No | 118653 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Ruberu,Tantirige Ravi Parashara | |
著者(カナ) | ルベル,タンテリゲー ラビ パラシャラ | |
標題(和) | スリランカにおける脊髄小脳変性症の臨床病理学的及び分子遺伝学的解析 | |
標題(洋) | Clinico-Pathological and Molecular Genetic Analysis of Spinocerebellar Ataxia in Sri Lanka | |
報告番号 | 118653 | |
報告番号 | 甲18653 | |
学位授与日 | 2003.11.26 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2213号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 脳神経医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 序論 脊髄小脳変性症(SCA)は異なる疾患群からなる神経変性疾患であり,臨床的特徴のオーバーラップを認める.臨床的には拡がりを持った疾患群で,純粋な小脳失調症から,小脳症状に脳幹症状を伴うもの,小脳や基底核,脊髄,末梢神経の障害を伴うものまで多彩な所見を呈する.遺伝性の小脳失調の家系においても,罹患者における臨床的な多様性が存在する.遺伝的な修飾因子や遺伝的な異質性が,このような多様性の説明として考えられている。これらの疾患の診断は最近までは表現型に基づくものであった.SCAの発症年齢,遺伝形式,重症度は多様である。これらを考慮に入れたハーディングの遺伝性失調症の分類は,遺伝子による分類が登場するまでは有用な臨床的分類として広く受け入れられていた. 臨床的な分類は,発症年齢,進行の速度,様々な臨床所見の存在(例えば,腱反射の冗進や消失,眼科的所見)などを含んでいる。そのような臨床的分類は臨床家にとっては魅力的であるが,それらは解剖学的な正確性を欠いており,病理学的に異質でありながら臨床的に類似している疾患群の区別が困難である。 従って,病理学的な検索は病気の進行過程や,SCAのように複数の組織に様々な形で病態が及ぶ疾患を理解することに大きく寄与する. 我々はスリランカにおいて最初で唯一のSCAの研究を行い,SCAの臨床像を呈する4家系を同定した。そのうち3家系においては常染色体優性の遺伝形式を呈し,表現促進現象を認めた。1家系においては,病理学的及び分子遺伝学的検討を行った。 結果及び考察 臨床的特徴 最初の3家系においては,5世代にわたる家系が得られ,4番目の家系においては6世代の家系が得られた。第一家系では,80人の構成員の中で14人の罹患者が認められた。死亡者の中には8人の罹患者が含まれ,最初の2世代の罹患者全員が含まれていた。第二家系は101人の構成員からなり,25人の罹患者を認め,うち5人が死亡していた。第三家系は73人の構成員からなり,罹患者は8人でうち2人が死亡していた。第四家系は37人の構成員,7人の罹患者を認めた。 我々の診察し得なかった過去の世代においては,少なくとも協調運動障害,平衡障害及び構音障害を認めていたことが知られていた.上の世代の罹患者は60歳以上まで生存していた。臨床的には,歩行障害から発症し,早期に構音障害が伴って緩徐に進行した.上肢の失調症はその後2-3年して出現しており,書字困難で気付かれることが多かった.また筋クランプの症状も同時期に認められた.嚥下障害は,より高齢で,より重症例に多かった。緩徐眼球運動を認め,衝動的眼球運動の速度に著明な低下が認められ,滑動的眼球運動にも障害が認められた.しかし,眼球運動制限や眼振,視力障害は認められなかった.重症例においては,対称性の,全身的な筋萎縮が認められた.神経心理学的に異常は認められず,痴呆も認めなかった。全ての罹患者において,筋トーヌスの上昇,腱反射の亢進,クローヌス,両側バビンスキー反射陽性を認めた.錐体外路系の症状や自律神経症状は認めなかった。 病理学的特徴 死後6時間の剖検脳では,肉眼的に大脳,小脳,脳幹の対称性の萎縮が明らかであった.組織所見では,馬尾は神経線維の変性と、後索の有髄線維の脱落が認められた。前角の神経細胞の脱落は中等度であり,いくつかの神経細胞は萎縮していた.クラーク柱の細胞脱落は高度であった.脊髄小脳路の変性及び皮質脊髄路の有髄線維の脱落を認めた.下オリーブ核は著明な神経細胞の脱落とグリオーシスを認めたが,副オリーブ核は保たれていた。