学位論文要旨



No 118698
著者(漢字) 佐藤,栄作
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,エイサク
標題(和) 消費者の小売店舗内空間行動に関する実証分析 : モデル構築とその応用
標題(洋)
報告番号 118698
報告番号 甲18698
学位授与日 2004.02.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博総合第461号
研究科 総合文化研究科
専攻 国際社会科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 廣松,毅
 東京大学 助教授 倉田,博史
 東京大学 助教授 清水,剛
 東京大学 助教授 阿部,誠
 筑波大学 教授 椿,広計
内容要旨 要旨を表示する

消費者行動研究の主要な分野の1つである買物行動研究は,主として「店舗間買物行動研究」と「店舗内買物行動研究」とに分けられる.前者では,商業集積地や小売店舗の選択に関する研究,および店舗間の買い回り行動に関する研究をその主な領域としている.一方,後者は店内プロモーションとの関連によるブランド選択に関する研究,消費者情報処理パラダイムに基づく計画・非計画等の購買パターン研究が多く行われている.これらに比して,消費者の店舗内買物行動をその空間行動的側面から捉えた研究は極めて少ない.しかし,実際には,特にセルフ販売形態を有する小売業では,客単価向上を目的として商品配置・レイアウト等の変更により消費者の買い回り行動をコントロールする試みが行われている.このような店内施策を検討する場合,消費者が店舗内をどのように行動するのか,さらにどのような要因の影響を受けてその行動が変化するのか,その要因は小売業にとって操作可能なものかといった点を,明らかにすることが求められる.このような背景から,店舗内状況要因が消費者の店舗内空間行動に与える影響メカニズムの解明,および商品配置・レイアウトの改善と評価手法の開発への実務的な要請が高い.本論文では,このような実務的要請を背景として,これまで研究蓄積の少ない店舗内空間行動に焦点を当ててモデルの構築を行うとともに,それを実際のデータに適用した実証分析を行った.

店舗内空間行動の研究を開始するに先立ち,既存の関連研究を,(1)購買行動の類型化と非計画購買に関する研究,(2)経営資源の効率的配分に焦点を当てた研究,(3)店内買物行動プロセスとその影響要因に関する研究に類型化し,その成果と課題を検討する.まず(1)購買行動の類型化と非計画購買に関する研究では,商品の銘柄間知覚差と関与の程度に基づく購買行動の類型化が行われる.その中で,低関与として類型化される購買行動は,消費者が来店前に行う情報処理が,店舗内のそれに比して相対的に小さく,購買行動に関する情報処理が店舗内で行われるものとされており,食品や日用品のセルフ販売方式の小売店舗における購買行動がその典型であることが指摘されている.そして,このような購買行動上の特徴は,非計画購買の比率を調査することで経験的に確認され,セルフ販売方式の小売店舗の非計画購買率が,他と比較して高いことが示されている.次に,(2)経営資源の効率的配分に焦点を当てた研究は,消費者個々人の行動を測定するものではなくて,店舗内の売場スペースの配分と売上の関係を,スペース弾力性により測定するものが主である.しかし,これらの研究では,店舗のレイアウトが与えられた下でのスペース配分に焦点を当てており,そもそもどのようなレイアウトが望ましいのかという点に関する提案は行われていない.最後に,(3)店内買物行動プロセスとその影響要因に関する研究では,客導線調査を通じて得られたデータに基づいて,各売場の通過率や買上率を測定するといった記述的分析がその主流であり,消費者の空間行動のモデル化と予測に焦点を当てた研究は,Farley and Ring(1966)と山中(1975)が存在するのみである.Farley and Ringの研究は先駆的な研究であるとはいえ,統計的実証分析の観点からは多くの問題を残している.また集計レベルのデータを対象としているため,個々の消費者の異質性を考慮できないという問題も内包するものである.

