学位論文要旨



No 118946
著者(漢字) 王,祥武
著者(英字)
著者(カナ) オウ,ショウブ
標題(和) 住戸セントラル給湯システムの効率予測手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 118946
報告番号 甲18946
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5678号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 助教授 平手,小太郎
 東京大学 助教授 佐久間,哲哉
内容要旨 要旨を表示する

現在、日本の住宅におけるエネルギー消費量は、二次エネルギーベースの全国平均値で42GJ/(戸・年)以上となっている。給湯用エネルギー消費量は、1975年以降一貫して暖房用エネルギー消費量を上まわり、4割弱を占めており、住宅における消費エネルギー削減には、給湯設備での省エネルギーが極めて効果的である。しかしながら、1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づく“建築主の判断基準”の告示において、住宅を除く建築に関しては、1993年の改正により給湯消費エネルギー係数、CEC/HWの基準値がホテル等および病院等について示され、2003年の改正により2000m2以上の全用途の建物が対象となり、新たな指標に基づく基準値が示され、また、2000m2から5000m2の建物に用いることのできる仕様基準(ポイント法)も示されるに至ったが、住宅に対しては判断基準が示されていない。

住宅の住戸セントラル給湯システムに用いられる熱源、ガス給湯機・石油給湯機・電気温水器の熱効率に関しては、日本工業規格および(財)ベターリビングの認定基準などの規定があり、また、ガス給湯機、石油給湯機の効率に関しては、総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会ガス・石油機器判断基準小委員会が示した2006年度を目標年度とした目標基準値(いわゆるトップランナー方式による基準値)がある。また、給湯熱源、配管、混合栓からなる住戸セントラル給湯システムのシステム効率試験法としては、JIS原案(現在は(財)建材試験センターの規格となっている)などがある。

住戸セントラル給湯方式が普及・定着した現状においては、システム効率に基づく省エネ効果の検討が必要不可欠である。しかしながら、家族構成などにより給湯負荷パターンが、また、住宅プランなどにより配管プランが変化すること、システムを組んだ実験において、これら多様な負荷パターン、配管プランでの実験を行うことは極めて困難なことから、システム効率に基づく議論が定着していない。

こうした背景のもと、本研究は、多様な負荷パターンおよび配管プランでの住戸セントラル給湯システムのシステムとしての効率を、給湯熱源に関するできうる限り簡易な実験データから、シミュレーションにより予測する手法の確立を目指したものである。そのために、まず、最新のガス瞬間式給湯機、潜熱回収型ガス瞬間式給湯機、深夜電力利用温水器および自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機を用いた場合のシステム効率に関する実験を行い、システム効率に及ぼす各種要因を検討するとともに、給湯用熱源モデルおよび混合栓から熱損失計算モデルの構築とシステム効率予測手法の精度検証用に必要なデータを求めた。次いで、配管からの熱損失に関する実験を行い、熱損失計算モデル構築に必要なデータを求めた。その上で、瞬間式の代表であるガス瞬間式給湯機および貯湯式の代表である深夜電力利用温水器の給湯用熱源出湯温度計算モデル、給湯配管および混合栓からの熱損失計算モデルを構築し、最終目標である給湯用熱源機器・給湯配管および混合栓からなる給湯システム全体の効率の計算手法を提案するとともに、出湯温度計算モデルおよび熱損失計算モデルに用いるパラメータを同定する方法を示している。

本論文は、以下の9章よりなる。

第1章では、本研究「住戸セントラル給湯システムの効率予測手法に関する研究」の必要性と、関連既往研究について述べ、本研究の位置付けを明確にしている。

第2章では、給湯用熱源機器モデルおよび混合栓からの熱損失計算モデルの構築とシステム効率予測手法の精度検証に必要なデータを収集するとともに、システム効率に及ぼす各種要因を明らかにするために行った実験結果について述べている。

