学位論文要旨



No 118862
著者(漢字) 小林,知勝
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,トモカヅ
標題(和) 2000年三宅島火山活動のマグマ貫入期から山頂噴火期に観測される低周波地震の解析
標題(洋) Analysis of low frequency seismic events observed during the 2000 Miyake-jima volcano activities involving magma intrusion and summit eruptions
報告番号 118862
報告番号 甲18862
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4515号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武尾,実
 東京大学 教授 川勝,均
 東京大学 教授 小屋口,剛博
 東京大学 教授 渡辺,秀文
 東京大学 教授 深尾,良夫
内容要旨 要旨を表示する

2000年6月下旬,伊豆諸島三宅島火山は17年ぶりに活発な火山活動を開始させた.6月26日の島内の群発地震を以って開始した活動は,当初,西方沖海底での小規模な噴火にとどまったが,7月8日以降山頂陥没を伴った噴火が断続的に発生し,8月18日には一連の噴火活動の中で最も規模の大きな噴火が起こった.続いて8月下旬頃からは高濃度の二酸化硫黄を含む火山ガスの放出が活発になった.この火山活動はその活動の特徴から一般的に,マグマ貫入期,山頂陥没期,爆発期,脱ガス期の4つの活動期に分類されている.三宅島でのイベントと類似した大規模な陥没事件としてはガラパゴス(1968)などが知られているが,十分な観測や解析は行われていない.しかしながら,三宅島2000年活動においては詳細な観測網が活動期間に展開され,特に地震データは非常に近距離で長期間連続的に記録され,山頂陥没という稀有な火山活動の全体像を理解する上で重要な情報が得られることが期待される.

本研究では,主として地震学的アプローチにより,2000年三宅島火山活動のマグマ貫入期から山頂陥没・爆発期に観測された低周波地震を中心に解析される.そして解析結果と火山活動の推移の対応関係をもとに,各活動期の火山活動が議論される.

具体的に解析は各活動期に特徴的な4つのイベントに対して行われる.すなわち,「マグマ貫入期:長周期イベント」,「山頂陥没期初期・爆発期:地震系列(特異な地震時系列と空振を伴う低周波パルス),「8月18日噴火:超長周期イベント」である.解析ではそれぞれのイベントがもつ固有の特徴が整理され,さらに主として波形インヴァージョンからその震源,メカニズムが求められる.その結果,各イベントの解析で以下の結果が得られた.

[マグマ貫入期] 2000年6月下旬の群発地震の終息直後から長周期イベントが頻発した.(1)長周期イベントは6月27日から7月9日まで観測され,VLP pulseの開始以降(7/9〜)には観測されなくなった.(2)長周期イベントは,その発生期間の前半には0.2Hzの卓越周波数を持つが,7月2日以降から0.4Hzのイベントが多発し始めた.(3)長周期イベントの震央は,山頂から南約3 kmの領域に求められ,その深さに関しては2.5もしくは5.5 kmの可能性を挙げることが出来る.

以上の発生場所及び発生期間を考慮すると,長周期イベントはマグマの供給過程を反映したものと考えられる.

[山頂陥没・爆発期(8月18日噴火)]

VLP pulse及び8月18日噴火に前駆して地震系列が断続的に観測された.地震系列を形成する個々の地震の発生メカニズムは発生期間の前半と後半で異なり,「断層型」から「爆発型」へと次第に遷移する.

<断層型>

(1)1.地震の発生時間間隔は等比数列の規則性を持って次第に減少していく.(2)最大振幅は一定で推移した後,VLP pulse発生直前数分前に時間とともに減少していく.(3)地震系列内の個々の地震波形が似ている.(4)震源はカルデラ南西縁(海抜0m),VLP pulseの推定震源領域より浅い場所に求まる.

これらの解析結果を踏まえると,山頂陥没期初期における地震系列は,VLP pulseを導く過程として,ピストン上部における,ピストンと火道壁との間のスティックスリップ的な破壊の繰り返しと解釈される.

<爆発型>

(1)パルス幅約1, 2秒の低周波パルスが7月14日噴火直前から地震系列内で観測され始め,時間とともにその振幅を次第に増加させた.(2)低周波パルスに伴って空振パルスがしばしば観測され,その震央は山頂付近に求まる.(3)低周波パルスはカルデラの南縁,深さ1.5 km付近に求められ,そのメカニズムとして等方的な膨張が示唆される.(4)低周波パルスと空振パルスの発生時刻には約3秒の差がある.

これらの解析結果より,等方的な膨張は上昇してきたマグマヘッドの熱と帯水層が反応した小規模な水蒸気爆発であり,この爆発に伴って低周波パルス及び空振パルスが励起されたと推測される.

以上の結果より,山頂陥没期から爆発期にかけて次第に爆発型が地震系列内で支配的になったことが分かった.爆発型地震の発生期間や活動度は水蒸気爆発と考えられる噴火期間とその活動度と良い相関があることから,爆発型地震の活動度はマグマの上昇を反映したものと推定される.

[8月18日噴火]

8月18日噴火のクライマックス時に,周期約100秒の超長周期イベントが観測された.(1)particle motion及び波形インヴァージョンの結果より,発生領域は山頂下海抜0m付近と推定される.(2)超長周期イベントはその波形やメカニズムから,山頂を中心とした収縮,続いて膨張が起こったことを示唆する.

これらの結果から超長周期イベントは,18時過ぎに起こったとされる爆発的な噴出に伴った火道の収縮・膨張を示唆していると考えられる.