本論文では,消費者個々人の購買行動の観測データに基づき,非集計レベルのデータを対象とした非定常マルコフ・モデルにより消費者の空間行動モデルを構築することによって,Farley and Ringの手法の問題点への対処を試みている.このモデルでは,消費者の店舗内空間行動に影響する要因として,売場区域固有の吸引力,来店目的による付加吸引力,同時購買による付加吸引力を取り上げ,売場区域間推移確率を規定する変数として組み込んでいる.このうち,売場区域固有の有引力はFarley and Ringの研究成果を踏襲したものであるものの,消費者個々人の購買行動に依存する来店目的による付加吸引力,同時購買による付加吸引力の2つの要因を組み込んでいる点が,既存研究とは異なる本論文の新たな視点である.さらに,これら2つの要因は消費者個々人の店舗内における買物の進展状況に応じて変化することから,売場区域間の推移確率に非定常性を許容するモデルとしている点も,既存研究とは異なる本提案モデルの新たな視点である.

実証分析においては,コンビニエンス・ストア(以下,CVSと略)の客導線調査で得られた売場区域間の移動データに対して提案モデルを適用し,その結果,上記3つの影響要因が全て統計的に有意となり,売場区域間の移動に影響を与えることを確認している.その上で,売場区域固有の吸引力のみが売場区域間推移確率に影響を与えると仮定した定常モデルに対して,本提案モデルである非定常モデルの検定を行っている.その結果,定常モデルが棄却され,売場区域間推移確率に非定常性を仮定した本提案モデルの有効性が示された.さらに,売場変更前後のデータにモデルを適用することにより,売場区域間推移確率の変化に対する影響要因の識別が可能であることを示した.また実務的には,本提案モデルを利用することにより,レイアウト変更等の店舗操作が,消費者の店舗内空間行動にどのような影響を与えるかについて,分析・評価可能であることを示している.

しかし,消費者の小売店舗内空間行動を分析するには,客導線調査データと同時に来店目的のデータも何等かの方法で取得する必要がある.通常,来店目的は,来店客へのアンケートを通じて測定される.しかし,そのためには多くの費用が必要であり,小売業者が頻繁に実施可能な状況ではない.そこで,このような実務的な実行可能性の問題を緩和するために,取引データを利用した来店目的の推定手法に関する研究を引き続き行う.

はじめに,取引データから消費者の来店目的を推定することに関する可能性を検討するために,CVS店舗の調査で得られた消費者の来店目的と商品購買パターンのデータから,その関連の分析を行う.実証分析では,潜在クラス・モデルの一つであるジョイント・セグメンテーション・モデルを,当該データに適用する.その結果,CVSでは即消費型購買という特徴から,来店目的と商品購買パターンとの関係は比較的単純な構造であり,取引データから来店目的を推定することができることを示す.

この結果に基づき,潜在クラス・モデルを取引データに適用することによって,来店目的を推定する手法を提案する.ここで,標準的な潜在クラス・モデルでは,帰属するクラスが与えられた下では反応項目間の反応確率が独立であるとする局所独立性の仮定が課されている.しかし,取引データによって観測される購買パターンは,来店目的以外に,商品配置などの店舗内環境要因からも影響を受け得る.このため少ないクラス数のモデルでは,局所独立性の仮定が成り立たないという不都合が生じる.この問題に対しては,クラス数を増加させることで対処可能であるとはいえ,その場合,1つ1つのクラスのサイズが小さくなり,店舗施策を検討するという観点からは非効率になり望ましくない.このような標準的な潜在クラス・モデルの課題を解決するため,本研究では,局所独立性の仮定を緩和した潜在クラス・モデルを提案する.局所独立性の仮定の緩和は,潜在クラス・モデルを対数線形モデルで再パラメータ化し,反応項目間の交互作用項を導入することで行う.