実験に用いた給湯用熱源機器は、最近急速に普及している最新型のガス瞬間式給湯機、深夜電力利用温水器と、効率が高いことから今後普及が期待されている潜熱回収型ガス瞬間式給湯機および自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機の4種類である。水栓の数、水栓の配置および住戸規模などが標準的と思われる都市基盤整備公団住宅の給湯配管を選定し、その配管系を環境実験室内に再現し、上記4種類の熱源を接続し実験を行った。実験装置は、完全自動化し、再現性を確認した。実験種類は個々の熱源で多少異なるが、配管方式(先分岐方式とサヤ管・ヘッダー方式)、給湯使用負荷モード、雰囲気温度を変化させた実験を行っており、ガス瞬間式給湯機では給湯機缶体配管内湯温、深夜電力利用温水器では貯湯槽内湯温および貯湯槽表面温度の測定も行った。

給湯使用負荷モード・雰囲気温度・配管方式を変化させて行った実験結果として、(1)ガス瞬間式給湯機および潜熱回収型ガス瞬間式給湯機の実働効率(配管の熱損失を含まない)では、給湯使用量・雰囲気温度の影響をほとんど受けないのに対し、深夜電力利用温水器では夏期に向けて効率が低下するが、その主原因は給湯使用量であること、また深夜電力利用温水器の沸き上げ温度を90℃から75℃に変えると、実働効率は約6%高くなり、沸き上げ温度が実働効率へ及ぼす影響は大きいこと、(2)ガス瞬間式給湯機および潜熱回収型ガス瞬間式給湯機を用いた給湯システムでのシステム効率は、給湯使用量・雰囲気温度の変化の影響をほとんど受けず通年で安定した効率を維持できるのに対し、深夜電力利用温水器を用いた給湯システムでは、給湯使用量の減少・雰囲気温度の低下に伴ってシステム効率が低下すること、(3)サヤ管・ヘッダー方式と先分岐方式でのシステム効率は、サヤ管・ヘッダー方式の方が常に高く、その差は平均で約5%となっており、同配管方式はシステム全体の効率の向上に有効であること、(4)給湯配管・混合栓での熱損失の合計は、どの雰囲気温度においてもサヤ管・ヘッダー方式の方が先分岐方式よりも少なく2/3程度となることなどを明らかにした。

給湯用熱源機器の出湯温度予測モデルを構築するための知見として、ガス瞬間式給湯機に関しては、流量が多くなるに従って出湯温度の立上りが早くなること、給湯機の熱交換部とその出口から給湯機出湯口までの温度上昇および下降の様子が違うこと、間欠運転時には停止間隔が短いほど再出湯時立上りが早いことなどが得られた。

深夜電力利用温水器に関しては、貯湯槽外周水平方向では温度分布が一様になっているのに対し、槽内垂直方向では、加熱時には温度分布が一様であるが、湯使用時および使用停止時に温度成層が徐々に崩れ、熱移動によって貯湯槽下部の湯温が上昇することなどの知見を得た。

第3章では、第6章の給湯配管での温度降下を予測する手法を確立するために必要となった実験の結果を述べている。まず、立ち上り配管の材質・管径・長さ、保温厚みを変化させ、給湯停止時に管内の温度分布がどのようになるかを検討する基礎的な実験を行い、立て管内での上下温度分布はほぼ無視しうることを確認した。次に、給湯管の材質・管径、配管の設置方式(中吊り・床置)、配管回りの風速などの条件を変え、給湯時および給湯停止時の熱損失に関する実験を行い、配管の熱損失係数などを求めた。

第4章では、第2章の実験結果に基づき、ガス瞬間式給湯機の出湯温度の計算モデルを構築した。実験結果を参考に、ガス瞬間式給湯機内部の熱交換部と交換部出口から給湯機出湯口までの2つに分けてモデル化し、出湯温度計算モデルを構築した。計算モデルは、初めての出湯時・給湯停止時・再出湯時に対応する3つの計算式からなり、ガス消費量の予測も可能で、あらゆる給湯設定温度、流量に対応可能である。実験結果と照合・比較をしたところ、給湯機の実働効率、ガス消費量の計算値ともに実験値との差は2%程度に納まっており、実用的に十分な精度を有することを確認した。

