学位論文要旨



No 118863
著者(漢字) 後藤,和久
著者(英字)
著者(カナ) ゴトウ,カズヒサ
標題(和) 白亜紀/第三紀境界における深海性津波堆積物とその形成メカニズムに関する研究
標題(洋) A study of Cretaceous/Tertiary boundary proximal deep-sea tsunami deposits and their generation mechanism
報告番号 118863
報告番号 甲18863
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4516号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松井,孝典
 東京大学 教授 多田,隆治
 東京大学 助教授 田近,英一
 京都大学 教授 増田,富士雄
 東北大学 教授 今村,文彦
内容要旨 要旨を表示する

はじめに

地球外天体衝突は地球史の中で普遍的に起こってきた現象である.また,地球表面の大部分は海洋で覆われているため,衝突の大部分は海洋で起こったと考えられる.したがって,海洋における天体衝突現象の解明は,地球環境や生命の進化過程を理解する上で極めて重要である.ところが,海底における衝突クレーターは発見が困難なため,天体の海洋への衝突現象やそれに伴う海洋擾乱過程の実態はほとんど解明されていない.その中で,今から約6500万年前の白亜紀/第三紀境界(以下K/T境界)における天体衝突現象は,地球史上最大規模であること,メキシコ・ユカタン半島における衝突クレーター(チチュルブクレーター)の発見により海洋に衝突したことが明らかであること,メキシコ湾やカリブ海沿岸から数多くの津波堆積物が報告されていることから(図1),海洋衝突現象のモデルケースとして地球外天体海洋衝突に伴う海洋擾乱過程としての津波現象に関する研究がなされてきた.しかし,その実態はまだ不明な点が多い.これは,津波が深海底に及ぼす影響が明らかにされていないこと,地質学的データに基づいた津波の規模の推定や津波発生メカニズムの検討が行われていないことなどによる.そこで本研究では,地球外天体の海洋衝突に伴い発生する津波現象の実態を解明するため,衝突地点近傍のK/T境界深海性堆積物を広域的に調査し,その岩相や堆積構造を調べ,堆積メカニズムを明らかにするとともに,津波が深海底に及ぼした影響を調べた。さらに,従来の地質学的データと本研究による地質学的データに基づいて,衝突に伴う津波発生メカニズムを検討した.

K/T境界深海性津波堆積物の認定と堆積メカニズム

キューバ北西部K/T境界層ペニャルベル層における層相の側方変化と堆積メカニズム

本研究では,K/T境界での天体衝突に伴って形成された深海性堆積物の岩相や堆積構造の水深変化を高解像度で明らかにするため,キューバ北西部ペニャルベル層の広域調査を行った(図1).同層は,衝突地点に最も近いK/T境界層で,その最大層厚は200 mに達する.また,同層はキューバ島弧北西斜面上の水深600〜2000 mの深海底で堆積したと推定されている (Bronniimann and Rigassi, 1963).ペニャルベル層は,層厚が厚く均質で,流れの作用を示す堆積構造が全く見られないなどの特徴があり,これらの特徴が地中海で報告されているホモジェナイトと呼ばれる深海性津波堆積物と類似していることから,同層は衝突により発生した津波の影響を強く受けた深海性津波堆積物である可能性が指摘されていた(Takayama et al., 2000).しかし,津波との成因的関係や具体的な堆積メカニズムは十分明らかにされていない.同層のように,K/T境界深海性堆積物が陸上に露出していることは極めて稀である.そこで本研究では,同層の露出の良い3地域(模式地,シドラ,サンタイサベル地域)において調査を行い,その側方変化を調べた.模式地は3地域の中で最も北方に位置するが,褶曲構造を考慮すると他の2地域に比べてさらに北方の沖合で堆積したと考えられる.