実証分析では,この提案モデルをCVSの取引データに適用する.はじめに,局所独立性の仮定を緩和したモデルにおける交互作用項の商品間の組合せを決定するために,取引データにグラフィカル・モデリングを適用した結果,7つの商品間の組合せについて交互作用項を導入することが適当であるという結論を得た.つづいて,局所独立性を仮定したモデルとその仮定を緩和したモデルを取引データに適用した上で,AICに基づくモデル選択の結果,局所独立性の仮定を緩和したモデルを採択した.採択されたモデルからは,6つの異なる来店目的と,それらの取引データ内での構成に関する情報を抽出した.そして,このような研究を通じて,来店目的データの取得に関する制約を緩和し,本研究において提案した消費者の店舗内空間行動モデルの実務における適用可能性を高めることができることを示した.

本論文において提示した消費者の店舗内における空間的行動を分析するための手法,およびその実行可能性を高めるための関連手法を利用することによって,小売業者は,消費者の店舗内買物行動プロセスの空間的行動特性を理解することが可能となる.

もちろん,以上の一連の研究は,CVSという限定的な業態における実証分析の結果を示すにとどまっている.したがって,今後の課題は,本研究の提案モデルを他のセルフ販売方式の小売業態に適用することによって,その妥当性および将来の発展性を検証することである.

審査要旨 要旨を表示する

経済産業省が公表している商業統計調査の平成14年商業統計速報第5表によると、我が国の代表的なセルフ販売形態の小売業態である総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンス・ストア(以下、CVSと略)の単位面積当り売上高は、平成11年と比較して低下傾向にある。この背景には、規制緩和による小売店舗の売場面積拡大、販売価格下落傾向などのさまざまな要因が影響していると考えられる。しかし、企業は成長を持続することが使命であり、その観点からすると、現状のセルフ販売形態の小売業者の経営課題の一つとして、売場生産性の向上、すなわち単位面積当り売上の向上がある。ただし、セルフ販売形態の小売業は対面販売ではないため、売場の操作を基本とした施策を通じて、この課題を解決しなければならない。そのためには、売場の操作が消費者の行動ならびに購買意思決定に与える影響を測定し、売場生産性を高める方向に売場を操作する必要がある。しかし、これまでの消費者の購買行動研究では、特定の売場に限定した商品選択に関するものは数多く蓄積されているとはいえ、店舗全体に関わる消費者の買物行動についての研究蓄積は少ない。本論文は、既存研究においてこれまで必ずしも十分な研究蓄積のない店舗全体に関わる消費者の空間行動を記述するモデルを提案し、それをCVSにおいて調査した一次データに適用してその実証分析を行っている点に、第一の特徴がある。

さらに小売店舗内空間行動モデルの構築に際して、消費者の異質性を考慮して、売場区域間推移確率が非定常であるとした上で、CVSの調査データを用いてその検証を行っている。

その上で、著者は、本提案モデルを小売業者が実務に適用するために解決すべき課題の一つが、来店目的を調査に基づいて把握する手法の開発であるとして、小売業者が日常的に取得している取引データに、潜在クラス・モデルを適用する手法を提案し、その実証分析を行っている。さらに筆者は、取引データから観測される購買パターンが単一の要因のみで規定されるものではない点に注目して、少ないクラス数では標準的な潜在クラス・モデルの局所独立性の仮定が成立しないという問題も取上げて、局所独立性の仮定を緩和するモデルにより、この問題を回避する方法も提示している。

本論文は、本論6章からなる。第1章と第2章は理論的検討の部分であり、第3章から第5章までが実証研究、第6章が結論である。巻末には、実証研究において得られたパラメータ推定値の表が付けられており、全体のページ数は96+54ページである。脚注を含む本論部分は400字詰め原稿用紙に換算して、約210ページに相当する。

第1章では、本論文の問題意識が提示されている。ここでは、セルフ販売形態の小売業の店舗における売場生産性の動向を簡単に確認した後、売場生産性向上のための手法について紹介している。その上で、セルフ販売形態の小売業においては、顧客一人当りの買上金額の向上が、売場生産性向上のための短期的小売戦略の方向であること指摘し、そのためには消費者の店舗内買物行動プロセスに焦点を当てる必要があることを強調している。