舌下神経核と網様体では軽度の神経脱落が認められた.橋核では神経細胞の高度の脱落とグリオーシスを認め,ユビキチン及び1C2抗体陽性の核内封入体が認められた.橋の横走線維の脱落も高度であった.小脳において著明なのは,白質の減少を伴う小脳回の萎縮であった。プルキニエ細胞の中等度の脱落と,バーグマングリアの増加,小脳皮質のグリオーシスが認められた.歯状核の神経細胞脱落,萎縮,軽度のグリオーシスが認められた.小脳と比較して大脳は特記すべき所見は認められなかった. 分子遺伝学的解析 4人の罹患者において分子遺伝学的解析が行われた.SCA1, SCA2, SCA3(MJD), SCA6, SCA7, SCA12, SCA17, DRPLA, ERDA1, KCNN3, MAB21L, SEF2-1の各ローカスにおいてCAG伸張は認められなかった.Repeat expansion detection によって,これらの罹患者においてCAG伸張が認められた. 以上の結果より,これらの家系はCAG伸張を伴う新規のSCAの家系である可能性が強く示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究はスリランカにおける遺伝性脊髄小脳変性症(SCA)の家系を同定し,その臨床像,遺伝形式,病理学的所見を明らかにすると共に分子遺伝学的検討を行うことを試みたものであり,下記の結果を得ている。 本研究により常染色体優性遺伝形式を呈したSCAの4家系を同定した。第一家系では,5世代80人の構成員の中で14人の罹患者が認められた.死亡者の中には8人の罹患者が含まれ,最初の2世代の罹患者全員が含まれていた.第二家系は5世代101人の構成員からなり,25人の罹患者を認め,うち5人が死亡していた.第三家系は5世代73人の構成員からなり,罹患者は8人でうち2人が死亡していた。第四家系は6世代37人の構成員中7人の罹患者を認めた。これらの家系においては表現促進現象を認めた。 臨床的には,協調運動障害,平衡障害及び構音障害が主症状であった。経過としては,歩行障害から発症し,早期に構音障害が伴って緩徐に進行した.上肢の失調症はその後2-3年して出現した。また筋クランプも同時期に認められた。嚥下障害は,より高齢で,より重症例に多かった。緩徐眼球運動を認めたが,眼球運動制限や眼振,視力障害は認められなかった。重症例においては,対称性の,全身的な筋萎縮が認められた。神経心理学的に異常は認められず,痴呆も認めなかった.全ての罹患者において,筋トーヌスの上昇,腱反射の亢進,クローヌス,両側バビンスキー反射陽性を認めた.錐体外路系の症状や自律神経症状は認めなかった. 病理学的特徴としては,肉眼的に大脳,小脳,脳幹の対称性の萎縮が明らかであった。組織所見では,馬尾は神経線維の変性と,後索の有髄線維の脱落が認められた.前角の神経細胞の脱落は中等度であり,いくつかの神経細胞は萎縮していた.クラーク柱の細胞脱落は高度であった.脊髄小脳路の変性及び皮質脊髄路の有髄線維の脱落を認めた。下オリーブ核は著明な神経細胞の脱落とグリオーシスを認めたが,副オリーブ核は保たれていた。舌下神経核と網様体では軽度の神経脱落が認められた。橋核では神経細胞の高度の脱落とグリオーシスを認め,ユビキチン及び1C2抗体陽性の核内封入体が認められた。橋の横走線維の脱落も高度であった。小脳において著明なのは,白質の減少を伴う小脳回の萎縮であった。プルキニエ細胞の中等度の脱落と,バーグマングリアの増加,小脳皮質のグリオーシスが認められた。歯状核の神経細胞脱落,萎縮,軽度のグリオーシスが認められた。小脳と比較して大脳は特記すべき所見は認められなかった. 4人の罹患者において分子遺伝学的解析が行われた。SCA1, SCA2, SCA3(MJD), SCA6, SCA7, SCA12, SCA17, DRPLA, ERDA1, KCNN3, MAB21L, SEF2-1の各ローカスにおいてCAG伸張は認められなかった。Repeat expansion detection によって,これらの罹患者においてCAG伸張が認められたことから,これらの家系はCAG伸張を伴う新規のSCAの家系である可能性が強く示唆された。 以上、本論文はスリランカにおけるSCAの,臨床的,病理学的,分子遺伝学的解析を行った最初かつ唯一の研究に関する論文である。本論文はスリランカにおけるSCAの原因解明及び治療法の開発に寄与しうる重要な研究であると考えられ,学位の授与に値すると考えられる。 | |
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