No | 118884 | |
著者(漢字) | 田中,健一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タナカ,ケンイチ | |
標題(和) | オキシム誘導体の置換反応を用いるインドール類の合成法 | |
標題(洋) | Synthetic Methods for Indole and Related Compounds by Using the Substitution Reactions of Oxime Derivatives | |
報告番号 | 118884 | |
報告番号 | 甲18884 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4537号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | インドールとその類縁化合物は様々な生理活性を示すことが知られており、中でもアミノ基で置換されたインドールの誘導体が、最近その特異な生理活性から注目を集めている。筆者は、オキシム誘導体を用い、これまであまり報告がない、シクロヘキサジエン鉄錯体と窒素原子との結合生成によるインドール環構築法や、インドール環の直接アミノ化反応による窒素置換インドール合成法を開発することができた。 ジエン鉄カルボニル部位を有するオキシム誘導体のラジカル環化反応とインドール合成への応用 当研究室では、α位にシクロヘキサジエン鉄カルボニル部位を有するO-ペンタフルオロベンゾイルオキシム2aを空気中で加熱すると、トランス縮環のジヒドロインドール鉄錯体3aが生成し、環化体3aが酸性シリカゲル上でシス縮環体4aに異性化することを見出している(式1)。 この環化反応には酸素が不可欠で、ラジカル停止剤を添加すると反応は進行しないことから、酸素を開始剤とするラジカル連鎖機構で環化が進行すると考えられている。しかし、オキシムのE, Z両異性体の反応性や、環化機構、トランス縮環生成物のシス体への異性化機構、反応の一般性等が良く分かっていないので、O-ペンタフルオロベンゾイルオキシム2bを用いて環化反応の詳細な検討を行った。オキシム1bのE, Z異性体をペンタフルオロベンゾイル化すると、両異性体とも空気中で速やかに環化し、反応性の差がほとんどないことが分かった(式2)。このことから、ジエン鉄部位と酸素中心ラジカルとの反応で生成するラジカル種Aが、窒素原子でオキシム窒素-炭素二重結合に付加し、連鎖担体であるペンタフルオロベンゾイルオキシルラジカルが脱離することにより、環化することが明らかとなった(式3)。 また、環化体3bが塩基でシス縮環体4bに異性化することを見出し、7a位の脱プロトンによって異性化が起こることを明らかにした(式4)。 さらに、α位にシクロヘキサジエン鉄カルボニル部位を有する様々なオキシム1が同様に環化し、本環化反応が様々なジヒドロインドール鉄錯体4の合成に適用できることが分かった(式5)。 こうして得られたジヒドロインドール鉄錯体4は、塩化ペンタフルオロベンゾイルを作用させて、イミノ基をエナミドとして保護し、引き続きN-メチルモルホリン=N-オキシド(NMO)で酸化した後、ペンタフルオロベンゾイル基を塩基で除去することにより、インドール6に誘導することができた(式6)。 以上のように、O-ペンタフルオロベンゾイルオキシム2の環化反応を詳しく検討し、インドールのN-C(7a)結合の生成によるインドール合成法を開発することができた。 β-(3-インドリル)ケトンO-ペンタフルオロベンゾイルオキシムの触媒的ラジカル環化によるα-カルボリンの合成 インドリル基2位の直接アミノ化を鍵とする、α-カルボリン合成法の開発を試みた。その結果、1,2-ジクロロエタン中、β-(3-インドリル)ケトンO-ペンタフルオロベンゾイルオキシム7を触媒量の銅粉末で一電子還元すると、生じる7のアニオンラジカルのラジカル環化がインドリル基の2位で進行し、3,4-ジヒドロ-α-カルボリン8が生成することを見出した。得られたジヒドロカルボリン8は4-クロラニルで酸化するとα-カルボリン9に変換できた(式7)。本手法により、インドール窒素原子やピリジン環部に様々な置換基を有するα-カルボリンが容易に合成できる。 α-カルボリンの合成には、置換ピリジンや2-アミノインドールを出発物質に用いる手法がこれまでに幾つか報告されているが、出発物質の合成が難しいことや、反応の位置選択性が乏しいことなどの問題があった。これに対して本手法は、合成が容易なβ-(3-インドリル)ケトンオキシムから、触媒的に種々の置換基を持つα-カルボリンを合成できる。 β-(3-インドリル)ケトンオキシムの分子内求核置換反応とスピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]の新しい合成法 最近、筆者らの研究室において、通常進行しないとされているSN2型の置換反応がsp2原子上で起こることが見出されている。そこで筆者は、β-(3-インドリル)ケトンオキシムをスルホニル化すれば、インドール環の3位がオキシム窒素原子を求核攻撃し、スピロインドールが得られると考えた。アンチ体のβ-(3-インドリル)ケトンオキシム10aをO-メチルスルホニル化すると、予想通りスピロ[インドリン-3,2'-ピロリジン]誘導体12aが生成した(式8)。 種々のβ-(3-インドリル)ケトンanti-オキシム10を、スピロ[インドリン-3,2'-ピロリジン]誘導体に変換できる (Table 1)。オキシムのβ位にt-ブトキシカルボニル基を有する10dや、インドール環の2位にメチル基を有する10eから生じるジイミン12d, eは安定で、そのまま単離することができた。一方、他のジイミン12a-cは不安定なので、塩化ペンタフルオロベンゾイルでインドレニン部位の窒素を選択的に保護し、炭酸水素ナトリウム水溶液で処理した後、13a-cとして単離した。 環化体12、13は、生理活性物質として近年注目されているスピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]誘導体に変換できる。