No | 118934 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | FIDES,Suzanne Lorenzo Fucnles | |
著者(カナ) | フイデス,スーザンロレンゾフエンテス | |
標題(和) | パッシブダンパーを有する鉄筋コンクリート構造の地震応答と耐震性能の評価法に関する解析的研究 | |
標題(洋) | An Analytical Study on the Seismic Performance and Response Evaluation of Reinforced Concrete Structures with Passive Damping Systems | |
報告番号 | 118934 | |
報告番号 | 甲18934 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5666号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 一般の鉄筋コンクリート造建物は,大地震時には部分的な降伏を許容し,履歴エネルギー吸収に期待して設計される。しかし部材が塑性変形すると,建物の変形が大きくなり,構造部材,非構造部材ともに大きく損傷して補修のコストが大きくなる。地震時の損傷を軽減する一つの方法として,建物にパッシブダンパーを導入して入力エネルギーの一部を吸収させ,建物躯体のエネルギー吸収を低減させる方法がある。 建物の耐震性能を向上させるためにパッシブダンパーを導入することは,耐震設計の技術の中では比較的新しい手法であるが,近年,この技術を用いた建物の建設棟数は急激に増えている。現在では,パッシブダンパーの利用は,低層から高層まで,鉄骨造,鉄筋コンクリート造,木造の様々な構造形式の建物で,既存建物の耐震補強や新しい建物の耐震設計に応用されている。パッシブ制震に用いられる装置は,耐震の技術としての利用の歴史は浅いので,建物に導入する際には実験的検討が必要になる場合が多い。従って,これまでのパッシブダンパーの利用に関する研究は実験的なものが多く,自ずと特定の建物形式,ダンパー種別に対象が限定されている。結果として,耐震構造の分野でパッシブダンパーの応用範囲は急激に広がって,さらに利用可能なダンパーの種類が増えてきているのに対して,解析や設計の一般的な手法の開発が追随できない状況にある。特に,多くの種類のダンパーに対応した,簡便かつ有効な解析手法が不足しており,多くの場合,パッシブ制震装置を付加した建物全体の時刻歴応答解析が必要である。さらに,建物高さ方向にダンパーをどのように分配するかという,ダンパーの配置に関しては,試行錯誤によって決定される場合が多い。そこで本研究では,様々な種類のパッシブダンパーを配した鉄筋コンクリート造の建物の地震応答の特徴を抽出し,設計の予備的解析のために,パッシブダンパーを配した建物の非線形応答を精度良くかつ簡便に予測する解析手法を提案することを目的とする。本論文は全7章から構成されている。 第1章「Introduction」では,本論文の課題についての現状と,本研究の目的について述べている。本研究の目的は,パッシブダンパーを有する鉄筋コンクリート構造の地震最大応答を簡便に推定する方法を提案することである。また,パッシブダンパーを配した建築物の解析方法に関する既往の研究をまとめている。 第2章「MDOF Response Analysis Framework」では,ダンパーを付加しない鉄筋コンクリート(RC)造骨組の地震応答について調べた。低層,中層及び高層建物の例として,それぞれ4階,12階及び24階建てのRC造骨組みを設計し,プッシュオーバー解析を行って,非線形のせん断多質点系にモデル化した。パラメータとして,階数,固有周期,ベースシア係数,設計外力分布及び履歴モデルを考え,様々な建物を設計した。履歴モデルには,修正Takedaモデル又はバイリニアモデルを用いた。骨組の減衰は5%の瞬間剛性比例型とした。設計したモデルに,最大速度を50cm/sに基準化した13の地震動を入力して応答解析を行い,応答性能を評価した。入力地震動ごとに最大応答変形の分布には大きなばらつきが見られた。 第3章「Added Passive Damping Systems」では,非線形の骨組みに付加するダンパーの特性を説明した。対象としたダンパーは,粘性ダンパー,粘弾性ダンパー及び履歴ダンパーの3通りである。ダンパーの種類とモデル化の手法を説明し,応答低減性能の評価のための,等価粘性減衰比の算出方法を示した。パッシブダンパーを配した骨組みの地震応答解析のための定式化について述べ,非線形応答の簡便な評価手法を提案した。また,本研究で用いたダンパーのモデルと解析の仮定を示した。 さらに,パッシブダンパーを配した骨組の地震応答解析を行い,それぞれのダンパー種別について,ダンパー量の影響を調べた。