第5章では、第2章での実験結果とCFDによる計算結果とから、深夜電力利用温水器の出湯温度を予測する手法を構築した。

構築したモデルはブロックモデルであり、深夜電力利用温水器の貯湯槽を上下方向にいくつかの完全混合層の連結で表す完全混合層列モデルを仮定し、貯湯槽の各ブロックの熱収支を用いてブロックの平均水温を予測する方法である。基礎方程式としては、鉛直方向1次元の移流・拡散方程式に貯湯槽表面からの損失熱量とヒーターからの供給熱量と加えた式を用いた。第2章の実験結果から、貯湯槽(高さ約1.47m)の底部から高さ約0.56mでの槽表面温度は一様であることから、このブロックモデルを採用することにしたが、1つの高さでの測定であることから、採用が妥当であるかを検討するため、CFD(2次元、浮力を考慮したViollet型k-ε2方程式)による計算を行ったところ、このモデルの採用はほぼ妥当と判断された。上下方向に隣接するブロック間の熱移動を評価する「熱拡散係数a」は、第2章の実験結果およびCFD計算結果から同定した。このブロックモデルを用いた計算結果と実験値とを照合したところ、給湯時槽内下部の比較的低温の部分で、実験値とのずれが見られるが、出湯温度予測に必要な給湯口付近の貯湯槽上部の温度の予測精度は実用上問題ないと判断された。

第6章では、混合栓からの出湯温度の予測法を示す。給湯配管での湯温降下の予測精度を向上するため、給湯配管の断熱材の計算分割数を検討し10分割することとし、給湯管内流量が給湯機出湯温度によって変化する場合にも対応できるようにした。

また、サヤ管・ヘッダー方式の配管システムでは、内管と外のサヤ管の間に空気層が入っており、通常の方法で正確に計算するのは難しいため、空気層を含めて仮想サヤ管モデルとして扱うこととし、混合栓での熱損失にも対応できるよう計算モデルを構築した。実験結果と比較したところ、混合栓からの出湯温度は±0.5℃以内で予測できた。

第7章では、第4章で構築したガス瞬間式給湯機の計算モデルおよび第5章で構築した深夜電力利用温水器の計算モデル(ブロックモデル)と第6章で構築した配管・混合栓の計算モデルを組み合わせた、それぞれの給湯熱源を用いた給湯システム全体の計算法を示している。この計算法を用い、先分岐方式およびサヤ管・ヘッダー方式給湯システムのシミュレーションを行った。出湯熱量、実働効率・システム効率などの実験結果と計算結果を比較し、システム効率での誤差が2%程度に納まっており、実用上十分な精度で予測可能なことを示している。

第8章では、本論文で示した給湯用熱源、給湯配管、混合栓からなる給湯システムの効率予測手法を、本論文で扱ったのとは異なる熱源機器、給湯配管、混合栓を用いたシステムに適用する際に必要となる各種パラメータの実験による同定方法を示している。これにより、本論文で示したシステム効率の予測手法の汎用性を増すことができる。

第9章では、各章で得られた知見をまとめ、総括的な結論を述べる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「住戸セントラル給湯システムの効率予測手法に関する研究」と題し、給湯用熱源機器、配管、混合栓からなる住戸セントラル給湯システムのシステム効率を、比較的簡易な実験結果を基に、多様な給湯負荷パターンおよび配管プランに対してシミュレーションにより予測する手法の確立を目指したものである。

日本の住宅における二次エネルギーベースでのエネルギー消費量のうち、給湯用エネルギー消費量は、1975年以降一貫して暖房用エネルギー消費量を上回り、4割弱を占めている。そのため、住宅でのエネルギー消費量削減には、給湯での省エネルギーが効果的であるといわれ、給湯用熱源機器の高効率化が進められているが、日本工業規格、(財)ベターリビングの認定基準、総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会から示された、いわゆるトップランナー方式による基準値など、すべてが定常効率を基に決められており、さらに、配管・混合栓などからの放熱損失も含まれていない。

