学位論文要旨



No 118945
著者(漢字) 王,
著者(英字)
著者(カナ) オウ,キエ
標題(和) アジア地域における鉄筋コンクリート構工法に関する国際比較研究
標題(洋)
報告番号 118945
報告番号 甲18945
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5677号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 助教授 塩原,等
 東京大学 助教授 野口,貴文
内容要旨 要旨を表示する

序論

研究の背景・目的

21世紀に入り、資本、技術、産業などの国境を越えた移動がより活発になっており、グローバル化により建築プロジェクトの国際分業も着実に進展しつつある。しかし、一見同じように見える鉄筋コンクリート造現代建築においても、各部の構工法には大きな地域差が存在している。各国での建築活動を効率的に行うために、建築構工法の世界規模での捉え方や技術移転を考える知的な土台を築くことが重要な課題と考えられる。

アジア地域で最も普及されている現代建築構工法はRC構工法である。これまでアジア各地で定着しているRC構工法は、それぞれの地理・気候環境、伝統風土などの影響を受け、地域的に見極めて多種多様となっている。今後のアジア地域内での建築活動の健全な発展を考えた場合、RC構工法の基礎データの構築及び特徴の解明は非常に重要である。従って、本研究はアジアのRC造を対象に、次の3点を明らかにすることを目的とした。尚、本研究は近年一般的に用いられている構工法を対象とした。

i RC構工法を国際的に比較する際の評価要素・分析手法を確立する。

ii アジア各国のRC構工法の基礎的データベースを構築する。

iii アジア各国におけるRC構工法の比較を行い、各国間の共通点と相違点を明らかにする。

研究対象

本研究は中国、韓国、日本、シンガポールとマレーシアを研究対象とすることにした。

対象とする建物は高さ25m以上、100m以下、または10階建以上、35階建以下のものにした。

鉄筋コンクリート構工法の要素分析方法

建築構工法の教科書、建築基準法・仕様書など構工法関係の文献資料を参考し、RC造建物に用いられる構工法全体を「躯体構法」、「躯体工法」、「各部位構工法」、「工種別構工法」に分類し、図1の通りにそれぞれの考察要素をまとめた。この分類方法と考察要素に基づき、各国で用いられている具体的な構工法の分析要素を取り決め、構工法の要素分析方法体系を構築した。

アジア諸国の鉄筋コンクリート構工法の実態

中国

中国では純ラーメン構造、耐力壁付きラーメン構造と壁式構造が採用される。

ラーメン構造は通常小梁が設けられる。非耐震耐力壁はエレベーターシャフトと階段室の四周に、耐震壁は平面上両方向に、立面上建物の全ての階に渡って連続的に配置される。壁式構造では耐力壁は両方向に配置され、非耐力組積壁は外壁と内壁両方に用いられる。

躯体にはRC工法と組積工法が多く用いられ、またPC工法も採用される。

RC工法について、鉄筋が現場で加工され、重ね継手と溶接継手が用いられる。鉄筋のかぶり厚さは土と接する部分と接しない部分、また湿度の高い部分と低い部分が異なる基準値を要求される。型枠は直組みを用いる。コンクリートは一体打ち方式とVH分離方式が採用される。組積壁は粘土レンガとその他の組積材と組み合わせてつくられる。

屋根は陸屋根と勾配屋根を採用する。勾配屋根の構成材はRCスラブが多い。内外装仕上げは石・タイル貼り、塗装、フローリング張りがよく用いられる。

屋根断熱、外壁断熱とも外断熱構工法を採用する。屋根防水は防水層を断熱層の下又は上に敷く2種類がある。地下室防水は外防水をよく採用する。

シンガポール

シンガポールでは純ラーメン構造、耐力壁付きラーメン構造、フラットスラブ構造とフラットプレート構造が用いられる。

ラーメン構造は通常小梁を設けなく、PS梁を採用する。柱の断面寸法は通常柱の全長に渡って同様に設計され、配筋量も柱の全長に渡って同様に設計される場合がある。耐力壁はエレベーターシャフトと階段室の四周に配置される。