ダンパーの量は,各次モードに対するひずみエネルギーに基づいて求めた目標粘性減衰比を用いて決定した。ダンパーの配置については,粘性ダンパーの場合は各層に均等に,粘弾性及び履歴ダンパーの場合は各層の剛性に比例して配置した。等価粘性減衰比が同一でもダンパーの種別によって応答は異なることを示した。 第4章「Story-wise Damper Configuration」では,ダンパーの層配置を変化させた場合について検討した。3通りのダンパー設定,(1)一般的な,一様に配置する設定(UNIF)(2)一般に応答が集中しやすい,最上層から高さの1/3を中心として,中間層にのみ配置する設定 (CENT)(3)最も応答が大きくなる一層にのみ配置する設定(CONC)のそれぞれについて応答解析を行い,ダンパーの総量は一定のまま,非比例的にダンパーを配置した場合の応答の変化を調べた。応答解析によって得られた層間変形角の分布を調べた結果,非比例的にダンパーを配置すると,比例減衰の場合とは応答分布が大きく変化することがわかった。例えば,中間層に集中配置するCENTでは,中間層の層間変形は減少するものの,第1層の応答は増大する。また,応答が大きくなる一層にのみ配置するCONCでは,ダンパーを配置しない層の応答がいずれも増大する。このことは,すべての層の応答を減少させる最適な層配置が存在することを示唆している。 さらに,最適な層配置を決定するための手法として,連続動的解析の手順を示した。地震応答解析を行って,最大の層間変形角を示した層に単位のダンパーを配置して,応答解析をもう一度行う,という手順を繰り返すものである。ダンパー種別と,最大応答変形及び最大応答速度に依存するダンパーの応答指標を定式化した。この反復手法を用いることによって,最適なダンパーの配置を得ることができる。しかしながら,本手法は多数の地震応答解析を必要とし,実際の設計に用いるには煩雑に過ぎるので,簡便に各層の応答を予測する手法が必要である。 第5章「Peak Story Deformation Estimation」では,入力地震動に対する,非比例的にダンパーを配置した建物の各層の最大応答を簡便に見積もる手法を提案した。高次モードを考慮した非線形静的解析に基づくものである。非比例的な減衰の分布を静的解析で考慮するため,ダンパーを等価な弾性トラスに置換し,多自由度系骨組みに明示的に配置する。ダンパーのばね剛性は,ダンパーの1サイクルのエネルギー吸収を等価なひずみエネルギーとして考慮できるように決定する。様々なタイプのダンパーを本手法によって簡便に等価線形化することができる。 手法の妥当性を検討するため,地震応答解析の結果と,非線形静的解析に基づく提案手法による予測値を比較した。4層モデルに関しては,良好な予測結果が得られた。一方,12層及び24層モデルに関しては,高次モードの影響が見られ,1次モードのみ考慮した予測手法は応答を過小評価する傾向がある。予測の誤差は地震動によって大きく異なる。誤差が大きくなるのは,静的解析手法のモデル化に原因があると考えられる。 12層及び24層モデルでは,3次モードまで考慮すると精度が向上する。ただし,いくつかの場合は1次モードのみでも精度が良い,すなわち高次モードが励起されにくく,高次モードを考慮すると過大評価となる。提案手法による予測の精度は,ダンパーのタイプによって異なる。平均的には,粘弾性ダンパーでは1次モードのみ,粘性ダンパーでは3次モードまで考慮すると精度が良い。履歴ダンパーの場合,他のモデルよりも予測の精度が悪い。すなわち,(1)考慮するべきモードの次数は,構造の条件,入力地震動,ダンパーの特性によって異なり,それぞれの応答のモード成分との関係について検討を要し,また(2)履歴ダンパーを対象とした等価線形化手法は,精度を改善する必要がある。 非比例減衰となるCENT及びCONC配置では,4層モデルの場合でも,高次モードの影響が無視できない。平均的には,2次モードまで考慮すると十分な精度が得られる。パッシブダンパーの量が多い場合には,1次モードのみ考慮すれば十分な精度が得られるが,ダンパーの量が少ない場合やダンパーを配しない場合には,3次モードまで考慮する必要がある。すなわち,非比例減衰の場合,高次モードの影響はダンパーの配置に強く依存し,より高次のモードを考慮する必要がある。 第6章「Effect of Input Ground Motions」では,本研究で提案した応答予測手法による応答スペクトルに対する,入力地震動の影響を調べた。地震動の入力エネルギー特性の影響について詳しく調べるため,一質点系を対象とした。地震動の様々なパラメータを分析し,ある等価減衰の値に対して,応答の振幅を低減する方法について調べた。パッシブダンパーを配した建物にも適用できるように,大きな減衰比まで適用可能な減衰による応答の低減係数を提案した。提案した応答低減係数は,建物の減衰及び周期の他に,地震動の継続時間にも依存する。 第7章の「Conclusions」では,本論文の研究成果をまとめている。 | |
