No | 118957 | |
著者(漢字) | 片山,健介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カタヤマ,ケンスケ | |
標題(和) | EUにおける地域統合を契機とした空間計画制度の変容に関する研究 : EUおよびアイルランド・イギリス・フランスの事例を通じて | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 118957 | |
報告番号 | 甲18957 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5689号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | グローバル化と地域統合の進展により、従来国家が自国内において空間政策・計画によって対応してきた空間的諸課題に対する超国家的枠組みによる取り組みが求められている。この問題は二つの次元で捉えることができる。第一に超国家的レベルでの共通課題に対する枠組みのあり方であり、第二に超国家的見地からの制度および政策に対する国家のレベルの対応のあり方である。本研究は、このような問題意識に基づき、欧州連合(EU)における地域統合を契機とした空間計画制度の変容について、EUレベルおよびその加盟国の事例を通じて明らかにしようとするものである。 そのために、ある程度の一般性を有する形で、グローバル化と地域統合を契機とした空間計画制度の変容について説明しうる分析枠組みを設定し、その上で、EUにおいて実証的に考察する。それはEUレベルおよびその加盟国レベルにおいてなされる。すなわち、(1)欧州統合の進展に伴うEUレベルの空間政策・計画の展開過程を追うことによって、超国家的枠組みにおける空間政策・計画の必要性、形成プロセス、制度的枠組みの特徴と課題を整理し、(2)EUレベルの空間政策・計画の展開とともに、加盟国における空間計画制度がどのような影響を受けどう変容しているのかを分析する。 本論文は、序章と本編7章から成る。 序章では、本研究の背景、目的、構成、意義について述べている。 第1章では、グローバル化・地域統合と空間計画制度に関する文献レビューを行っている。ここでは、空間計画制度を、「あらゆる空間スケールを含むという垂直的構造と、各スケールにおいて「包括的プラン」と「実現手段」という構成要素から成る水平的構造による全体的構造を持ち、それらが水平・垂直方向に「調整」されることによって、空間的活動配分に向けた空間計画制度全体としてのパフォーマンスを発揮するもの」と捉えた。 このような空間計画制度は、従来それぞれの国において成り立っていたが、グローバル化と地域統合という環境変化により、制度変容が生じると考えられ、その方向性について以下の考え方を提示した。第一に、地域統合の進展に伴って、超国家レベルにおいて空間計画の展開が生じることが考えられる。 第二に、各国の空間計画制度は超国家レベルの空間計画の展開に対応する形で変容し、空間計画制度は全体として、超国家レベルと構成国レベルを取り込んだ形で再構成される。その変容の方向性としては、グローバル化による、ローカル・レベルの重要性の高まりと超国家レベルの空間計画の展開に伴って、「調整」システムとしての空間計画制度が求められ、国および地域レベルの広域上位の空間計画の役割を変化させることが考えられる。また、空間計画制度の変容は、制度が存在する政治的・経済的・社会的環境(制度的環境)と、その中で形成されてきた制度的特徴に適した形で起こるものであり、また密接な関連を持つ行政制度により連結的に影響を受ける可能性がある。 第2章では、まず超国家レベルの制度変容として、EUレベルでの空間政策・空間計画について考察している。 EUにおいては、経済統合を進める上で地域間不均衡がその障害となりうるという認識から、EUレベルでの地域政策が本格的に開始され、制度が確立してきたという経緯を示すとともに、その仕組みについて特徴と課題を指摘した。 次に、ESDPに注目して、EUの空間計画の展開について論じた。地域政策の確立に伴って、国境地域における地域開発の連繋など空間計画分野への影響が強まってきたこと、限られた予算を効率的に使用し、EU域内のバランスをとるためには、長期的視野に立った空間的な方向付けを与えるものがEUレベルにおいて必要とされた結果、1999年にESDPが策定された経緯を示した。その上で、ESDPの実効性に関して考察している。 第3章では、第2章における議論を踏まえて、第1章で提示した抽象的な仮説に対して、EUという具体性を付与することにより、第4章以降の分析のための準備を行った。 まず、第2章から、EUにおける地域政策とESDPを実効あるものとするために、加盟国に対して制度的対応を求めている影響要因を整理した。