躯体ではRC工法、PS工法、ハーフPS-PC工法、PC工法及び組積工法がよく採用される。

RC工法について、鉄筋は現場で加工され、鉄筋の継手は重ね継手を用いる。型枠の建組みは直組みと柱型枠のL型先組みを用いる。コンクリートの打込みはVH分離打込みを採用する。

屋根は陸屋根が多用される。内外装仕上げは石・タイル貼り、塗装、フローリング貼りがよく用いられる。

屋根断熱は外断熱構工法を採用する。屋根防水は防水層を断熱層の下又は上に敷く2種類がある。地下室防水は外防水を用いる。

マレーシア

マレーシアでは純ラーメン構造、耐力壁付きラーメン構造と壁式構造が採用される。

ラーメン構造は通常小梁を設ける。柱の断面寸法と配筋は上下同様に設計される場合が多い。耐力壁はエレベーターシャフトと階段室の四周に配置される。壁式構造では耐力壁が両方向に配置され、非耐力壁はRC造を用いる。

躯体ではRC工法、ハーフPS-PC工法及び組積工法が多用されるが、PS工法、PC工法も採用される。

RC工法について、鉄筋は現場で加工され、鉄筋の継手は重ね継手を用いる。鉄筋のかぶり厚さは土と接する部分と接しない部分が同様に設計される場合がある。型枠の建組みは直組みと柱型枠のL型先組みを用いる。コンクリートの打込みはVH分離打込みを採用する。

オフィスビルには陸屋根、集合住宅には陸屋根と勾配屋根がよく採用される。勾配屋根の構成材はスチールトラスが多用される。内外装仕上げは石張り、タイル・モザイク貼り、フローリング貼り、塗装がよく用いられる。

屋根断熱は外断熱構工法を採用し、屋根防水は防水層を断熱層の下に敷く方式を採用する。地下室防水は外防水を用いる。

韓国

韓国では純ラーメン構造、耐力壁付きラーメン構造と壁式構造が採用される。

ラーメン構造は通常小梁を設ける。耐力壁はエレベーターシャフトと階段室の四周に配置される。壁式構造では耐力壁を両方向に配置し、非耐力壁はRC造と組積造を用いる。

躯体ではRC工法と組積工法が広く用いられる。

RC工法について、鉄筋は現場で加工され、鉄筋の継手は重ね継手を用いる。鉄筋のかぶり厚さについて、RC部材が置かれる環境条件及び鉄筋の直径別に基準値が決められる。型枠の建込みは直組みを用いる。コンクリートの打込みは一体打ちとVH分離打込みを採用する。

屋根は陸屋根と勾配屋根を採用する。勾配屋根の構成材はRCスラブと軽量鉄骨トラスが用いられる。内外装仕上げはテラゾ、粘土レンガ・塩ビタイル貼り、合成樹脂材塗り、床紙・壁紙貼りがよく用いられる。

屋根断熱は外断熱構工法を採用する。外壁断熱についてオフィスビルには外断熱、集合住宅には内断熱構工法が採用される。

屋根防水は防水層を断熱層の下に敷く方式を採用する。地下室防水は外防水と内防水の2種類がある。

日本

日本では純ラーメン構造、耐震壁付きラーメン構造と壁式ラーメン構造が用いられる。

ラーメン構造は小梁を設けると設けない場合がある。帯鉄筋とあばら筋はフレアグループ溶接による閉鎖形が用いられる。耐震壁は連層配置と分散配置の両方が可能とされる。

躯体ではRC工法、PC工法、ハーフPC工法、組積工法、ALCパネル帳壁工法、乾式間仕切り壁工法が採用される。

RC工法について、鉄筋は工場で加工され、鉄筋の継手は重ね継手とガス圧接継手をよく用いる。鉄筋の組立てと型枠の建込みは先組みがよく採用される。コンクリートの打込みは一体打込みを採用する。乾式間仕切り壁はC型又は正方形断面の軽量鉄骨骨組みを用いる。