審査要旨 | 本論文は,様々な種類のパッシブダンパーを配した鉄筋コンクリート造建物の地震応答の特徴を抽出し,さらに,非線形性を考慮した応答評価手法を提案することを目的として行われた解析的研究をまとめたものであり,7章で構成される。なお,原文はすべて英文である。 第1章「序」では,近年耐震設計で多く用いられるようになってきているパッシブダンパーの種類と原理を概説し,既往の研究を概観し,耐震設計が理論よりも個別の数値解析に依存して行われていることを指摘している。そこで,本研究の目的として,種類や配置の異なるパッシブダンパーをもつ建物の地震応答の特徴を抽出して,応答低減効果を理論的に評価することとしている。 第2章「多自由度系応答解析の手法」では,ダンパーをつける前の解析対象,解析手法,入力地震動,ダンパーがない場合の建物の応答解析結果などについて述べられている。 第3章「ダンパーつき構造システム」では,ダンパーの解析モデルおよびダンパーがある場合の地震応答の特徴について述べられている。4階,12階及び24階建てのパッシブダンパーを配した一般的な鉄筋コンクリート造建物を設計し,2次元の多質点系モデルに置換している。ダンパー種別としては,粘性ダンパー,粘弾性ダンパー及び履歴ダンパーの3種類を対象とし,それぞれのダンパーに対して,等価粘性減衰を算出する方法を検討している。また,ダンパーの付加による非比例減衰の効果については,建物高さ方向のダンパーの配置方法ごとに解析を行ない,検討している。ダンパーの配置方法には,(1)解析や設計でよく仮定される比例減衰の条件に近くなるように配置するUNIF分布,(2)中央部に2倍配置するCENT分布,(3)一つの層にのみダンパーを配置するCONC分布の3通りを対象とし,特にダンパーを多く配置した層の上下の層では応答が増大することがあること,一般にダンパーの最適配置は比例減衰とは大きく異なること,などを指摘している。 第4章「ダンパーの高さ方向の配置」では,動的解析を多数行なって,パッシブダンパーの最適配置を決定する手法を検討している。繰り返し解析により,得られた最適配置では,ダンパーによる応答の低減効果は非常に良い。最適配置では,履歴ダンパーを用いた場合は少ない層にダンパーが集中するのに対して,粘性ダンパーを用いた場合は多くの層に分布する。ただし,以上の解析は計算が非常に繁雑になることも指摘している。 第5章「最大応答変形の推定」では,非線形静的解析を基本にした応答推定法でさまざまな種類のパッシブダンパーの応答低減効果を一般的に評価する手法が提案されている。Capacity-spectrum法などでは,非線形静的解析に基づく評価の手法が用いられているが,粘性減衰を適切に考慮する方法は確立されていない。そこで本研究では,静的解析に粘性ダンパーの配置を取り入れるため,ダンパーをそのエネルギー吸収能力によって等価剛性を決定して,弾性トラスに置換する手法を提案している。複数の建物モデル及び入力地震動を用いて,提案した手法による応答評価と,時刻歴地震応答解析の結果を比較することにより,提案手法の適用性が検証されている。ダンパーの配置によって非比例減衰となる場合に対しても,平均的には提案手法によって地震応答を精度よく予測することを確認している。ただし,応答予測の精度は建物の高次モードによって強く影響を受けるので,ダンパーのモデルによって,層毎に影響の度合を設定する必要があることも指摘している。 第6章「入力地震動の影響の検討」では,地震動の違いによる応答への影響を一般的に考慮する手法を検討している。特に,減衰定数が大きい場合について,短周期領域を対象とし,等価粘性減衰を評価する方法を検討し,応答スペクトルの修正方法を提案している。ダンパーの配置によって,建物の減衰だけでなく剛性と強度も増大することを考慮して減衰補正係数を修正する式を提案し,減衰が大きい場合の精度が向上することを確認している。 第7章「結論」では本研究の成果がまとめられている。開発した手法により,静的解析を基本にした応答予測が可能であること,さらに非比例減衰応答を考慮してダンパー配置の検討が可能であること,などを明らかにしたが,高次モードの効果に関してはさらに検討が必要であることも指摘している。 以上のように,本論文は,さまざまな種類のパッシブダンパーを有する構造物の応答低減効果を一般的に評価する手法を提案しており,また,ダンパーをもつ建物の性能設計における耐震設計規範に対して理論的な意味を付与することに大きく貢献している. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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