学位論文要旨



No 118688
著者(漢字) 宇南山,卓
著者(英字)
著者(カナ) ウナヤマ,タカシ
標題(和) 実質為替レートと交易条件について
標題(洋)
報告番号 118688
報告番号 甲18688
学位授与日 2004.02.18
学位種別 課程博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 博経第176号
研究科 経済学研究科
専攻 経済理論専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉川,洋
 東京大学 教授 西村,清彦
 東京大学 教授 伊藤,元重
 東京大学 教授 井堀,利宏
 東京大学 教授 伊藤,隆敏
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,為替レートと交易条件の決定理論,実証,および関連する経済統計に関して論じたものである。第1章は全体の導入部であるが,第2章以降は大きく分けて2つのパートに分けられる。前半の第2章・第3章ではBalassa-Samuelson(B-S)モデルを拡張することで為替レートの決定について論じられ,後半の第4章・第5章では日本の統計について議論されている。

第1章では,まず,長期的な為替レートの決定理論のたたき台として,購買力平価仮説を紹介している。購買力平価仮説によれば,一物一価が成立している場合,各国の通貨の価値である購買力が均等化する。しかし,その結論は,B-Sモデルにおいて,非貿易財が存在する場合には修正される。このB-S モデルが,第2章・第3章の理論的な出発点である。また,この章においては,第2章以降の各章の位置づけが述べられ,概要が示されている。

第2章では,B-Sモデルに製品差別化を導入することで,交易条件の変化が実質為替レートの決定にどのような影響を与えるかについて論じている。先行研究では,貿易財間の相対価格が1で固定していることを仮定していた。しかし,多くの実証研究で,貿易財の国際的な相対価格が大きく変動していることが示された。そこで,貿易財間の相対価格の変化を許容するモデルを構築した。

貿易財間の相対価格の中でも最も重要なものとして,一国の輸出財と輸入財の相対価格,すなわち交易条件を挙げることが出来る。為替レートと交易条件が相互依存的に決定されることは,理論的な先行研究で知られている。しかし,直接的な計量分析はほとんどされていない。ここでは,交易条件の変化を考慮できる一方で,実証可能な単純さを持つモデルを構築した。ここでのモデルは,供給サイドから分析する枠組みを持ち,貿易財・非貿易財の価格を各部門における生産性によって説明している。また,B-Sモデルを特殊ケースとして包含している。

このモデルの中で,部門間の生産性格差以外の実質為替レート変動要因が指摘されている。製品差別化を明示的に導入したモデルでは,内生的に差別化の度合いが決定する。差別化をするために,企業は生産過程でのコストに加え,新製品を生み出すための開発費用が必要となる。この新製品の開発技術のことを「基盤的技術(infrastructural technology)」と呼び,国内では部門・産業によらず共通の水準にあるが,国際的には異なるとした。

基盤的な技術水準の上昇は,新製品の開発コストを引き下げ,貿易財・非貿易財両方のバラエティの増加を通して物価水準を引き下げ,実質為替レートを減価させる。しかし,一方で基盤的技術水準が上昇しても,国内においてはすべての部門・産業に等しく影響を与えるため,貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えないのである。

さらに,この理論的な結果を実証的にテストした。その結果は次のようなものである。第1に,ここでのテストによってもB-Sモデルの結論を確認することができる。 第2に,基盤的技術は,貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えないことを示した。これは基盤的技術が,部門・産業横断的な生産性の要因であることを意味する。最後に,基盤的技術水準の上昇は実質為替レートを減価させることである。基盤的技術は貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えないが,実質為替レートには影響を与えるのである。すなわち,この「基盤的技術」は,実質為替レートに対する従来指摘されていない新たな要因であり,その結論は実証的も支持されたのである。

第2章の貢献は,製品差別化を導入し,交易条件の変化を考慮することで,実質為替レートの新たな変動要因を指摘したことである。これは,B-Sモデルにおいては,分析することができなかった効果である。

