No | 118935 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | YASSIN EISA,MOHAMED FATHY | |
著者(カナ) | ヤシン エイサ,モハメド ファティ | |
標題(和) | 変動する風向と大気安定度のもとにおける都市の汚染拡散に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Pollutant Dispersion within Urban Area under Changes of Atmospheric Stability and Wind Direction | |
報告番号 | 118935 | |
報告番号 | 甲18935 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5667号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | はじめに 都市における大気汚染の特徴は、市街地の過密化、高層化や道路の複層化など、高密度な空間利用による通風の悪化によって汚染質が滞留し、沿道大気汚染濃度が周辺市街地の濃度より高くなる点が顕著である。更に、大気安定度が市街地の地形影響を増幅あるいは減衰し、現象を複雑化する。現状において大気汚染が改善されていないこと、熱や大気汚染物質の移動現象に様々な要因が絡みあっていることを考えると、郊外と比べて、より精密、且つ、高精度の予測が必要となる。しかしながら、市街地低層部における拡散現象を実験的且つ詳細に調べた例は少ない。 本論文は、可変する気象条件下における都市環境で、排出源を点源とした場合の汚染拡散性状について明らかにすることを目的としている。 研究内容については風洞実験、野外実測及び理論的拡散モデルから構成される。 市街地における汚染拡散性状の予測・評価に関する風洞実験I・・・建物群をモデル化した模型を使用 実験概要 風洞内に大気境界層を再現し、3種類の大気安定度(安定、中立、不安定)における平板上での気流性状及び汚染拡散性状に着目する。平板上の大気境界層内における流れ場、拡散場については、流れに対して障害物が配置される場合を想定し実験を行った。尚、水平、鉛直濃度分布は後流域4点で計測される。 実験装置 風洞 東京大学生産技術研究所所属の境界層型風洞。測定断面は 高さ1.8[m]×幅2.2[m]、測定胴長さ16.47[m]。温度成層生成システム((1)気流冷却装置、(2)気流加熱装置、(3)床面温度調整装置により構成)が設置され、鉛直方向に一様な分布や勾配のついた分布など、(実際の温度分布に対応した)任意の温度分布を形成可能。 模型 建物等を単純化した2次元フェンス(模型高さ60mm)と立方体模型(模型高さ60mm)である。縮尺は1/500を想定する。模型設置位置は模型後端がガス発生位置(X=0mm)より風上側(X=-30mm)とする。 流速計 2次元レーザードップラー流速計を使用する 濃度計 炭化水素分析計を使用する。尚、トレーサーガスにエチレン(C2H4)を用いた。 実験条件 境界層 境界層は都市風の鉛直速度分布であるU∝Z1/4とする。 実験種類 (1)障害物無し。(2)二次元フェンス後流域における拡散性状の把握(3)立方体ブロック(建物模型を模擬したもの)後流域における拡散性状の把握 大気安定度 中立、安定、不安定の3条件。 基準風速 床面より高さ1mの位置で1.25m/sとした。 実験結果 障害物により創られた境界層は後流域で非常に厚い。 大気安定度が「安定」の場合、あらゆる乱流速度は減少する。 二次元フェンスを設置した場合には、立方体ブロックを設置した場合に比べて再付着点までの距離が長くなる傾向が見られる。 最大濃度は障害物の後流で見られる。(X = 120mm) 二次元フェンスを設置した場合には、立方体ブロックを設置した場合に比べて水平、鉛直濃度分布は小さくなるが、フェンス後方の水平範囲の拡がりが大きくなる傾向がある。 市街地における汚染拡散の予測・評価方法の開発に関する野外実測調査 実験概要 市街地における汚染質拡散性状を実測する。実測は東京都港区浜松町で行われた。トレーサーガスはSF6(六フッ化硫黄)を使用。トレーサーガス濃度のサンプリングは約半径500mの範囲内とし、駐車場、空地、高層ビル等、17点である。測定高さは1.5mとする 実測で取得されたデータは都市の街区スケールにおける汚染拡散に対する大気境界層の熱的安定度の影響を検討するほか、対応する数値シミュレーション、風洞模型実験との対応を検討するためのデータベースとなる。 