもとで評価を行った結果、AVDメカニズムを利用したアプリケーションは、ビデオサーバ帯域幅の低減、ネットワークコストの最小化、平均リンク・ロードの最適化等を実現できることが明らかとなった。 最後に、ACTIVE ROUTER数(全ルータ中のACTIVE ROUTERの割合)と、ネットワークの性能について評価した。AVDはすでに前述した通り、既存IP MULTICAST等とは異なり、ネットワーク中にすべてのルータが、MULTICAST機能を搭載している必要はない。実際、わずか25%程度のルータがACTIVEであれば、AVDの利点を享受できることを明らかにしている。

第7章はまとめであり、本論文の研究成果をまとめ、残された課題や今後の研究の方向性について整理している。

以上要するに本論文では、従来困難であったMULTICASTの実現をACTIVE NETWORK技術を基礎として解決することを目的とし、集中型AVDアーキテクチャ、分散型AVDアーキテクチャを提案して、従来解決が困難であった様々な問題を解決することに成功し、さらに、AVDで構成されたマルチキャスト可能なインフラ上で真の意味でのON-DEMANDサービス、(VIDEO MERGINGアルゴリズム)とN*N型のインタラクティブ型協調ビデオ配信サービス(BROAFERENCE)の二つのアプリケーションを構築し,それらの有効性及び効率性を理論分析及び詳細シミュレーションで検証したものであり、画像配信技術分野に寄与するところ大である。

よって著者は東京大学大学院工学系研究科における博士(工学)の学位論文審査に合格したものと認める。

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