No | 118700 | |
著者(漢字) | 長崎,正朗 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナガサキ,マサオ | |
標題(和) | 生体内パスウェイのシミュレーションソフトウェア開発と、シミュレーションにむけての生体内パスウェイデータベースの再構築 | |
標題(洋) | A PLATFORM FOR BIOPATHWAY MODELING/SIMULATION AND RECREATING BIOPATHWAY DATABASES TOWARDS SIMULATION | |
報告番号 | 118700 | |
報告番号 | 甲18700 | |
学位授与日 | 2004.02.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4430号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 情報科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ゲノム解析の研究が進み,生体内におけるパスウェイ情報処理がバイオインフォマティクスで最重要研究課題の1つとなってきている。生体内におけるパスウェイ情報を正確に処理することで適切な製薬の開発/患者への投与が将来的に期待できるなど,生化学的な観点から人類への恩恵が大きいといえる。 そこで本論文では,生物,医学系の研究者が,複雑な生体内パスウェイを簡単かつ柔軟に,(1)既存のパスウェイデータの情報の適切な取り込み,(2)モデル作成,(3)モデルのシミュレーション,(4)シミュレーションの高度な可視化,が行える統合環境の重要性を提案し,それらの実装系 ((1)BPE, BPEOS [4, 2],(2/3)GON, GONML [3,5],(4)Visualizer [5])の開発を行った。 さらに,(1)モデル化と (2)シミュレーションのアーキテクチャとして,視覚的にモデル化ができさらに数学的な解析ができるペトリネットを選定し,既存のペトリネットを用いてさまざまなバイオパスウェイをモデル化,シミュレーションする中で到達した,よりバイオパスウェイを取り扱いやすい独自のアーキテクチャHFPN [1]/HFPNeを提案している。また,これらアーキテクチャ,ソフトウェアを他の既存のアーキテクチャ,ソフトウェアと比較することでこれら統合環境の有用性を示す。 2章では,HFPN/HFPNeを詳述する。HFPNは,hybrid Petri net, functional Petri net, 及びhybrid object netを拡張したもので,従来のPetri netの良さを継承し,離散量と連続量の両方を同時扱うことができ,その制御もほぼ任意にできるようにしており,階層化により複雑なシステムも直感的に構成できるようにしている。HFPNは,連続的なイベント/離散的なイベントに対して関数を適用できるためさまざまな反応系を柔軟にモデリングできる。また,同ペトリネットは,階層化ができるため複雑な反応系を整理して作成できる。HFPNeでは,HFPNで扱える整数型,実数に加えさらに,(1)真偽値,文字列などの基本型の追加,(2)1つのプレースで複数の値が扱えるよう,リスト,ペアなどの型の追加,(3)複雑な現象を簡単に1つのプレースで記述できるようオブジェクトの型の追加,とそれらに伴う(4)汎用エンティティ,汎用プロセスの追加とそれに伴うシミュレーションプロセスの改良,を行っている。これらの拡張を利用し,HFPNや微分方程式ベースのアーキテクチャでは扱いにくい,7つの生体内の現象,(1)原核生物の転写と翻訳,(2)真核生物の転写と翻訳,(3)選択的スプライシング,(4)フレームシフト,(5)多糖類の生化学反応,(6)多数の部位が修飾されるタンパク質p53,(7)遺伝病ハンティントン病,のモデリング/シミュレーションをHFPNeを用いて行い,このアーキテクチャの有用性を議論する。また,HFPNeを最新の類似する高階ペトリネット,Objective Coloured Petri nets, Reference Nets と比較し,HFPNeのパスウェイモデリングにおける有用性,他のこれらのペトリネットの特徴を考察する。 3章では,前述のHFPN/HFPNeを用い,モデリング/シミューレーションソフトウェア,GONの開発とXMLを用いた生体内パスウェイモデリング/シミュレーション記述形式GONMLの提案/開発を行い,他のソフトウェア(Cell Designer, E-Cell, Virtual Cell, Gepasi, PathwayPrism)/記述形式(SBML, CellML)の特徴を述べ,さらにこれらのソフトウェア/記述形式に対するGON/GONMLの優位性を議論する。 一方シミュレーションの把握と解析がバイオパスウェイの動的な現象を把握する上で需要である,しかし,他のバイオパスウェイモデリング/シミュレーションソフトウェアと同様,GONにおいても,2次元のプロットグラフによる視覚化ツールしか備わっていない。そこで,4章では,3章で述べたGONなどを用いた生体内シミューレーションの結果をより簡単かつ柔軟に視覚表現できる生体内パスウェイアニメーションの提案と,その実装系である生体内パスウェイアニメーションソフトウェア,Visualizer の開発を行い,実際に基本的な生体内の現象,転写/翻訳/抑制/発現/結合/分解などの生体反応を Visualizer で視覚的に表現しその有用性を示す。 