測定項目 バックグランド気象計測 東京タワーでの気象観測データ、および東京管区気象台の観測データを使用する。 トレーサーガス濃度 3) 代表点での温・湿度 4) 代表点での天空日射量 地上付近の風向風速 測定方法 対象地域の中央でトレーサーガスを発生し、各点における汚染空気を吸入ポンプにより約30分間テドラーパックに捕集する。その後、マルチガスモニターにより分析する。トレーサーガスは浮力の影響を避けるため、送風装置により撹拌、希釈放出する。 測定結果 日中における風速、風向は時間毎に変化する傾向がみられる。 風向変化時における風速の最大、及び最小値は大気安定度に強く依存する。 最大、最小濃度の発生は、ある程度風向変化の影響に起因する。 市街地における汚染質拡散の予測・評価方法の開発に関する風洞模型実験II・・・市街地の実測との比較検証 及び、風洞実験結果と理論的拡散モデルとの比較 実験概要 現場実測に対応した風洞模型実験を行った。実験は大気安定度が中立、安定、不安定の3条件下で行った。風向変動の影響を調べるため、風はNNW〜WNWの間を2.5度ピッチで風向変化させた。風速分布についての測定を合わせて実施し、これに加えて煙による可視化実験を行うことで、流れ特性についても検討を行った。 また、建物群内における風向変化に関して、本実験の結果と、ガウス・プリュームモデルに基づく理論的モデルとの比較検証を行った。 実験装置 風洞 東京大学生産技術研究所所属の境界層型風洞。 模型 実験に使用した模型は点源を中心に半径510mの範囲を含む市街地模型である。模型縮尺は1/600とする。縮尺は対象地域内の地形・地物の大きさとターンテーブルの大きさを考慮した。閉塞率は約3%程度。サンプリングポイントは模型上に83点設置した。各点には内径1mmφのパイプを設置した。測定高さは地上2.5mmとする。 流速計 多点同時風速計を使用する。 濃度計 炭化水素分析計を使用する。尚、トレーサーガスにはエチレン(C2H4)を用いた。 実験条件 境界層 境界層は都市風の鉛直速度分布であるU∝Z1/4とする。 実験風向 292.5°から337.5°迄の19風向。 大気安定度 中立、安定、不安定の3条件。 基準風速 床面より高さ1mの位置で1.25m/sとした。 実験結果 安定条件における拡散性状は中立、不安定条件よりも高濃度を示す。 風向変化は変わり易く、風向は小さい角度で変化する。 風洞実験と実測結果は安定した風向の下ではよく一致して、理論モデルの一致性は実用化にあたり高い一致を示す。 風洞実験値と風向変動を考慮した理論モデルによる予測結果は、建物の影響の無い排出口の近傍では比較的よく一致する。 おわりに 最終的に、風洞模型実験の予測精度を検証するために、拡散性状に関する風洞実験の結果を、野外実測、及び理論モデルの結果と比較した。この結果より、風洞実験の結果は野外実測の結果と高い一致を示すと考えられる。更に、風洞実験、野外実測における濃度分布測定は、都市環境における数値モデルの開発、評価に用いられる。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Study on Pollutant Dispersion within Urban Area under Changes of Atmospheric Stability and Wind Direction (変動する風向と大気安定度のもとにおける都市の汚染拡散に関する研究)」と題して、都市において大気安定度や風向が変化する条件下において汚染質が境界層最下部、すなわち地表面近傍の点源から排出される場合の、汚染質の濃度性状を予測することを目的としている。研究は、風洞模型実験、屋外実測の実施と解析により行なっている。実験、実測により詳細な汚染質の移流拡散性状に関するデータ収集を行い、汚染源周辺の建物等の気流障害物や街路など都市に特徴的な要素が、点源周辺の高濃度の汚染領域の性状に与える影響を考察している。気流障害物などを考慮しておらず比較的単純化された条件の下でしか適用できない汚染プリュームの拡散式を敢えて市街地の汚染拡散に適用し、風洞模型実験結果を加味して風向変化や安定度変化を考慮して重ね合わせて長時間の平均濃度分布性状を予測する方法を提案している。これは限られた測定条件の下で限られた数しか得られない測定データを有効に活用して市街地の汚染濃度分布と時間変化を精度良く予測する方法の基礎となるものである。風向を詳細に変化させた実験と対応させてその予測精度を検討し、同手法が気流障害物などの影響を大きく受ける市街地の比較的長時間に渡り平均化された汚染濃度予測に関し、どの程度有効であるかを明らかにしている。 本論文は以下のように構成されている。 