第3章では,交易条件を考慮したモデルによって,日米の均衡為替レートを測定した。理論的な考察の前に,日本の交易条件のデータの基本的な情報が紹介されている。そこでは,日本の交易条件のデータの概観とそこから得られる観察を見た。特に日本銀行と財務省から発表されている2つのデータの違いに着目して考察を進め,生産性の上昇を,単価の上昇と数量の増加に分解することで日本の輸出財産業における生産性上昇の特徴を明らかにしている。

次に,日本の為替レートを論ずるモデルが構築される。モデルの構造は,為替レートと交易条件がともに内生であり,なおかつ加工貿易という日本の貿易構造を考慮している。また構築されたモデルを用いて,実際の日本の為替レート・交易条件がどのような要因で決定されてきたかを実証的に見た。

主要な結果は次のようにまとめられる。第1に,日本における生産性の上昇は為替レートを増価させる要因であり,一方で,生産性の上昇は日本の生産する財の価格を低下させ,交易条件を悪化させる。生産性の上昇による価格の低下は需要の価格弾力性が1より大きいとすれば,支出シェアを増加させ輸出の増加圧力となり,為替レートを増価させる。実際に,円の増価トレンドは,名目的な物価上昇を除けば,大部分がこの相対生産性によって説明される。一方で,この要因は趨勢的には交易条件を悪化させる圧力となっている。

第2に,原料価格の上昇は為替レートを減価させるとともに交易条件を悪化させる要因になる。原料価格の上昇はコストの上昇から日本の輸出財の価格を上昇させるが,輸出財価格は原料ほどには上昇しないため交易条件が悪化する。一方,輸出財の価格の上昇は輸出財への支出シェアを下げ,原料価格の上昇による輸入増加圧力とともに為替レートを減価させる。この要因は実際には1980年の第2次オイルショックの時期を除き為替レートには大きな影響を与えないが,交易条件の短期的な変動の大部分を説明している。

第3に,本稿で考察する長期的な為替レート・交易条件の均衡水準と現実のデータとの乖離を見てみると,円高方向に均衡から乖離している時には交易条件が均衡水準よりも高く,逆は逆になる。これは短期的には交易条件が名目為替レートによって決定されるという見方と整合的である。

第3章の貢献は,交易条件を考慮した為替レートの決定モデルを提示し,そのモデルによって交易条件を一定としたモデルよりも,日米の為替レートの変動がうまく捉えられていることを示したことである。

第4章では,物価のクロスセクション比較を行う日本の統計として,「全国物価統計調査」を取り上げ,そこで使われている指数算式について論じた。その調査で計測される物価指数である「地域差指数」は,いくつかの地域において,当該地域の平均を基準にしているにもかかわらず,域内全地域が基準を上回るという不整合な現象を起こしている。

そこで,この章では,平均値が不整合なケースを完全に回避する指数算式を構築した。それは基準となる平均価格の算出の際に,現行の「各財に対する各地域の支出額をウエイトとした加重調和平均」ではなく,「財に依存しない共通のウエイトを用いた加重算術平均」としたものである。

さらに,構築した算式に対し経済学的な解釈をつけた。新たな解釈とは,価格に関する情報が不完全である場合に,購入地点を特定の地域に限定されることによって,同一の財のバスケットを購入するのに必要となる支出額の違い,というものである。

第4章の貢献は,日本の経済統計に存在する論理的な問題点を指摘し,その解決方法を提示したことである。ここでの議論は,他の物価のクロスセクション比較統計にも応用可能である。

最後の第5章として,交易条件の変化がもたらす経済統計上の問題として,実質所得の概念について論じた。日本のマクロ的な経済統計は,国民経済計算体系という統一的な基準に基づき把握されている。

SNAでは「不変価格表示の原則」に基づき各変数の実質化をしている。不変価格表示とは,基準時点における価格によって比較時点の数量を金額化することである。しかし,価格の変化を排除するために基準時点での価格に固定してしまうこの方法は,同時に,相対価格の変化による影響も排除してしまう。