ペニャルベル層は,石灰質礫岩からなる下部ユニットと石灰質砂岩〜シルト岩からなる上部ユニットに区分され,上部ユニットはさらに,石灰質砂岩からなるサブユニットAと石灰質シルト岩からなるサブユニットBに細分される(図2).下部ユニットの石灰質礫岩は,層厚約45 mで,淘汰が悪く,礫質支持で,下位の地層を削りこみ同時礫として取り込んでいること,浅海性の大型化石片を多く含むことなどから,天体衝突に伴って発生した地震によってキューバプラットフォーム上の斜面堆積物が崩壊して土石流となって斜面を流下し,深海底に堆積したものと考えられる.

一方,上部ユニットの層厚は135m以上あり,その構成粒子は半遠洋性〜遠洋性の粒子が中心で,下部ユニットとは大きく組成が異なること,また蛇紋岩片など下部ユニットやその下位のビアブランカ層に含まれない粒子を含むことから,下部ユニットとは異なる供給源からもたらされたと考えられ,下部ユニットを堆積させた土石流による深海底堆積粒子の巻き上げでは説明できない.さらに,上部ユニットは巨視的には上方細粒化傾向を示すこと,広域に渡って組成や粒度が良く似ていることから,少なくとも東西約150kmに渡って広がった懸濁粒子雲から沈降・堆積したと考えられる.また,上部ユニットに含まれる蛇紋岩片は,組成や粒度がキューバ東部に分布する白亜紀末の蛇紋岩質砂岩層中の蛇紋岩片に良く似ていることから,キューバ東部からもたらされた可能性が高い.さらに,模式地では蛇紋岩片が急増する上部ユニット基底部には侵食面が認められないことから,蛇紋岩片は重力流のように斜面を削りながら流れ下ったのではなく,津波のような大規模な水塊の移動に伴い,懸濁状態で運搬されたと考えられる.K/T境界では天体衝突に伴って巨大津波が発生したことが,浅海性津波堆積物の研究や数値実験などによって示唆されていることを考慮すると (e. g., Smit, 1999: Matsui et al., 2002),ペニャルベル層上部ユニットは,島弧斜面上に堆積していた粒子が衝突に伴う津波によって巻き上げられて高濃度の懸濁粒子雲を形成し,そこから粒子が沈降して形成された深海性津波堆積物であると考えられる.

ペニャルベル層の側方変化を調べるため,同層の広域調査を行った結果,水深が相対的に浅いと考えられるシドラ,サンタイサベル地域では上部ユニットの層厚が薄く,その基底部に侵食面が,そして中部に平行葉理が顕著に発達することが明らかになった.津波により発生する底面流速は,水深が浅いほど強くなることから,これらは水深の違いによる津波の底面流速の差を反映すると考えられる.また,蛇紋岩片の含有量変化に代表される6回以上の組成と粒度の同期的振動が,模式地とマタンサス地域のサブユニットAで観察された(図2).この振動は,キューバ東部からもたらされたと考えられる蛇紋岩片に代表される砕屑粒子と,ミクリティックな石灰岩片やキューバ島弧起源の安山岩片に代表される砕屑粒子の混合比変化を反映していると考えられる.そして,蛇紋岩片含有量が減少する層準でミクリティックな石灰岩片の含有量が増すと共に最大粒径が粗くなることから,キューバ東部起源の蛇紋岩片に特徴付けられる懸濁粒子雲中に,キューバ島弧起源物質が繰り返し流入して形成されたと考えられる.蛇紋岩片含有量は,上部ユニット基底部で急激に含有量が増加することから,蛇紋岩片に特徴付けられる懸濁粒子雲は津波第一波により形成された可能性が高い.一方,各組成振動基底部には侵食面が認められず,キューバ島弧起源物質は重力流のように斜面を削りながら流れ下ったのではなく,第2波以降の津波の引き波に伴って懸濁状態で運搬されたと考えられる.同様の組成振動は,サンタイサベル地域のサブユニットBでも10回以上観察された.

模式地では,組成振動がサブユニットAに見られるのに対し,サンタイサベル地域では上位のサブユニットBで組成振動が見られた.これらの組成振動が同じ津波の影響により形成された可能性を検証するため,ペニャルベル層に含まれる衝撃変成石英と呼ばれる衝突放出物(イジェクタ)の粒度と含有量を調べ,その飛来時間・海水中の沈降時間を計算することで,ペニャルベル層内の各層準の堆積時間に制約を与えた.その結果,模式地とサンタイサベル地域では異なる層序サブユニット中に組成と粒度の同期的振動が見られるものの,両サブユニットはほぼ同時期(衝突後約7〜100時間の間)に形成されたことが明らかになった.したがって,これらの組成振動は同じ津波の影響によって形成されたものである可能性が高い.

DSDPサイト536, 540中のK/T境界堆積物の堆積メカニズム

本研究では,複数地点のK/T境界深海性津波堆積物を比較することで,その堆積メカニズムをより詳しく解明できると考え,ペニャルベル層以外で唯一水深が制約されている深海性堆積物であり,水深1000〜2000 m以上の深海底で堆積したと考えられるDSDPサイト536, 540(図1)のコア試料中のK/T境界層の記載および組成や粒度の分析を行い,その堆積メカニズムを調べた.さらに,同層中に含まれる衝撃変成石英の粒度および含有量分布を調べてその堆積時間を推定し,ペニャルベル層との比較を試みた.

DSDPサイト536, 540の層厚は,それぞれ約2 mと3 mで,ペニャルベル層と同様に主に浅海起源の粒子を多く含む下部の石灰質礫岩層と,深海性粒子のみからなる上部の石灰質砂岩〜シルト岩層からなる.下部の石灰質礫岩層は,淘汰が悪く,礫質支持で,浅海性粒子を多く含むことなどから,衝突に伴って発生した地震によってフロリダプラットフォーム上の斜面堆積物が崩壊して土石流となって斜面を流下し,深海底に堆積したものと考えられる.一方,上部はペニャルベル層とは異なり,流れの方向が異なる斜交葉理の繰り返しが見られる.同層に含まれる衝撃変成石英の沈降時間の推定から,上部は衝突後7〜49時間の間に形成されたと考えられる.これは,組成変動が見られたペニャルベル層模式地のサブユニットAとほぼ同じ時間帯であり,DSDPサイトのK/T境界層上部も,ペニャルベル層と同時期に津波の影響を受けて堆積したと考えられる.

また, 水深約2000mの深海底において, 斜交葉理を形成するために必要な底面流速から津波の規模を推定すると, 波高40km以上, 波高3m以上の規模の津波が必要であると考えられ, K/T境界においてこの規模以上の津波が発生していたと考えられる. 一方, Smit et al. (1996) によって報告されている水深500 m以深の地点で堆積したK/T境界津波堆積物について同様の計算を行うと,波長10km以上,波高約6 m以上の規模の津波が必要となる.グリーンの定理を用いて,水深500 mの地点での波高(6m)を,水深2000 m地点での波高に換算すると約4 mとなり,水深2000 mの深海底において,斜交葉理を形成するのに必要な3 mの波高を十分上回る.以上のことから,衝突によって発生した津波の影響は,深海域にも強い影響を及ぼしていたものと考えられる.

衝突クレーター内掘削試料 (YAX-1) を用いた津波発生メカニズムの地質学的検討

ペニャルベル層の調査・分析の結果,ペニャルベル層上部ユニットに含まれる蛇紋岩片はキューバ東部から津波の第一波によってもたらされた可能性が高いこと,サンタイサベル地域の津波堆積物基底部に発達する侵食面は津波発生初期に西向き(衝突クレーターへ向く方向)の流れを示すことが明らかになった.さらにTada et al. (2002)によれば,津波堆積物と考えられるキューバ西部モンカダ層中の斜交葉理に記録された津波の第一波の流れも西向き(衝突クレーターへ向く方向)の流れを示す.これは,津波の第一波が衝突クレーターに向かう流れであった可能性を示唆する.