すなわち、ヒドロキシ体13aを Dess-Martin 試薬で酸化し、ペンタフルオロベンゾイル基を除去することにより、スピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]誘導体15aが得られる(式9)。 さらに、β-(3-インドリル)ケトン anti-オキシム7aから one-pot でオキシインドール15aを合成することも可能である。すなわち、オキシム7aをO-メチルスルホニル化した後、直ちに過剰量の二酸化マンガンで処理すると、15a が one-pot で合成できることが分かった(式10)。 以上、筆者は博士課程において、オキシム誘導体の置換反応でインドール環2位や3位のアミノ化が容易に進行することを見出すとともに、オキシム誘導体を出発物質とする、インドール、α-カルボリン、スピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]の新しい合成法を開発した。環化反応の形式を選択することにより、β-(3-インドリル)ケトンオキシム類から二種類のインドール誘導体が得られることは興味深い。さらに、出発物質が容易に調製でき、しかも反応条件が比較的穏やかで広い一般性を有している。 | |
審査要旨 | 本論文は、オキシム誘導体の置換反応を利用して、インドール類の合成法を開発した結果について、3章にわたって述べたものある。 インドールの合成法は数多く存在するが、アニリン誘導体を出発物質とする手法がほとんどで、他の含窒素化合物からの合成法の開発が望まれている。筆者はまず、シクロヘキサジエン部位を有するオキシム誘導体からインドールを合成する手法について検討を行った。また、窒素置換のインドール誘導体は、近年、その生理活性が注目されているが、効率的な合成法はあまり見出されていない。そこで筆者は、オキシム誘導体を用いて効率的にインドール環を直接アミノ化することを試み、β-(3-インドリル)ケトンオキシム類から2種類の窒素置換インドール誘導体を作り分ける方法を開発している。 第一章では、ジエン鉄カルボニル部位を有するオキシム誘導体のラジカル環化反応とインドール合成への応用について述べている。 当研究室では、α位にシクロヘキサジエン鉄カルボニル部位を有するO-ペンタフルオロベンゾイルオキシムを空気中で加熱すると、トランス縮環のジヒドロインドール鉄錯体が生成することを見出している。この環化体は酸性シリカゲル上でシス縮環体に異性化する。 この環化反応は、酸素を開始剤とするラジカル連鎖機構で環化が進行することが分かっているが、オキシムのE, Z両異性体の反応性や、環化の機構、トランス縮環生成物のシス体への異性化機構、反応の一般性等を調べるため、筆者は環化反応の詳細な検討を行っている。 まず、オキシムの立体異性体間で本質的な反応性の差がないことを明らかにし、ジエン鉄部位と酸素が反応して生成するラジカル種Aが、窒素原子でオキシム窒素-炭素二重結合に付加し、連鎖担体であるペンタフルオロベンゾイルオキシルラジカルが脱離するという、環化機構を提唱している。 また、トランス縮環の環化体からシス縮環体への異性化が塩基で進行することから、この異性化が7a位の脱プロトンによって起こることを見出した。 本環化反応により、α位にシクロヘキサジエン鉄カルボニル部位を有するO-ペンタフルオロベンゾイルオキシムから、種々の置換基を持つジヒドロインドール鉄錯体を合成することができ、さらに、これらをインドールに誘導することに成功している。以上のように、インドールのN-C(7a)結合を生成させるという、新しいインドール合成法を開発している。 第二章では、β-(3-インドリル)ケトンO-ペンタフルオロベンゾイルオキシムの触媒的ラジカル環化を用いる、α-カルボリンの合成について述べている。 α-カルボリンは、抗ガン活性や中枢神経系への活性が注目されている化合物である。合成法はいくつか報告されているが、出発物質の合成が困難である、反応に過酷な条件を必要とするなどの問題点が残されていた。今回筆者は、合成容易なβ-(3-インドリル)ケトンO-ペンタフルオロベンゾイルオキシムに触媒量の銅粉末を作用させると、インドリル基2位への環化アミノ化反応が進行することを明らかにしている。すなわち、銅(I)化合物によってオキシムが一電子還元されて、アニオンラジカルが生じ、インドリル基の2位で環化した後、3,4-ジヒドロα-カルボリンが生成して、銅触媒が再生する。生成するジヒドロカルボリンを4-クロラニルで酸化すると、インドール窒素上やピリジン環部に様々な置換基を持つα-カルボリンが触媒的に合成できる。 第三章では、β-(3-インドリル)ケトンオキシムの分子内求核置換反応とスピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]の新しい合成法について述べている。 当研究室において、通常進行しないとされているSN2型の反応がオキシム窒素原子上で起こることが見出されている。そこで筆者は、インドリル基を求核部位とするオキシム窒素原子上での分子内求核置換反応を利用する窒素置換インドール類縁体の合成を行っている。その結果、アンチ体のβ-(3-インドリル)ケトンオキシムをO-メチルスルホニル化すると、スピロ[インドリン-3,2'-ピロリジン]誘導体が生成することを明らかにした。 さらに、β-(3-インドリル)ケトン anti-オキシムをO-メチルスルホニル化した後、直ちに過剰量の二酸化マンガンで処理すると、生理活性化合物として知られているスピロ[ピロリジン-2,3'-オキシインドール]の誘導体が得られる。 以上述べたように、オキシム誘導体の置換反応を用いるインドール類の合成法に関する本研究業績は、有機合成化学の分野に貢献すること大である。なお、本研究は、森裕、幸村憲明、奈良坂紘一との共同研究であるが、論文提出者の寄与は十分であると判断される。従って、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク |