No | 118921 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Estrada,Miguel Luis | |
著者(カナ) | エストラダ,ミゲル ルイス | |
標題(和) | リモートセンシング画像に基づく地域および時間変化を考慮した地震被害抽出 | |
標題(洋) | Damage Detection due to Earthquakes Based on Remote Sensing Images Considering Regional and Temporal Variations | |
報告番号 | 118921 | |
報告番号 | 甲18921 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5653号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 過去数十年間、世界的に都市化は急激に加速し、自然災害が発生しやすい地域における都市人口は急速に増加している。したがって、自然災害が都市を襲った場合、損害の程度を迅速に評価する新技術の開発が必要である。それには、利用可能な技術およびデータを組み合わせ、新しいモデルを用いて分析しなければならない。人工衛星は数十年前から地表の観測を行っており、居住域の貴重なデータを収集しつづけている。新しい衛星およびセンサの開発競争の結果、情報の利用可能性をより高め、衛星画像の質を改善し、観測領域の幅を広げ、観測間隔をさらに短いものにしている。これらの事実から、リモートセンシング画像は非常に貴重な情報源であり、人間活動に関連した様々な分野において研究・適用されるのは間違いないといえよう。 本研究の目的は、居住地域で自然災害が発生したときに災害の壊滅的な影響を低減するために、意志決定者が即座に損害程度を知り効果的な方法で救助・救援するために、使いやすく信頼できるツールを開発することである。本研究は、リモートセンシング技術および画像処理技術に基づき、深刻な被害を受けた地域を自動判読し、迅速かつ正確に被害分布図を作成し、メディアにより伝達することを目指している。ここで用いる被害判読法は、地震の前後に取得したリモートセンシング画像の比較分析に基づき、地表面の反射率の変化、すなわち都市における建物崩壊や被害の大きい地域を特定するものである。 上記の最終的な目標に達するため、以下の手順で自動被害判読法の開発を行った。第一に、画像取得における放射量特性の研究を詳細に行った。これにより、取得したそのままのデジタル値(DN)を修正する方法論を明確にし、地表面の反射率に変換することによって、物理量で統計的な比較をすることが可能となる。これらの放射量補正・大気補正は、画像に含まれた情報に基づいており、信頼性は高く、衛星が観測域を通過したときの大気に関するデータを必要とする放射伝達プログラムの使用を回避することができる。 大気の影響がない場合について、多時期の中解像度画像を合成する数値シミュレーション実験により、平時におけるDNの変動を解明した。画像の合成では、QuickBird衛星が観測した高解像度画像(マルチスペクトルのバンドで2.4m以下)を使用した。異なったオフセット値(スキャンラインのずれ)をQuickBird画像に適用し、平坦な点像分布関数を持つと仮定し、中解像度画像を生成した。平時においては、衛星が画像を取得したときの幾何学的な位置の推定誤差により、さらにDNが変動することになる。この誤差を縮小するため、正確な画像位置合わせ手法を用いた。その方法は、相互相関に基づき、中解像度画像のサブピクセル(1ピクセルの辺長以下)のレベルの位置探索を行っている。本論ではピクセルサイズの5分の1の精度が達成可能なことを実証している。 前章における、DNの平時の変動に関する知見と、位置合わせ誤差を縮小する方法に基づき、中解像度画像のDNの変動に関する実観測画像を用いた分析を、1999年トルコ・コジャエリ地震前後で取得された無被害地域の画像を用いて行った。異なる時期に取得された2組の画像について、反射率の差を計算し、その結果の比較することにより、平時における実際のピクセル値の変動が得られた。地震前の1画像、地震後の2画像の合計3画像について、3通りの組み合わせで差をとり分析を行った。その結果、大気の影響と衛星と地形の幾何学位置の違いにより、地震被害を受けなかった市街地でも、削除することができないDNの変動が存在することが実証された。さらに本章では、ランドサットTM5の画像を用いた被害判読においては、植物の季節変動の影響を受けにくい、波長が短い最初の3つの可視バンドを使用することが望ましいことが実証された。しかし、欠点としてこれらのバンドは最も大気の影響を受けやすく、したがって、大気補正を適切に行うことが、被害判読(変化抽出)の信頼性を高める重要な要因の1つといえる。 すべての補正を適用した後の、最後のステップは、ピクセルの反射率に関する被害判読(変化抽出)である。被害を表わすピクセルの識別は、スペクトル特性の比較および平時のDNの変動に基づいている。スペクトルの可視領域における反射率の違いは、変化抽出のためのよい指標となることを実証した。強力な統計ツールである主成分分析は、多時期の画像を対比し、被害により生じた可能性のある変化の箇所を示し伝えることができる。それぞれの被害判読の結果は、トルコ・ギョルジュク市の日本建築学会による現地調査データをグランドトルース(検証用地表データ)として比較した。その結果、現地調査とのよい整合を示していることを確認している。これらの方法を一般化することにより、最終目的である、自然災害による被害判読を容易、迅速かつ低コストで行うツールとすることができる。 結論として、衛星データは、地震だけでなく他の種類の自然災害による被害判読のため、とくに現地調査活動において多くの時間とコストを要するような大都市の被害判読のため、有望な情報源となるといえる。衛星技術の急速な進歩と多くの衛星の稼動により、いずれすぐ、ほぼリアルタイムで情報が取得できるようになるものと期待できる。 今後の研究課題としては、異なる衛星およびセンサの使用により、地震と他の自然災害の被害判読能力と正確さを高めることが挙げられる。さらに異なる種類の画像を比較するため、新たな手法を考案し適用することでより一般的な被害判読モデルを構築することも挙げられる。 | |
審査要旨 | 近年,都市化の進行は世界的な趨勢であり,これと呼応するように,自然災害による被災者の数は増加傾向にある.地震などの自然災害が都市を襲った場合,被害の分布や程度を迅速に把握することは,救助などの緊急対応や応急復旧策の立案に不可欠である.しかし,とくに発展途上国においては,空間情報データベース,通信手段,交通網などの制約によって,広域にわたる被害の分布を早期に把握する手段がこれまで無かったといっても過言ではない.一方,人工衛星からのリモートセンシングは,観測の広域性や同時性に優れ,空間解像度の制約はあるものの,これまでのデータの蓄積も考慮すると,広域災害における被災状況の把握の有効な手段として期待される.本研究では,世界の都市域で自然災害が発生したときの有効な情報収集手段として,解像度30m程度の中解像度光学センサ衛星画像を用いて被害状況を把握するための手法を開発することを目的とした。特に、地震の前後に撮影された衛星データの比較による被災状況評価手法の検討、ならびにその精度や誤差を明確にするための基礎的な検討を行った.中解像度光学センサデータは,近年,その利用が開始された解像度1m程度の高解像度データに比較し、価格が低廉であるうえ,過去のデータの蓄積が豊富であることから,実用的な視点からその活用が期待されている. 第1章においては,研究の背景と目的を述べ,既往の関連する研究について調査した.人工衛星画像を用いた災害把握に関する研究の現状をまとめるとともに,災害発生時の人工衛星画像の災害救援や応急復旧への利用の意義を明らかにした.また,ごく最近実用化が進みつつある高解像度衛星と中解像度衛星の災害対応への利用における得失をまとめた.さらに本論文の構成について示した. 第2章では,地震の前後に取得したリモートセンシング画像の比較に基づき,地表面の反射率の変化,すなわち建物被害の大きな地域を特定するための第一段階として,画像取得における放射量特性を詳細に検討した.取得したそのままのデジタル値(DN)を補正する手法を念入りに調査し,地震前後の画像を直接に比較するために,地表面の反射率に変換することを考えた.