では,衝突に伴って発生する津波の中で,古カリブ海において津波の第一波が引き波となる津波発生メカニズムはどのようなものが考えられるだろうか? Matsui et al. (2002) による理論的研究に基づけば,K/T境界での衝突に伴う津波発生メカニズムの中で,形成直後の衝突クレーターへの海水の流入とその後の流出によって発生する津波と,ユカタンプラットフォームの崩壊に伴う海底地すべりに伴って発生する津波の規模(波高や波長など)が最も大きい.両者の津波発生メカニズムの違いは,津波の第一波が引き波(衝突クレーターへの海水流入・流出に伴う津波)か押し波(地滑りに伴う津波)かで特徴付けられる.前述のように,ペニャルベル層やモンカダ層に記録された津波の第一波の流れはクレーターに向かっているので,前者のメカニズムで発生した津波がペニャルベル層やDSDPサイト536, 540中のK/T境界層を形成した可能性が考えられる.しかし,衝突クレーター内に海水が流入した直接的証拠はこれまで報告されておらず,このメカニズムで津波が発生したことを支持する決定的証拠に欠けていた.そこで,衝突直後にクレーター内に海水が流入した可能性を検証するため,国際陸棚掘削計画 (ICDP) により掘削された,クレーター内コア試料 (YAX-1) を入手し,衝突イベントに関連して生成された鉱物やメルトを含むスウェイバイトと呼ばれる堆積物の記載と分析を行った(図1).

その結果,スウェイバイト層の最上部約50 cmには斜交葉理が発達すること,スウェイバイトの基質中にクレーター外部から流入したと考えられるナンノ化石が含まれることが明らかになった.これは,少なくともスウェイバイト堆積時には,衝突クレーター内部に海水が浸入していた可能性が高いことを示す.また,スウェバイト層の粒度や化学組成を高解像度で分析した結果,10回以上の上方細粒化の繰り返しが存在することが明らかになった.この繰り返しは.粒子支持な状態から基質支持な状態に変わりつつ上方細粒化することから,津波による海底堆積物の撹拌・再堆積の繰り返しによって形成された可能性,あるいは海水流入の繰り返しに伴って発生した重力流堆積物の繰り返しの可能性を示す.従って,衝突クレーターへの海水流入・流出に伴って10回以上の津波が発生した可能性が考えられる.

衝突クレーターへの海水流入・流出に伴う津波の規模は,衝突クレーターの深さと衝突地点周辺の水深に依存する (Matsui et al.,2002).最近の地震波データや衝突クレーター掘削コアのデータに基づくと,衝突クレーターの深さはおよそ1.5km(例えばMorgan et al.,2000),衝突地点周辺の水深は100〜200 m以浅と考えられる(例えばSharpton et al., 1996).この場合に発生する津波の規模は,DSDPサイトにおいて周期約4時間,波高約7〜12 mと推定されるが (Matsui et al., 2002),この規模はDSDPサイトにおいて斜交葉理を形成するのに十分な規模である.

このように,古カリブ海周辺に分布する深海性津波堆積物には津波の第一波の記録として衝突クレーターへ流れる方向(西向き)の流れの痕跡が記録されていること,数値計算から推定される津波の規模は,DSDPサイトにおいて斜交葉理を形成するのに十分な規模であること,クレーター内試料の分析の結果,衝突クレーター内への海水流入が実際に起きていた可能性が高いこと,津波の繰り返しを反映すると考えられる組成変動が衝突クレーター内で約10回,ペニャルベル層で6〜10回と良く似た回数であることを併せると,K/T境界における津波の発生メカニズムとして,衝突クレーターへの海水流入・流出に伴う津波が最も有力であると考えられる.