屋根は陸屋根と勾配屋根を採用する。勾配屋根の構成材は主にRCスラブである。内外装仕上げは石・タイル貼り、塗り、ビニルクロス貼り、合成樹脂系床タイル・シート貼り、カーペット敷き、畳敷きがよく用いられる。床について、オフィスビルにはフリーアクセス床、集合住宅には2重床が多く使われる。

屋根断熱は外断熱構工法を採用し、外壁断熱は内断熱構工法を採用する。屋根防水は防水層を断熱層の下に敷く方式を採用する。地下室防水は内防水をよく用いる。

アジア諸国の鉄筋コンクリート構工法の比較

躯体構法

各国によく採用される構造形式について各国間に異なる点が多い。各国ともラーメン構造を採用する。また、各国は集合住宅向けに壁柱を採用するラーメン構造、壁式構造又は壁式ラーメン構造を開発又は導入している。

各国において、一棟建物の主体構造部分に対し2種類以上の構造形式の併用は少ない。

各国が用いる柱梁体系と壁床体系の躯体構法を1)各構成部位の有無、2)各構成部位の配置、3)各部位構法、4)各部位が用いる工法4つの面から比較すると、壁柱を採用しない柱梁体系の躯体構法は4つの面において異なる点が多く、壁柱を採用する柱梁体系と壁床体系の躯体構法は3)を除けば共通点が多い。

躯体工法

各国とも柱、梁と耐力壁に現場打ちRC工法を多用する。床スラブと非耐力壁に対し各国ともRC工法以外の工法をよく採用する。

RC工法について、用いられる材料の種類と強度を始め、具体的な施工方法に至るまで各国間の共通点は非常に少ない。PC工法は建物の一部部位に採用されるか、または一つ部位に他の工法と混用されることが多い。レンガは各国とも外壁と内壁両方に用い、ブロックは外壁に採用しない国もある。RC柱梁による組積壁の補強及び組積壁とRC造部位の取合い部の補強について、韓国以外の国は殆ど行っている。

各部位構工法

各国においてオフィスビルの各部位に用いられる構工法の共通性が高い。各種内壁及び床構工法の採用部位について各国の間に異なる点が多い。

陸屋根の排水勾配の取り方について、各国において床スラブの直上に配置される層で取る場合が多い。勾配屋根について、骨組みの構成材及び葺き材の使用は各国の間に異なる点が多い。

各種内外装構工法で使用される材料の材質、部品の種類と規格、金物の材質及び下地材料は各国の間に異なる点はあるが、各種構工法の層構成及び取付け方については各国間の共通性が高い。

工種別構工法

屋根断熱について、各国とも外断熱構工法を採用する。外壁断熱構工法は日本、中国と韓国だけが採用する。

屋根防水について、各国ともアスファルト防水を多く用いる。防水立ち上がり部の入隅での面取りについて、日本以外の各国は全ての防水方式に対し行い、日本はアスファルト防水のみに対し行う。面取りの形状は、中国以外の各国は45°の三角形、中国は円弧形とする。

地下室防水について、各国とも地下室の壁と床にそれぞれ異なる防水材を採用する。

配管配線構工法について日本以外の各国の間に共通点が多い。

結論

本研究はアジア各国RC構工法の実態を解明した後各国間の横断的な比較を通じてRC構工法の共通点と相違点を明らかにし、さらにRC構工法の相違点の原因を考察した。

審査要旨 要旨を表示する

提出された学位請求論文「アジア地域における鉄筋コンクリート構工法に関する国際比較研究」は、日本を含むアジア地域における、鉄筋コンクリート(以下「RC」)構工法の地域間の共通点と相違点を明らかにした論文であり、全5章からなっている。