すなわち、EUの補助金が地域単位で適用されることによる、地域レベルでの体制の整備と、各国の空間政策、空間計画におけるESDPの考慮である。これらを踏まえて、第1章の仮説をEUという文脈で具体的に捉え直した。そして、空間計画制度の変容を、EUレベルの空間計画の実現という観点で評価する見方を提示した。 次に、EU加盟各国の空間計画制度および行政制度に関する特徴を概観し、空間計画制度の変容について、既存文献に基づきその全体的傾向を整理した上で、本研究の関心も踏まえ、ケーススタディを行う加盟国として、アイルランド、イギリス、フランスを選定した。 第4章から第6章は、EU加盟国を事例とした実証分析である。それぞれの国について、まず空間計画制度と関連する行政制度の概要と特徴を把握し、注目すべき空間計画制度変容を特定した上で、その変容の要因とEUによる影響について考察している。 第4章では、アイルランドを取り上げている。アイルランドは中央集権的行政制度を持ち、一層制の地方行政制度を持つ。空間計画制度は、ローカル・レベルにおけるディベロップメント・プランを中心とした土地利用管理型制度であり、1990年代まで、ディベロップメント・プランに直接作用する国レベル・地域レベルの空間計画は存在していなかった。本章では、そのアイルランドにおいて、1980年代後半から、EUレベルの空間計画の展開、特に地域政策に適応する形で、空間計画制度を変容させていったことを示した。制度変容は、地域政策への適応のための地域レベルの組織の充実化と、国内の広域的空間課題とESDP策定を契機とした国レベル・地域レベルの空間フレームワーク(NSSとRPGs)の導入という部分において見られる。このような制度変容は、EU基金獲得のためのNational Development Planを中心とした制度を経て、NDPの体系と、土地利用計画体系を結びつける形で生じており、またESDPから国レベル・地域レベルを通じてローカル・レベルに繋げるという空間計画制度全体の「調整」システムが形成されたものと見ることができる。 第5章では、イギリスを取り上げている。イギリスは構造基金という点では負担超過国に属するが、空間計画制度においてはアイルランドと同様の土地利用管理型の計画制度を有している。 本章では、イギリスにおいて、地域レベル、国レベルにおける空間計画の変化に着目し、その要因について考察を行った。地域レベルでは、リージョナリズムによって、地域レベルの組織が整備され、地域計画の中に「欧州」という視点が取り込まれるようになった。その対外的要因として、EUの構造基金の受け手としての地域体制の整備と地域レベルの計画の連携が求められたという背景があることを示した。また国レベルでは、1999年以降、National Planに関する考え方が、その役割を高める方向で現れてきており、その背景として、ESDPの策定によりEUレベルと地域レベルとの協調を図る必要が生じたことと、地域計画に対する国レベルのフレームワークが必要とされてきていることが要因として考えられることを示した。この場合、国レベルのフレームワークは、EUレベルと地域レベルを結びつけ、地域レベルの計画の枠組みとして機能する。 このように、アイルランドとは構造基金による便益において違いはあるが、同様の方向で変容が生じていることが明らかとなった。 第6章では、フランスを取り上げている。フランスは、アイルランドおよびイギリスとは異なり、経済開発的アプローチを特徴とした空間計画制度を有する。 本章では、フランスの空間計画制度の変容について、パスクワ法とヴォワネ法による制度変化に注目した。パスクワ法によるSNADTを頂点とした空間計画制度の導入は、EU統合によるEUレベルの権限の拡大と、分権化およびEU統合の進展に伴う地方の役割の増大の中で、国のアイデンティティを強化することを意図したものであった。 しかし、パスクワ法による空間計画制度は、1999年のヴォワネ法をはじめとする国土整備3法によってさらなる変容を遂げた。新しい制度は、国は総合サービス計画により分野別方針のみを示し、その実現は、国土整備の「核」である計画契約制度を通じて図るというものである。 この一連の変化は方向性としては同一であるが、国は地方のパートナーとして役割を果たすという方向へと国の役割の転換を図ったものであり、フランスの空間計画の制度的特徴により適合し、EUレベルとより調和した空間計画制度が形成されているものと見ることができる。 第7章では、結章として本研究の知見をまとめている。アイルランド、イギリス、フランスの事例を通して、構造基金による直接的な影響および制度的環境による多様性が存在するとともに、それらを超えた変容の方向の共通性、すなわち「調整」システムの構築とそれによるEUレベルを含めた空間計画制度としてのパフォーマンス向上が現れていることを示した。また、EUにおいて、地域統合を契機として生じた空間計画制度の変容とその外的要因は、グローバル化が進み地域連携の動きが生じつつある他の諸国・地域においても同様に起きつつあるものであり、この点において本研究は他の地域における空間計画制度のあり方を議論する上での有用性を持つものであると思われる。 | |