論文提出者は、住戸セントラル給湯方式が普及・定着した現状においては、給湯用熱源機器、配管、混合栓からなる給湯システム全体の効率、システム効率で省エネ効果を議論する必要があることを指摘している。そのためには、家族構成・ライフスタイルなどにより変化する多様な給湯負荷パターンおよび住戸形態により変化する配管プランなどがこのシステム効率に影響することから、給湯用熱源機器などに関するできうる限り簡易な実験データを基に、これら多様な条件下でのシステム効率をシミュレーションで予測する手法の確立が必要不可欠との考えに基づき、実験・解析を行い、以下の9章からなる論文を提出した。

第1章では、本研究の必要性と、関連既往研究について述べ、本研究の位置づけを明確にしている。

第2章では、給湯用熱源機器モデルおよび混合栓からの熱損失計算モデルの構築と、システム効率予測手法の精度検証に必要なデータを収集するとともに、システム効率に及ぼす各種要因を明らかにするために行った実験結果について述べている。実験に用いた給湯用熱源機器は、最近急速に普及している最新型のガス瞬間式給湯機、深夜電力利用温水器と、効率が高いことから今後普及が期待されている潜熱回収型ガス瞬間式給湯機および自然冷媒 CO2ヒートポンプ給湯機の4種類であり、それらを水栓の数・配置および住宅規模などが標準的と思われる集合住宅の給湯配管を環境実験室内に再現した実験装置に接続し、数多くの実験を行っている。また、給湯用熱源機器のモデル化に必要なデータを得るため、ガス瞬間式給湯機缶体内および深夜電力利用温水器貯湯槽内の湯温の測定も行っている。その結果として、従来定性的に述べられていた給湯負荷パターン、雰囲気温度、配管方式などの各種要因がシステム効率に及ぼす影響に関し、定量的な検討結果を示している。

第3章では、給湯配管での温度降下を予測する手法を確立するために必要となった実験結果を述べており、配管の材質・管径、配管の設置方法、配管周囲の風速などの影響を明らかにしている。

第4章では、第2章の実験結果に基づき、ガス瞬間式給湯機の出湯温度の計算モデルを構築した結果を述べており、難しいとされるガス消費量の予測においてもほぼ±2%以内で予測でき、実用上十分な精度を有することを示している。

第5章では、第2章での実験結果およびCFDによる計算結果を基に、計算時間が短くてすむブロックモデルによる深夜電力利用温水器からの出湯温度予測手法を構築した結果を述べており、貯湯槽内部低温域の予測で多少問題を残すものの、実用上問題ない精度で出湯温が予測可能であることを示している。

第6章では、第2章および第3章の実験結果を基に、配管を経由した混合栓からの出湯温度の予測法を検討した結果を示しており、最近多用されるようになったサヤ管・ヘッダー方式で用いられるサヤ管の中に内管を挿入する配管および複雑な形状を有する混合栓からなる配管システムにおいても、極めて高精度で予測できることを示している。

第7章では、第4章で構築したガス瞬間式給湯機の計算モデルおよび第5章で構築した深夜電力利用温水器の計算モデルと、第6章で構築した配管・混合栓の計算モデルを組み合わせ、それぞれの給湯用熱源機器を用いた給湯システム全体の計算法を示した上で、同手法を用いて行ったシステム効率計算結果と第2章での実験結果を照合し、誤差が2%以内に納まることを示している。

第8章では、本研究で用いた給湯用熱源機器、配管、混合栓とは異なるものを用いた場合に必要となる各種計算パラメータを、比較的容易な実験から同定する手法を示し、本研究の汎用性を増す方法を論じている。

第9章では、本研究で得られた結論を総括している。

以上のように、本論文は、現在ほぼすべての住宅に定着している、給湯用熱源機器・配管・混合栓からなる住戸セントラル給湯システムでの省エネルギーを論ずる際に必要不可欠と考えられるシステム効率を、精度よく予測する手法を提示したものであり、給湯用熱源機器・配管・混合栓という個々の部位を考えると改良の余地は残すものの、住宅設備設計に寄与するところが極めて大である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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