第2章では、消費者の小売店舗内買物行動に関する先行研究の批判的紹介がなされている。筆者は、小売店舗内買物行動研究を、購買行動の類型化と非計画購買に関する研究、経営資源の効率的配分に焦点を当てた研究、店内買物行動プロセスとその影響要因に関する研究に類型化した上で、それぞれについて批判的に検討を行っている。

まず、購買行動の類型化と非計画購買に関する研究に関しては、消費者の商品購買の意思決定時点における購買行動を類型化し、消費者の情報処理アプローチの視点から、セルフ販売形態の小売業における購買行動が、店舗内における情報処理を主体とする低関与型購買行動であるとする特徴を明らかにしている点、それを非セルフ販売形態の小売業の非計画購買率と実証的に比較している点を、有意義な成果であるとしている。しかし、消費者の店舗内買物行動における購買意思決定時点のみを対象としているため、買物行動プロセス全体を理解する上では不十分であると指摘している。

次に、経営資源の効率的配分に焦点を当てた研究については、店舗のレイアウトが与えられた下でのスペース配分に焦点を当てており、そもそもどのようなレイアウトが望ましいのかという点に関する提案は行われていない点を指摘している。

最後に、店舗内買物行動プロセスとその影響要因に関する研究については、客導線調査を通じて得られたデータに基づいて、各売場の通過率や買上率を測定するといった記述的分析がその主流であり、消費者の空間行動のモデル化と予測に焦点を当てた研究は、Farley and Ringと山中が存在するのみで、研究の蓄積が少ない点を指摘している。その上で、Farley and Ringの研究については先駆的な研究であるとはいえ、統計的実証分析の観点からは多くの問題を残している点、集計レベルのデータを対象としているため、個々の消費者の異質性を考慮できないという問題を内包している点を、課題として指摘している。

第3章から第5章までは、上記先行研究の課題を踏まえた上で、消費者の小売店舗内空間行動のモデルの提案とその実証分析、ならびにその実務的実行可能性を高めるための手法の提案を行っている。

第3章では、Farley and Ringの研究における分析枠組みを改良し、上記課題を克服する新たな消費者の店舗内空間行動モデルの提案を行っている。実証分析では、CVSで調査されたデータに提案モデルを適用している。その上で提案モデルにおいて説明変数として組み込んだ売場区域固有の吸引力、来店目的による付加吸引力、同時購買による付加吸引力の全ての変数が、消費者の店舗内空間行動に影響を与えることを示している。さらに筆者は、消費者の売場区域間推移確率が定常であると仮定したモデルに対して、提案モデルの検定を行い、売場区域間推移確率の非定常性を実証的に確認している。また、実証分析の結果、主通路の行動と中通路のそれとでは、行動特性が異なることも指摘している。加えて筆者は、売場変更前後のデータにモデルを適用することにより、売場区域間推移確率の変化に対する影響要因の識別が可能であることを示し、本提案モデルを利用することによって、レイアウト変更等の店舗操作が、消費者の店舗内空間行動に与える影響を分析・評価可能であると結論付けている。ただし、消費者の小売店舗内空間行動を分析するには、客導線調査データと同時に来店目的のデータも何らかの方法で取得する必要があり、通常、後者は来店客へのアンケートを通じて測定されるため、小売業者が頻繁に実施可能な状況ではない点を実務的実行可能性の課題として指摘している。

第4章では、取引データから消費者の来店目的を推定する可能性を検討するために、CVS店舗の調査で得られた消費者の来店目的と商品購買パターンのデータから、その関連の分析を行っている。実証分析では、潜在クラス・モデルの一つであるジョイント・セグメンテーション・モデルを、当該データに適用している。その結果、CVSでは即消費型購買という特徴をもつことから、来店目的と商品購買パターンとは比較的単純な構造をもち、取引データから来店目的を推定することが可能であると結論付けている。