審査要旨 | グローバル化と地域統合の進展により、従来国家が自国内において空間政策・計画によって対応してきた空間的諸課題に対する超国家的枠組みによる取り組みが求められている。この問題は二つの次元で捉えることができる。第一に超国家的レベルでの共通課題に対する枠組みのあり方であり、第二に超国家的見地からの制度および政策に対する国家のレベルの対応のあり方である。本研究は、このような問題意識に基づき、欧州連合(EU)における地域統合を契機とした空間計画制度の変容について、EUレベルおよびその加盟国の事例を通じて明らかにしたものである。 グローバル化・地域統合と空間計画制度に関して、本論文では、空間計画制度を、「あらゆる空間スケールを含むという垂直的構造と、各スケールにおいて「包括的プラン」と「実現手段」という構成要素から成る水平的構造による全体的構造を持ち、それらが水平・垂直方向に「調整」されることによって、空間的活動配分に向けた空間計画制度全体としてのパフォーマンスを発揮するもの」と捉えた。このような空間計画制度は、従来それぞれの国において成り立っていたが、グローバル化と地域統合という環境変化により、制度変容が生じると考えられ、その方向性について以下の考え方を提示した。第一に、地域統合の進展に伴って、超国家レベルにおいて空間計画の展開が生じることが考えられると考察している。 第二に、各国の空間計画制度は超国家レベルの空間計画の展開に対応する形で変容し、空間計画制度は全体として、超国家レベルと構成国レベルを取り込んだ形で再構成される。その変容の方向性としては、グローバル化による、ローカル・レベルの重要性の高まりと超国家レベルの空間計画の展開に伴って、「調整」システムとしての空間計画制度が求められ、国および地域レベルの広域上位の空間計画の役割を変化させることが考えられる。また、空間計画制度の変容は、制度が存在する政治的・経済的・社会的環境(制度的環境)と、その中で形成されてきた制度的特徴に適した形で起こるものであり、また密接な関連を持つ行政制度により連結的に影響を受ける可能性があることを指摘している。 本研究の中心となる部分は、EU加盟国を事例とした実証分析である。それぞれの国について、まず空間計画制度と関連する行政制度の概要と特徴を把握し、注目すべき空間計画制度変容を特定した上で、その変容の要因とEUによる影響について考察している。アイルランドにおいて、1980年代後半から、EUレベルの空間計画の展開、特に地域政策に適応する形で、空間計画制度を変容させていったことが実証的に示されている。イギリスにおいては、地域レベルでは、リージョナリズムによって、地域レベルの組織が整備され、地域計画の中に「欧州」という視点が取り込まれるようになった。また国レベルでは、1999年以降、National Planに関する考え方が、その役割を高める方向で現れてきており、その背景として、ESDPの策定によりEUレベルと地域レベルとの協調を図る必要が生じたことと、地域計画に対する国レベルのフレームワークが必要とされてきていることが要因として考えられることを示した。 フランスは、アイルランドおよびイギリスとは異なり、経済開発的アプローチを特徴とした空間計画制度を有する。フランスにおける一連の変化は方向性としては同一であるが、国は地方のパートナーとして役割を果たすという方向へと国の役割の転換を図ったものであり、フランスの空間計画の制度的特徴により適合し、EUレベルとより調和した空間計画制度が形成されているものと見ることができる。 アイルランド、イギリス、フランスの事例を通して、構造基金による直接的な影響および制度的環境による多様性が存在するとともに、それらを超えた変容の方向の共通性、すなわち「調整」システムの構築とそれによるEUレベルを含めた空間計画制度としてのパフォーマンス向上が現れていることが示されている。また、EUにおいて、地域統合を契機として生じた空間計画制度の変容とその外的要因は、グローバル化が進み地域連携の動きが生じつつある他の諸国・地域においても同様に起きつつあるものであり、この点において本研究は他の地域における空間計画制度のあり方を議論する上での有用性を持つものであると思われる。 本研究は、EUを事例として地域統合と空間計画制度の変容の関係を詳細に明らかにし、優れた学術的価値を有している。さらに、その分析を通じて今後の制度改善のための有益な提言を行っている。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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