さらに,5章では,KEGG, BioCyc, BRENDAなどの既存の生体内パスウェイデータベース中でモデリング/シミュレーションに必要な情報を適切に取捨選択することで新たにデータベースを作成し,そのデータベースを用いて必要なパスウェイを簡単かつ柔軟にモデリング/シミュレーションできるGONMLの形式に変換するシステムの提案と実装系,BPE, そのオンラインシステム,BPEOSの開発を行いその有効性を他のプロジェクト,BioPAX, KEGG-SBMLと比較し考察する。 6章においては,本論文で提案する統合環境を構成するソフトウェア(GON, GONML, Visualizer, BPE, BPEOS)とそのアーキテクチャ(HFPN/HFPNe)を総括し,展望を述べる。さらに,分子生物学の研究室で実際にこの統合環境を用いることで新規に分子生物学の分野において有用な知見を発見した例を挙げ,本論文で提案する統合環境が分子生物学の生物実験を伴う研究で有効であることを例証する。 図1:Fasリガンドによって引き起されるアポトーシスのシグナル伝達経路をGON上で記述しシミュレーションしている例.GONのシミュレーションを同時に右上の Visualizer 上でアニメーションしている. 図2:(a)KEGGのパスウェイデータベースの中の Glycolysis/Gluconeogenesis 代謝系の図(右)。同図内の反応をBioPACS-KEGGを用いてシミュレーションできるように変換し、GON上に表示した図(左).(b)(a)をさらにGON上でシミュレーションしている図. | |
審査要旨 | 本論文は、生体内のパスウェイを適切にモデル化することを支援し、モデルのシミュレーションとシミュレーション結果の視覚化を行う統合環境の提案を行い、それに基づく実装系(ソフトウェア)に関して報告している。ゲノム解析の研究が進み、生体内におけるパスウェイ情報処理がバイオインフォマティクスで最重要研究課題の1つとなってきている。生体内におけるパスウェイ情報を正確に処理することは、将来的に製薬の開発や患者への投与に応用できると考えられる。 具体的には、本論文では、生物、医学系の研究者が、複雑な生体内パスウェイに関して、簡単かつ柔軟に(1)既存のパスウェイデータの情報の適切な取り込み、(2)モデル作成、(3)モデルのシミュレーション、(4)シミュレーションの高度な可視化を行える統合環境の提案を行い、その実装系の開発を行った結果について報告している。 2章では、本論文のモデル化手法であるHFPN/HFPNeに関して詳述している。これらは、視覚的なモデル化と数学的な解析が可能であるペトリネットを、複雑で大規模なバイオパスウェイをより簡潔かつ柔軟にモデル化/シミュレーションができるように拡張したモデル化手法である。HFPNは、hybrid Petri net、 functional Petri net 及び hybrid object net を拡張したもので、従来のペトリネットの良さを継承し、離散量と連続量の両方を同時扱うことができ、その制御もほぼ任意に可能であるとともに、階層化により複雑なシステムも直感的に構成できる。HFPNeでは、HFPNで扱える整数、実数に加え、真偽値、文字列、リスト、ペアなどの型の追加、複雑な現象を簡単に1つのプレースで記述できるようオブジェクトの型の追加、それらに伴う汎用エンティティ、汎用プロセスの追加を行っている。これらの拡張を利用し、HFPNや微分方程式ベースの手法では扱いにくい、7つの生体内の現象、(1)原核生物の転写と翻訳、(2)真核生物の転写と翻訳、(3)選択的スプライシング、(4)フレームシフト、(5)多糖類の生化学反応、(6)多数の部位が修飾されるタンパク質p53、(7)遺伝病ハンティントン病、のモデル化/シミュレーションをHFPNeを用いて行い、この手法の有用性を議論している。 3章では、前述のHFPN/HFPNeを用いたモデル化/シミューレーション・ソフトウェアであるGONの開発、XMLを用いた生体内パスウェイのモデル化/シミュレーション記述形式GONMLの提案と開発を行った結果について報告し、他のソフトウェアに対する優位性を議論している。 4章では、3章で述べたGONなどを用いた生体内シミューレーションの結果をより簡単かつ柔軟に視覚表現できる生体内パスウェイ・アニメーションの提案と、その実装系である生体内パスウェイ・アニメーション・ソフトウェア Visualizer の開発を行った結果について報告し、実際に基本的な生体内の現象、転写/翻訳/抑制/発現/結合/分解などの生体反応を Visualizer で視覚的に表現しその有用性を示している。 5章では、KEGG、BioCyc、BRENDAなどの既存の生体内パスウェイ・データベース中からモデル化/シミュレーションに必要な情報を適切に取捨選択することにより新たにデータベースを作成し、GONMLの形式に変換するシステムの提案と実装系BPE、そのオンラインシステムBPEOSの開発について報告し、その有効性を他のプロジェクトと比較し考察している。 6章においては、本論文で提案する統合環境を総括し展望を述べている。さらに、分子生物学の研究室で実際にこの統合環境を用いることで新規に分子生物学の分野において有用な知見を発見した例を挙げ、本論文で提案する統合環境が分子生物学の生物実験を伴う研究で有効であることを例証している。 なお、本論文は宮野悟氏、松野浩嗣、土井淳氏らとの共同研究によるものであるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)を授与できると認める。 | |
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