メキシコ湾岸に分布するK/T境界層および本研究の調査地域

ペニャルベル層模式地の模式柱状図と蛇紋岩片含有量および石灰岩片・石英粒子の最大粒径の鉛直変化

審査要旨 要旨を表示する

本論文は6章からなり、今から約6500万年前の白亜紀/第三紀(K/T)境界における地球外天体の海洋衝突に伴い発生した津波現象の実態解明を主目的としている。第1章では本論文の背景と目的が述べられている。第2章では、衝突に伴い形成された深海性堆積物(キューバ北西部ペニャルベル層)の、調査や高解像度分析の結果が述べられている。論文提出者による調査・分析の結果、ペニャルベル層は下部の重力流堆積物と、津波により形成された上部の深海性津波堆積物からなることが示された。さらに、堆積水深変化に応じて流れの影響を示す堆積構造が顕著になること、津波の繰り返しを反映すると考えられる組成と粒度の変動が6〜10回観察されることが明らかとなった。

第3章では、DSDPサイト536,540のK/T境界深海性堆積物について記載および組成・粒度分析を行い、その結果に基づいてDSDPサイトのK/T境界層の堆積メカニズムが議論されている.その結果、同サイト中のK/T境界層も、下部の重力流堆積物と、津波により形成された上部の深海性津波堆積物からなることが示され、特に上部では流れの方向の異なる斜交葉理が繰り返していることが明らかになった。

第4章では、これまでに報告されている古カリブ海周辺のK/T境界深海性津波堆積物の特徴と堆積メカニズムのレビューを行い、本研究で明らかにされた深海性津波堆積物の特徴や堆積メカニズムとの比較が試みられている。これにより、広域的に分布するK/T境界深海性津波堆積物が、水深変化に応じて系統的に変化していることが示された。さらに、ペニャルベル層の調査・分析の結果,ペニャルベル層上部に含まれる蛇紋岩片はキューバ東部から西向き(衝突クレーターへ向く方向)の津波第一波によってもたらされた可能性が高いこと,津波堆積物基底部に発達する侵食面は津波発生初期に西向きの流れを示すことが明らかになった.これらは,津波の第一波が衝突クレーターに向かう流れであった可能性を示唆するものであり、論文提出者は形成直後の衝突クレーターへの海水の流入とその後の流出によって発生した津波が、ペニャルベル層やDSDPサイト536, 540中のK/T境界津波堆積物を形成した可能性を指摘した。

第5章では,衝突直後に衝突クレーターに海水が流入した可能性の検証を目的として,国際陸棚掘削計画により掘削されたクレーター内コア試料中の,衝突イベントに関連して生成された鉱物やメルトを含むスウェイバイトと呼ばれる堆積物の記載と分析結果が示されている。その結果、スウェイバイト層の最上部約50 cmのスウェイバイト中には斜交葉理が発達しており,またスウェイバイトの基質中にクレーター外部から流入したと考えられるナンノ化石が含まれることが明らかになった.これは,少なくともスウェイバイト堆積時に,すでに衝突クレーター内部に海水が浸入していた可能性が高いことを示す.また,スウェイバイト層の粒度や化学組成を高解像度で分析した結果,8回以上の上方細粒化のサイクルが存在し、海水流入による大規模な水塊の移動の繰り返しに伴い,懸濁状態でクレーター外部およびリム上の粗粒物質が運搬された結果を反映すると考えられることが明らかになった.従って,衝突直後にクレーターへの海水流入が起こったと考えられ,海水の流入と流出に伴って8回以上の津波が発生した可能性が考えられる.

第6章では、衝突クレーターへの海水流入・流出に伴って発生した津波とメキシコ湾や古カリブ海に分布する津波堆積物の堆積過程にどのような関係があるか議論されている。特に、ペニャルベル層やメキシコ湾岸のK/T境界層で確認されている津波の繰り返しの回数(6〜12回)とクレーター内部に見られた回数はほぼ同じ回数であり,この結果はこれらが衝突クレーターへの海水流入・流出により発生した津波によって形成されたとする考えを支持するものである。

なお、本論文第2章は多田隆治、田近英一、松井孝典、大路樹生、山本信治、中野陽一郎、清川昌一、豊田和弘、初川雄一、高山英男、M.A.Iturralde-Vinent、R.Rojas、D.Garcia、C.Otero、T.J.Bralower(敬称略)との共同研究であり、第3章は多田隆治、田近英一との共同研究であり、第5章は多田隆治、田近英一、長谷川卓、T. J. Bralower、松井孝典との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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