第1章は、「都市における大気汚染拡散」の現状について概観し、拡散性状を把握する際の代表的手法である風洞模型実験、屋外実測、プリューム拡散式に関する特徴について、特に長所、短所の点から述べている。また、本研究の目的、並びに本論文の構成を示している。 第2章は、「都市における大気汚染拡散」に関する研究の必要性と、既往の研究について概観している。1番目に、大気汚染分布の風洞模型実験の事例について述べている。2番目に、トレーサーガスを用いた屋外実測の事例を述べている。3番目として、風洞模型実験と屋外実測の結果とを比較検討した事例について述べている。 第3章は、「平坦地上における障害物が気流、及び、拡散性状に与える影響に関する風洞模型実験」と題している。風洞内に大気境界層を再現し、3種類の大気安定度(安定、中立、不安定)において気流、拡散性状を詳細に検討している。道路や建物からの汚染発生など市街地低部での汚染発生を想定しており、汚染発生は点源として大気境界層の低部で発生させている。また市街地での拡散性状解析の基礎として、単純形状の気流障害物を点源の近傍に配置し、それら気流障害物が気流性状、汚染質拡散性状に与える影響を検討している。気流性状は、レーザーシートによる可視化およびLDV(レーザー流速計)により平均流のみならず乱れの統計量に関しても計測を行なっている。拡散性状は、気流障害物の後流域での水平、鉛直濃度分布を計測し、障害物による気流への影響との関係を詳細に考察している。 第4章は、「都市における汚染拡散性状に関する屋外実測」として、東京都港区浜松町で行われた実在市街地における汚染拡散性状の実測について示している。大気境界層の熱的安定度に関しても計測を行なっており、実測により取得されたデータは都市の街区スケールにおける汚染拡散に対する風洞模型実験や乱流数値シミュレーションによる解析の有効性を検討するためのデータベースとなっている。トレーサーガスは地表面近くで放出しているため、放出源近傍の建物の影響を強く受け、比較的単純化された条件の下でしか適用できない汚染プリュームの拡散式で説明されるような拡散性状を示さないことを確認している。 第5章は、「風洞模型実験と理論拡散モデルとの比較」として、4章の屋外実測に対応した風洞模型実験の結果を示している。実験は3種類の大気安定度(安定、中立、不安定)で行っている。本章ではまず風洞実験の結果と屋外実測の結果を比較し、風洞模型実験の予測精度とその限界に関して言及している。次に風向が変化した場合の気流、拡散性状に対する影響を調べるため、風向を2.5度間隔で変化させ、その性状変化を詳細に解析している。風洞実験により得られた結果をプリューム拡散式にあてはめ、測定点近傍の汚染濃度の予測並び、実験時の風向から風向が多少変化した場合の測定点近傍の汚染濃度予測を行い、これを前述の風向を2.5度間隔で変化させた実験結果と比較して、風向変動に対応し測定点近傍の汚染濃度を予測する手法の精度を検討している。この結果、同手法が実用的には十分な精度で、風向変動を考慮した長期の汚染濃度の予測を行ない得るものとしている。また、同手法を適用できる場合の条件に関しても考察している。最後に、結論として汚染源近傍に気流障害物などがあり、プリューム拡散式が適用でない場合でも対応する風洞模型実験を行えば、この結果をプリューム拡散式にあてはめることによる都市境界層下部における汚染発生に対する長期の平均濃度の予測を精度良く行ない得ることを示している。 最後に、第6章では本論文をまとめ、今後の更なる課題を示している。 以上を要約するに、本論文は風洞実験と実測により、都市境界層下部の気流障害物近傍で発生する汚染質の移流拡散性状を、風向変化と安定度変化の観点から検討、整理している。また、風向変化、安定度が変動する長期の汚染濃度性状の予測において、単純なプリューム換算式に基づく予測を、汚染源近傍の気流障害物の影響を強く受ける市街地拡散にあてはめ、限られた実験条件、測定点数の風洞実験結果を、補間、拡張して有効に行なう方法を提案し、その適用可能条件を求めている。この検討により必要な精度に対応して、風洞実験による計測が必要な点、風向、安定度などの条件の目安を提供している。また本研究における風洞模型実験、屋外実測における濃度分布測定の結果は、都市における汚染拡散の数値モデルの開発、評価に用いられる重要なデータベースとなるものであり、都市、建築の環境工学に寄与するところは極めて大である。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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