第1章「序論」では、研究の背景、目的、既往の関連研究の成果等を明らかにしている。その中で、RC構工法を国際的に比較する際の評価要素・分析手法を確立すること、アジア各国のRC構工法の基礎的データベースを構築すること、アジア各国におけるRC構工法の比較を行い、各国間の共通点と相違点を明らかにすること、の3点を目的として設定している。また、研究対象地域を中国、韓国、日本、シンガポール、マレーシアとし、研究対象建物を高さ25m以上100m以下、または10階建以上35階建以下としたことを、その理由とともに述べている。

第2章「鉄筋コンクリート構工法の要素分析方法」では、各国の建築構工法の教科書、建築基準法、仕様書など構工法関係の文献資料調査に基づき、RC造建物に用いられる構工法全体を「躯体構法」、「躯体工法」、「各部位構工法」、「工種別構工法」に分類し、それぞれの考察要素を整理することで、構工法の要素分析方法体系を提案している。

第3章「アジア諸国の鉄筋コンクリート構工法の実態」では、文献調査及び現地調査によって、対象国毎のRC構工法の内容を、前章で提案した要素分析方法に従って詳細に明らかにしている。具体的には、中国については、躯体にはRC工法と組積工法が多く用いられること、鉄筋は重ね継手と溶接継手が用いられること、鉄筋のかぶり厚さは土と接する部分と接しない部分、また湿度の高い部分と低い部分が異なる基準値を要求されること等の特徴を明らかにしている。シンガポールについては、フラットスラブ構造とフラットプレート構造が用いられること、ラーメン構造は通常小梁を設けなく、PS梁を採用すること、柱の断面寸法は通常柱の全長に渡って同様に設計され、配筋量も柱の全長に渡って同様に設計される場合があること、躯体ではRC工法、PS工法、ハーフPS-PC工法、PC工法及び組積工法がよく採用されること等の特徴を明らかにしている。マレーシアについては、柱の断面寸法と配筋は上下同様に設計される場合が多いこと、躯体ではRC工法、ハーフPS-PC工法及び組積工法が多用されること、勾配屋根の構成材にはスチールトラスが多用されること等の特徴を明らかにしている。韓国については、躯体ではRC工法と組積工法が広く用いられること、鉄筋のかぶり厚さについて、RC部材が置かれる環境条件及び鉄筋の直径別に基準値が決められること、コンクリートの打込みは一体打ちとVH分離打込みを採用すること等の特徴を明らかにしている。日本については、帯鉄筋とあばら筋はフレアグループ溶接による閉鎖形が用いられること、耐震壁は連層配置と分散配置の両方が可能とされること、躯体ではRC工法、PC工法、ハーフPC工法、組積工法、ALCパネル帳壁工法、乾式間仕切り壁工法が採用されること、鉄筋は工場加工によりガス圧接継手も用いること、コンクリートの打込みは一体打込みを採用すること等の特徴を明らかにしている。

第4章「アジア諸国の鉄筋コンクリート構工法の比較」では、前章で明らかにした各国のRC構工法を比較し、その共通点、相違点を明らかにしている。具体的には、よく採用される構造形式について各国間に異なる点が多いこと、壁柱を採用しない柱梁体系の躯体構法は異なる点が多く、壁柱を採用する柱梁体系と壁床体系の躯体構法は共通点が多いこと、RC工法については、用いられる材料の種類、強度、施工方法ともに各国間の共通点が非常に少ないこと、勾配屋根について、骨組みの構成材及び葺き材の使用は各国の間に異なる点が多いこと、内外装構工法の層構成及び取付け方については各国間の共通性が高いこと等を明らかにしている。

第5章「結論」では、前4章で明らかになったアジア各国のRC構工法の共通点と相違点を整理した上で、関連する今後の研究課題を見極め、本論文の結論としている。

以上、本論文は、綿密な文献調査と広範な現地実態調査に基づき、アジア各国RC構工法の実態を解明し、各国間の横断的な比較を通じてこれまで明らかにされていなかったRC構工法の共通点と相違点を明らかにした論文であり、建築学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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