これらの放射量補正および大気補正は,画像のヘッダーファイルに含まれる情報に基づいているため信頼度が高く,衛星が観測域を通過したときの大気関連データを必要とする放射伝達プログラムを必要としない利点がある.1999年トルコKocaeli地震前後のLandsat衛星画像を対象として処理を行い,放射量補正・大気補正後の画像が,植生や非植生など土地被覆カテゴリの変化が反射率により良く表現されることを示した. 第3章では,多時期の中解像度衛星画像の反射率を比較する際の位置合わせの精度を検討し,その精度を画像のピクセル(画素)サイズより高くする方法を提示した.まず,QuickBird衛星による高解像度画像(マルチスペクトルのバンドで2.4m以下)を使用して,2時期の中解像度画像を合成する数値シミュレーション実験を行った.この画像合成による評価では,異なったオフセット値(スキャンラインのずれ)をQuickBird画像に適用し,平坦な点像分布関数を持つものと仮定して,Landsat衛星画像を模擬した解像度28.8mの中解像度画像を複数生成した.これより,たとえ同じ高解像度衛星画像を用いても,仮想のオフセット値を与えることによって,2つの画像の空間相関係数が低下していくことが示された.したがって,災害前後の画像の位置合わせを正確に行わないと,実際には変化がなくとも,変化があるように相関が低下することが明らかになった.ここでは,位置合わせ誤差を縮小するために,中解像度画像を補間・再分割し,相互相関係数を最大化するような正確な画像位置合わせ手法を用いた.その結果,中解像度画像においてピクセルサイズの5分の1程度の精度で位置合わせが可能となることを示した. 第4章では, 前章までの補正を行った多時期の画像に対して,無被害地域の反射率を比較することにより,通常時の反射率の変動幅について検討した.1999年トルコKocaeli地震の前後で取得された無被害地域の地震前1時期,および地震後2時期の画像を用いて,2組の画像における反射率の差を計算し,その分布を求めることによって,平時における実際の反射率の変動が得られた.その結果,たとえ大気・放射量の影響補正,ならびに幾何補正(位置合わせ)を精度良く行った場合でも,地震被害を受けなかった市街地において,植生の変化などによる反射率の変動が存在することが示された.このことから本章では,2時期画像からの地表面変化の評価には,植生の季節変動の影響を受けにくい波長が短い可視バンド(Landsatにおけるバンド1,2、3)を使用することが望ましいことを示した.一方,これらのバンドは大気の影響を最も受けやすいため,大気補正を適切に行うことが,変化抽出の信頼性を高める重要な要因であることを明らかにした. 第5章では,すべての補正を適用した後のピクセルの反射率を用いて,変化抽出により被災地域分布を求める試みを行った.被害を表わすピクセルの識別は,スペクトル特性と平時のDNの変動に関する知見に基づいて行った.ほぼ無被害と考えられる都市域における反射率の差の分布から,反射率の2時期変化が,反射率差の分布における標準偏差のプラス・マイナス2倍程度より大きい地点を被災の可能性が高いとみなす方法を提案した.1999年トルコKocaeli地震で最も建物被害の大きかったギョルジュク市に関して,日本建築学会が行った現地調査データとこの推定結果を比較した結果,街区の被害率はよい整合性を示した.さらに,この地域について地震発生のほぼ4年後の高解像度(QuickBird)衛星画像を入手し,推定された被災分布と比較した.その結果,建物1棟単位で識別が可能なQuickBird衛星において,建物撤去後の空地や仮設住宅となっている箇所が,Landsat画像から推定した被災地と大変良く対応することが分かり,中解像度衛星画像を用いた地震被災地の評価が実用的に十分可能であることが判明した. このように本研究では,広域のデータを得やすく,過去のデータ蓄積が豊富な中解像度の光学衛星画像を用いて,災害前後の画像の反射率を比較することによって,建物被害や地盤変状に対応する地域を精度よく抽出することが可能となることを明らかにした.この結果は,画像データの取得頻度のみ高まれば,大規模災害の被害把握において,中解像度衛星データが充分に利用可能なことを示しており,これからの都市防災において極めて有用な知見を提供するものといえる.よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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