それに対し,国連の1993年勧告に従い2000年から日本で導入された「1993年改訂SNA」では,交易条件の改善による購買力の増加が「交易利得」として捉えられ,それを適用することで「実質所得」が把握されている。

交易利得とは交易条件の変化に伴う国際的な所得移転を捉えたものなのである。この交易利得を実質GDPに加えたものが「実質国内総所得」である。日本において,交易利得は重要な意味を持つにもかかわらず,まだ十分に活用されていないのが現状である。

そこでこの章では,日本経済の分析に交易利得の概念を適用し,2つの点を明らかにした。第1に,為替レートの変動による景気撹乱作用は,それほど大きくないこと。第2に,輸出入という海外取引の景気を安定化作用が強いことである。もともと,日本経済の主要な輸出の変動要因は為替レートであった。しかし,為替レートの変動は交易条件の変化を通じた所得移転を生み出すにもかかわらず,従来の統計では十分に捉えていなかった。それに対し,交易条件の変化による所得移転を捉えた「交易利得」を考慮することでより適切な分析が可能になった。

第5章の貢献は,不変価格表示による実質化は客観性の観点からは望ましい性質を持っていながら,相対価格の変化の影響を捉えることができないという性質に制約されていた。しかし,93SNAで導入された交易利得の概念を活用することで,より的確に経済の実態を捉えることができるのである。

審査要旨 要旨を表示する

論文の内容

本論文は、為替レートと交易条件について理論的、実証的に分析し、さらに関連する経済統計に関して論じたものである。全体は5章から成る。

第1章は、長期的な為替レートの決定理論としての購買力平価説(Purchasing Power Parity, PPP)をサーベイしたものである。第1次世界大戦後カッセル、ケインズによって完成された購買力平価仮説によれば、為替レートは長期的に国際的な一物一価が成立するように決まる。このときに各国通貨の購買力は均等化する。すなわち為替レート決定理論としての購買力平価は、貿易財について「国際的一物一価」を成立させる為替レートとして定義出来る。しかし、非貿易財が存在する場合には、国際的に所得水準を比較する際に用いるべき購買力平価と貿易財について国際的一物一価を成立させる為替レートは乖離する。BalassaとSamuelsonによって指摘されたこの論点が第2章、第3の出発点である。

第2章では貿易財と非貿易財を区別するB-Sモデルに製品差別化を導入している。これにより交易条件の変化が実質為替レートの決定にどのような影響を与えるかを分析することが出来る。従来の研究では貿易財間の相対価格の変化は無視されていた。しかし、実証研究の多くは、貿易財の相対価格が国際的に大きく変動していることを示している。こうした結果をふまえ、2章のモデルは貿易財間の相対価格の変化を許容するモデルとなっている。

貿易財間の相対価格の中で最も重要なのは、一国の輸出財と輸入財の相対価格、すなわち交易条件である。為替レートと交易条件はいずれも同時に決定され異なる内生変数である。このことは理論的な研究では従来から認識されてきたが、直接的に計量分析がなされたことはほとんどない。

2章のモデルは、貿易財・非貿易財の価格を各部門における生産性によって説明している。このモデルは、部門間の生産性格差以外に製品差別化を明示的に導入している。製品を差別化するために、企業は生産過程でのコストに加え、新製品を生み出すための開発費用を負担する。この新製品の開発技術を「基盤的技術(infrastructural technology)」と呼ぶ。こうした基盤的技術は、国内では部門・産業によらず共通の水準にあるが、国際的には異なると仮定されている。

1国の基盤的技術水準の上昇は、新製品の開発コストを引き下げ、貿易財・非貿易財両方のバラエティの増加を通して物価水準を引き下げる。その結果実質為替レートは減価する。ただし基盤的技術水準は国内においてすべての部門・産業に等しく影響を与えるため、貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えない。

第2章では、理論的な分析結果を実証的にテストしている。えられた結果は概ね以下のようなものである。第1に、B-Sモデルの結論が確認された。第2に、基盤的技術は、貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えないという仮説が正しいことを示した。最後に基盤的技術水準の上昇は実質為替レートを減価させることである。理論的分析が示すように基盤的技術は貿易財と非貿易財の相対価格には影響を与えないが、実質為替レートには影響を与えるのである。「基盤的技術」の影響は、実質為替レートに関して従来指摘されてこなかった新たな要因である。

第3章では、交易条件の変化を考慮に入れたモデルに基き、日米の均衡為替レートを測定している。理論的な考察の前に、日本の交易条件のデータの吟味もなされている。日本の交易条件は日本銀行と財務省から発表されている2つの異なるデータを用いて計算できる。両者の違いに注意しながら生産性の上昇を、単価の上昇と数量の増加に分解することで日本の輸出財産業における生産性上昇の特徴を明らかにしている。

つづいて日本の為替レートを論ずる理論モデルが構築される。このモデルでは、為替レートと交易条件がともに内生変数であり、また原材料を輸入し製品を輸出するいわゆる加工貿易という日本の貿易構造を明示的に考慮に入れている。このモデルを用いて、実際の日本の為替レート・交易条件がどのような要因で決定されてきたかを実証的に調べている。

主な結果は次のようにまとめられる。

日本の輸出財産業における生産性の上昇は為替レートを増加させる要因である。一方、生産性の上昇はわが国が生産する財の価格を低下させ、交易条件を悪化させる。1970年代以降における現実の円の増価トレンドは、名目的な物価上昇を除けば、大部分がこの相対生産性上昇率格差によって説明される。一方、生産性の上昇は趨勢的に交易条件を悪化させてきた。

原材料価格の上昇は、為替レートを減価させるとともに交易条件を悪化させる要因でもある。すなわち原材料価格の上昇はコストの上昇を通して日本の輸出財の価格を上昇させるが、輸出財価格は原材料価格ほどには上昇しないため交易条件が悪化する。一方、輸出財の価格の上昇は輸出財への支出シェアを下げ、原材料価格の上昇による輸入増加圧力とともに為替レートを減価させる。この要因は1979-80年の第2次オイルショックの時期を除き実際には為替レートには大きな影響を与えていない。しかし交易条件については短期的な変動の大部分を説明する要因となっている。

本章のモデルで定義した長期的な為替レート・交易条件の「均衡水準」と現実のデータとの乖離をみると、円高方向に均衡から乖離している時には交易条件が均衡水準よりも高く、逆は逆となっている。これは短期的には交易条件が名目為替レートによって決定されるという見方と整合的な結果である。

交易条件の変化を考慮に入れた、第3章のモデルは、交易条件を一定とした従来のモデルよりも、レートの変動を全体としてよく捉えている。

第4章は、「全国物価統計調査」を取り上げ、そこで使われている指数算式につい論じたものである。同調査で計測されている「地域差指数」は、いくつかの地域において、当該地域の平均を基準にしているにもかかわらず、域内全地域が基準を上回るという不整合が生じている。

この章では、平均値について不整合が生じないような新たな指数算式を構築している。すなわち基準となる平均価格の算出の際に、現行の「各財に対する各地域の支出額をウエイトした加重調和平均」ではなく、「財に依存しない共通のウエイトとした加重算術平均」とした指数である。

このように構築された数式に対し経済学的な解釈も与えられている。これは、価格に関する情報が不完全である場合に、購入地点を特定の地域に限定されることによって、同一の財のバスケットを購入するのに必要となる支出額の違い、というものである。

第4章の貢献は日本の経済統計に存在する論理的な問題点を指摘し、その解決方法を提示した所にある。なお4章の議論は、他の物価のクロスセクション比較統計にも応用可能なものである。