以上の解析結果から,マグマ貫入期から山頂陥没・爆発期にかけて見られた低周波地震の発生領域が図1にまとめられる.さらに,本研究で解析された地震イベントと火山活動の発生期間との対応が可能になった.その結果を図2に示す.

マグマ貫入期から8月18日噴火までに見られた低周波地震イベントの発生領域

本論文で解析された低周波地震イベントの発生時系列と火山活動との対応

審査要旨 要旨を表示する

本論文は2000年6月末から開始した伊豆諸島三宅島火山の噴火活動で観測された特異な地震活動を解析する事で,その噴火活動のメカニズムを解明しようとしたものである.2000年三宅島噴火は,この火山における最近の噴火活動とは異なり,有史以来のカルデラ形成を行った噴火活動であった.この噴火は,世界的に見ても地球物理学的な観測手段が展開されている領域で起こった初めてのカルデラ形成活動であり,火山学的に極めて貴重なデータが得られた.申請者は,この噴火活動の初期・マグマ貫入期から,山頂噴火・カルデラ形成期にいたる間に観測された地震データを詳細に検討し,カルデラ形成活動に密接に関連すると考えられる特異な地震活動を発見し,その解析を行い,カルデラ形成に至る活動に対する新しい知見を得た.

6月26日の島内の群発地震を以って開始した三宅島火山の活動は,当初,西方沖海底での小規模な噴火にとどまったが,7月8日以降山頂陥没を伴った噴火が断続的に発生し,8月18日には一連の噴火活動の中で最も規模の大きな噴火が起こった.続いて8月下旬頃からは高濃度の二酸化硫黄を含む火山ガスの放出が活発になった.この火山活動はその活動の特徴から一般的に,マグマ貫入期,山頂陥没期,爆発期,脱ガス期の4つの活動期に分類されている.本論文では,主として島内に展開された短周期及び広帯域地震観測網で記録された特異な低周波地震や地震活動,山頂噴火に伴う超長周期地震を解析する事により,2000年三宅島火山活動のマグマ貫入期からカルデラ形成に至る火山活動の推移を議論した.

具体的に解析は各活動期に特徴的な4つのイベントに対して行われる.すなわち,「マグマ貫入期:長周期イベント」,「山頂陥没期初期・爆発期:地震系列(特異な地震時系列と空振を伴う低周波パルス),「8月18日噴火:超長周期イベント」である.解析ではそれぞれのイベントがもつ固有の特徴が整理され,さらに主として波形インヴァージョンからその震源,メカニズムが求められる.その結果,各イベントの解析で以下の結果が得られた.

[マグマ貫入期] 6月下旬に開始した群発地震の終息直後の6月27日から長周期イベントが頻発し,7月9日まで観測されたが,低周波パルスの開始以降(7/9〜)には観測されなくなった.この長周期イベントは,その発生期間の前半には0.2Hzの卓越周波数を持つが,7月2日以降から0.4Hzのイベントが多発し始めた.長周期イベントの震央は,山頂から南約3 kmの領域に求められ,その深さに関しては2.5もしくは5.5 kmの可能性を挙げることが出来る.以上の発生場所及び発生期間を考慮すると,長周期イベントはマグマの供給過程を反映したものと考えられる.

[山頂陥没・爆発期(8月18日噴火)] 低周波パルス及び8月18日噴火に前駆して極めて特異な地震系列が断続的に観測された.地震系列を形成する個々の地震の発生メカニズムは発生期間の前半と後半で異なり,その特徴はそれぞれ以下のように纏められる.(前半)地震の発生時間間隔は等比数列の規則性を持って次第に減少していくが,最大振幅は一定で推移した後,低周波パルス発生直前数分前に時間とともに減少していく.震源はカルデラ南西縁(海抜 0m),低周波パルスの推定震源領域より浅い場所に求まる.(後半)空振を伴うパルス幅約1, 2秒の低周波パルスが7月14日噴火直前から地震系列内で観測され始め,時間とともにその振幅を次第に増加させた.低周波パルスはカルデラの南縁,深さ1.5 km付近に求められ,そのメカニズムとして等方的な膨張が示唆される.低周波パルスと空振パルスは,上昇してきたマグマヘッドの熱と帯水層が反応した小規模な水蒸気爆発により励起されたと推測される.

以上の結果より,山頂陥没期から爆発期にかけて次第に爆発型が地震系列内で支配的になったことが分かった.爆発型地震の発生期間や活動度は水蒸気爆発と考えられる噴火期間とその活動度と良い相関があることから,爆発型地震の活動度はマグマの上昇を反映したものと推定される.

[8月18日噴火] 8月18日噴火のクライマックス時に,周期約100秒の超長周期イベントが観測された.その波形解析により,発生領域は山頂下海抜0m付近と推定された.さらに,そのメカニズムから山頂を中心とした収縮とそれに続く膨張が起こったことを示唆された.これらの結果から超長周期イベントは,18時過ぎに起こったとされる爆発的な噴出に伴った火道の収縮・膨張を示唆していると考えられる.

以上のように,申請者は本論文において,カルデラ形成の中で発生した特異な地震活動を,波形インバージョン解析手法を駆使してそのメカニズム解明に努め,これら特異な地震活動のカルデラ形成期における役割を明らかにした.これは火山学におけるカルデラ形成の理解に寄与するものであり,博士(理学)の学位を授与できると認める.

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