第5章では、局所独立性の仮定を緩和した潜在クラス・モデルを取引データに適用することによって、来店目的を推定する手法を提案している。局所独立性の仮定の緩和については、潜在クラス・モデルを対数線形モデルで再パラメータ化し、反応項目間の交互作用項を導入するという方法で行っている。実証分析では、CVSの取引データに、局所独立性を仮定したモデルとその仮定を緩和したモデルを適用し、AICに基づくモデル選択の結果、局所独立性の仮定を緩和したモデルが採択されたことから,提案モデルの優位性を主張している。さらに採択されたモデルから、6つの異なる来店目的と、それらに関して取引データから得られる情報を抽出している。このような研究を通じて、来店目的データの取得に関する実務的制約を緩和し、本研究において提案した消費者の店舗内空間行動モデルの実務適用可能性を高めることができると結論付けている。

第6章では、一連の研究を通じて提示した消費者の店舗内における空間的行動を分析するための手法、およびその実行可能性を高めるための手法を利用することによって、小売業者は、レイアウト変更による消費者の行動変化について評価することが可能となり、レイアウト決定の方向性を示すことが可能であると主張している。そして最後に、今後の課題として、本研究はCVSという限定的な業態における実証分析の結果を示すにとどまっていることから、提案モデルを他のセルフ販売方式の小売業態に適用することによって、その妥当性および限界を検証することが必要であると締めくくっている。

以上の内容を持つ本論文には、次のような長所が認められる。

第一に、これまで研究の蓄積が少なかった消費者の店舗内空間行動について、その行動メカニズムを記述・分析する統計モデルを提案し、CVSのデータに適用することによってモデルの意義を確認している点である。これまで記述統計的分析にとどまっていた消費者の店舗内買物行動の研究に、推測統計的手法を提示したことは、今後の店舗内買物行動研究に対する重要な貢献である。

第二に、非定常・非集計マルコフ・モデルの枠組みで構築された店舗内空間行動モデルがもつオリジナリティーである。これはほぼ著者が独力で構築したものであり、消費者の小売店舗における行動メカニズムを実証的に研究するための一つの枠組みとなっている。

第三に、消費者の来店目的を、購買の結果(取引データ)から推定する手法を提示している点である。これまで、小売業者が来店客調査を行うことによってのみ取得されていた来店目的の情報を、日常的な業務の中で取得される取引データから推定することができる手法を提案することにより、実務的実行可能性を高めることに貢献している。また、実証分析によって標準的な潜在クラス・モデルに対して、局所独立性の仮定を緩和した潜在クラス・モデルの優位性を確認している。

しかしながら、本論文にも不十分な点がないわけではない。第一に、本研究の提案モデルが、売場の分割区域数に応じて推定すべきパラメータ数が大幅に増加するという点である。このようなパラメータ数の増加を抑制するためのモデルの改良が必要であると思われる。

第二に、提案モデルでは売場区域を状態として規定していることから、特定の店舗に依存したモデルとなっており、複数の店舗を対象として分析を行うことができないという点である。複数店舗を対象とした分析にモデルを適用可能とするためには、売場区域の規定の仕方を変更していく必要がある。

第三に、適用領域の拡大と一般化という点である。本論文ではCVSのデータに適用した限定的なものに止まっている。しかしセルフ販売形式の小売業であっても、スーパーマーケットのようにCVSに比べて店舗規模が大きく、インストア・プロモーションが頻繁に行われている業態では、消費者はCVSとは異なった買物行動を行っているであろうと考えられる。したがって、他業態においても適用可能なモデルとするためには、先のパラメータ数増加の問題への対処に加えて、インストア・プロモーションの変数を明示的に組み込む必要がある。

ただし、このような欠点は本論文の基本的価値を損なうものではない。消費者の店舗内買物行動研究がいまだ揺籃期にあることを考慮すれば、これらの欠点はこの分野における問題点と今後の課題を如実に示したものであるといえる。

以上、本論文は若干の欠点をもつとはいえ、消費者の店舗内空間行動に関するオリジナルな分析モデルの提示と実証分析によって、消費者行動研究に十分貢献する成果であると評価できる。

よって、本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。

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