第5章は、交易条件の変化がもたらす経済統計上の問題として、実質所得の概念について論じている。日本のマクロ的な経済統計は、国民経済計算体系(SNA)という統一的な基準に基づき把握されているが、SNAでは「不変価格表示の原則」に基づき各変数の実質化をしている。不変価格表示とは、基準時点における価格によって比較時点の数量を金額化することである。しかし、価格の変化を排除するために基準時点での価格に固定してしまうこの方法は、同時に、相対価格の変化による影響も排除してしまう。これに対し、国連の1993年勧告に従い2000年から日本で導入された「1993年改訂SNA」では、交易条件の改善による購買力の増加が「交易利得」として捉えられ、それを適用することで「実質所得」が把握されている。

これに対し、国連の1993年勧告に従い2000年から日本で導入された「1993年改訂SNA」では、交易条件の改善による購買力の増加が「交易利得」として捉えられ、それを適用することで「実質所得」が把握されている。

交易利得とは交易条件の変化に伴う国際的な所得移転を捉えたものである。この交易利得を実質GDPに加えたものが「実質国内総所得」にほかならない。交易利得は重要な意味を持つにもかかわらず、わが国では未だ十分に活用されていないのが現状である。

5章では、日本経済の分析に交易利得の概念を適用し、2つの点を明らかにした。第1に、為替レートの変化がマクロ経済に与える影響は、「交易利得」を考慮に入れるとそれを考慮しない場合よりも小さくなる。第2に、輸出入の景気安定化作用が日本経済においては大きな役割を果たしている。

第5章の貢献は、93SNAで導入された交易利得の概念を活用し、為替レートの変化がマクロ経済に与える影響の内従来見逃されていた要因を明示に分析した所にある。

講評

審査委員からは若干の問題点が指摘された。例えば4章については、次のようなコメントがなされた。

4章では「平均価格」を支出ウェイト加重「調和平均」から、支出ウェイト加重「算術平均」に変更することが提案されている。こうすれば、「平均価格」も「地域差指数」も同じ算術平均の概念を用いているのでanomaly(すなわち本論文で言う「平均値不整合」)は生じない。ここでは、提案する加重算術平均としての「平均価格」が、従来の加重調和平均としての「平均価格」が持っていた unit price という性格と同じ性質を持つことを、情報の不完全性の下での購買行動から解釈しようとしているが、この部分には以下のような問題がある。すなわち「サーチコストが禁止的に高い経済を想定」しているとしているが、同時に「輸送費用が0のケース」を考えている。「サーチコスト」は通常store visit cost と考えるのが自然である。しかしここでは store visit cost を「輸送費用」(transportation cost)と同一視しているように見える。そもそもtransportation cost = store visit costがゼロなら、すべての店を調べ、もっとも安い店から購入するのが最適であり、本章で仮定されているように全部の店から均等に購入するのは明らかに最適ではない。同じ問題は、「地域間の輸送費用が禁止的に高いケース」でも生じる。それは「地域内では輸送費が0」と仮定しているので、地域内で、上述の問題と全く同じ問題が生じる。

また5章については次のような指摘がなされた。SNAの新しい概念に対応して、為替レートが変化する場合に、経済厚生に与える効果を分析した点は有益であるが、議論自体はとくにoriginalなものではなく、計量的にも新SNAデータをそのまま用いるなど、データ上で格段の工夫があるわけでもない。

こうした問題はあるものの本論文がオリジナルな研究を多数含んでいることは言うまでもない。実際いくつかの章は既にレフェリー付き学術雑誌に公表された。具体的には第2章 “Product Variety and Real Exchange Rates : The Balassa-Samuelson Model Reconsidered,” Journal of Economics, (Zeitschrift fur Nationalokonomie),Vol. 79、2003、第3章「日本の交易条件と均衡為替レート」、『日本経済研究』第41号、第4章「物価のクロスセクション比較:全国物価統計調査の指数算式に関するノート」、『経済研究』第53巻4号、2002である。

実質為替レートと交易条件が日本経済に与える影響というきわめて重要なテーマについて理論的・実証的に分析を行った本論文は、博士(経済学)の学位を授与するにふさわしいと委員全員一致で判断した。

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