学位論文要旨



No 118712
著者(漢字) 秀村,晃生
著者(英字)
著者(カナ) ヒデムラ,アキオ
標題(和) 外科侵襲時の生体防御における好中球の局所への動員異常の意義とその対策
標題(洋) Derangement of Polymorphonuclear Neutrophil Recruitment into the Local Inflammatory Site in Surgical Stress
報告番号 118712
報告番号 甲18712
学位授与日 2004.03.10
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2221号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 小池,和彦
 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 助教授 宮田,哲郎
 東京大学 助教授 國土,典宏
 東京大学 講師 鎮西,美栄子
内容要旨 要旨を表示する

好中球は、感染や炎症の場での細菌や異物の処理過程の最初の防御線となり、感染制御に重要な役割を果たす。一方で、好中球機能の亢進には、重要臓器障害の発生につながるという側面もある。従って、外科侵襲時の生体防御において、好中球が感染や炎症の場である局所へ適切に動員されることが重要である。

流血中に存在する好中球は、局所で感染や炎症が起きると、炎症局所への集積・血管壁への接着・血管壁外への惨出を経て、局所に動員され、細菌の貪食・殺菌にあたる。この好中球の局所への動員について、好中球や血管内皮細胞上に発現する接着分子や局所のサイトカインが重要な役割を担っていることが近年明らかとなってきた。しかし、このような好中球の局所への動員やその異常と、手術や外傷などの外科侵襲時の感染症をはじめとした合併症の発生との関連を検討した報告は殆どない。そこで、本研究は、好中球の局所への動員やその異常と外科侵襲時の感染症をはじめとした合併症の発生との関係を臨床的に検討し、その意義を明らかにすること、ならびに、外科侵襲での感染症や炎症の増悪、遷延化の防止、臓器障害発症の抑制をめざして、好中球の局所への動員の異常を修飾する対策を開発することを目的とした。

食餌摂取制限マウス腹膜炎モデルを用いた実験的検討では、(1)食事摂取制限により抑制される末梢血好中球上の接着分子CD11b・CD18・CD31・CD62L発現は、プロバイオティクスであるビフィズス菌の培養液抽出物(Bifidobacterium longum culture condensate: BCC)経口投与により増強した。(2)食事摂取制限により抑制される腹腔内洗浄液中のサイトカインTNF-α・IL-6・MIP-2(macrophage inflammatory protein-2)・IL-10濃度は、BCC経口投与により増強した。(3)食事摂取制限により抑制される好中球の局所への動員は、BCC経口投与により増強した。(4)敗血症モデルの検討では、盲腸結紮穿刺後の生存は、BCCの経口投与により、有意ではないものの改善した。(5)これらの結果から、食餌摂取制限に伴う免疫能低下がBCC経口投与により改善される機序の一部が解明され、食餌摂取制限に伴う生体防御能低下をより効果的に改善する治療法の開発にむけて、プロバイオティクスが有用な手段の一つとなる可能性が示唆された。

消化器外科患者31例を対象として、ヒト好中球の動員をin vitroで動的かつ定量的に評価できるフローチャンバーシステムを用いて術前に消化器外科患者末梢血分離好中球の接着・滲出を測定し、これらの好中球の接着・滲出データを含めた種々の臨床データを使用した臨床的検討では、(1)接着好中球数が術後感染性合併症の最大の危険因子であり、感染性合併症(+)群では感染性合併症(-)群よりも接着好中球数が有意に多かったが、滲出好中球数には有意差は無かった。(2)接着好中球数と滲出好中球数は感染性合併症(-)群で正相関したが、感染性合併症(+)群では相関が無かった(r=0.01, p=0.98)。(3)末梢血分離好中球上の接着分子については、感染性合併症(+)群では感染性合併症(-)群よりも、CD31発現が有意に低値であったが、CD11b・CD18発現には有意差は無かった。(4)これらの結果から、滲出能亢進を伴わない接着能亢進という好中球動員の異常は、消化器外科術後感染性合併症と関連していると考えられた。

以上の実験的・臨床的検討の結果をまとめると、外科侵襲時の好中球の局所動員の異常は感染性合併症の発生と関連しており、この外科侵襲時の好中球の局所動員を修飾する働きのあるプロバイオティクスは、この機序を介して外科侵襲時の感染症の防止に役立つという可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、外科侵襲時の生体防御において重要な役割を果たしている好中球の局所へ動員に着目し、好中球の局所への動員異常の修飾を通じた外科侵襲時の感染症の防止に役立つ治療法の開発を視野に入れて、実験的・臨床的に検討を行い、下記の結果を得ている。

食餌摂取制限マウス腹膜炎モデルを用いた実験的検討では、(1)食事摂取制限により抑制される末梢血好中球上の接着分子CD11b・CD18・CD31・CD62L発現は、プロバイオティクスであるビフィズス菌の培養液抽出物(Bifidobacterium longum culture condensate: BCC)経口投与により増強した。(2)食事摂取制限により抑制される腹腔内洗浄液中のサイトカインTNF-α・IL-6・MIP-2(macrophage inflammatory protein-2)・IL-10濃度は、BCC経口投与により増強した。(3)食事摂取制限により抑制される好中球の局所への動員は、BCC経口投与により増強した。(4)敗血症モデルの検討では、盲腸結紮穿刺後の生存は、BCCの経口投与により、有意ではないものの改善した。(5)これらの結果から、食餌摂取制限に伴う免疫能低下がBCC経口投与により改善される機序の一部が解明され、食餌摂取制限に伴う生体防御能低下を効果的に改善する治療法の開発にむけて、プロバイオティクスが有用な手段の一つとなる可能性が示唆された。

消化器外科患者31例を対象として、ヒト好中球の動員をin vitroで動的かつ定量的に評価できるフローチャンバーシステムを用いて術前に消化器外科患者末梢血分離好中球の接着・滲出を測定し、これらの好中球の接着・滲出データを含めた種々の臨床データを使用した臨床的検討では、(1)接着好中球数が術後感染性合併症の最大の危険因子であり、感染性合併症(+)群では感染性合併症(-)群よりも接着好中球数が有意に多かったが、滲出好中球数には有意差は無かった。(2)接着好中球数と滲出好中球数は感染性合併症(-)群で正相関したが、感染性合併症(+)群では相関が無かった(r=0.01, p=0.98)。(3)末梢血分離好中球上の接着分子については、感染性合併症(+)群では感染性合併症(-)群よりもCD31発現が有意に低値であったが、CD11b・CD18発現には両群に有意差は無かった。(4)これらの結果から、滲出能亢進を伴わない接着能亢進という好中球動員の異常は、消化器外科術後感染性合併症と関連していると考えられた。

以上、本論文は、プロバイオティクスであるビフィズス菌の培養液抽出物の投与が食餌摂取制限に伴う生体防御能低下を改善する機序の一部を実験的に明らかにし、さらに、外科侵襲時の好中球の局所動員の異常が感染性合併症の発生と関連していることを臨床的に明らかにした。本研究は、好中球の局所への動員の修飾という観点から外科侵襲時の感染症の防止に役立つ治療法を開発していく上で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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